プロローグ
新章開始です。
どうぞよろしく。
仕事復帰一日目。
俺は詰所に着いて早々、所長に呼び出しをくらっていた。
「ほんともー、ヨハン君気をつけてよー! きみ、ここ数日怪我ばっかしてるでしょ? いくら訓練って言ったってあれはやりすぎだよ? 何、訓練で全身骨折って? 前代未聞すぎるから!! しかもその相手がアンガスター家のご息女だなんて……。心臓に悪すぎるよ!!」
誠に遺憾ながら赤髪ツンデレのせいでパグに怒られるという。だが、パグの気持ちもわからなくもない。
部下が空気も読まず大貴族のご息女を打ち負かしたなんて、下手すればクビもありえる話だ。これはちょっと申し訳ないことをしてしまった感が強い。
なので。
「本当に申し訳ありませんでした」
素直に頭を下げてみる。
「まったく、次からはちゃんと体よく断るんだよ? それが難しかったら真っ先に僕に相談して! ちゃんと話を付けてあげるから」
おお、やはりパグって良い上司なのか? なら初めからパグに相談すれば良かったわ。ギャグキャラと思って、完全に俺の中から抜け落ちてた。すいません。
断言するがアレと話をつけるなんて俺には無理だ。だって赤髪ツンデレってほぼ一方通行だからね。パグが緩衝材になってくれるというなら喜んで頼らせてもおらおう。ありがたや、ありがたや。
「あと、ヨハン君さ、この前の模擬戦で皮鎧壊しちゃったでしょ?」
げ、弁償とかはマジで勘弁してほしい。
あれは不可抗力というかなんというか。
大技使った赤髪ツンデレが悪い。
でも弁償は嫌なのでとりあえず全力で謝っておこう。
「本当にすいませんっしたー」
そんな感じで頭を下げると、パグの反応は思ってたのとは違うものだった。
「別に怒ってるわけじゃないから謝らなくてもいいよ。ただ支給品だからといって雑に使うのはダメだよ?」
もちろんですとも。ちゃんと日々のお手入れは欠かさない。あれは本当に赤髪ツンデレが悪い。
「とりあえず新しい鎧を支給するね。ついでに剣も新調しておいたからそれも使うといいよ。そこのテーブルに置いてあるから持っていって」
パグが指さす方向を見ると、壁際にある長テーブルに何やら白い布に包まれた物が置いてあった。
その布を捲ってみると、そこには鎖帷子付きのブレストアーマーに、合皮仕様のガントレットや同じくブーツ、そして衛兵たちが使用する質の良い両刃の長剣があった。
「あれ、所長? これ新人用の装備じゃないですよね? しかもこの鎧って衛兵隊と同じ物だと思うんですが?」
まごうことなき衛兵隊専用の鉄装備。
「そうだよ。だってヨハン君、指定の皮鎧を渡すとまた簡単に壊しちゃいそうだもん。無駄に経費掛けるくらいなら初めからそこそこ良い装備渡しといた方が安く付くでしょ? それにきみには少なからず期待してるんだからね?」
おお、これは嬉しい計らい!
多少なりともパグに評価されたと思っていいのではなかろうか? 新人で衛兵装備は異例の扱いだと思う。あの赤髪ツンデレとの一戦は無駄ではなかったようだ。
「お気遣いいただきありがとうございます」
「でも慢心してはダメだよ? 衛兵装備を渡すからと言って扱いが衛兵と同じってわけではないから。あくまでもきみは新人で、今は警備隊の仕事を覚える時期なんだからね? まあ、いずれ衛兵隊には上げるけど、それまできっちりと基礎を学びなさい。いいね?」
「承知しました。日々精進いたします!」
「うん、結構! それじゃあ今日も頑張って!」
やっべ、どうしよう?
なんかわかんないけど昇格の確約を得たんだが?
でも正直な話、衛兵にはなりたくない。
だって仕事きついし。周り脳筋だし。
んー、出来ることなら断りたい。
だけども、衛兵になると給料が格段にアップするんだよねー。これだけは非常に悩ましいところ。
現在の俺の手取りは銀貨十枚、日本円に換算したら十万円ほどだ。
この世界の平均月収より若干下となるが、家賃、食費、光熱費が込みならば悪くないだろう。
それが衛兵になれば月のお給料が銀貨二十枚となるのだ。倍だ、倍! まあ、その分仕事の危険度も増しますけどねー。
仮に昇格となるのであれば、これは非常に悩みますなぁ。給料をとるか無難な生活をとるか。
まっ、しばらく警備隊にいるのは間違いなさそうだし、またその時考えればいっか!
