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佐伯の復讐

 六条先輩と東雲先輩から連絡を貰った三日後、二人の予想通り、オレは早速、あの野郎から人づてで呼び出された。それにしてもあの野郎、オレと桃花が友達だって誰から聞いたんだ。


 初めて中庭であの野郎を見たときは、体が言うことを聞かなくなっちまったから、またあんな風にならないか心配だけど、あのときの写真や動画を押さえられている以上、この呼び出しを無視するわけにはいかない。


 そして、その日の放課後、オレはあの野郎が指定した、体育館の裏手にやってきた。そこには、あのクソ忌々しい、不気味な笑顔の赤星が待っていた。周囲には下校する生徒もいる。少なくとも、このままオレが襲われるってことはないだろう。


「やあ、久しぶりだね、葵。まさか、君がこの学校にいるなんて思ってなかったよ。いや~ あのときは悪かったよ。ボクもすごく反省して、心を入れ換えたんだ。だから、これからはまたあの頃みたいに()()()しようよ、葵」


 赤星はオレの方へと歩み寄ってくる。オレの足は、中庭のときとは違って、しっかりと立てている。あのときは恐怖の気持ちしかなかったけど、今はこいつが桃花を犯そうと考えていることに対しての怒りが勝っている。


「気安くオレの名前を呼ぶんじゃねぇっ!」


 オレは、そう言いながら、赤星が差しのべる握手を求める手を振り払う。すると、赤星からさっきまでの笑顔が消えて、オレを犯そうとしたときの、こいつの本性がよく解る醜悪な笑みへと変わった。


「なんだ、手厳しいじゃないか。まあいいや。今日、葵を呼び出したのは、お前の友達の来栖とかいうチビについてなんだ。俺、あんな赤ん坊をコウノトリが運んでくると思ってそうな女を無理矢理犯すのが大好きなんだよ。お前も知ってるだろ?」


 赤星はそう言いながら、醜悪な笑みのまま、俺に歩み寄ってくる。そして、赤星はオレの肩に手を回しながら、オレの耳元でささやいた。


「あの写真と動画を学校中にばらまかれたくなかったら、明日、あのチビをどこか誰も来ない場所に呼び出すんだ。なに、タダとは言わないよ。もちろん、呼び出してくれたら、写真や動画のデータは削除するし、追加で、葵に百万くれてやるよ。どうだ? 百万もあれば十分だろ?」


「……三百万」


「は?」


「三百万くれるってんなら、お前の話に乗ってやるよ。本当は、桃花を売りたくはないんだけど、今、オレの家はそんなこと言ってられる状況じゃないんだ。だから、お前の話に乗ってやるって言ってるんだよっ!」


 オレが赤星にそう言うと、赤星は勝ち誇った顔で、オレの提案に乗ってきた。赤星はオレに回した手を外して、オレから離れていく。


「ハハハッ! そういえば、お前の家、相当貧乏なんだったな! いや~ まさか家のために友達を売るとは、葵もなかなか悪い奴じゃないか。これからは、この調子でお互いギブアンドテイクでやっていこう。もちろん、報酬はくれてやるからさ!」


「うるせぇっ! オレだって、本当は桃花を売りたくなんかないんだよっ! どうなんだ、三百万、出すのか出さないのかハッキリしやがれっ!」


 オレが泣きながら赤星にそう叫ぶと、赤星は手を叩きながらオレに再び握手を求めて、手を差しのべてくる。


「オーケーオーケー! 明日、しっかり三百万持って、あのチビの目の前でお前に渡してやるよ! その代わり、お前には動画の撮影係をやってもらうぜ。そして、友達に売られて絶望したチビを、俺の自慢のモノで、お前の目の前で串刺しにしてやるのさ! ハッハッハッ!」


 オレは、なにも言わずに、ただうなずいて、目の前に差し出された赤星の手を握り返す。こうして、俺と赤星の間に、桃花の処女を、赤星に捧げる契約が成立した。そして、赤星は、上機嫌で体育館裏から立ち去った。


