表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/56

佐伯からの誘惑

 その日の放課後、俺は部活を終えて、帰り支度をしようとロッカーまで戻ろうとする。すると、そんな俺を背後から引き留めるようとする女の子の声がしてきた。


「おーい、東雲先輩よお、ちょっといいか?」


 その声の主は、同じ空手部で、来栖さんの友人である佐伯さんだった。まさか佐伯さんの方から話しかけてくるなんて、ちょっと意外だな。俺はロッカー室の前で立ち止まり、佐伯さんの方に歩いていく。


「やあ、佐伯さん。今日も練習お疲れさま。俺になにか用かい?」


 俺からの問いに、佐伯さんは周りをキョロキョロと見回す。道場のなかは人もまばらで、帰り支度が終わっていないのは俺と佐伯さんだけのようだ。それを確認した佐伯さんは、俺に小声で言った。


「ああ、ちょっと、桃花のことで、話しておきたいことがあってな? それでよ、東雲先輩、このあと時間取れるか? そんなに長くはかからねぇからさ!」


 佐伯さんは、そう言って俺に向けて人懐っこい笑みを浮かべながら、手を合わせて俺にお願いしてきた。なんだろう、こんな時間に、俺に用事っていうのもなんだか妙な気もするけど、こうして後輩からお願いされているわけだから、それを断るのも悪い気がするな。


「あ、うん。あんまり時間は取れないけど、それでよければ大丈夫だよ。それじゃあ、俺は着替えてくるから、道場前で待ち合わせでいいかな?」


「あ、ああ、それでいいよ。それじゃあ、オレも着替えてくるわ。約束忘れて帰るんじゃねぇぞっ! 解ったなっ!」


 そう言って、佐伯さんは女子ロッカーへと入っていく。さて、俺もさっさと着替えて、佐伯さんとの待ち合わせに遅れないようにしないとな。


 …………



「ねえ、佐伯さん。話を聞くのはいいんだけど、どこまで歩けばいいのかな? っていうか、その話って、道場でじゃダメだったの?」


 俺は、前をスタスタと歩く佐伯さんについていく。佐伯さんはというと、俺の質問に答えることなく、黙々と誰もいない、薄暗い校舎の中へと歩いていく。


 そして、佐伯さんの足が、とある教室の前で止まる。そこは、佐伯さんと鍋島さん、そして、来栖さんの教室である、『一年C組』だった。そして、佐伯さんはポケットから鍵を取り出し、教室のドアを開ける。


「ま、取り敢えず入ってくれよ。この話は、間違っても誰か他の奴には聞かれたくないんだ。だからこうして、鍵を拝借してきたんだ」


 そう言いながら、佐伯さんは教室へと入っていく。俺は、佐伯さんの言葉にしたがって、佐伯さんの後から教室に入った。教室は薄暗く、沈みかけた夕日の光だけが差し込んでいる。


 俺が教室の外をボーッと見ていると、背後からガチャリと音がした。その音の方を振り向くと、佐伯さんが教室の鍵をかけていた。いや、なんで教室の鍵をかける必要があるんだ? 俺は佐伯さんに尋ねた。


「佐伯さん? どうして鍵なんかかけたんだい? その話って、そんなに他の人に聞かれたらマズイ話なのかな?」


 俺からの問いに、佐伯さんは答えずに、鍵をポケットにしまってから、教壇の方へと歩いていく。そして、佐伯さんは、ニヤッと笑いながら、俺に向かってとんでもない一言を放った。


「なあっ! 東雲先輩、オレのセフレになってくれよっ! セ・フ・レっ! さすがに、セフレの意味は解るよなっ?」


「は、はあっ!?」


 佐伯さん、なにを言っているんだ? 俺の脳内では、今、佐伯さんが言った言葉がグルグル回っている。俺の聞き間違いか? 今、佐伯さん、『セフレ』とか言わなかったか? そんな困惑する俺をよそに、佐伯さんは教壇に腰かけて、息を少し荒くしながら、俺に言った。


「オレ、最近、桃花や椿がイチャイチャしてるもんだから、欲求不満でさ。体がうずいてしょうがねぇんだ。だから、東雲先輩、オレと一発ヤらないか?」


 (サア、コレデドウダ?)


 佐伯さんはそう言いながら、足を教壇にのせて、M字型に足を開いた。すると、俺の目に、ライムグリーンの、少し背伸びをしたパンツが飛び込んできた。それと同時に、周囲に漂い始めたシトラス系の制汗剤の香り。俺は目の前でなにが起きてるのか理解できなかった。


「東雲先輩って、童貞だろ? そうだよな。桃花と手を握るのにさえあんな大がかりなことをしないとダメだったんだからな。でも、そんなんじゃ、いつまで経っても桃花とエッチなんて出来ないぜっ?」

 

 (サア、ノッテコイ、シノノメ)


 佐伯さん、なんでそのことを知ってるんだ? いや、今はそれどころじゃない! 俺は今自分が置かれている状況を整理しようと、頭をフル回転させる。でも、それを佐伯さんは許してくれなかった。


「だからよ、処女の桃花とヤる前に、経験豊富なオレと一発ヤっておかないか? あ、もしヤってみて、相性がよかったら、何発でも付き合うぜっ! これからは、オレが東雲先輩の性欲の捌け口になってやるよっ! 大丈夫、このことは絶対に誰にも、もちろん、桃花にだって言わないからさっ、な?」

  

 (オレノカラダ、メチャクチャニシタイダロ?)


