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奪われた唇

 そして、EIJIエイジによるソロライブの日がやってきた。俺は、わざわざこのために用意されたパイプ椅子の座席に座っている。俺としては、あの赤星の歌なんて興味ないんだけど、全校生徒を集めてのイベントなもんだから、仕方なくこうして参加しているわけだ。


 しばらくすると、体育館の照明が消え、ステージのスポットライトに照らされながら、EIJIこと、赤星が登壇し、その瞬間、主に女子生徒の黄色い悲鳴が上がる。ああ、女子生徒の大半は赤星のおぞましい本性を知らないんだよな。なんだか、もどかしいよ。


 こうして、赤星によるソロライブが始まった。赤星以外の演奏は、市販のCDのノーボーカルによるものだったけど、赤星は腐ってもバンドマン、その歌声はそんじょそこらの素人とは一線を画すものだった。悔しいけど、人気が出るのもよく解る。


 そして、赤星は三十分ほど休みなしで歌い続け、一通りメドレーを歌い終わったあと、体育館の照明が再び点る。そして、ステージの上で、なにやらゴソゴソと、一部の生徒により、なにかの準備が始まった。そして、その準備が終わり、赤星がみんなにマイクで語り書けた。


「今日は、ボクの歌を聴きに来てくれてありがとうっ! 聖泉高校のみんなっ! 楽しんでくれたかなっ!? でも、みんな、これだけじゃ物足りないだろうから、今日はみんなにちょっとしたイベントを用意したんだっ!」


 そして、さっきステージの上に準備された、黒い布が被せられた長机から、その布が取り払われる。そこには、さまざまなグッズが並べられていた。恐らく、赤星のバンドにまつわる代物だろう。


 そして、もうひとつ、白い布が被せられた小さな机からも、布が取り払われる。そこには、少し大きめの箱が置いてあった。その箱を指差しながら、赤星はこう言った。


「この箱のなかには、全校生徒のクラスと出席番号が書かれた紙が入っていてね。今からボクがこの箱のなかからその紙を引いて、書かれていたクラスと出席番号の生徒に、ボクの秘蔵のグッズをプレゼントしようと思うんだっ! どうだい? 面白いだろっ!?」


 これを聞いた生徒の大半は大騒ぎ。その騒ぎを収めようと、イベントを見守る先生はてんやわんやだ。まぁ、赤星の本性を知っている一部の生徒には関係のない話だけどさ。


 でも、俺は、この赤星の行動に、なんだか胸騒ぎを感じていた。それは、前に沙羅姉と話したときに感じたものと同じものだった。でも、俺には、具体的にはその胸騒ぎの正体が解らなかった。


 そんな俺をよそに、赤星によるくじ引きはつつがなく進んでいき、くじを引いては、クラスと出席番号を赤星が声高にマイクで叫び、それを受けた生徒が登壇し、グッズを受け取り、赤星と握手をして、喜び一杯で戻っていく光景が繰り返される。


 そして、長机からグッズがどんどんなくなり、そして、ついには長机の上が空になる。しかし、赤星はまだイベントの終わりを宣言しない。そして、赤星は、高らかにこう言った。


「さて! 残念だけど、もうボクが用意したグッズはもう失くなってしまったよ。でも、最後にひとつ、どんなグッズよりもいいものを、全校生徒のひとりだけにプレゼントするよっ! それがなにかは、当たってからのお楽しみだっ!」


 その赤星の宣言に、全校生徒はざわつき始める。なんだ、その、『いいもの』っていうのは。そして、赤星は、箱のなかからゴソゴソとくじを引く。そして、勢いよく引かれたくじに書かれている内容を、高らかに叫ぶ。


「一年C組の、十三番っ! さあっ! この強運を引き当てたのはどの生徒かなっ!? ステージに上がって上がってっ!」


 そして、一年生の席から、ざわざわと声がして、一人の生徒にステージに向かうように促す。でも、その生徒はなかなかステージに上がろうとしない。なんだ、なにかが妙だ、俺の胸騒ぎが段々膨らんでいく。


 そして、ついに、周囲から押し出される形で、その生徒がステージの方へと歩き始めた。あれは、俺がよく知る、俺の彼女の、来栖さんだ。そして、赤星が狙っている次のターゲットでもある。いや、こんな偶然があるか?


