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赤星の本性

 EIJIエイジこと、赤星先輩が聖泉高校にやって来て二週間ほどがたった。赤星先輩の人気は天井知らずで、特に、女子からの人気が凄まじく、赤星先輩が行く先には、一年生から三年生までサインを求める女子や、プレゼントを渡す女子でごったがえしていた。


 でも、俺達は、佐伯さんから赤星先輩のおぞましい正体を聞いてしまった。このことを知っているのは、俺と武、来栖さんと鍋島さんの四人だけ。もちろん、このことは他言厳禁だ。


 佐伯先輩にこの話をするかは迷ったんだけど、佐伯さん曰く、襲われたあとに、『誰にヤられたかしゃべったら、輪姦まわしたときの写真をばらまく』と言われていたらしく、もし佐伯先輩に話したら、そのまま殴り込みに行くだろうから、佐伯先輩にはこの話はしないことにした。


 そして、赤星先輩が特に佐伯さんになにかするような動きもなく、騒がしくはあるけど、平和な毎日を送っていた。でも、今日になって、状況に動きがあった。なにやら、学校中で、赤星先輩が特定の女子に接触をしているとの噂がたち始めたのだ。


 もちろん、声をかけられた女子は大喜び。赤星先輩はそのまま言葉巧みに声をかけた女子を人気のないところに呼び出して、手を出しているって話だ。この話は、なにも知らない生徒が聞いたら、『そんなバカな』と思うだろうけど、俺達四人にとっては、佐伯さんへの仕打ちの裏付けが取れたということに他ならない。


 そして、その赤星先輩の毒牙は、来栖さんにまで及んでいると、来栖さん本人から、今、昼食を摂りながら聞かされているってわけだ。確かに、来栖さんなら声をかけられてもおかしくないけど、来栖さんの話では、鍋島さんには声はかかっていないらしい。


「それで、来栖さんは赤星先輩になんて言ったんだい?」


 俺は、一番気になっていることを、来栖さんに聞いてみた。来栖さんに限って、赤星先輩に騙されるってことはないだろうけど、一応、念のための確認だ。そして、来栖さんは俺からの確認に、首をかしげながら答えた。


「えっと、それがですね? 赤星先輩が教室まで来て、わたしを呼び出して、『来栖さん、君、もう彼氏はいたりするのかな?』って聞いてきたんです。それで、『はい、いますけど』って答えたら、赤星先輩は、『そうなんだ、それならいいんだ』って言って、あっさり引き下がったんですよね。わたし、てっきり襲われちゃうのかと思って、ビクビクしてましたっ!」


 まぁ、人気のある教室で襲いはしないだろうけど、初対面なのに、いきなり、『彼氏はいるのか』なんて聞くなんて、その時点でデリカシーがないのがよく解るよ。多分、赤星先輩は相当の女たらしだ、これは来栖さんの身が危ないかもしれないな。


「来栖さん、大丈夫だとは思うけど、念のため、学校にいるときや、下校のときは、極力誰かと一緒にいるようにしようね」


 俺が来栖さんにそう言うと、来栖さんはビシッと敬礼をしながら、真剣な面持ちで俺の念押しに答えた。


「はいっ! もちろんですっ! 普段は椿ちゃんや葵ちゃんも一緒ですし、帰りは出来るだけたくさん人がいるところの近くにいるようにしますから、ご心配なくっ!」


 そうは言っても、実際に赤星先輩が他の女子に佐伯さんみたいな仕打ちをしたって話は聞かないし、もしかしたら、赤星先輩も二年間で丸くなってて、そんな無茶なことはしないようになってるのかもしれない。


 だって、あんなに人畜無害そうな顔で、毎日、女子だけじゃなくて、男子にも積極的にファンサービスをしているわけだし。とはいえ、佐伯さんは、そんな赤星先輩の上辺だけの優しさに騙されたんだ、警戒をするに越したことはないよな。


