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お花ちゃん達との出会い

 来栖さんと手を繋いで登校して、武に彼女が出来たことを喜んだ次の日、俺は昨日と同じ様に、沙羅姉とのランニングと朝御飯を終え、ちょっと早めに家を出る。沙羅姉は、『今日は自然に来栖を誘ってみろっ!』と言って、俺を見送ってくれた。


 そして、俺は昨日来栖さんと話した三叉路の前へと歩いていく。しばらく歩くと、三叉路にあるポスト前で、三人の女の子がおしゃべりをしていた。そして、そのうちの一人が俺に気づいて、パタパタと手を振ってきた。


「あっ! 東雲先輩っ! おっはようございま~すっ!」


 そう言って、他の二人の輪から抜け出してきたのは、もちろん、来栖さんだ。俺は軽く手を振りながら、来栖さんに挨拶を返す。


「あ、おはよう、来栖さん。今日も元気な挨拶だね、こっちまで元気が出てくるよ」


「えへへっ、わたし、元気だけが取り柄なので、そう言ってもらえると嬉しいですっ!」


 ニコニコとしながらガッツポーズをとる来栖さん。改めて、こんなに可愛い彼女が出来たことを実感して、嬉しくなってしまうな。そんなことを考えながら、ふと、俺はポストの前にいる二人の女子に目をやった。


「あっ! そうだっ! 二人に東雲先輩のこと、紹介しなきゃっ! 東雲先輩、少しお時間いただいていいですか?」


 来栖さんからの提案に、俺は快く返事をする。あの二人が、『一年C組のお花ちゃん達』の残り二人ってことだよな。こうしてじっくり見るのは初めてだから、ちょっと緊張するな。


「うん、まだ校門が閉まるまで時間があるから、是非紹介してよ。俺も改めて挨拶しておきたいからさ」


「はいっ! それでは、こっちに来てくださ~いっ!」


 来栖さんは、二人のいるポストの前までトコトコと走っていく。俺はそんな微笑ましい様子の来栖さんの後ろを、ゆっくりとついていく。そして、ものの二十歩ほど歩くと、二人が待つポストの前までたどり着いた。


「え~っと、まずは、こっちが鍋島 椿ちゃんっ! 頭もよくって、華道部でも、すっごく綺麗にお花を生けてるんですよっ!」


 来栖さんに紹介された女の子は、手を前で揃えて、シャキッと背筋を正したあと、軽く俺の方にお辞儀をした。


「只今、紹介に預かりました、わたくし、鍋島 椿と申します。以後、どうぞよしなに……」


「あっ、ご丁寧にどうも。東雲 海人です。よろしくお願いします」


 いかん、鍋島さんに乗せられて、ついやたら丁寧に挨拶をしてしまった。俺は、釣られてやったお辞儀の状態から頭を起こして、改めて鍋島さんの方を見る。


 沙羅姉ほどではないにしても背は高めで、赤みがかったセミロングの髪型。目はちょっと細めで、シュッとした鼻に、薄めの唇。声は艶のある低めの声で、体型はスラッとしていて、姿勢がとてもしっかりしている。


 さっきの話し方といい、容姿といい、見るからにお堅い感じ。なかなか近寄りがたそうな雰囲気だけど、彼女が武と……ねぇ。こうして見ると、やっぱり、すでに武と致しているとは信じがたい。


「あ、そう言えば、武がお世話になってるんだってね。武、メッチャ嬉しそうに話してたから、どんなか、気になってたんだ」


「ひゃあっ!」


 俺の話を聞いた鍋島さんは、さっきまでのお堅い雰囲気とはかけはなれた可愛い悲鳴を上げる。そして、鍋島さんは、俺の方に詰め寄って、かなり切羽詰まった表情で俺にヒソヒソと話す。


「東雲先輩、武から、どこまで聞いてるんですかっ?」


 そんな鍋島さんに、俺は更にヒソヒソ声で話す。


「ゴメン、実は、もうすでに致したところまで聞いちゃった。大丈夫、誰にも言ってないし、言うつもりもないからさっ!」


「と、当然ですっ! 誰かにしゃべったりしたら、ブッ飛ばしますからねっ! 東雲先輩っ!」


「は、はいっ! 肝に銘じますっ! sirサー!」


「誰がsirサーですかっ! まったく……!」


 さっきまでの上品さはどこへやら。まさかの発言に俺はちょっと萎縮する。多分、こっちが鍋島さんの素なんだろうな。ノリも良さそうだし、正直、俺はこっちのしゃべり方が好みだな。


「え~っと、こっちは佐伯 葵ちゃん! 空手部と陸上部を掛け持ちしてて、どっちもすっごいんですからっ!」


「へっ!」


 俺は、来栖さんからの紹介を受けて、その佐伯さんの方を向く。すると、俺の目線は佐伯さんのある一点に向ってしまう。しかし、さすがに露骨だから、一旦顔を無理矢理上げて、佐伯さんの顔を見る。


