赤星の策略
俺と沙羅姉が、佐伯さんに助言をしてから一週間程が経った。あれ以来、俺や沙羅姉には、赤星が佐伯さんに接触したという情報は入ってきていなかった。でも、来栖さんや鍋島さん曰く、最近、佐伯さんの様子がおかしいということだった。
そして、俺と沙羅姉は、そんな佐伯さんに詳しい話を聞くことにした。すると、佐伯さんは、『実は、赤星と話し合って、桃花のことは諦めてもらったから、もう心配しないで欲しい』と俺達に言った。
でも、あんなに赤星を嫌っていた佐伯さんが、冷静に赤星と話し合いが出来たとは到底思えない。俺と沙羅姉は、学校から帰ったあと、夕食を済ませて、ふたりで佐伯さんについての話をした。
「それで、沙羅姉。今日の佐伯さんのあの話、どう思う? 俺にはどうしても佐伯さんの言うことが信じられないんだ。それに、あの赤星がそう簡単に来栖さんを諦めるとは思えないし、一体、なにがあったんだろう?」
俺の意見を聞いた沙羅姉は、緑茶に口をつけて、両肘をテーブルに付けて、両手を絡ませながらこう答えた。
「私が思うに、佐伯は取引をしたのだと思う。恐らく、来栖を守るために、なにかを差し出したのだろう。そして、その差し出したものは容易に想像できる。ずばり、差し出したのは『佐伯自身』だ」
「佐伯さん自身ってことは、もしかして……!」
俺の反応を見た沙羅姉は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、悔しそうに言った。その顔は、滅多に怒らない沙羅姉の、静かな怒りがにじみ出ていた。
「ああ、今、海人が考えている通りだろう。佐伯は自分の体を差し出して、赤星の目をなんとか来栖から逸らそうとしているんだろう。しかし、私の見立てでは、それも長くは持たん。赤星の目的は、あくまで、『処女の純潔』なのだからな。いずれは来栖や他の女子生徒にも赤星の魔の手が及ぶだろう」
この冷静ながらおぞましい沙羅姉の推測は、次の日に沙羅姉が佐伯さんに問い詰めたことでハッキリとする。佐伯さん曰く、『自分がもうひとつの純潔を差し出す代わりに、自分の体に飽きるまでは、桃花への手出しはしない』という約束を、赤星にさせたらしい。
これを聞いた俺と沙羅姉は絶句した。まさか、佐伯さんがそこまでして、来栖さんを守ろうとしていたなんて。この話を聞いた俺と沙羅姉は、佐伯さんを救い出すために、なにかいい方法がないかを、その日の夕食のあとに、再び話し合った。
「沙羅姉っ! このままじゃ、佐伯さんは赤星のいいように利用されっぱなしじゃないかっ! なにか、なにかいい手はないのかよっ!」
俺が両手でテーブルを叩きながらそう言うと、沙羅姉も悔しそうに歯噛みする。そして、沙羅姉は俺にこう言った。
「それ以前に、私は赤星が佐伯との約束を守るとは到底思えん。残念だが、佐伯の来栖に対する献身はほぼ無意味だろう。佐伯も本当は解っているのだろうが、佐伯はすでに赤星に手篭めにされてしまっている。佐伯は、そうすることで、来栖を守っていると思い込みたいのだろう。まったく、救われない話だよ」
そんな、そんなの、佐伯さんがあまりにも可哀想だ。でも、赤星が尻尾を出さない限りは、こっちからはなにも出来ない。佐伯さんを説得して、赤星が佐伯さんを襲っている証拠を掴むことも考えたけど、それは佐伯さんが断固として拒否するだろう。
それはそうだ。今、佐伯さんは自分の身を赤星に捧げることで、赤星から来栖さんを守っていると思い込みたいのだから。チクショウッ! なにかいい手はないのかよっ!