 こうして、俺と来栖さんは食堂で昼食を済ませて、それぞれの教室へと戻った。その途中、なんだか妙な視線を感じて、何度か振り返ったけど、そこには誰もいなかった。俺は、ほんの少し胸騒ぎを感じながら、一人、教室への廊下を歩いていった。


 …………


 その日の放課後、部活を終えた俺は、帰り支度を済ませて武道場を出た。今日は俺が鍵当番だから、武道場には俺以外の人間はいない。さあ、さっさと帰って、沙羅姉の作る旨い飯を食べたいよ。俺が武道場の鍵を管理人室に返しに行こうとすると、背後から俺を呼び止める声がした。


「やあっ! 君が東雲君だねっ? 遅くまで部活、お疲れ様っ!」


 俺がその声のする方に振り返ると、そこには、あの赤星先輩が、爽やかな笑顔を浮かべながら立っていた。大分日が高くなったとはいえ、周囲は薄暗く、赤星先輩の笑顔がかえって不気味に見える。


「赤星先輩……でしたっけ。はい、俺が東雲ですけど、こんな遅くに、俺になにか用ですか?」


 これは予想外だった、まさか来栖さんじゃなくて、俺の方に接触してくるなんて。いや、俺と来栖さんが付き合ってることは、ちょっと誰かに聞けば解ることだ。よくも悪くも、俺は有名人だからな。


 それは仕方ないとして、赤星先輩は俺になんの用があるんだ? ここは、ある程度警戒するべきだな。俺は、逃げ道の確保のために、周囲を見回した。すると、それを見た赤星先輩は、軽く笑いだした。


「ハッハッハッ。そんなに警戒しないでよ、東雲君。今日は君に、いい話を持ってきたんだからさ。取り敢えず、話だけでも聞いてよ!」


 赤星先輩は、さっきから笑顔を崩さずに、俺に話しかけている。この笑顔、なにか不気味だ。まるで、笑顔の描いてある紙を顔に貼りつけたみたいな。俺が赤星先輩にそんな印象を持っていると、赤星先輩はそのまま話を続ける。


「君、一年C組の来栖さんの彼氏なんだよね? それに、君は他の女子にもちょっかいをかけてるらしいじゃないか。いや~ 平凡そうな顔して、君もなかなかやるじゃないか!」


 ああ、赤星先輩には、俺が沙羅姉の幼馴染だってことと、先日の騒動で俺がとっさについた嘘が、そんな風に伝わっていたのか。仕方ないこととはいえ、この誤解はいずれ精算しないとな。


 それにしても、俺のことをよく知らない赤星先輩が、俺のことを『平凡そうな』って言ったのが俺の癇に障った。俺は少し怒りを込めて、赤星先輩の目的を推測して、赤星先輩に聞いてみた。


「もしかして、俺に身を引けとか言うんじゃないでしょうね? 俺、なにを言われても、来栖さんと別れるつもりはありませんからね」


 そんな俺の推測に、赤星先輩は少し慌てた様子で、両手を体の前で振りながら、首を横に振った。


「いやいや! ボクはそんなつもりで君に会いに来た訳じゃないんだよ。ボクだって、人様の彼女を横から奪うなんて本意じゃないんだ。来栖さんはとても可愛らしいけど、彼氏がいたんじゃしょうがないよね」


 なんだ、そういうわけじゃないんだ。それじゃあ、わざわざ俺を待ち伏せてまで、赤星先輩が俺に話したい、『いい話』って、なんなんだ? 