 そう言って、佐伯さんは蠱惑的な笑みを浮かべながら、教壇から足を下ろして、制服の上着をガバッと脱いだ。すると、制服の下から、白いTシャツに包まれた圧倒的な質量の胸がプルンと踊り出た。


 部活のあとで、汗ばんだ佐伯さんの体に貼り付いたTシャツ越しには、パンツとお揃いの、ライムグリーンのブラジャーが透けて見えている。その存在感に、俺の目は釘付けにされてしまう。


「見てくれよ、オレの胸。へへっ、Iカップもあるんだぜ? まったく、重くて重くてしょうがねぇんだけど、触り心地は保証するよっ! 東雲先輩、オレの胸、直に揉んでみたいと思わないか? なんだったら、先輩のモノをこいつで挟んでやったっていいんだぜっ!」


 (オマエモドウセ、ホカノオトコドモト、オナジダ!)


 佐伯さんは、自分の胸を両手で下から持ち上げた。そのドッシリとした重量感は、Tシャツ越しでも十分に伝わってくる。俺は、そんな佐伯さんことを唖然としながら見ることしか出来なかった。


「あ、もしかして、避妊とか、コンドームとかの心配でもしてるのか? だったら安心だっ! オレ、今日は安全日だし、東雲先輩は桃花の彼氏だから、オレも大サービスしてやるよっ!」


 (サア、コレデ、トドメダ!)


 佐伯さんは、教壇から降りて、ゆっくりと、怪しい目付きで俺をなめるように見ながら、口許をわずかに歪ませ、俺の方へと歩いてくる。そして、胸を俺の体に押し当てながら、佐伯さんは、俺の耳元で、吐息混じりに、ささやいた。


「ナ・マ・で・ヤらせてやるよっ! オレ、陸上と空手で鍛えてるから、絞まりも抜群で、気持ちいいぜ~え?」


 俺の情報処理能力はもう完全にいっぱいいっぱいだった。ダメだ、こんなの絶対におかしい! でも、俺の体は佐伯さんの甘い誘惑に反応してしまう。そんな俺の反応に、佐伯さんは手を滑らせる。


「おっ! 東雲先輩、なかなかいいモノ持ってるじゃねぇかっ! さあ、こいつをオレのナカにブチ込んで、オレをヒィヒィいわせてくれよっ! 東雲先輩っ!」


 (サア! ソノシュウアクナヨクボウヲ、オレニハキダセ! シノノメ!)


 佐伯さんはそう言いながら、俺の制服のジッパーに手を掛けた。ダメだ、抗えない。俺はこのまま佐伯さんの思うままにされてしまうのか。そんなことを考えていると、頭のなかで、聞き慣れた声が炸裂した。


『馬鹿者がっ! そんなことで年頃の女子の彼氏が務まるかっ! シャキッとせんかっ! 海人っ!』


 突然聞こえた沙羅姉の声。俺はその声にハッとした。そして、俺は目の前でしゃがんで俺の制服のジッパーを下ろそうとしている佐伯さんを吹き飛ばした。


「うわああああっ!」


 ドンッ!


「ぐあっ! て、てめぇっ!」


 (ナンデダ! ナンデノッテコナイッ!)


 佐伯さんは、俺に吹き飛ばされて窓際の壁まで飛んでいった。完全に我に返った俺は、佐伯さんを見下ろしながら、今、自分が言えるだけの正直な気持ちを佐伯さんにぶつけた。


「佐伯さん、君がなにを考えてこんなことをしたのかは解らないけど、ハッキリしているのは、佐伯さんがこんなことをしたって来栖さんや鍋島さんが知ったら絶対に悲しむし、なにより、佐伯さんが、あとでこんなことをしたことを、絶対に後悔するってことだ!」


 俺からの言葉に、佐伯さんが粗っぽい口調で答える。そこには、さっきまでの淫猥な雰囲気はなく、あの日の朝に見た、多分、素の、佐伯さんがいた。


「うるせぇっ! お前なんかになにが解るってんだっ! お前さえいなければ、オレは桃花とずっと一緒にいられたんだっ! お前さえ、お前さえいなければあっ!!」


 (ソウダ! シノノメ、オマエサエイナケレバ、トウカハズットオレノモノダッタノニッ!)


 佐伯さんは、膝を折って、拳を床に叩きつけながら叫んだ。そして、ひとしきり叫び散らした佐伯さんは、突然、狂ったように笑い始めた。


「ハハッ……! ハッハッハッ……! そうか、これじゃあダメだったかっ! でも、まだだ、まだだ、東雲っ! お前なんかに()()()()()は渡さねぇっ!!」


 そう言って、佐伯さんはいきなりTシャツを脱いで、制服とTシャツで胸元を隠してから、ドアの鍵を開けて、教室を出ていった。俺は咄嗟に、佐伯さんを追おうとしたけど、佐伯さんはドアを閉めてすぐにまた鍵を掛けてしまった。


 こうして、俺は一年C組の教室に閉じ込められてしまった。しかし、ものの五分ほどで、佐伯さんは誰かを連れて戻ってきた。佐伯さんが連れてきたのは、どうやら、放課後の見回りをしていた守衛さんのようだ。そして、佐伯さんは、俺の方を指差しながら、大声で叫んだ。


「こいつだっ! 守衛さんっ! オレは、こいつに無理矢理襲われたんだっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