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沙羅、やりたい放題

 沙羅姉が学校に復帰して、聖泉高校にいつもの活気が戻ってきた。でも、今度は、沙羅姉が不在の間、今まで沙羅姉が受け持っていた仕事を代行していた剣持けんもち生徒会副会長が、過労でダウンしてしまったらしい。これはちょっと剣持先輩が可哀想だな。


 それと、周囲からの俺の評判については、やっぱりよろしくない方向に情報が伝わっていたらしく、俺を冷ややかな目で見る視線が、俺の背中にザクザクと刺さった。まぁ、俺の説明の仕方が悪かったから、それは致し方ないんだけどさ。


 でも、沙羅姉や武、それに、来栖さんと鍋島さん、更に、佐伯部長や越前先輩、そして、今回の騒ぎを起こした張本人の佐伯さんが皆に説明してもなお、この状況だというから堪らない。悪い噂ほど拡がるのが早く、その噂が嘘だったことについては、みんなあまり興味がないようで、なかなか真実がみんなに浸透していないの状況なのだ。


 それでも、俺に親しくしてくれる人達は、ほぼ全て今回の騒ぎが佐伯さんの狂言から始まったことを理解してくれているから、そこについてはよしとしておこう。他の学校のみんなだって、俺なんかに興味を持ち続けることはないだろう。


 そんな一日を終え、俺は久しぶりに沙羅姉と二人で食事をとる。沙羅姉はというと、入院中に溜まったストレスを吐き出すかのごとく、一段と張り切って夕食を作ってくれた。久しぶりの沙羅姉の手料理、なんだか、懐かしさを感じてしまうな。


 そして、俺と沙羅姉は、食後のティータイムを一緒に過ごす。そこで、沙羅姉は俺にこう聞いてきた。


「ところで海人よ。私がいない間、来栖とはどこまで進展したんだ? まさか、手を繋いだだけということはあるまい? さあ、キリキリ話せっ! 海人っ!」


 沙羅姉、ここに完全復活だな。俺は、これまでに、来栖さんと連絡先を交換したり、一緒に昼食をとったりしたことを話した。すると、沙羅姉は、腕を組み、目をつぶりながら唸りだした。


「ふ~む、海人にしては上出来なのだが、それだけというのはちと弱いな。さて、これから海人が来栖との仲を進展しさせるためにはどうすればよいか……っ! そうだっ! いい手があるっ! 海人っ! ちょっとスマホを持ってこいっ! さあ! 早くっ!」


「えっ!? あ、ああ、解ったよ、沙羅姉」


 俺は沙羅姉に言われるままに、部屋にスマホを取りに行き、キッチンで待つ沙羅姉の元へと戻った。そして、俺はスマホを沙羅姉に手渡した。


「はい、沙羅姉。それで、俺のスマホでなにをする気だ?」


「まぁ、ちょっと待ってろ、海人。すぐに済むからっ!」


 俺からの問いに、沙羅姉はなにも答えずに、俺のスマホをいじっている。沙羅姉、なにやってるんだ? っていうか、なんで俺のスマホのパスワードを知っているんだ? 俺、沙羅姉が少し怖いよ。


 そして、十分ほど経ってから、沙羅姉は俺にスマホを返してくれた。まさか、俺のスマホにGPS追跡アプリなんか入れてないよな? 俺は沙羅姉に尋ねてみた。


「沙羅姉、今、俺のスマホでなにしてたのさ。まぁ、見られて困るようなものはなにも入れてないからいいんだけどさ。なあ、教えてくれよっ! 沙羅姉っ!」


 そんな俺からの懇願に、沙羅姉は緑茶を一口すすってから、平然と、とんでもないことを言い放った。


「なに、ちょっと、来栖にデートの誘いをしただけさ。海人、今週末は開いているよな?」


「ああ、特に用事はないけど……って、沙羅姉っ! 俺のスマホで勝手になにやってるんだよっ! 取り敢えず、スマホを返してくれっ! 沙羅姉っ!」


 俺は、沙羅から強引にスマホを奪い取り、沙羅姉がなにをしたのかを慌てて確認する。すると、スマホの画面には、チャットアプリが起動していて、来栖さんにすでに文章が送信されていた。


『来栖さん! 今週末、もし時間があったら、俺と一緒にデートしない!? もちろん、デート代は全部、俺が出すから、来栖さんは手ブラで来てくれていいよ! それじゃあ、返事待ってるからね! 君の海人より』


 ああ、終わった。沙羅姉、なんてことをしてくれたんだ。前々から思っていたけど、沙羅姉はいつも間をすっ飛ばして物事を運ぼうとするんだ。それに、なんだよ、『君の海人』ってさ。


