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5話

私の右手に意識を集中します。

いえ、正確には手の甲の紋章にです。


カァアアアアアアア!


(熱い!右手に力が集まってくるのが分ります。)


チラッと紋章に視線を移すと、紋章が金色に激しく輝いています。



「バカなぁああああああああああ!」



何です?

リリアン嬢が叫んでいますが、あの人は何者なんでしょう?


【あぁ、あれは人間じゃなくて魔族だって。】


(魔族ですか?)


【そう、鑑定でサキュバス・クイーンと出ていたよ。まぁ、サキュバスって男を求める種族だし、あの王子達もまんまと陥落され、あの茶番を仕組んだ黒幕だよ。】


(ゆ、許せません!おかげでアカデミーの卒業式も目茶苦茶にされ、イザベラまでも・・・)


【そうだ、だから俺達がしっかりとアイツに落とし前を付けないとな!】



分ります。

ユウキさんも怒っている事が私にも伝わってきます。



【それじゃ!あのデカブツから始末するぞ!】


(はい!)



巨人へ向かって落下している最中です。

まだまだ右手に力を集中させます。


【よし!アレの準備が出来たぞ!】


グッと右手を前に突き出しました。

右手が一際大きく輝きます。


握った拳の前に大きな光のリングが出来上がります。




「ホーリー!クラッシャァアアアアアアアア!」



巨人も右手を振りかぶり、私が作ったリングを殴りました。



ガカッ!



ボシュゥゥゥ!



しかし、巨人の腕が光のリングに触れた瞬間、接触部分から光となって消滅を始めました。


「はぁああああああああああああああ!」



ドォオオオオオオオオオオオオン!



巨人が光のリングに飲み込まれ消滅しました。



スタッ!



床に激突する前にクルッと一回転し、足から床に着地しました。

もちろん、スカートはしっかりと押さえ、下着を見せるようなはしたない真似は繰り返しません。


(それにしても・・・)


【あぁ・・・、とんでもない運動能力だよ。あの巨人を一撃で倒す魔法といい、人間とは思えない身のこなし・・・】


(私は生まれ変わったのですね。もう愚図で何も出来ない私から・・・)


【そうだ!これからはもっと堂々としないとな!美しいだけじゃなくて、強さも備えた完璧な女性だからな!】


(そ、そんな・・・、私が美しいだなんて・・・)



「こぉおおおおおおらぁああああああああああああああ!」


【(はい?)】


「貴様ぁあああああああああああああ!何を1人で百面相をしながらクネクネしているんだよぉおおおおおおおお!!」


ピンク色の髪をした老婆が「はぁはぁ」と言いながら私を睨みつけていました。


(誰?)


【例のリリアンって女だよ。】


(はいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!)


今日1番の驚きでした。

あの殿下から婚約破棄を告げられた事よりも衝撃的です。


「あのリリアン嬢?」


思わず目が点になって見てしまいましたが、私の視線に気付いたのか、リリアン嬢が自分の体を見てサァァァと顔が青白くなります。


「え、え、えぇえええええええええ!」


かなり動揺していますけど・・・


「何で偽装の魔法が解けたのよぉおおおおおおおおおおおお!」


はぁはぁと、とっても息を荒くしながら私を睨んでいますが、老婆の姿だけでなく、頭には2本の角と背中には小さなコウモリのような羽が生えていました。

確実に人間の姿をしていません。


【あれが本来の姿だったみたいだな。】


(そうですね。あれだけ可愛い方だったのに、こうも変わってしまうとは・・・、魔法って怖いですね。)


【アレに溺れてしまった連中はどうなのかな?】


殿下は死んでしまったけど、3人はまだ生きているはずです。

チラッと見ると・・・


(ははは・・・)


