膨らむ憎悪
来栖さんと二人で登校し始めて、早くも一週間ほど経った。その間、俺と来栖さんとで色々なことを話した。例えば、来栖さんは園芸部として、日々、校内の植物の世話をしているらしい。
本来、それは園芸委員会の仕事なんだけど、園芸部員は来栖さんしかいないらしく、活動もそこまで盛んじゃないから、園芸委員に混じって活動をしているらしい。
他にも、来栖さんのテストの点数は全体的に平均点より少し上くらいで、運動は全般的に大の苦手らしい。勉強はともかくとして、運動音痴なのはなんとなく想像できてしまうよな。まぁ、俺だって勉強も運動も平均的なんだけど。
他にも、鍋島さんや佐伯さんの話も少し聞いたけど、鍋島さんと佐伯さんとは、中学校である縁があって友達になったらしいんだけど、詳細については来栖さんに聞いてもはぐらかされてしまった。ま、まだ付き合いたてだし、話したくないことくらいあるよな。
そして、俺と来栖さんの仲が一番進展したのは、お互いの連絡先を交換したことと、お昼を学食で一緒に食べ始めたことだ。これは、沙羅姉からの後押しもあって、俺から来栖さんに提案し、来栖さんは快く、それを承諾してくれた。
いつもは、屋上でお花ちゃん達三人で昼食を食べていたらしいんだけど、鍋島さんも武と一緒に昼食を食べることにしたらしく、なし崩し的に三人は別々に昼食を食べることになったらしい。
でも、そうなると、今まで一緒に食べていた佐伯さんが、少し可哀想な気もするよな。でも、佐伯さんも二人の恋路を応援してくれているだろうから、それはあまり気にしない方が佐伯さんのためだよな。
「先輩っ! どうされたんですか? なにか考えごとですかっ?」
佐伯さんのことを考えていた俺は、つい、目の前に座って弁当を食べている来栖さんから顔をそらしてしまっていたみたいだ。それは慌てて、目の前のカツ丼から、来栖さんの方を向く。
「あ、ゴメンね、来栖さん。ちょっと、佐伯さんのことについて考えちゃってさ。ほら、来栖さんも、鍋島さんも、俺や武とご飯を食べることになって、寂しい想いをしてるだろうなって思って」
俺からの返答に、来栖さんは少し申し訳なさそうに俺からの一瞬目をそらしてから、俺に言った。
「確かに、葵ちゃんには悪い気もしますけど、葵ちゃん、笑いながらわたしと椿ちゃんを見送ってくれたから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思いますよ」
「そっか。それならいいんだけど、たまには三人で食べる日も作った方がいいと思うよ。俺は全然構わないからさ」
俺からの提案に、来栖さんは数回うなずいてから答える。
「そうですよねっ! わたし、椿ちゃんと葵ちゃんに相談してみますっ! 東雲先輩、お気遣い、ありがとうございますっ!」
「うん、そうしたほうがいいよ、来栖さん。佐伯さんだって、いきなり一人っていうのも辛いだろうからね。一応、俺から武にも言っとくよ」
俺はそう言いながら、目の前のカツ丼を口に放り込んでから水を飲む。すると、来栖さんは、俺の顔に手を伸ばしながら笑った。
「あっ! 来栖せ~んぱいっ! ほっぺにおべんと付いてますよっ!」
来栖さんはそう言って、俺の頬からご飯粒を取って、そのままパクリとご飯粒を食べてしまった。いきなりの来栖さんからの不意討ちに、俺の心臓がドクンと鳴った。
「あっ、あ、ありがとう、来栖さん……」
「い~えっ! どういたしましてっ! えへへっ、今の、なんだか恋人っぽかったですよねっ! わたし、実は一回、今のをやってみたかったんですっ!」
ああ、これはマズイ。周囲にはそれなりに学生もいるわけで。俺が恐る恐る辺りを見渡すと、俺と来栖さんをチラチラと見ている学生や、ガッツリ見ている出歯亀が数人いた。
「どうしました? 東雲先輩。そんなにキョロキョロして、なにか探し物ですかっ?」
「あ、いや、なんでもないよ。なんでも……ハァ……」
参ったな。これじゃあ、俺と来栖さんはまさにバカップルじゃないか。来栖さんの知名度も相まって、これからもこの空気のなかで食事をしないといけないと考えてしまい、俺は少しげんなりしてしまう。
