1話
短編で作る予定でしたが、思った以上に長くなってしまったので分割して掲載します。
気分転換の息抜きで書きましたので、色々と突っ込み要素がありますが、軽い気持ちで読んでいただければ・・・
「オリビア・カルストン公爵令嬢!貴様との婚約!この場をもって破棄させてもらう!」
(はい?)
目の前には宝塚の男役が似合う貴族や王子様の服装をした超イケメンの男がなぜか怒った表情で俺を睨みながら怒鳴った。
それにしても、こんな人間なんかいるのか?
真っ赤な髪の毛に紫色の瞳・・・
コスプレにしてはとても出来が良く、ずっとこのようにしていたのか違和感が無い気がする。
しかもだ!
その男の横には目にも悪い真っピンクのふわふわな髪の毛にエメラルドグリーンの瞳、これまた見た事が無い程の美少女がイケメンの腕に抱き着いている。
その美少女の服もだ!
髪の毛と同じピンクのドレスを着ている。
(どんだけピンクが好きなんだ?)
確かに美少女には間違い無いが、何故か俺の本能が訴えている。
(コイツはヤバイ!絶対に近づいて駄目な奴だ!)
その上にだ!
そいつらの後ろにも緑色の髪の毛や青色、金髪の男が3人も並んで、これまた腕を組んで踏ん反りながら俺を睨んでいた。
(えらくカラフルだけど、どんなコスプレ集団なんだ?)
何が何だか意味が分らん。
・・・
それ以前に俺はどうしてここにいるんだ?
それに女の名前で呼ばれていなかったか?
(確か俺は・・・)
確かコンビニのバイトが終わっての帰り道だったよな?
食堂の前の道を歩いている時に何か変な匂いがして・・・
(はっ!)
アレはガスの匂いだった!
その瞬間・・・
(思い出した!)
目の前が真っ赤になった瞬間、俺はいきなり吹き飛ばされたんだ!
鼓膜が破れたかのような爆音!真横に飛ばされる衝撃!
そして・・・
ガラスの破片が全身に突き刺さる瞬間がゆっくりと見えた・・・
そして俺の意識が真っ暗に・・・
俺は悟った。『死んだ』のだと・・・
しばらく真っ暗な世界にいたけど、そこに小さな光が点った。
俺の意識がその光に吸い込まれるように感じた。
その時に聞いた言葉が・・・
「・・・けて・・・、お願い・・・、この世界・・・、助けて・・・」
で!
目が覚めたらこの状況だった。
(ふっ・・・、理解しようにも俺の頭では無理だ。)
全身にガラスが刺さった事は覚えているけど、体は全く痛く無い。何故かウエストがとても苦しいのだが・・・
何か窮屈なものでギリギリと巻かれている気がする。
体の確認をしようと視線を落としたら・・・
・・・
・・・
・・・
(はぁあああああああああああああああああああああああああああ!)
「な!何じゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
とても甲高い声で叫んでしまった。
待て!気付いてしまったが、この声って男の声じゃないぞ!
(まるで女の声のようだ。)
もう一度下を向き、自分の体を確かめてみた。
(そ、そんな!)
生れてから20年!俺の体に無かったモノが付いている!
しかもだ!
(巨乳だよ・・・)
今の俺の胸に2つ装備されている大きなマシュマロのような物体が、俺の動きに合わせてブルンと揺れた。
それに、記憶ではTシャツにジーンズのラフな服装だったのが、今、俺が着ている服は・・・
(薄い黄色のドレス?それにとても豪華だ!)
ウエストがキュッと締まっているから、この窮屈さはコルセットなのか?
コルセットを巻いているなんて・・・
だ、駄目だぁぁぁ・・・、この現実に俺の精神が崩壊しそうだよ・・・
「何で俺が女になっているんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
心の底から叫んでしまった!
「何で?何でだよぉぉぉ~~~~」
ショックで涙がポロポロと流れてくる。
こうやって涙が出るって事は夢じゃないんだよな?現実に俺は女の体になってしまったのか?
「おい!」
(何だ?)
