No.3 科外業務
"新入りのために施設の案内をしてほしい"
代わりに頼まれたのはそういう事だった。
「お断りします。課も違いますし」
「まあまあ、そう言わず。オペラ君が保安維持課にいた時のこと教えてくれればいいからさあ」
ちょっと買い物に行ってきてくらいのテンションで言われても困るものは困る。私の仕事を勝手に増やすな。
「急に言われても困ります。他の仕事にも差し支えますので」
「え〜でもでも、飼育課長の許可は通ってるし何とかお願いできないかなあ」
「は? 許可って……」
「それにほら、オペラ君がいちばん歳が近いじゃない。ロベル君だっておじさんよりは若い女の子に案内してもらった方が嬉しいよね?」
「そうっスね〜」
「ほらぁ〜! 頼むよぉ」
「……」
なんだそのくだらん理由は!
そもそも生き物の管理をする飼育課に閑散期などあるものか。
ピッ。
首にかけた職員証を研究棟の受け付けにて照合する。
「新人職員への案内のため、一時的に研究棟を出ます」
やむなく、余儀なく、仕方なく。
誠に遺憾な思いを抱えながら、研究塔に自らの仕事を残してロベルの案内をすることになった。私の眉間にはいくつかの筋が刻まれていることだろう。
あの元上司め。
なにが、「丸一日使ってもいいから」だ。
もうあの人の部下じゃないのになぜ私がこんなことを?
何より憎たらしいのが、私にこの話を持ちかける前に、飼育課の上司に許可をもらっていたらしいということ。受け入れるかどうかの判断を私がする前に結果が決まっていたということだ。逃がす気ないじゃないか。
「ちょっとセンパーイ? 置いてかないでよー」
のんきに後ろをついてくるチャラ男を薄く睨みつける。
「あれ。もしかして、ご機嫌ナナメ?」
「いいえ。少し面倒なだけです」
「アハハ。冷てぇな〜」
建物から外へ出るとジリジリと日差しが目の奥を刺激する。木陰に逃げ込んで一息をつく。
さて、この面倒な案件。どう処理をするべきか。
この楽園は一つの島から成る広大な土地だ。
建物一つずつ歩いて回っていくのは得策じゃない。
まずは大まかに島の全体像を頭にいれてもらおうか。彼の業務エリアを聞いてから、要点をかいつまんで伝えたほうが効率がいい。方針は決まった。
「楽園には大きく分けて4つのエリアが存在するとお伝えしましたよね」
言われると彼は、先ほど渡した島のマップと睨めっこを始めた。
「え〜と……島の中央にガーデンがあって
①商業エリア
②産業エリア
③研究棟含む住居エリア
④猛獣・珍獣を集めた巨大収容施設
の4つの施設がぐるっと周りを囲んでるんすよね?」
「そうです。マップから分かる通り、全部をじっくり見て回るには一日じゃ足りません。あなた、ご自身の担当エリアはご存知ですか」
「担当エリア?」
「……あなたが警備を任されるエリアのことです。課長から聞いていませんか?」
「あぁーたしか……センパイと同じとこって言ってたかも?」
「竜迎館、ですか」
"竜迎館"とは。
たくさんの猛獣たちが暮らす"聖獣収容エリア"にあるドラゴン専用の保護施設である。様々な特徴を持ったドラゴンたちが生きる標本のように特殊ガラスの中で生活をしている。
我々、楽園の民にとって最も重要な神聖なる場所である。
「バスで移動するんすか?」
「歩きで行くと時間のロスになりますから」
研究棟からここへ行くのには乗り物を使う。
竜迎館行きのバスに二人で乗り込む。
「うおー……広……」
バスの座席、一番後ろのガラスに張り付いてロベルが外を見回している。聖獣収容エリアに入ると、バスは巨大な建物の間を縫って走る。ものめずらし気に見回すこの姿も”外から来た人間”特有の反応だ。
しかしまあ座席に膝を立ててお行儀が悪い。
普段なら注意をするところだが……今の時間は他の乗客もいないし、目撃者はほかに居ない。
「……そろそろ着きますよ」
今回だけは特別に見逃してやることにした。