 …………


 次の日の放課後、オレは約束通り、武道場で赤星を待つ。時間は午後九時、この時間に武道場にやってくる人間は誰一人としていない。そして、オレに呼ばれた赤星が、武道場へと入ってくるのが見えた。


「待たせたな、葵。武道場とは、なかなか乙な場所を選んだじゃないか。ここならいくらあのチビが泣き叫んでも大丈夫だろう。ん? 葵、そういえば、あのチビはどこだ? それに、お前のその格好……」


 オレは赤星が武道場の中に入ったのを確認して、武道場の入り口へと走る。そして、そんなオレをポカンとしながら見ている赤星の脇を抜け、オレは武道場の鍵を閉めて、赤星に向き直る。


「桃花なら来ねぇよ。バカが、オレがお前なんかの提案に乗るわけないじゃないか。こんなに見事に騙されるなんで、お前、本当に女を犯すことしか考えてないんだなっ! この猿がっ!」


 オレが赤星を蔑みながら笑っていると、赤星の顔が次第に歪み始める。さすがに、自分が置かれた状況が飲み込めたのか、赤星は怒りのこもった口調でオレに言った。


「葵、どういうつもりだ? 俺を怒らせたらどうなるか、お前も解るだろ? そんなにあの写真や動画を学校中にばらまかれたいのか?」


 そうだ、まずそこが間違ってるんだよ、赤星。オレは青筋を立てながらこっちをにらんでいる赤星に言った。


「オレはな、お前がどれだけクズなのかをよく知ってるんだ。お前、仮にオレが桃花を誘い出したとしても、写真や動画のデータを消す気はなかったんだろ? 今どき、バックアップなんていくらでもとれるだろうしな。お前、オレをバカにしすぎだろ」


 そんなオレの指摘に、赤星は少しだけビクッとした。その反応を見たオレは、更に赤星に話を続ける。


「やっぱり、図星だったか。まぁ、それはいいや。オレがこんなことしたなら、お前はすぐにオレが犯されたときの写真や動画をばらまくだろうから、そんなのもう関係ねえんだよっ!」


「葵、お前、頭がおかしくなったか? 俺は本当に、お前が男どもにヤラれている写真や動画をばらまくぞっ!? 本当にいいんだなっ!?」


 そんな赤星の言葉に、オレは怯まずに、ハッキリと、自分の意思を伝えた。


「好きにしやがれっ! 友達を守るためなら、オレの裸なんでいくらでも見せてやるさ! だがな、それだけじゃあオレの気が済まねぇんだよ! お前も道連れだ、今から、オレがお前のその面を、二度と人前に出られないように叩き潰してやるから、覚悟しやがれっ!!」


 そうさ、オレが今日まで空手や陸上を続けてこれたのは、赤星をいつかこの手で叩きのめしてやるためだったんだ。そして、やっとそのチャンスが巡ってきたんだ、オレは、オレ自身の力で過去にケリをつけるんだ!


「そうか、解ったよ、葵。お前がそう言うなら、付き合ってやるよ。そして、女が男に勝てるわけないってことを、その体に刻み込んでやるよっ!!」


 こうして、オレの過去を精算するための戦いが始まった。ゴメンな、六条先輩、東雲先輩。オレ、やっぱり、自分の手で決着をつけないと気が済まないよ。だから、こんなバカなオレのこと、許してくれよ。


 …………


「ハアッ……! ハアッ……! クソッ! このアマがっ!」


 オレと赤星との決闘が始まって、もう十分ほど経った。赤星の息は大分上がってるけど、オレにはまだまだ余裕がある。陸上で鍛えたスタミナが活きたな!


「シャッ!」


 ガキッ!


「ぐっ! こ、このっ!」


 よし! 押してるっ! 確かにガタイや力じゃ負けてるけど、こうして下半身に蹴りを集めてやれば、さしもの赤星も堪らないだろう。その長い足が仇になったな、ざまあ見やがれってんだ!


