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デートって、なんだっけ?

 俺が(厳密には沙羅姉が)来栖さんをデートに誘った翌日、俺と来栖さんは、いつもの三叉路のポストの前で待ち合わせてから、学校へと向かう。その道すがら、俺は昨日、どんな経緯で来栖さんをデートに誘うに至ったのかを正直に話した。


 もちろん、黙っていた方が格好はつくんだけど、それじゃあ俺が来栖さんを騙していることになると、俺の理性がそれを阻んだ。そんな俺の話を、来栖さんはコクコクとうなずきながら聞いてくれる。


「……というわけなんだ。ゴメンね、来栖さん。いきなり沙羅姉があんなキザったらしいデートの誘い方をしちゃって。でも、俺もいつかは来栖さんとデートしたいなって思ってたから、つい、そのまま放置しちゃったんだ。本当に、ゴメン」


 手を繋いだまま頭を下げる俺に、来栖さんはニッコリと笑いかける。その顔からは、俺をとがめたり、軽蔑したりするような気配は全くなかった。そして、来栖さんは、俺に向けて言った。


「ふふっ、やっぱりそうだったんですね。東雲先輩がいきなり、『君の海人』なんておっしゃるなんて、ちょっと変だなって思っていたんです。でも、わたし、そう言われて、ちょっと嬉しかったんですよね……」


 そう言いながら、来栖さんは俺から少し視線をはずしながら、はにかんだ。ああ、来栖さんは、なんでも正直に言ってくれてるし、とても解りやすく喜んでくれるから、本当に可愛らしい。


 でも、あのメッセージは、沙羅姉が勝手に送ってしまったメッセージなわけで。俺としては、喜んでいいやら、悲しんでいいやら。いや、ここはひとまず、話題を変えて、話をそらそう!


「あ、ああ、そ、そうなんだ! あっ! それより、週末のデートの件なんだけどさ。沙羅姉が同伴するなんて言い出して、本当にゴメンね、来栖さん。沙羅姉ってば、なにを言っても、『海人や来栖のことが心配だ!』って言って、譲ってくれないんだ。なんだったら、今回のデートは見送ろうか? 沙羅姉には、俺から説明しとくからさ」


 そんな俺からの提案に、来栖さんは、慌てた様子で、少し声を張り上げながら答える。


「いえっ! わたし、それでも全然構いませんっ! 六条先輩には本当にお世話になってばかりで申し訳ないんですけど、わたしも男の人と二人きりでデートをするのなんて初めてなので、六条先輩が居てくれたら心強いですっ!」


 う~ん、一見、来栖さんの言ってることも正しい気がするけど、来栖さん、もしかして、俺が来栖さんを襲ったりしないか不安なんじゃないか? 未遂に終わったとはいえ、俺が佐伯さんにノコノコついていったことは、紛れもない事実な訳だし。


 そんな俺の不安が顔に出ていたのか、来栖さんは、一旦繋いだ手を離して、両手をパタパタと振りながら、俺に弁解する。


「あっ! いえっ! わたしが東雲先輩を信用していないってことではなくてですねっ! ただ、わたしも初めてのデートで、本当に東雲先輩に楽しんでもらえるか、不安でっ……」


 そう言った来栖さんの顔は、本当に不安そうだ。それに、俺だって女の子とのデートなんて始めてなわけで。もしかしたら、そんな俺の不安が、来栖さんに悪いように伝わってしまったのかもしれないな。ここは、俺が今思っていることを、来栖さんに正直に話して、来栖さんの不安を取り除いてあげよう。


「実は、俺も来栖さんみたいな可愛い女の子とデートするなんて、生まれて初めてのことだから、正直、ちゃんと来栖さんに楽しんでもらえるのか、不安で堪らなかったんだ。だから、沙羅姉が居てくれた方が、俺も安心するんだ。いや、男としては、本当に情けないんだけどね」


 そんな、本当に男として情けない、俺からの言葉に、来栖さんはちょっとイタズラっぽい笑みを浮かべながら答えた。


「ふふっ、それじゃあ、お互い初めて同士で、色んな不安もあるでしょうから、今回は六条先輩に頼っちゃいましょっ! 今週末、楽しみにしてますからねっ!」


「ああっ! 俺も、出来るだけ来栖さんに楽しんでもらえるように頑張るから、今週末は、よろしくね、来栖さんっ!」


 こうして、俺と来栖さんの初デートは、沙羅姉同伴という形で、問題なく落ち着いた。さて、そうと決まったら、沙羅姉と当日の予定を詰めないといけないなっ!