訳が分らない状況で落ち込んでいる俺に誰かが怒鳴った。
その声のする方を向くと、赤髪のイケメンがプルプルと震えてもの凄い形相で俺を睨んでいた。
「俺に婚約破棄を告げられ、ショックで気が触れたのか?リリアンに嫌がらせをした報いか?罪人にはお似合いの結末だよ。はははぁあああああああ!」
(何だこの状況は?婚約破棄?この男とか?)
婚約破棄・・・
そうなると、今の俺って?
まさかぁあああ!悪役令嬢なのか?
この手の話はネット小説や漫画で良く見かけたのを覚えている。その話が今、現実に目の前に?
状況から見てもそんな感じだよ。
1人の脳味噌お天気女の周りに男共が群がって、1人の女を断罪する。
逆ハーレムに婚約破棄、間違い無い!
さっきまで自分が女になって動揺してたけど、今の怒鳴り声と高笑いで冷静になれた。
冷静になったというよりも、ムカムカして腹が立ってだけどな!
(どうせ冤罪で俺を貶めて追放する流れなんだろうな。)
「どうした?あまりのショックで声も出せないのか?それともついさっきのように気が触れたのか?」
赤髪のイケメンが相変わらずニヤニヤしているし、後ろのカラフル軍団も同じような態度だ。
こいつらは誰なんだ?
服装からして高貴な感じだし・・・
ピコン!
(何だ?)
頭の中に変な音が聞こえた。
【鑑定を行いました。】
(はぁあああ?)
赤髪の前に文字が浮かんだ。
『名前:エリック・フロイスト(16歳)
役職:フロイスト王国の第2王子
種族:人族』
(はい?)
うわぁ~、まるでゲームの世界だよ。
しかもだ!やっぱり悪役令嬢物語で鉄板の登場人物である王子からの婚約破棄だった!
ピコン!
次々と後ろの男連中の情報も浮かび上がった。
緑髪男
『名前:ザック・アルデライト(16歳)
役職:フロイスト王国騎士団団長の長男
種族:人族』
青髪男
『名前:カルロス・ハーシェル(16歳)
役職:フロイスト王国宰相の次男
種族:人族』
金髪男
『名前:エドワード・カルストン(16歳)
役職:フロイスト王国カルストン公爵家3男、オリビア・カルストンとは腹違いの弟(あなたと同じ歳)
種族:人族』
(あ”)
金髪男は俺の弟?腹違いって?
という事は、貴族なんだから正妻や妾がいるって事か?
異世界ものや悪役令嬢ものの小説を色々と呼んで知識だけはあったから、混乱する事無く理解出来たのかもしれない。
そして弟が俺(今は女だけど)を追放するって?
いやいや!この『鑑定』って何気に高性能では?
俺の知りたい事が浮かんでくる。
気が付けば女の体になっていたり、訳の分らない声が聞こえたり見えたり・・・
(本当に今の俺はどうなっているんだ?)
そして目の前の男連中はどいつもこいつもお偉いさんの御曹司だ!
しかし、これで状況が大体理解出来たと思う。
やっぱり間違い無い!
今の俺は公爵令嬢になって、この逆ハーレム集団から婚約破棄を突き付けられ、今、まさに断罪される状況だ!
ピコン!
ん?ピンク女の情報も浮かんだぞ。
!!!!!
(これは!)
信じられない情報が目に飛び込んできた。
『名前:リリアン(98歳)
役職:平民(偽装)
種族:人族(偽装)本来の種族は魔族(サキュバス・クイーン)』
(魔族って!しかも98歳のババァだって!)
まぁ人間ではないし、見た目からしてあの歳でも種族の中では若いのかもしれない。
ピコン!
『幻惑の魔法で本来の姿を偽装しています。
人間よりも長寿の種族ですが、98歳はやはりババァに間違いありません。
まぁ、クイーンと呼ばれているだけに夜の××(自主規制)は天にも昇る気分にしてくれます。
思春期で童貞だった彼らには刺激が強過ぎて彼女無しにはいられない程にメロメロになっても仕方ないですよ。
だけど、偽装の魔法が解けて本当の姿(しわくちゃお婆ちゃん)の彼女と××(自主規制)は無理でしょうね。
確実に萎えてそれどころではないです。(笑)』
何だ?
とても頭痛がしているが気のせいではないよな?
××(自主規制)をさせてもらっているから入れ込んでいるって・・・
(お前らは発情期の猿か!)
