桜佐咲⑩
私がモデルにスカウトされ仕事を始めると、ありがたいことにすぐに忙しくなってしまい千尋と遊ぶことも難しくなってしまった。
仕事の関係で中学も別々でそのまま徐々に千尋とは疎遠になっていった。たまたま私が時間を取れても千尋のお義姉さんが千尋を独占していたので千尋に会えない日々が何年か続いていた。
「咲ちゃん、俺と付き合ってほしい!」
「すいません……。その、今はお仕事に集中したいのでお付き合いはできないです」
色々な男の人から告白をされたが、何かパッとしなかった。
告白してくる人たちはみんな自分のここがすごいとか私のここが好きだってウザいくらいアピールしてくるけど……そうじゃない。全然わかっていない。私が好きなのはそういうのではないんだ。
「はあ……」
千尋はどうしてるんだろう……。会いたいなあ。
ため息交じりに帰り道を歩いていると面影のある姿を発見する。
「……千尋?」
「はい。あっ……さ、桜佐さん?」
声を掛けるとやはり千尋だった。こんな偶然があるのかと思ったし、千尋に会えてその場で飛び跳ねたいくらいめちゃくちゃ嬉しかった。
「やっぱり千尋だ! 本物の千尋だ!」
「う、うん。久しぶり」
「本当に本当に久しぶり! いやめちゃくちゃ嬉しい! あれ千尋……背縮んだ?」
「…………縮んでないよ」
あっ……拗ねた。千尋は拗ねると声が少し低くなる。小さい頃から変わらない。
「うそうそ。千尋、大きくなったね! なんか男の子になってるよ!」
可愛いらしさに少しだけ精悍さが足されていた。何年か会っていない間にあの千尋が男子に成長していることに感動してしまう。
「あ、ありがとう。桜佐さんもモデルとかやっててすごいね」
「うそ!? 知っててくれてたの?」
「う、うん。雑誌とかで見かけるから」
「へへっ……照れるな」
千尋との久しぶりの会話に夢中になっていると肩に水滴がポツリと当たる。
「……あっ雨降ってきたね」
ポツポツと雨が降り始めていた。今朝に見た天気予報だと降るか微妙だって言ってけど降ってきちゃったかー。まあ傘持ってきてたからいいけど。
「…………あれ?」
「どうしたの?」
「えっと折り畳みの傘持ってきたと思ったんだけど……家かな」
「よかったら一緒に入る?」
「……いいの?」
「もちろん!」
「ありがとう桜佐さん」
小さい頃と何一つ変わらない笑顔で私にお礼を言う千尋。さっきまでの私の心は曇天みたいに淀んでいただったが、今の私は千尋に会えて快晴のように澄み切っていた。
────
「千尋は高校どこに行くか決めた?」
「うん決めてるよ」
「どこどこ?」
「青ヶ丘高校に行こうかなって」
「青ヶ丘!? 私と一緒だ!」
「そ、そうなんだ。家から近いし、頑張って勉強しようかなって」
「ヤバ、超嬉しい! 絶対一緒の高校に行こうね! あっそうだ! 受験勉強一緒にやろうよ?」
「えっ……そんな悪いよ」
「なんで? 何も悪くなくない?」
「僕、勉強苦手で……桜佐さんに迷惑かけちゃうし」
「それこそ一緒に勉強した方が良くない? 千尋のわからないところを私が教える、私は千尋に教えられて復習にもなる。一石二鳥じゃん」
「う、うーんでも……」
まだ決め切れていない千尋。でも表情を見ている感じもう一押しだ。ここで断られるとか絶対にさせない。
「お願い千尋。千尋の為でもあるし私の為でもあるから……ね?」
千尋は優しいので『私の為』って言葉に昔から弱い。私の言葉を聞いて千尋は少し悩んだ後、申し訳なさそうに口を開いた。
「…………ほ、本当にいいの?」
「もちろんだよ!」
よっし!! 千尋と二人きりで過ごせる時間が増えた。
「じゃあ今日学校終わったらすぐに私の家に集合ね! 遅れたら罰ゲームだから」
「う、うん。ありがとう桜佐さん」
千尋とやっと会うことができたんだもん、もう疎遠になりたくない。
この時の私は絶対に千尋と一緒に青ヶ丘に行くことしか考えてなかったし、なぜだかわからないけど絶対に行けると自信満々だった。
まあ結果は千尋と一緒に青ヶ丘に合格できて、無事に有言実行できたから本当によかった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
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短編も書いてます。一番新しく投稿した『信じてくれなかった彼女とはもう関わりたくない』もお時間あればぜひ。
https://ncode.syosetu.com/n4897hu/
他にも短編書いているのでお時間がある時に読んでいただけたら嬉しいです。




