4話
「この国はもう終わりなのか・・・、魔族の力とはここまで・・・」
国王がガックリと項垂れ、絶望の表情で悪魔パズズを見ている。
パズズが現れた瞬間、その悪魔から発せられた殺気で会場にいた数百人の人間のうち数十人が心臓を止めてしまい、そのまま床に倒れてしまっている。
パズズが両手を前に掲げ何かを呟いた。
ボッ!
オリビアの全身が真っ黒な炎に包まれる。
「きゃはははぁあああああああ!どうよ!ダーク・クリムゾンの炎は!いくら化け物でも上級悪魔の最上級魔法の獄炎には太刀打ち出来まい!骨も残さず焼き尽くされるのよ!」
サキュバスの笑い声がホールに響いた。
しかし・・・
「嘘・・・、何でいつまでも炎が消えないの?脆弱な人間如き、あっという間に燃え尽きるはずよ・・・」
震える声でサキュバスが呟いていた。
ガカッ!
天井の開いた穴から巨大な雷がオリビアに落ちた。
「そ!そんな、バカなぁあああああああああああ!」
サキュバスの絶叫が響いた。
その視線の先には、落雷の直撃を受けたオリビアが立っている。
今まで真っ黒な炎に包まれていたが、その炎は消え去り、代わりに全身が雷のように放電していた。
スッと放電が収まると、オリビアが目を開ける。
さっきまで真っ赤な瞳だったが、右の瞳は金色の瞳に変わっていた。
右が金色、左が赤のオッドアイでサキュバスとパズズを見つめる。
「無傷ですってぇえええええ!そんなの信じられない!」
「私は?」
確か?
殿下から婚約破棄を言い渡され、あまりのショックで気を失った・・・
だけど・・・
夢の世界で真っ黒な髪と瞳の人に出会いました。
何でだろう?その人とはずっと昔に会った気がします。
そして・・・
『ユウキ』
その名前も聞いた気が・・・
そう・・・、遥か昔に・・・
あまりの嬉しさに彼を抱きしめてしまった。淑女の私が何てはしたない事をしてしまったの。
思い出すと顔が赤くなってきます。
「あれ?」
気が付けば私の目の前には、あのピンクの髪のリリアン嬢が血走った目で私を見ています。
そしてその後ろには・・・
(ひっ!化け物!)
顔がライオンで翼が生えている巨人なんて・・・
(怖い!)
あまりの怖さに全身がガタガタ震えてしまいます。
【オリビアさん!気をしっかり持って!】
(この声は?)
どうして?あの人の声が頭の中から聞こえます。
(ユウキさん?どこにいるの?)
【う~ん、何て説明すればいいか分からないけど・・・、どうやら、俺と君はこの体の中に一緒にいるみたいだな。君が気を失えば俺が表に出てくるのだろう。さっきはそうだった。そして、この体は君の体だ。君が目覚めれば君が自由に使える。俺は君の見る景色、体が感じる事が分かるけど、何も出来ないみたいだよ。】
(そう・・・、でもユウキさんは私と一緒なのね。私の願い・・・、ユウキさんとずっと一緒、これ以上に幸せな事はないわ。)
「だから・・・」
不思議・・・
全身から力が溢れてくるのを感じます。
どんな困難でも打ち破れる強い力を・・・
あれだけガタガタ震えていたのに、ユウキさんの声で震えがピタッと止まりました。
(熱い!)
どうして?右手が、手の甲がとても熱い!まるで燃えるようだわ!
「そ、そんな!」
私の右手の甲が金色に輝いている!
何が起きているの?
しばらくすると輝きが収まり熱さも無くなりました。
(本当に何が起きたの?)
「あ!あれはぁああああああああああああ!」
(誰?)
静まり返っていたホールに大きな声が響いたので、その声が聞こえた方に顔を向けると、国王様が大きく口を開けてパクパクしていました。
殿下と婚約が決まってから何度かお目にかかりましたが、ここまで変な表情を見たのは初めてでした。
(どうして?)
「そ、その紋章は・・・、この目で見られるとは・・・、オリビア嬢、あなたが勇者だったとは・・・」
(紋章?勇者?何故、私が?)
恐る恐る自分の右手の甲を見てみると・・・
「そ、そんな!」
太陽を模した紋章が私の手の甲に浮かび上がっています。
この紋章はこの国では知らない人はいません!
太陽の紋章と呼ばれています。
2000年前の勇者にも刻まれていた紋章で、当時の勇者は右胸に刻まれていたと伝説に残っています。
そして、この紋章はこの国の国旗にも記されています。
(そ、そんな紋章が私に?)