 といっても、同じ空手部で面識は無いことはないんだけど、こうしてじっくりその顔を見るのは初めてだったりする。男子と女子では、あまり交流もないからな。


 背は来栖さんより少し高めで、茶色のショートカットに、あどけなさが残る子供っぽい顔。声は高くも低くもない、よく通る声。そして、それとは似ても似つかない、とんでもないサイズの胸。この感じ、胸だけなら沙羅姉よりも確実に大きいだろう。


「おいっ! てめえっ! どこ見てやがるっ! まったく、これだから男って奴はよ……」


 こうして話すのは初めてだけど、なんだか、刺々しいだな。いや、胸をジロジロ見ていたのは事実だから、今のは俺にも非がある。俺は改めて佐伯さんに言った。


「佐伯さんって、佐伯部長の妹さんだったよね? 俺も空手部なんだけど、ほら、東雲 海人。聞き覚えないかな?」


 俺から話を振られた佐伯さんは、俺の方をチラッと見てから、こっちに向き直る。よかった、これなら少しは話せそうだぞ。


「ああ、どっかで見た面だとは思ったけど。そういえば、お前みたいな腑抜けもいた気もするけど。ま、桃花の彼氏ってことで顔は立ててやらないとな。改めて、佐伯 葵だ。ま、よろしく頼むわ」


 う~ん、なんだか素っ気ないな、なんだか、嫌われちゃったかな? まぁ、俺が腑抜けなのは事実だから、ここはこの横柄な態度はグッと我慢しよう。


「あ、ああ、こちらこそよろしくね、佐伯さん」


 こうして、お花ちゃん達との自己紹介を終えた俺は、改めて今日のメインイベントに入ろうとする。しかし、それよりも先に、鍋島さんと佐伯さんがその場を離れようとする。


「それじゃ、あとは恋人同士で甘い会話でもしながら登校してくださいな。私達、お邪魔虫はここで退散させていただきますので、どうぞ、ごゆっくり……」


「おいっ! 東雲先輩っ! 桃花に変なことしたら、オレがブッ殺しにいくからなっ! 桃花も、東雲先輩にコロッと騙されないように気を付けろよ~っ!」


 そう言って、二人はそそくさとその場から離れた。残された俺達は、二人に感謝しつつ、手を繋いでから、ゆっくりと歩きだした。これなら、会話をする余裕もありそうだ。


 俺と来栖さんは、当たり障りのない会話をしながら、通学路を歩いていく。これが四月なら、満開の桜並木を一緒に歩けたんだけどな。いや、桜は来年も咲くんだ。それまでに、来栖さんに愛想をつかされないように、頑張らないとなっ!


 …………


 桃花と別れて、私と葵は二人並んで通学路を歩く。葵と私だけで登校するのは、いつぶりだろうな。そんなことを考えながら、私はさっきの葵の態度をたしなめる。


「ねぇ、葵。さっきの東雲先輩との件だけどさ、葵、ちょっと感じ悪かったよ? いくら葵が男子が苦手だとはいっても、あれはちょっとさ……」


 私からの苦言に、葵はビクッと反応したあと、私の方を見ながら、必死に弁解する。その額には、少し汗が浮かんでいた。


「だ、だってよお! あの野郎、オレの胸ばっかりジロジロ見やがってっ! 男なんてみんなエロいことしか考えてないんだよっ! オレは、誰よりもそれを知っているからな……っ!」


「そ、それは……っ!」


 私は、葵がこんなに男の人が苦手な理由も知っている。いや、今だって、()と比べたら、かなりよくなっている方だ。あの頃のことは、あまり話題に出さないようにしている。それが、葵のためだから。


「と~に~か~くっ! 桃花と東雲先輩の前では、あんな態度で話さないことっ! でないと、桃花がかわいそうだよっ!」


「チッ! 解ったよ。今後は出きるだけ気を付けるよっ!」


 葵は、機嫌が悪そうにそう吐き捨てた。葵、やっぱり、あのときのことを引きずってるんだね。でも、桃花と東雲先輩にそれをぶつけるのは、お門違いだよ。だから、早まったことはしないでね、葵。


 …………


 ソウカ、アレガ、シノノメカ。ヤッパリ、オトコナンテ、オンナノカラダニシカキョウミガナインダ。コノママジャ、トウカマデ、ケガラワシイオトコノ()()ニ、ツラヌカレテシマウ。マッテロ、トウカ。オレガ、ケガラワシイオトコカラ、オマエヲ、マモッテヤルカラナ。


 ツバキハダメダッタケド、ゼッタイニトウカニハ、テダシハサセナイ。ドンナコトヲシテデモ、オレガドウナッテモ。マッテロ、シノノメ。オレガ、オマエニ、メニモノミセテヤルカラナ。イマハカリソメノ、レンアイゴッコヲ、タノシムンダナ、シノノメ!


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