No.9 不思議がぎっしり(ミステラリタイト)
"不思議がぎっしり(タイト)"
名付けられた意味に相応しい不思議な生き物だ。
分厚い筋肉を覆う強固な鱗や獲物の肉を割くための鋭い牙……の代わりに、ふわふわな毛並みであったり猫の様な小さな犬歯を与えられている。見た目は愛玩用に飼育される小動物と変わらない。
困ったもので、その後ケージにいれて保護をする中で彼女の言うとおりヒヤヒヤとする場面が何度もあった。
普通、手負いの獣というのは自分の体に異変が起きている時はじっと身を固めて大人しくしているものなのだが……この個体はどうやら大人しくしているのが苦手らしい。
よく跳ね、よく転び、よくものにぶつかる。
痛みがないのか、自分の能力を過信しているのか……。
ケガをしないか、見ているこっちばかりがハラハラしてしまう。
生肉や野菜、果物なんでも食べる。
それだけならいいが好奇心が旺盛なためか、赤子のように入るものは何でも口に入れてみようとするところも困ったものだ。一瞬も目が離せない。
仕方なく、しばらくの間は私が専属でこの小型ドラゴンの面倒をみることになった。まさか抱っこ紐で“災い“を胸に抱えながら業務に勤しむことになるとは……。
人間の"慣れ"という性質はとても恐ろしいもので、日々仕事に忙殺されているとあっという間に一ヶ月も経ってしまった。
「ブブブ……ブブン」
両手に収まる小さな体、大きなまん丸い目にふわふわの首元、柔らかな体温。暇を持て余しているのか、首にひっかけた社員証のネックストラップをカシカシとイタズラする様も、なんだか愛くるしいものに思えてきた。
「ブブ、ブンブン」
「こら」
懸念していた骨折だが、驚くことにレントゲンを撮った翌日にはすでに完治していた。他に類を見ない恐るべき回復力である。
「そこにいると大人しいねえ……そのコ。落ち着くのかなあ」
「イイなー」
「……」
用もないのに業務中の飼育課に入り浸る暇人二名に冷たく視線を送る。
どれだけ暇なのか。
内線にランプが着くのを見て受話器をとった。
「はい。飼育課ですが……」
内容は課長からの呼び出し。
「ちょっとカジン課長に呼ばれたので行ってきます」
「あらら、お呼ばれかい。おチビちゃん、預かっておこうか?」
「いえ、お気持ちだけで。……それに、私と言うよりはこの子に用があるようです」