だけど、俺も童貞だしなぁ・・・
(今のピンク女のあの姿なら、彼らの気持ちは分からんでもない・・・)
だけど、実際は婆さんが相手の初めてかぁ・・・
(ご愁傷様・・・)
あのピンク女の正体もそうだけど衝撃の事実が満載だ!
色々と突っ込みたいが、やっぱり俺はファンタジーの世界に転生したのか?
流行の転生ものに断罪もの・・・
(空想だと思っていたのに、俺が当事者になるって、どんな虐めなんだよ・・・)
普通に生きて普通に寿命を迎えたかったのに・・・
それじゃ、あの時に聞こえた声って?
まぁ、考えても答えが出ないな。
だから・・・
(まずは目の前のこいつらを蹴散らさないとな!)
いつの間にか涙も止っていた。
思いっ切り逆ハーレム集団をにらみ返してあげた。
(こうなればヤケクソだ!徹底的に引っかき回してやる!)
だけど、まずは状況確認だな。
今の俺のいる場所は・・・
どうやら講堂のホールみたいな場所だ。かつてヨーロッパに旅行した時に見た中世の建物に似ている。
カラフル軍団は一段高い場所に陣取ってふんぞり返っている。俺はそいつらの前にいる状況だな。
チラッと後ろを見ると、立食パーティーのようにいくつものテーブルが並べられていて、多くの制服を着た男女が物珍しそうに俺達を見ていた。
(完全に公開処刑かよ!)
横は二階席のような場所があり、かなりどころか豪華過ぎる衣装の人達が真っ赤な顔でプルプルと震えている人が何人もいた。
(多分、アレは来賓だろうな。あのプルプルしているのは、カラフル軍団の親達かもしれない。)
その中で1番豪華な服装の男が立ち上がった。
「この馬鹿者がぁあああああああああああああ!王家が決めた婚約を勝手に破棄しおって!いくら王子だろうが、やっていい事と悪い事くらい分別が付かんのかぁああああああ!」
やっぱり王様でした・・・
そして、逆ハーレム野郎達は勝手に暴走してこの断罪劇をしてしまったのね。
(はぁ・・・、くだらないし、帰りたいよ・・・、帰る家があればだけどね。)
「ち、父上!これには深~~~い訳があります!」
(テンプレだね。さて、何を言うのかな?)
「私は『真実の愛』を見つけたのです!目の前にいるオリビア嬢のように婚約しているのにも関わらず手さえまともに握らせてくれません!『いくら婚約者でも結婚までは清い関係をしなくてはなりません』と!そんな薄っぺらい関係でどうして夫婦になれと言うのですか?しかし!リリアンは違った!いつも私のそばにいてくれた!私に寄り添ってくれた!そしていつも『あなたが1番好きです』と言ってくれるのです。私はもう彼女と結婚すると心に決めています。そして男と女の関係になりましたので、私が責任をもって正妻とする所存でございます。私はもう彼女無しでは生きていけない程に愛しているのです!これを真実の愛と言わずに何と呼ぶのでしょうか?」
あ~ぁ、王様が頭を抱えているよ。
「バカもぉおおおおおおおおおおおっん!何が真実の愛だ!お前の後ろにいる連中は何なのだ?宰相達にも聞いたが、あいつらの息子どもも『真実の愛』とほざいているぞ!」
そういえば・・・
王様の周りにいる人達で、あのカラフル軍団と同じ髪の色の人が何人もいるわ。
とっても疲れたような死んだ顔をしているから親連中だろうな。
息子達が逆ハーレム状態で1人の女に入れ込んでいるって、ちょっと考えただけでも異常な状態だよ。
それが分らない程に息子連中はあのピンク女の××(自主規制)テクニックにメロメロなんだろうな。
(サキュバス恐るべし・・・、だな。)
「それにです!父上はご存じないでしょうが、このオリビア嬢はアカデミー内でリリアンに数え切れない嫌がらせをしているのですよ。単なる嫉妬なら可愛いですが、こうしてリリアンに危害を加えているのも我慢出来ません。」
「「「そうです!」」」
あらら、カラフル軍団も入ってきたぞ。
青髪の男が王子の横に並んだ。
そして、白い歯をニカッと見せてピンク女に微笑んでいるよ。
「我々5人は!本日、このアカデミーを卒業と同時にリリアン嬢を妻とし、5人一緒に暮らすのだ!この国は一夫多妻を認めているが、多夫一妻はまだ認められていない!だから!我々が前例を作り認めてもらうのだ!真実の愛の前には法律も無駄だと国に知らしめる為に!」
今度は緑髪の男が横に並んだ。
「リリアン嬢はとても心の広いお方だ!稀少な回復魔法を使える彼女は、ゆくゆくは聖女としてこの世界に光をもたらすだろう。そしてぇえええ!数百年ぶりに現われた光魔法の使い手であるエリック殿下は、明日の成人の儀式で女神様から勇者と認められるに間違いありません!勇者と聖女!このお2人を支えていくのが我々の使命!そんなブスな令嬢は殿下とは不釣り合いです!」
いやいや!勇者はともかく、ピンク女は聖女でも何でもないよ。
だって魔族なんだよ。
そう心の中で突っ込みをいれていると、今度は金髪男が並んだよ。
全く実感はないけど俺の身内なんだよな?
