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風紀委員長は超能力者!?

 俺達が風紀委員の詰所の前までたどり着いたのとほぼ同時に、俺達の反対側から、筋骨隆々の巨漢と、その巨漢の右手に首根っこを掴まれている女子がやってきた。それは、空手部の部長である、『佐伯さえき だい先輩』と、その妹である、佐伯さんだった。


「離せっ! はーなーせってば、馬鹿兄貴! オレはなにも悪いことはやってねぇんだって! 悪いのはあの東雲とかいうクソヤロウなんだ! 兄貴のくせに、妹のことを信じてくれないのかよっ!」


 ハハッ、『クソヤロウ』とはご挨拶だな。そして、そんな俺への悪態をつきながらジタバタ暴れる佐伯さんに、佐伯部長は呆れながら言っていた。


「馬鹿はお前だろうがっ! 葵っ! まったく、お前がこんなアホなことをやらかすたびに、謝って回るのはワシや母さんなんだぞっ! 最近は桃花ちゃんや椿ちゃんがなんとかしてくれていたからいいものの、よりにもよってワシのかわいい後輩の東雲に手を出すとは、お前もいよいよ堕ちたものだっ!」


 佐伯部長は、こういった痴情のもつれに対しては人一倍厳しい人なんだけど、その背景には、佐伯さんの行きすぎた行動があったんだな。そして、佐伯部長がカチコチに体をこわばらせながら沙羅姉の方にやってくる。


「押忍っ! 六条殿っ! この佐伯っ、ご指示通り、馬鹿をやらかした我が愚妹を連れて参りましたあっ!」


 佐伯部長は、時折声を裏返しながら、ビシッとかかとを合わせ、背筋を伸ばしてから、佐伯さんを掴んでいない左手で敬礼をする。その敬礼に、沙羅姉は軽く笑いながら答える。


「ハハッ、いつものことだが、その、『六条殿』というのは止めてくれよ。まぁ、それはいいとして、ご苦労だったな、佐伯。お前も大事な妹を突き出すのは心苦しいだろうが、今日のところは我慢してくれ」


「いえっ! この愚妹がこんな騒ぎを起こすのは一度や二度ではないですからっ! 今まではなんとか穏便に済んでいたからよいものの、ここで葵を見逃したら、これまで葵にたぶらかされた被害者に面目が立ちませんのでっ!」


 そんな佐伯部長の言葉に、首根っこを掴まれている佐伯さんは、より一層暴れだす。そして、佐伯さんは泣きながら周囲に訴える。


「チクショウッ! なんで兄貴まで、オレのことを信じてくれないんだっ! オレは被害者なのにっ! オレをヤった()()()がみんな悪いのにっ! なんでだっ! オレが女なのがそんなに悪いのかよっ!!」

 

 この佐伯さんの言い分、事情を知らない人が聞いたら世迷いごとのようにも聞こえるけど、事情を聞いた俺や武、そして、佐伯さんが過去に受けた仕打ちを知っている来栖さん、鍋島さん、そして、佐伯部長は、易々とは聞き流せないものがある。


「とにかくだ、今は、この乱痴気騒ぎを終わらせるために、越前先輩に協力してもらうとしよう。だから、佐伯、ひとまず落ち着け。お前の言い分はこれから越前先輩にじっくり聞いてもらうから、話はそれからでもよかろう?」


「チッ……! 仕方ねぇ、解ったよっ……」


 (クソッ! ナンデオレガ、コンナメニッ!)


 沙羅姉からそう言うと、佐伯さんは一旦暴れるのを止めて、おとなしくなる。それを受けて、佐伯部長が佐伯さんを離して、地に立たせた。そして、佐伯さんは居心地が悪そうに、俺や沙羅姉、そして、来栖さんと鍋島さんに視線を向けた。


「お待たせしてすまないっ! 例の二人を連れて参りましたっ!」


 そして、沙羅姉はノックをすることなく、詰所のドアを勢いよく開ける。すると、そこには、四角いテーブルの一番奥に座って、手を振りながら、俺達をふにゃっとした笑顔で迎える一人の男子がいた。


「は~い、いらっしゃい、六条さん。おや、なにやら大所帯だね~」


 その男子は、中肉中背で、髪は後ろ姿なら女子と見間違えるほどの見事なブラウンの長髪。そして、なにより特徴的なのは、左右で色が違う瞳。うっすらとしか目が開いていないから解りにくいけど、右は黒、左は明るい青色の瞳をしている。


 この男子こそ、『聖泉高校の大岡越前』の異名を持つ、『エドワード=越前=タイラー先輩』だ。名前の通り、越前先輩はアメリカ人の父と、日本人の母とのハーフだけど、生まれてすぐに日本に移住したから、英語はまったくしゃべれないらしい。


 その性格は極めて穏和で、誰にでも平等に接してくれる。でも、その、『平等』というところが越前先輩が、『聖泉高校の大岡越前』と呼ばれる所以ゆえんだったりする。


「さて、あとは越前先輩に任せるから、私達は外で待っているぞ。二人とも、存分に自分の言い分を話すといい。それでは、越前先輩、お願い致しますっ!」


「は~い、任されましたっ」


 そう言って、沙羅姉は、俺と佐伯さんを詰所に入るよう促して、そのまま詰所のドアを閉じた。そして、詰所のなかは、俺と佐伯さん、そして、越前先輩の三人だけになった。


「やあ、君たち。取り敢えず、座って座って。急な話だったから、お茶が用意できてなくて、ゴメンね」


 俺と佐伯さんは、越前先輩に言われて、距離をとって座る。佐伯さんは俺が思ったよりおとなしい。てっきり、詰所に入った途端、越前先輩に俺に襲われたと訴えるかと思っていたのに。