必殺、問題先送りである。
未来の俺よ、すまんな。
「あっ、そうそう、ヨハン君?」
所長室を出ようとすると、なぜかパグに呼び止められた。
「そういえば明日からフォルナ村でゴブリン討伐の実地研修だから馬車の時間に遅れないようにね?」
げ、すっかり忘れてた。だってここ最近ずっと寝てばっかだったし。あったなー、実地研修の話。
「きみなら単独でゴブリンを殲滅出来そうだけど、今回の研修に求めてるのはそういう強さじゃないから。だからくれぐれも一人で突っ走らないように? わかったね?」
パグがゲン〇ウスタイルでそう話す。
何やら意味深なセリフではあるが、元よりそんな疲れることするつもりはない。パグもこう言ってることだし、実地研修はぼちぼちとやらせてもらうことにしよう。
「肝に銘じます」
そう言って俺は所長室を後にした。
◆◇◆
というわけでやってまいりました、更衣室。
さっそく支給された新たな鎧を着てみようと思う。
まずは細かい輪っかを繋ぎ合わせた鎖帷子を上からすっぽり被る。これがまた意外と軽くて着心地も良い。しかも袖まであるので防御範囲も広そうだ。
その上にガンツ鉱という軽くて丈夫な金属で出来たブレストアーマーを装着。鎧の色は金属シルバーなのだが、大量生産品がゆえにそこまで研磨がされていない。キラキラっていうよりかは、ザ・鉄って感じのどんよりとした鈍い光を放っている。でもまぁ、これもそこそこ軽くて動きやすいので文句はない。
そして強度のある合皮製のガントレットとブーツを装着すれば、はい完成!!
フルアーマーヨハンの出来上がりである。
「やっぱり新人装備よりもこっちのほうが断然いいな。格段に防御力が上がった感じがする」
それに剣もなまくらから、はがねの剣くらいまでグレードアップしたのが嬉しい。
新人の俺にこんなにも良い装備を渡しくれるなんて……。
くっ、パグの奴、まじで良い上司やんけ。
顔の愛嬌だけが残念だが、パグに人望があるというのはなんとなくわかる。
理不尽な叱り方もなく、ちゃんと評価もしてくれる。
俺って結構良い上司の下で働けてるのではなかろうか?
ほんと週休六日の部下ですんません。
更衣室を出ると、なぜか職員や同僚たちの視線を集めた。
まあ、それもそうか。
新人の俺が衛兵装備を着るなんておかしいもんな。
にしてもこうも注目されるとは。胸のでかい女性の気持ちがなんとなくわかった気がした。でもチラ見するのはやめられない。だって巨乳は正義だから。
まあそれはさておき、とりあえず明日の実地研修の確認に行かなければ。
出発時刻すら聞かされてないのだ。
俺は詰所二階にあるミーティングルームへと移動。
大体の行事予定が、この部屋に掲示物として貼られているのだ。おそらく明日の予定もあるだろう。
するとやはり俺の思った通り、羊皮紙に明日からの研修内容がつらつらと書かれていた。
【東門詰所 新人研修】
場所:王国領フォルナ村
日時:水の月13日〜15日(予定)
出発時刻:AM5:00
出発場所:東門馬車発着場
対象者:警備隊勤務一年未満の者全て
引率者:衛兵隊第九隊
内容
フォルナ村近郊にある鉱山にてゴブリンの魔瘴石を発見。現在、巣穴からゴブリンが逃げ出さないよう鉱山を封鎖中。衛兵一人、新人五人で隊を編成し目標の殲滅および魔瘴石を破壊せよ。
「出発時刻早っ!? なんだよ朝五時って!? 魚河岸じゃあるまいし。しかも巣の場所が鉱山って……。ゴブリンめっちゃ繁殖してそう」
そもそもゴブリン討伐のクエストって、苦労する割に身入りが少ないんだよね。そのため冒険者は緊急依頼でなければ好んで手を出さない。
よって大規模な巣の駆除となる場合は、ほとんど警邏隊で受け持つことになっている。
しかし相手がゴブリンとはいえ、モンスター駆除というのは大変危険が付きまとう。
以前にも話したが、ゴブリンという魔物は決して弱くはない。個体としては小柄だが、群れで行動するため囲まれると非常に厄介だ。さらにそれなりの知能もあるため動きも狡猾である。
といっても、こちとら新人とはいえ訓練された人間の集まりだ。ゴブリン如きに遅れは取らないと思う。
隊列を組んで、ちゃんと指示通りに対処していけば、まず大事故には繋がらない。それが出来なくてテンパる奴ほど病院送りとなる。
ちなみにこう言ったゴブリンなどの下級モンスターの討伐は、俺たち新人にとって一つの登竜門でもある。これに耐えられない奴から除隊していくのだ。
「さーて、チーム編成ってどうなってんだろう? ラウルに聞いておけば良かったな」
研修内容が記載された大きな羊皮紙の隣に、メモ用紙サイズの羊皮紙がいくつも貼られていた。
そこに書かれていたのは俺たち新人の名前。
一番上から隊長、副隊長、隊員、引率衛兵という順で記載されていた。
「なるほど。確か新人は五人編成って書かれてたな。俺はどこだ? 紙が多すぎてわからん」
ざっと二十枚以上ある紙切れを流れるように見ていく。東門詰所だけでもまだ百人近くの新人がいるのだ。探すのも一苦労。
そして、探し始めること五分。
ついに自分の名前を発見するが。
【十八小隊】
隊長 :ヨハン
副隊長:ラウル
隊員 :ネイ
隊員 :ルナ
隊員 :ケイシー
引率 :グラッド
は?
ちょっと待て。
何かの見間違いだろうか?
隊長欄に俺の名前が記載してあるんだけど?
え? なんで? なんで俺が隊長なん?
もしかして……。
考えられる理由は一つしかない。
ラウルだ、あの野郎やりやがった!!
【あとがき】
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