この世の終わりを見たように真っ白になって呆けていますね。

弟のエドワードがあんなショックを受けた顔を見たのは初めてですよ。


「あ、あのリリアンがババァだって・・・、俺の甘酸っぱい青春がぁぁぁ・・・」

「信じられない・・・、あの豊満な体は嘘だった?詐欺だ・・・」

「俺の初めてがあんなシワシワ女に奪われた・・・、ははは・・・、もう女なんて信じられない・・・」


【夜な夜な頑張っていた相手がアレだって気付いたもんな。女に溺れた男の末路はあんなものだろう。同情する気にもならないよ。】


(そうですね。あれだけ騒ぎを起こして、これから一緒に暮らすまで宣言していましたからねぇ・・・、まぁ、私も被害を受けましたから、ざまぁだと思いますね。)



「よくも・・・、よくも・・・、私の計画を・・・」



リリアン嬢だった魔族が目をギラギラさせながらじわじわと私に近づいてきます。

見た目はヨボヨボの老婆に見えますが、彼女の目は何としてでも私を殺そうとする強い意志が感じられます。

ここまで殺気を向けられていますが、不思議と怖くありません。

以前の私なら何も出来ずにガタガタと震えて縮こまっていたでしょう。


(やはり・・・)


そっと私の胸に手を当てました。


「ユウキさんが・・・、私に勇気をくれたのですね。」


キッと彼女を見つめました。


「もう怖くありません。私は生まれ変わりました。ビクビクと他人の顔色を伺い、何も言わず逆らわず、自分の意志を殺す事で目の前の現実から逃げていました。」


また右手が輝きました。


「だけど!」


今度は私の足元の床も輝きます。


「もう!こんな情けない私は終わりにします!」


床の輝きが収束し、黄金の魔法陣が浮かび上がりました。


「我が意志に応えよ!神の剣!エクスカリバー!」



ズズズ・・・



魔法陣の中央から黄金の剣が浮かび上がりました。


(何て綺麗・・・、こんな美しい剣は見た事がありません。)


【さぁ!トドメは任せた!】


「はい!」


ゆっくりと私の前に浮かび上がった剣を両手で握ります。


(不思議・・・)


今まで剣術なんてしていなかった私でしたが、この剣の使い方が頭の中に浮かんできました。


「これなら!私でも!」


グッと剣を構えると刀身が輝き始めました。


【よし!行くぞぉおおおおお!】


幻覚かしら?

私のすぐ後ろにユウキさんが立っていて、一緒に剣を握っている姿が見えます。


いえ!幻覚ではありません!


ユウキさんの手の温もり・・・


背中に感じるユウキさんの心臓の鼓動・・・


私の顔のすぐ横にユウキさんの息づかいが・・・



まるでユウキさんが運命の人のように自然と身を委ねてしまいます。



(あぁ・・・、これが・・・)





(私がずっと求めていたもの?多分ね・・・)





【よっしゃぁあああああああああああああ!いくぜぇえええええええええええええええ!」



「はい!」



刀身が目を開けられなくなる程に輝いています。

その剣を思いっ切り上段に振りかぶります。



「【ファイナル!スラッシュゥウウウウウウウウウウ!】」



一気に剣を振り下ろしました。



ガガガァアアアアアアアアアア!



光の衝撃波が床を切り裂きながら一直線に元リリアン嬢へ飛んで行きました。



ズバァアアアアアアアアアアアアア!




「そ、そんな・・・、わ、私が負ける・・・」




彼女の体が縦に真っ二つになり、そのまま体が崩れ灰となって消え去りました。



(勝ったぁぁぁ・・・)



「【あっ!】」



目の前の光景に開いた口が塞がりませんでした。


(コレって弁償しなければならないのかな?)


【う~ん、コレは不可抗力じゃないかな?後は国王様に丸投げした方がいいかもな。】


(そうね・・・)


剣の衝撃波が強力過ぎて、彼女を真っ二つにしただけでなく、ホールの床は深く抉れていますし、壁も天井のように大きく穴が開いていました。

しかも!

穴から校舎が見えましたが、衝撃波が通った部分は校舎も校庭も悲惨な状態に・・・



完全にやり過ぎました・・・





剣が光の粒子となって消えてしまいました。


そして、周りを見渡すと・・・



「イザベラ・・・」



勝利の代償は大きかったです。


イザベラだけでなく殿下も殺され、そして多くの生徒も犠牲に・・・


勝ったはずなのに涙が止りません。

失ったものも大き過ぎました。


【オリビア、ちょっと良いか?】


(どうしました?)