 …………


「「ええ~っ!? 桃花と東雲先輩のデートに、六条先輩が同伴~っ!?」」


 お昼休みの屋上に、椿ちゃんと葵ちゃんの声が響き渡る。今日は、わたし達三人でお昼ごはんを食べる日。あんな騒ぎを起こした葵ちゃんは、初めはわたし達に気を遣って、『今更、一緒に飯なんて食べられない』って言ってたんだけど、それじゃわたしたちも寂しいよ。


 だから、わたし達二人だけでも葵ちゃんをケアしてあげて、少しずつでも葵ちゃんの助けになりたい。そして、そんなわたし達の気持ちに、葵ちゃんは頑張って答えてくれている。


 そして、葵ちゃんはこうしていつも通りにわたしと椿ちゃんに接してくれている。わたし達に出来ることはそんなにないけど、葵ちゃんのためならなんでもするから、一人で考え込まないでね、葵ちゃん。


「や、やっぱり、変なのかなっ、三人でデートなんてっ」


 わたしが二人の反応にびっくりしていると、まずは椿ちゃんが、右手で頭を押さえて、首を横に振りながら言った。


「そりゃそうでしょうよっ! デートに第三者が同伴なんて。まったく、東雲先輩はなにを考えてるんだかっ! 椿ちゃん、東雲先輩のヘタレっぷりには呆れちゃうよっ!」


 次に、葵ちゃんが、腕を組んで、目を閉じて、口をへの字にしながら、わたしに言った。


「まぁ、六条先輩の性格なら、それくらいは言いそうなもんだけどさ。本当にデートについてくるとなると、色々と問題が起きそうなんだよなあ。だって、六条先輩、すごく目立つからさ」


 確かに、椿ちゃんや葵ちゃんの言うことはよく解る。特に、葵ちゃんが言った、『六条先輩はすごく目立つ』っていうのは、本当にその通りだと思う。それに、下手したら、わたしが二人のオマケとして見られたって、なにも不思議じゃないよね。


「で、でもっ! わたし、デートなんて初めてだし、六条先輩が居てくれたら、安心だな~って……」


 そんなわたしの考えに、椿ちゃんがちょっとだけ真剣な顔をして、わたしの肩に手を置きながら、こう言った。


「桃花、よ~く考えてみな? これは、六条先輩の作戦かもしれないよ? デートに同伴するのをきっかけに、六条先輩が東雲先輩にアピールして、桃花から東雲先輩をブン取ろうとしてるのかもしれないよっ!」


「え、ええっ!?」


 わたしが椿ちゃんの推測にびっくりしていると、葵ちゃんも、ちょっと真剣な顔をしながら、ウンウンとうなづく。


「確かに、六条先輩だって、今でも東雲先輩が好きなわけだから、そんな間違いが起きないとも限らないんだよな~ 桃花、本当に、あの六条先輩を打ち負かす自信あるのかっ?」


「そんな、そんなこと、なんて……っ!」


 わたしがふたりからの指摘に少し不安になっていると、突然、椿ちゃんと葵ちゃんが、お互いの顔を見合わせてから、それぞれ、笑い出した。


「アッハッハッ! ゴメンっ! 桃花っ! 桃花があんまり不安そうだったから、つい、からかっちゃったっ! そんなことないってっ! 六条先輩は、そんな人じゃないからっ!」


「そうそう! 六条先輩なら、そんな回りくどいことしないで、真正面から、堂々と東雲先輩を持っていくだろうから、心配いらないって! 桃花っ!」


 そんな二人に、わたしはちょっとだけムッとした。わたしは、笑い続ける二人に、体を目一杯使って、精一杯の抗議をする。


「あっ! 二人ともっ! わたしが子供っぽいからって、いっつもそんな風にからかうんだからっ! ふんだっ! そんなこと言うなら、わたし、本気で怒っちゃうからねっ!」


 そんなわたしからの一生懸命の抗議は、二人の笑い声に吸い込まれていった。ふんっ! こうなったら、わたし、絶対に東雲先輩のこと、メロメロにしちゃうんだからっ! でも、二人のこの冗談を、ほんのちょっぴり、真に受けている自分もいた。


 六条先輩、本当に、東雲先輩のことを、諦められているのかな? あんなに大好きな、東雲先輩のことを、わたしなんかに任せてもいいと、本当に思ってくれているのかな?


 そんな、ほんのわずかな不安を胸に、わたしは、椿ちゃんと葵ちゃんとの楽しいひとときを過ごす。そして、お昼ごはんを食べ終えたわたしたちは、冗談を言い合いながら、屋上を出て、教室へと戻った。

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