「それに姉上の悪行にはほとほと愛想が尽きました!リリアン嬢に対する数々の嫌がらせ!こんな悪女が殿下の婚約者?そんなのが王族の仲間入りをすれば国が傾きます。姉上、婚約破棄だけでは生温い!国外追放がお似合いですよ。ふはははははぁあああああああああああああああ!」
そしてニヤリと笑い蔑んだ目で俺を見た。
「しかも!姉上は私と違い妾の子!公爵家には姉上しか女児がいなかったから、王族との繋がりの為だけに婚約を結んだだけだよ。そんな政略結婚など最初から私は反対していたのだ!汚れた公爵家の血が王族になるなんてなぁあああ!」
この愚弟がぁぁぁ・・・
お前だけは絶対に潰す!元々家族の実感も無いから遠慮せずに潰してあげよう!
心の中で親指を立て首を斬る仕草をしていた。
「父上!これでお分かりでしょう!魔王が勇者に封印され2000年、だがその封印もいつ破られるか分らない状況です。魔王を倒す為に勇者が降臨すると伝説で語られています。この国唯一の光魔法の使い手の私がその伝説の勇者に間違いないのです!勇者である私と聖魔法が使える聖女リリアンが真実の愛で結ばれる。まさに伝説の再臨です!それが分らないのですか?」
「アホか・・・」
国王様が心底呆れた顔をして呟いた。
その気持ちは俺でも分る。
「そんな話、誰が信用する。冗談も休み休み言え。」
「ですが!この目の前にいるオリビアは私の大切なリリアンに危害を加え続けていたのですよ!アカデミー内の教室では無視されたり、机の中に入れてあったノートなどを破かれたり、陰湿な虐めを受けていたと!しかも!挙げ句の果てには階段から突き落とされ死にそうになったと、私に泣きついてきたのですよ。リリアンは聖魔法が使えますので、自分で傷を治せたので大事には至らなかったと言ってホッとしましたが・・・」
ここまでテンプレだなんて、思わず顔がにやけてしまうが、今は我慢だ!
国王様は相変わらず覚めた目で王子を見続けているし。
「エリックよ、その女が聖魔法を使えると言ったな?確か名前はリリアンか?しかし不思議だ・・・、聖魔法を使えるのに何故教会にその名前が登録されていない。アカデミーに通っているなら確実に登録されているのでは?変だと思わないのか?」
「ち、父上・・・、彼女は平民ですし、聖魔法が使えるようになったのは、私と付き合う少し前からだと教えてくれました。そして私は見たのです。アカデミーの敷地内に迷い込んできた瀕死の犬を私の目の前で治したのですよ。元気になった犬は喜んで敷地から出ていきました。」
怪しいと思わないのかな?
たったそれだけの理由で聖女になる人に思うとは・・・
しわくちゃ婆さんが目の前にいる色気満々スタイルの美少女になっているんだ、何か幻覚でも見せられたのではないかと思うよ。
「それにです!」
愚弟が前にしゃしゃり出てきた!
「姉上の陰湿な虐めには証言もあります。」
ほぼ書き終わっていますので、続きは早めに投稿したいとお思っています。