 来栖さんは、少しずつ、少しずつ、ステージへの階段を登っていく。そして、ついに、来栖さんはステージへと上がった。赤星の手にはなにも握られていない。なんだ、なにをする気だ、赤星。


 しばらくして、来栖さんと赤星が対面する。もちろん、赤星の本性を知っている来栖さんは赤星を警戒している。そんな来栖さんを、赤星は作り物の笑顔で迎える。


「おめでとうっ! 君が今日一番の幸せ者だっ! それじゃあ、君にボクがとっておきのプレゼントをあげよう! さあっ! もっとこっちに寄ってよっ!」


 赤星は、なんだか不安げに距離を取る来栖さんを少し強引に抱き寄せた。そして、赤星は、来栖さんの顔に、自分の顔を近づけて、ボソリとなにかをつぶやいて、ほんの一瞬、来栖さんの唇に自分の唇を、重ねた。


 それを見た全校生徒は大いに賑わった。羨望の声をあげる女子、大胆な行動に、感心するような声をあげる男子、まさかの行動に慌てる先生達。その反応はさまざまだけど、俺のなかに沸き上がった感情は、そんなものじゃなかった。


 チクショウ、やられた。これが赤星のやり方か。もちろん、さっきのくじ引きはイカサマに決まってる! こんなバカな偶然があるわけない。赤星は、全校生徒の目の前で来栖さんの唇を奪って、既成事実を作るために、このイベントを開催したんだ!


 そして、この赤星の作戦は、絶大な効果を発揮した。どこからともなく、『赤星と来栖さんが付き合えばいい』という声をあげる生徒が現れたのだ。そして、その悪ふざけは段々と周囲に波及する。


 もちろん、これは悪ふざけの粋を出ないんだろうけど、俺が学校中の嫌われものだということは事実であって、これから先、俺が来栖さんと付き合っていることを悪く言う奴が増えるのは必至だろう。


 ステージの上で、俺の方を見ながら勝ち誇った顔をしている赤星。でも、俺の目には、そんなもの一瞬しか写らなかった。俺の目に今写っているのは、ステージの上で、呆然としながら固まっている来栖さん。


 そして、来栖さんの目から、ポトリ、ポトリと、大粒の涙がこぼれ落ちる。そして、来栖さんは俺の方をチラッと見て、とても見ていられないような顔をしながら、その場に崩れ落ちた。


「ああ、あまりに急なキスだったから、ちょっとショックだったかな? ゴメンね、悪かったよ」


 そう言いながら、赤星は来栖さんに手を差しのべる。もちろん、その顔には微塵の悪気もない。来栖さんは、そんな赤星の手を思いっきり手で弾き飛ばして、顔を手で覆いながら、ステージを駆け降りて、体育館の外へと出ていってしまった。


「あらら、ちょっと彼女には刺激が強すぎたかな? さて、それじゃあ、そろそろこのイベントも終わりだけど、その前に、まだ時間も余ってるから、みんなからの質問コーナーでもやろうかっ!」


 こうして、くじ引きの時間を終え、赤星はみんなからの質問に答え始めた。赤星の表情は、目的を果たし終わってとても機嫌が良さそうだ。クソッ! あの野郎っ!


 そして、俺は気づいたら、周りの騒ぎに乗じて、体育館の外へと飛び出していた。ゴメン、来栖さん! 俺の彼氏としての役目は、来栖さんが赤星の前に歩いていった時点で、無理矢理にでも二人を引き離すことだったんだっ!


 チクショウ、チクショウ、チクショウッ! 俺は彼氏失格だっ! 俺は、体育館から飛び出していった来栖さんを探して、学校中を駆け回った。来栖さん、お願いだから、早まったことはしないでくれよ!

 

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