「え~っと、二人とはこうして話すのは初めてだよね。それじゃあ、まずは自己紹介だ。はじめまして、東雲君、佐伯さん。僕は、エドワード=越前=タイラー。みんなは越前って呼ぶけど、気軽に、『エド』って呼んでくれてもいいよっ!」


 そう言いながら、越前先輩は、俺達に手を差しのべる。そして、俺と佐伯さんは、その手を握り、握手をする。そして、越前先輩は握手を終えると、腕を組んで目を閉じる。そして、次に越前先輩の口から出た言葉は、俺と佐伯さんを驚愕させた。


「うん、だいたい解ったよ。ハッキリ言うけど、怒らないでね? 佐伯さん、君、みんなに嘘ついてるよね?」

 

 それを聞いた佐伯さんは、体をビクッと震わせる。そして、佐伯さんはテーブルを思いっきり叩きながら、越前先輩に抗議した。


「な、なんだてめぇ! いきなりなに言いやがるっ! まだなにも言ってねぇじゃねぇかっ! まずはオレの言い分を聞きやがれっ!」


 確かに、佐伯さんの言う通り、俺も佐伯さんも、まだなにも言っていない。こうして、越前先輩の俺達への裁定が始まった。それは、今までの人生で体験したことのない、奇妙なものだった。


「そうですよ、越前先輩。まずはお互いの言い分を聞いてからじゃなきゃ話にならないですよね?」


 俺からの質問に、越前先輩は意外な物言いをする。


「あれ? 君にとって、『佐伯さんが嘘をついている』っていうのは、自分に有利なことだよね? なんでわざわざ自分が不利になるようなことを言うのかな?」


「それは、その、そんなの、公平じゃないっていうか、まずはお互いの言い分を聞かないと、なにも解らないっていうのは自然なことじゃないですか?」


 俺からの答えに、越前先輩はうんうんとうなずく。そして、次に越前先輩は佐伯さんに質問をした。


「佐伯さん、君は、今の東雲君の言い分についてどう思う?」


 越前先輩からの質問に、佐伯さんは不意を突かれたような、慌ただしい顔をする。そして、そのまま佐伯さんは越前先輩からの質問に答える。


「そ、そんなの知らねぇよっ! そんなことより、オレの言い分を聞いてくれよっ!」


 越前先輩は、佐伯さんからの答えを聞いて、ちょっと顔をしかめながら、更に佐伯さんを追求する。


「君はさっきから、自分のことばかり主張しているけど、本来は、東雲君の言うように、お互いの主張を出しあって、その主張のなかの真実を擦り合わせるのが筋なんじゃないかな? そういった観点から見ると、僕の君に対する心情はちょっと悪いと言わざるを得ない。でも、それだけじゃなんとも言えないのも事実だから、今はお互いの主張を聞くことから始めようか、佐伯さん」


「うぐっ……! で、でもっ! それはてめぇが俺を嘘つき呼ばわりするからっ……!」


 佐伯さんは、越前先輩からの追求にしどろもどろになりながら反論する。佐伯さんの言っていることが嘘だと知っている俺から見れば、この佐伯さんの反応は至極当然だ。でも、越前先輩はなんで佐伯さんが嘘をついていると解ったのだろう?


 いや、今はそれより、俺の言い分を聞いてもらって、佐伯さんが嘘をついているということをハッキリさせるのが先決だ。こうして、俺と佐伯さんは、少しずつ、少しずつ、越前先輩の話術にはまっていく。越前先輩による裁定は、まだ始まったばかりだ。


 …………


「ち、超能力、ですかっ?」


 わたし達が教室の前で待っている間に、六条先輩は、越前先輩について話してくれたんだけど、その話は、にわかには信じられないような話だった。


「ああ。といっても、透視や念力といった類のものではない。越前先輩は、五感が異常発達していてな。例えば、相手の手を握ることで、体温、汗、脈拍、果ては生体電流まで感じ取って、対象の心理状態を知ることが出来たりするのだ。ま、簡単に言えば、『人間嘘発見器』といったところだな。だから、私は二人のことを越前先輩に依頼したのだ」


 そんなことが出来る人間がこの学校にいるなんて、わたし、知らなかった。越前先輩が色んなトラブルを解決しているのは聞いたことがあったけど、そんな方法でなんて、まったく想像がつかないよね。


「更に、越前先輩は人を言いくるめる達人でもある。私は、越前先輩からの追求で、佐伯が自白してくれることを期待しているのだ。とはいえ、佐伯が自分から認めてくれない限りは、海人の冤罪を晴らすには至らない」


「えっと、それじゃあ、もし、葵ちゃんが自白してくれなかったら……?」


 わたしからの質問に、六条先輩は、一瞬わたしから目をそらしたあと、少し笑いながら答えてくれた。


「なに、そのときは、とっておきの最終手段ある。まぁ、それは使わないに越したことはないんだが、そのときは、佐伯の良心に賭けるしかないだろうな」


 六条先輩が言っている、『最終手段』ってなんなのかな? わたしがそんなことを考えながら、ふと、椿ちゃんの方を見ると、椿ちゃんは、顔を青くしながら六条先輩のことを見ていた。

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