それでも、来栖さんからの無意識なアタックは素直に嬉しいし、せっかくの来栖さんからの好意を無下にするわけにもいかないから、『目立つから止めて欲しい』とも言えないよな。
こうして、俺と来栖さんの貴重な学校での二人きりの時間は過ぎていく。多分、どこかで武と鍋島さんもヨロシクやってるんだよな。俺はそんなことを考えながら、来栖さんとの昼食を楽しんだ。
…………
「ヘックシッ!」
俺が椿ちゃんと一緒に、中庭のベンチで椿ちゃんお手製のサンドイッチを食べていると、急に鼻がムズムズしてくしゃみをしてしまった。
「何? 武。いきなりくしゃみなんてしちゃって。風邪? 花粉症? ティッシュあるから、使ってっ」
俺がくしゃみをしたのを見て、椿ちゃんは少し心配そうな顔をしながら、ポケットから素早くティッシュを取り出した。俺は、サンドイッチを口に放り込みながら、ティッシュを受けとる。
「ああ、ありがとう、椿ちゃん。いや、風邪とかじゃなくってさ。多分、誰かが俺達の噂でもしてるんだろ。なにせ、俺達、黄金カップルだからなっ!」
「そ、そんなの知りませんっ! 武ったら、何をバカなことをっ……!」
俺の冗談に、椿ちゃんは顔を赤くしながらそっぽを向く。まったく、素直じゃないんだから。でも、その普段とのギャップがまた可愛いんだ。
「ゴメンよ、椿ちゃん。謝るから、こっちを向いて、その可愛い照れ顔を俺に見せてくれよっ!」
俺からのお願いに、椿ちゃんはチラッと俺の方を見てから、体ごとこっちを向いた。あ、そうだ。あんまり人もいないことだし、ちょっとイタズラしちゃえっ!
「な、何を言ってっ……むぐっ!」
俺は椿ちゃんの顔がこっちに向いたタイミングで、俺の唇を椿ちゃんの唇に重ねた。椿ちゃんは驚きはしたものの、すぐに目がトロンとなって、俺の唇を受け入れる。そして、十秒ほど唇を重ねた俺達は、ゆっくりと、その唇を離す。
「ハアッ……! ハアッ……! バ、バカッ、こんな人目のあるところでこんなことするなんて、信じられないっ……!」
椿ちゃんはそう言っているけど、その顔は全然嫌がってる感じじゃない。むしろ、顔を真っ赤にしながら目を細めている椿ちゃんに、俺の気持ちはなんだか沸き上がってしまった。
「でも、椿ちゃんだって、満更じゃなかっただろ? それに、俺達が恋人同士なのは、みんな知ってるんだから、いいじゃねぇか。な、椿」
俺に、『椿』と呼び捨てで呼ばれた椿ちゃんは、脚を閉じて、少しモジモジと脚を動かす。そして、椿ちゃんは上目遣いで、目を潤ませながら俺の方を見る。
「そう呼んでくれたってことは、そういうことでいいんだよね? 私、もう我慢できないよ、武。ねぇ、武ぅ……!」
このおねだりするような甘い椿ちゃんの声。これは、椿ちゃんの、『スイッチ』が入った合図だ。俺はその椿ちゃんからの懇願に答えるために、ベンチから立ち上がり、椿ちゃんに手をさしのべる。
「それじゃあ、いつもの場所に行こうか。もう昼休みの時間もあんまりないから、手短にな、椿」
「うんっ、武っ♪」
こうして、俺達は、俺達だけの『秘密の場所』へと、二人で人目を盗んで歩きだした。ことを済ませるには時間は十分。さあ、俺達の、『食後のデザート』は、これからだ。
…………
チクショウ、マッタク、アジガシネェ。フタリガイナイメシナンテ、クッタキガシネェ。イマゴロ、トウカトツバキハ、アノ、クソイマイマシイ、シノノメト、カミヤマニ、ロウラクサレテイルンダ。
カワイソウニ。トウカモ、ツバキモ、アノ、キタナラシイ、オトコタチニ、ダマサレテルンダ。アイツラ、オトコドモハ、オンナヲ、セイショリノドウグトシテシカ、ミテイナインダ。
ヨシ、マズハ、シノノメカラダ。オレガ、アイツノ、シュウアクナバケノカワヲハイデヤル。ナニ、カンタンサ。オレガ、コノカラダヲツカッテ、アイツヲ、オトシテヤレバイインダ。
イチジノカイラクカラ、オワリノナイジゴクヘ。ソウダ、オトコナンテ、チョットイロメヲツカエバ、コロットダマサレル。マッテロ、シノノメ。オレガ、オマエヲ、ジゴクニオトシテヤル!