「どうだっ! 簡潔かつ、切符のいい文面だろっ! これなら来栖も断るまいっ! さあ、腹をくくれっ! 海人っ!」 


「いやっ! いきなりこんなこと言われたら、来栖さんも警戒するだろっ! それに俺、あんまり今月の小遣い残ってないんだって!」


 俺は、ひとまず目先の問題を解決するために、沙羅姉に詰めよった。しかし、沙羅姉から帰ってきた返事は、もはや意味不明のものだった。


「安心しろっ! 私がスポンサーとなって、デートの全資金は融通してやるっ! それに、()()()()()()から、海人は安心して来栖との楽しいひとときを過ごせばいいのだっ!」


 ん? 今、沙羅姉、妙なこと言わなかったか? なんか、『私も同行する』とかなんとか。俺は、念のため、沙羅姉に確認した。


「えっと、あのさ、沙羅姉。今、沙羅姉、『私も同行する』とか言わなかったか? ゴメン、俺の聞き違いだったら謝るよ。沙羅姉、そんなこと、言ってないよな?」


 俺が沙羅姉にそう言うと、沙羅姉は一瞬、俺の方を真顔で見たあと、満面の笑みで俺の質問に答えた。


「確かに、私はそう言ったぞ? おいおい、さっき、私が二人のデートのスポンサーになると言ったばかりじゃないか。それに、来栖のような無垢でなにも知らんような彼女を、お前がエスコート出来るとは到底思えんっ! だから、私がお前らのデートをプロデュースしてやるよっ! ハッハッハッ!」


 いや、その理屈はおかしい。まさかの幼馴染同伴のデートなんて、普通、思いも付かないじゃないか。でも、沙羅姉は一度言い出したことは絶対に曲げないから、俺がなにを言っても、絶対に付いてくるだろうな。


「はあっ…… もう、来栖さんを誘っちゃったから、今更、『さっきのは沙羅姉のイタズラでした』なんて言えないよ。参った、降参だよ、沙羅姉。それじゃあ、もし、来栖さんが誘いを受けてくれたら、今後について考えよう」


 沙羅姉からの強引な提案に折れた俺を見て、沙羅姉は満足そうにうなずきながら、俺にビシッとサムズアップをする。


「ああっ! それで構わんっ! もちろん、ふたりきりになる時間は設けてやるから、その点は安心しろっ! さ~て、それでは早速、レストランの予約をせんとなあっ!」


 やれやれ、気が早いことだ。まだ、来栖さんからの返事は帰って来ていないのに。でも、正直に言うと、俺だって来栖さんをどのタイミングでデートに誘ってみようか困っていたし、誘えたとしても、デートプランなんて全くの白紙だったから、この沙羅姉のぶっ飛んだ行動は、ありがたくもあった。


 もう来栖さんを誘ってしまったんだ! 沙羅姉の言う通り、俺も腹をくくらなきゃなっ! 俺は風呂を済ませて、久しぶりの沙羅姉からのセクシーな洗礼を受けてから、部屋へと戻った。解っていたことだけど、沙羅姉の白いお腹には、横一文字の痛々しい傷跡が、くっきりと残っていた。


 …………


 風呂を済ませた俺は、スマホを握りしめて、来栖さんからの返事を待つ。五分経ったら、スマホを確認する。また五分経ったら、スマホを確認する。そんなことを繰り返して、来栖さんを誘ってから、もう二時間が経過した。もしかしたら、もう早めに寝ちゃってたかな。


 俺がそんなことを考えた直後、スマホから、『ピロンッ!』と音が鳴る。俺が慌ててスマホを確認すると、そこには、開いたままだったチャットアプリの画面に、来栖さんからの返事か来ていた。


『こんばんはっ! 遅くにすいません! 急なお誘いでビックリしちゃいましたっ! 週末は私、なにも用事はないので、是非、一緒にデートしましょっ! それでは、また明日、ポストの前でお待ちしてますねっ! あ』


 よかった、来栖さん、デートの誘い、受けてくれたっ! 俺は心のなかで、思わずガッツポーズをした。でも、これはあくまで沙羅姉の手柄だということを忘れちゃいけない。それに、来栖さんには、実は沙羅姉同伴だということもちゃんと言わないとな。


 でも、これで俺と来栖さんの仲が急接近するのは間違いないんだ。俺は、来栖さんをデートに誘ってくれた沙羅姉に感謝しながら、満ち足りた気分で布団へと入った。ああ、明日、来栖さんと一緒に登校するのが、今から楽しみだっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノリと勢いが好き。 テンポがよかったです。
2021/05/30 19:00 退会済み
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