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箱庭の冒険  作者: ZOE
2/9

No.2 特定配達物

「これは……」


届いたものを見て私は思わず眉を潜めた。

特定配達便で受け取った伝票には壊れ物と書いてある。

両手でダンボールを持ち上げるとずしりと重さがあった。


天井となる部分にいくつか丸い穴が空いている。

そっと顔を近づけて耳を澄ますとかすかに聞こえる呼吸の音。


「……ブブブブブ……」


箱に振動が行かぬよう、慎重に検査台へと運ぶ。

プレゼントの包みを開くようにそっとダンボールを崩すと、鳥籠の中にぐったりとしてそれはいた。


兎のような四肢は鉄の鎖に纏められ、その背に申し訳程度に存在する小さな翼までガッシリと固定されている。


非翔種(アンテフロイド)の種族”ミステラリタイト”……害獣認定はされていないはず、なぜここまでの拘束を?


プン、と箱から飛び出した小バエに殺虫剤でとどめを刺す。


段ボールを覗くと中には一通の封筒が同梱されていた。

萎びた使い回しの表紙に”取り扱い注意”の文字。拘束具用らしい小さな鍵がテープで封筒に止められている。

粗悪な仕事をする業者だ。


注意書きも気になるが、まずは個体の状態を確認するのが先だろう。

身動きもろくにとれない上、排泄物がそのまま垂れ流しになって虫がたかっている劣悪な環境。この様子では、食べるものも飲み水も長時間取っていないだろうからかなり衰弱しているはずだ。怪我をしている可能性もある。

感染症の恐れがあるため、マスクと専用の手袋を着用してからミステラリタイトを拘束から解放する。


ミステラリタイトは自分の体を動かせることに気づくと、ショウガラゴのように大きな目を瞬かせてむくりと体を起こす。すると、ぐったりとしていたのが嘘のように興味の赴くまま検査台を自由に探検し始めた。


「ハァ……」


拍子抜けしたが、状態が安定しているなら一安心だ。封筒の中身を確認しなければと頭を切り替える。つらつらと情報を追っていると目に引っかかる言葉があった。



「"災いを呼ぶ"ドラゴン……?」




注意書きの内容はまるでファンタジー作家が空想で書いたかのような代物だった。しかし、災いを呼ぶと書いてあるくせに具体的な事例や建設的な見解があるわけでもない。つまりこの生き物を知るためにはなんの役にも立たない。


分かったことは翼を持っているのに、なぜか"飛翔種(アンテフロイド)"と呼ばれていること、その一点だけ。


とはいえ、災いだなんて物騒な情報を知ってしまった手前、検査台の上で遊ばせておくわけにもいかない。

ぴょんぴょんと跳ねては転ぶを繰り返す、小猿のような子兎のような。この珍妙な生き物のどこが災いなのか私には検討もつかなかった。


扱いに困り果てていると飼育課の戸が開く。


「ああ、オペラくん。ここにいたんだね」


ゴート=ハンネバル。

私が保安維持課にいたときの元上司だ。


「おお。もしかしてそいつが例の?」


ゴートの後ろから若い声がして金髪の青年が立っているのに気づく。職員全員の顔を覚えている訳では無いが、見慣れない顔だ。


「ロベル君、彼女がさっき言ってたオペラ君だよ」


「へえ。お噂通りのキレイなお姉さんっすね」


「ハア……そちらの方は?」


「あ、俺ロベル=アルティエリっす。よろしくっす」


「よろしくお願いします」


楽園に従事する多くの職員たちの中にはあまり見ないタイプだ。きっと特別な理由で"外"から連れてこられたんだろう。


「ははは。君たち相性悪そうだねぇ〜……彼ね、今日から保安維持課に配属されることになったんだ」


「保安維持課? ……飼育課ではなく?」


同じ課になるからわざわざ顔合わせに来たわけではないのか。理由を聞こうとすると"金髪チャラ(オトコ)"が検査台を見ながら、あっ! と声をあげた。


なんだと振り向くと、ミステラリタイトが検査台の端に立ち、羽根をバサバサと広げているところだった。

まさか……台から下に降りようとしているのか?


止めようと動く間もない。小さな体でバネを効かせてなんの躊躇いもなく体を跳ねあげる。


「ブブ……キュゥゥイッ」


マズイ、その羽根では飛べないのに……!

落ちたら骨折どころじゃ済まないかもしれない!





「……あっぶねえ……」


いけすかない男……もとい、ロベルが体を乗り出し、片手にミステラリタイトをキャッチした。間一髪のところで地面への落下を防ぐことが出来たようだ。三人してほっと息をつく。


「でぇかした! ナーイスキャッチだねぇ」


「ブブブ……ブキュキュ」


ミステラリタイトはジタジタと不器用に暴れる。


「あ〜ヨシヨシ。落ち着け〜……」


赤子を抱くような抱え方に変えると大人しくロベルの胸に収まった。


「課長ぉ……こいつチョロチョロ動くから危なっかしくて見てらんねーよ。早くどうにかした方がいいっすよ」


私は自分の管理体制に対して文句を言われたように感じて眉を潜めた。


「うーんそうだねえ。どこか安全に動き回れるところに場所を移そうか」


「私がやっておきます」


この個体の詳しい情報や健康状態についても調べないといけない。翼を持つが、飛べはしないというところも気にはなるが、災いを呼ぶとはどういうことなのか……何かと謎の多い生き物のようだ。


「あ、それなんだけどさ。丁度シェイシェイちゃんに用があるから私がこのあと検体をお渡ししに行くよ。……その代わりにと言ってはなんだが……頼みごとがあるんだけど」


「はい?」

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