【さっき流れ込んできた情報の中に気になった事があってな・・・】


(何ですか?)


【俺一人だと発動出来ない魔法なんだ。オリビアと2人なら出来るんじゃないかと思ってな。】


(そんな魔法があるのですか?)


【そうだ、これならみんなを生き返らせる事も出来るかもしれない。何で俺だけしか知らないのか不思議だけどな。】


(そうなんですか?でもチャンスがあるいならその魔法に賭けましょう!私も頑張ります!)


【ありがとう。それじゃいくぞ!】


(はい!)



うっ!


な、何ですか!この感覚は!


私の体の中にユウキさんの存在をハッキリと感じる。

ユウキさんと会話をしていた時もそんな感覚は無かったのに・・・

こんな感覚は初めて・・・


あぁぁぁ・・・、ユウキさんと私が一つに溶け合うように・・・




カッ!



「こ!これはぁあああああああああああああ!」


国王がオリビアの姿を見て絶叫した。


「こんな・・・、彼女は勇者だけではなかったのか?」



生き残った人達の視線がオリビアへと注がれた。



「「「おぉぉぉ~~~」」」



オリビアの全身が輝く。

その輝きが背中へと移動した。


その姿は・・・


銀色だった髪が金色に輝き、背中に大きな金色の翼が生えた姿で佇んでいた。

そして、男女問わずこの世の人を全て虜にする程に美しく微笑んでいた。


「「「女神様・・・」」」


全員が跪き両手を胸の前に組んだ。


オリビアが両手を上に掲げた。



「女神の息吹」



天井から金色の光の粒子が人々へと降り注いだ。

魔族や悪魔に殺された人々の体が輝く。

しばらく光に包まれていたが、その輝きが消えるとオリビアの輝きも消え、髪も元の銀髪に戻り背中の翼も消えていた。


「はぁはぁ・・・」


ガクッと膝を付き息を荒くし方を上下させていた。



「お嬢様・・・」



その声にオリビアが振り向くと、視線の先に栗色の髪の女性が立っていた。


お互いに見つめあい、しばらくすると2人の瞳から大粒の涙が零れ始めた。


「イザベラァァァ・・・」


「お嬢様ぁぁぁ・・・」


2人が同時に駆け出しヒシッと固く抱き合った。



その光景を国王がジッと見ていた。


「この目で勇者の覚醒だけでなく、女神様の降臨までお目にかかれるとは・・・、しかも、全員を生き返らせる魔法とは、勇者としての範疇を超えている。」


そして上を仰ぎ見た。


「神よ・・・、今日の事は我ら人間にとって希望なのか?それとも・・・」






その頃、とある場所で・・・


「リリアンが死んだ?」


「はっ!彼女からの反応が無くなりました。」


「アイツがやられるとは・・・、アイツは四天王直属の影では最強の刺客だったはず・・・、一体誰が殺したのだ?」


巨大な壁の前で2人のフードを深く被った人物がいる。

1人は立っているが、もう1人は床に片膝を付いていた。


「お前はリリアンを殺した奴を探せ。そして、そいつを確実に殺せ!」


「はっ!」


片膝を付いた人物が音も無く消えた。

そして、残った人物は壁を見上げていた。


その壁は・・・


よく見ると普通の壁ではなかった。

透明な大きな氷みたいな感じで、その中に1人の男がいた。

その男は黒髪であり、眠っているように壁の中で佇んでいた。

胸には銀色の大きな剣が刺さっている。


その壁をフードの人物が見上げている。


「魔王様・・・、私が四天王となって300年・・・、ずっとお慕いしております。必ずや魔王様を甦らせ、憎き人類を滅ぼし魔族の世界を・・・」




「魔王様・・・、もうすぐです。お目覚めの時をお待ちしています。」


今回の話で一区切りになります。

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