「どうした! 赤星! 女には負けないんじゃなかったのか!?」


 よし! このまま攻め立てて、最後に顔面を潰してやれば、こいつは二度とバンドマンとして人前に立てなくなる。これで、オレの赤星への復讐は完了だ! 喰らえっ! これで最後だっ!


 バチチチチッ!!


 オレが止めの下段蹴りを放った瞬間、オレの体に衝撃が走った。殴られたわけじゃない、なにかが、オレの足に触れた瞬間、オレの体は動かなくなってしまった。


「あ、が、が、がっ……!」


「ふう、あのチビに暴れられたときのために、()()()を持ってきておいてよかったぜ。このアマ、よくもやってくれたな、コラッ!」


 ドスッ!


「ぐほあっ!」


 衝撃で動けないオレの腹に、赤星の爪先が突き刺さり、その衝撃で、オレの体が少しだけ動くようになった。オレが赤星の手元を見ると、なにか、黒い機械が握られていた。


「ス、スタンガン、か。この、卑怯、者、がっ……!」


「黙れっ! なにを使おうが最後に立っていた奴が勝者なんだよっ! どうした、さっきまでの威勢はよっ! オラッ! オラッ!」


 ガッ! ガッ!


 オレは赤星から何度も踏みにじられ、ついには、オレの体には力が全く入らなくなった。そして、ひとしきりオレを痛め付けた赤星は、オレを見下ろしながら息を荒くしていた。


「クソがっ! これで解っただろうが、女が男に勝てるわけないってよ! ああ、どうしてくれるんだ、あのチビを犯せると思って、わざわざ()()()まで飲んで来たのによっ!」


 そして、赤星は、下卑た笑みを浮かべながら、ズボンのベルトをカチャカチャとはずし始めた。まさか、こいつ。


「いいや、今日のところは、()()()()()()()()()()。本当は中古には興味ないんだが、コイツがお前のことをブッ壊したいっていって聞かないんだ」


 そして、俺の目の前に、凶悪な形のモノがさらされる。そのサイズは、オレが初めてを奪われたときよりもふた回りはデカかった。やめろ、そんなもん挿れられたら、オレ、おかしくなっちまう。

 

「覚悟しろよ。コイツが収まるまで、お前を何度でも、何度でも犯してやるからなっ!」


「あ、い、いや、だっ……」


 オレは必死で抵抗しようとした。でも、赤星はそんなオレにもう一発スタンガンを浴びせた。もう、オレの体がピクリとも動かない。そして、赤星の手で、荒々しくオレの道着が引き剥がされる。


「さ~て、それじゃあ、喰らいなっ! これで一生、お前は俺の奴隷だっ!」


「い、嫌だあああああああああっ!!!!」


 …………


 ………………


 ……………………


「ふうっ、今日のところはこんなもんで勘弁してやるよ。いや~ 中古の割には、絞まりもよかったから、これからは、お前には俺の性処理係として働いてもらうからな。あ、もちろん、このことを誰かに話したりしたら、速攻、今回の写真と動画ばらまくからな! それじゃあな、ハッハッハッ……!」


「あ……あ……」


 犯された。赤星に、時間をかけて、何度も、何度も、犯された。嫌がるオレを、何度も、何度も。オレは、悔しかった。犯されたことも、自分が犯されていくうちに、今までの何倍もの快楽を感じてしまったことも。ゴメンよ、六条先輩、東雲先輩。椿、そして、桃花。


 もし、オレが自分で復讐しようとしなかったら、本当の意味で、桃花を守ることが出来たのかな。でも、オレ、もう、赤星のものになっちまったよ。オレは、もう赤星からは逃げられない。


 一度こんな快楽を味わってしまったら、誰だってこうなっちまうよ。赤星のセックスは、オレが赤星に抱いていた復讐心や嫌悪感を粉々にするほど、繊細で、濃密で、執拗で、甘美だった。オレには、もうみんなに助けを求める資格なんてないんだ。


 でも、桃花の純潔だけは、オレのこれからの人生を全部賭けてでも守ってやるからな。だから、桃花は安心して、東雲先輩と幸せになってくれよ。

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