「それじゃあ、赤星先輩は、今日、なんの用があって、わざわざ俺が空手部だってことを調べてまで、俺に会いに来たんですか?」


 俺からの質問に、赤星先輩は、とんでもない答えを返してきた。それは、赤星先輩がいかに狂った思考をしているのかを垣間見るには、十分すぎるものだった。


「ボクが君に会いに来たのは、来栖さんの処女をボクに売ってもらうためなんだ。君達、まだエッチしたことないでしょ? ボクね、解るんだよ。目の前の女が処女かそうじゃないかが一目でね。長年の勘ってやつかな?」


 この人、なにを言っているんだ? 来栖さんの、処女を、買う? 意味が解らない。そんな困惑する俺をよそに、赤星先輩は俺の肩に手を回しながら話を続ける。


「ボクは、君もボクと同類なんじゃないかと思ってるんだ。君は、大層みんなから嫌われてるみたいじゃないか。でも、それが男ってもんだよね? 女なんて犯してなんぼ、あとはどうにでもなるもんさ」


 赤星先輩、いや、この男、狂ってやがる。こんな奴に、佐伯さんは襲われたのか。見た目で少しでも油断した俺がバカだった。俺の怒りのボルテージはどんどん上がっていく。


「それで、どうかな? 君も来栖さんの処女を手放すのは残念だろうけど、それに見合った金額は出すからさ。そうだな、百万、いや、三百万出そう。それに、ボクの()()()()でよければ、ボクに一声かけてくれたら、いつでも、いくらでも君に女を回してあげるよ? どうだい、いい話だろ?」


 駄目だ、この男は、佐伯さんの言う通り、女性を性処理の道具としてしか見ていない。こんな悪魔がこの世にいるなんて、俺には信じられない。俺は怒りを抑えながら、赤星先輩にひとつ質問をした。


「赤星先輩、なんでそんなに法外なお金を出してまで、来栖さんの処女が欲しいんですか? 教えて下さいよ」


 俺には、赤星先輩の思考回路がさっぱり解らなかった。だから、つい、こんな質問が口から出てしまったんだ。そんな俺の質問に赤星先輩はなにも悪びれずに、笑顔のままで答えた。


「ボクはね、処女が初めてを捧げたときの、あの歪んだ顔を見るのが大好きなのさ。苦痛に悶えて、段々それが恍惚の表情に変わっていくあの瞬間! それ以外はなんの興味もないんだ。処女じゃなくなった女は、今回みたいな、処女を買う餌にしかならないよ」


 この言葉を聞いた俺のなかで、なにかが弾けた。そして、気付いたら、俺は、赤星の頬を殴っていた。


 ガッ!


「ぐっ! い、痛いじゃないか、東雲君。いや、君はボクと同類だと思ったから、こんなにペラペラ話しちゃったけど、どうやらそうじゃなかったみたいだね。残念だよ、東雲君」


「黙れっ! なにが食べ残しだっ! 餌だっ! お前はそうやって、佐伯さんをあんな酷い目に遭わせたんだなっ!? このクズがっ! お前なんかに来栖さんは絶対に渡さないっ!」


 俺からの罵倒を受けて、赤星先輩の顔から笑顔が消えた。これが本当の赤星先輩の顔。その顔は、さっきまでとは打って変わって、なんだか虚ろな、とても感情が読みにくい顔をしている。


「なんだ、俺が女を食い散らかしていたことを知ってたのか。佐伯、佐伯……ああ、そういえばいたな。そんな無駄に胸だけデカイ女が。俺のモノで串刺しにしてやったら、ギャアギャア叫ぶばかりで、なんの味気のない女だったよ。ま、俺の兵隊の餌としては、よく働いてくれたけどな!」


「貴様っ!!」


 薄ら笑いを浮かべながら、佐伯さんを侮辱する赤星先輩を、俺は許せなかった。でも、俺がこれ以上赤星先輩を殴ったって、なんの解決にもならない。俺が拳を震わせていると、赤星先輩が俺に言った。


「まあいいや。お前からあのチビを奪い取る方法なんて、いくらでもあるんだ。あのチビに俺の自慢のモノをブチこんで、泣き叫ばせてやるのが今から楽しみだよっ! ハッハッハッ……!」


 赤星は、そう言って校門の方まで、高笑いをしながら歩いていく。俺は、そんな赤星を、ただ拳を握りしめて見送ることしか出来なかった。

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