【凄いな。】
(ユ、ユウキさん!)
【オリビアさんって伝説の勇者だったんだ。】
(ど、どうしてそれを!)
【いやぁ~、かなり慌てていたのか、オリビアさんの声がダダ漏れで丸聞こえだった。ゴメン、盗み聞きするつもりはなかったけど、直接俺の頭の中に聞こえてくるもんでね。】
(う~、恥ずかしいぃぃぃ~~~~~~)
【おっと!オリビアさん!今は目の前の事に集中しないと!】
そうでした!
今、私の目の前には4枚の翼の生えた巨人が立っています。
右手の掌を前に突き出してきました。
ゾク!
背中に一瞬悪寒が走りました。
危険を察知し、膝を曲げ一気に跳躍しました。
ダン!
ドォオオオオオオオオオオオオン!
今まで私がいた床が大爆発を起こしました。
(危なかった・・・、ジャンプするのが少しでも遅れたら巻き込まれていたわ。)
・・・
(ジャンプ?)
うっそぉおおおおおおおおおおおおおおお!
軽く跳んだだけなのに、このホールの天井近くまで跳ぶ?
天井まで10メートルは軽くあるのよ。
ん?その前に天井が無くなって空が見えているんですが・・・
(一体誰が壊したの?)
そんな事を口にするようなものなら、全員から『お前だろうが!』と突っ込まれる事は間違い無いだろうけど・・・(第3者意見)
(私の体が変よ・・・)
【多分だけど、勇者になったからパワーアップしたんじゃないのかな?】
(ユウキさん!それって本当?)
【間違いないと思うよ。こういうのはテンプレだろうし、それ以外にも色々と出来るかもしれないぞ。】
(そうなの?う!)
あ、頭が痛い!色んなものが流れ込んでくる!
とてつもない長い時間に感じましたが、私の跳んでいる位置からするとほんの一瞬だったようです。
ですが、今の私の力!その使い方が分った気がします。
(このまま、あの化け物の後ろに回り込んで!)
!!!
(あっ!)
体が落下し始めた時に気付きました!私はドレス(スカート)姿だって!
慌ててスカートを押さえましたが、少しの間、スカートが捲れ私の下着が丸見えに・・・
「オリビア公爵令嬢の下着が丸見えに・・・」
「全く話す事のない人だったけど、『見た目だけ』はこのアカデミーで1番だったし、そのおみ足を見れるなんて死んでもいい!」
「パンティは白!この目に焼き付けた!」
何故か鼻血を噴き出しながら倒れる人もたくさんいましたけど、やっぱり私の下着を大勢の人に見られたなんてぇぇぇ・・・
羞恥で全身がカッと熱くなります。
チラッと下を見ると、まだかなり下にあの巨人が立っています。
クルッと体勢を変え頭を下にし落下を始めました。これならスカートが捲れる事はありません。
上から落ちてくる私に気付いたのでしょう。
ライオンの顔を私に向け、棍棒のような太い腕を私へと突き出します。
このまま下から私を殴りつけるつもりでしょう。
【オリビアさん!】
(ユウキさん!)
【俺もあの時一瞬に色んな情報が流れ込んできた!このままだと狙い撃ちで殴られる!だからぁああああああああああ!】
(だから?)
【アレを使うぞ!あのデカブツにはアレだぁあああああああああ!】
(アレ?)
直後にユウキさんの言葉の意味が分りました。
(分りました!アレですね!アレなら一撃ですね!)
【そうだ!オリビアさんなら出来る!頼んだぞ!】
(はい!)
だけど、ユウキさんからの呼ばれ方にちょっと不満が・・・
(ユウキさん・・・)
【何だ?】
(私の事は『オリビア』って呼び捨てで呼んで下さい。今の私はユウキさんと一心同体です。私はもうユウキさんしかいない・・・、だから、もっと仲良くなりたいから、私をそのように呼んで下さい!)
『分ったよ。『オリビア』、これで良いのか?」
(うっ!)
どうしたのかしら?体中が熱い!
とっても嬉しいと思っている私がいる!
何だろう?
ずっと昔からユウキさんにそう呼ばれたいと願っていた私がいた?
(ありがとう、ユウキさん。これで殺る気が倍増です!)
【ん?何か言葉が違う気がすると思うけど・・・】
(ふふふ・・・、気にしないで下さい。さて、アレをやりますよ!)