それからも、俺と沙羅姉は、なんとか佐伯さんを救いだし、なおかつ、来栖さんや他の女子生徒に危害が及ばない方法を考えたけど、うまい案は思い付かなかった。こうして、俺達は、なにも出来ない俺達自身を呪いながら、ただ不毛な時間を過ごした。
…………
俺の家のベッドの上で、葵は俺に突かれるだけ突かれて、恍惚の表情でぐったりしている。でも、しばらくすると、葵は飛び起きて、俺の前にひざまずく。
「なあ! 鋭治っ! 次はどうする!? オレ、鋭治がヤリたいことならなんでもするぜっ! いや、もう鋭治のモノを味わっちまったら、他の男となんて出来ねぇよっ! だからよお、オレにガンガンそのデカイのをブチ込んでくれよおっ!」
ふん、やっぱりコイツも他の女と同じ、一発俺のモノをぶちこまれたら、こうして尻尾を振りながら求めてきやがる。ま、それは俺のこの自慢のモノと、これまで犯してきた女どもから得た、女を堕とすテクニックがあってのものだけどな。
「それより、葵、そろそろ、あの来栖とかいうチビを俺に差し出してくれないか? そうすれば、今よりもっと気持ちよくしてやるぜ?」
その俺からの甘い誘惑に、葵の瞳がわずかに曇る。葵は俺から目を逸らして、布団を抱き抱えてギュッと掴む。
「いや、でも、桃花には手を出さない約束で……」
「いいのか? そうしないと、もうお前とはシてやらないぜ? ま、代わりはいくらでもいるから、俺はそれでもいいんだけどな!」
「そ、それは……」
ふん、まだ抗うのか。まあいいさ、この調子なら、葵が完全に堕ちるのは時間の問題だ。とはいえ、こうして手をこまねいているうちに、あの東雲とかいう奴にあのチビの処女を持っていかれかねない。
よし、そろそろ、あのチビを犯すための第一歩として、ひとつ、盛大にイベントを打ち上げてやろうじゃないか。それに、葵の絞まりはまだまだ健在だ。今のうちに犯せるだけ犯して、俺から一生離れられなくしてやるのも面白い。
「まあいいだろう。それより、もう一回ヤるぞ、葵。今日はお前を寝かせる気はないからなっ! さあ、今夜、葵は何回イクかな?」
俺からの誘いに、葵の目に濁った光が点る。こうなったら、もう葵は止まらない。俺も、少し本腰をいれないとな。
「えっ! シてくれるのか!? さっきはあんなこと言って、素直じゃねぇな、鋭治っ! オレ、鋭治に気持ちよくなってもらえるように頑張るからなっ!」
「ああ、今日は一晩中、お前は俺のものだっ!!」
こうして、俺と葵の淫猥な夜は更けていく。それにしても、こうして壊れずに俺の体力に付いてくるコイツは、意外と拾い物なのかもしれないな。二年前は、あんなに素直じゃなかったのに。
いや、俺としたことが、中古の女にこんな感情を抱くなんて。今はそれより、今日は葵をどうやって泣かせてやるかを考えよう。さあ、長い夜はこれからだ。
…………
佐伯さんから話を聞いた日からしばらくして、赤星に動きがあったと沙羅姉から話があった。でも、その動きっていうのが、なんだか変わったものだったらしい。
「ソ、ソロライブ?」
「ああ、なんでも、『この学校に来た挨拶代わりに、全校生徒を集めて、体育館でソロライブをやりたい』と、学校側に赤星が申し出たらしいのだ」
「でも、それって、来栖さんや他の女子生徒が赤星に襲われるのとは関係ないんじゃないか? だって、全校生徒を集めるわけだし、そんな無茶は出来ないだろうしさ」
俺からの質問に、沙羅姉は難しそうな顔をして答えた。
「ああ、その通りだ。学校側としても、『毎日校内で騒がれるよりは、こういったイベントを催して、赤星と接してもらった方が助かる』という話だったのだが、私はなにか胸騒ぎがするのだ。しかし、もうすでにこの話は学校中で噂になっているらしくてな。私としても、皆の期待を無下には出来んのだ」
沙羅姉の言う胸騒ぎ、実は、俺も似たようなことを考えていた。でも、その胸騒ぎの正体が解らない以上、沙羅姉が言うように、赤星のソロライブを止めることはできないだろう。
こうして、学校側と生徒会長の許可のもと、赤星によるソロライブの開催が決定した。でも、そこには、俺や沙羅姉が考えもしなかった、赤星の策略が隠されていたんだ。





