私には、許せない
私が二人に彼氏が出来たことを話した日の放課後、私と葵は生徒会長からのお誘いを受けて、生徒会室に招待された。そこは、この学校らしからぬ、重厚で優雅な雰囲気で、私も葵も萎縮してしまう。
「いやあ~ お呼ばれされたのはいいけどさ、まさかこんな部屋がこの学校にあるなんて、椿ちゃん、ちょっとびっくりだね」
「しっかし、このソファー、やたさ柔らかくって落ち着かねぇぜ。どっからこんな高級なソファーを買う予算が出てるんだか」
私と葵は口々にこの異世界についての感想を述べる。生徒会長はというと、私達をソファーに座らせたあと、お茶の準備のために給湯室へと入っていった。独立した給湯室まであるなんて、椿ちゃん、本当に驚きだね。
「いや、待たせてすまんな、二人とも。その分、いいお茶と茶菓子を用意させてもらったよ。ま、昨日来栖に振る舞ったものと同じものだかな」
そう言いながら、給湯室から生徒会長が出てきた。その手には、湯気をたてているいい香りの紅茶が三つと、高そうな藍色の缶に入った、少し減ったクッキーが乗っていた。それを、生徒会長は私達の前に並べてから、対面のソファーにスッと座った。
改めてだけど、生徒会長は本当に綺麗だ。何ていうか、モデルや女優の綺麗さとは別の、むしろ絵画や彫刻に近い美しさを感じずにはいられない。私が生徒会長に見とれていると、生徒会長は私に言った。
「どうした? 鍋島。来栖といい鍋島といい、そんなに私の顔が珍しいか? そう見つめられると、恥ずかしい」
生徒会長からの言葉に、ボーッたしていた私は我に返り、慌てて弁解をした。
「す、すみませんっ! あまりに生徒会長がお綺麗なので、つい見とれてしまいましたっ!」
そんな私に、生徒会長は笑いながら言った。
「ハハッ! それは嬉しいことだな。しかし、鍋島も佐伯くらいあまり緊張せずに接してくれると有難い。それこそ、今日の朝のようにな」
生徒会長はそう言うと、目で葵の方を見るよう目配せする。そこには、クッキーをボリボリ食べながら紅茶をすすっている葵の姿があった。
「いや~ このクッキー、本当に旨いな~ うちって、基本的にこんな洒落たお菓子なんて出ないから、尚更だせ! それに、紅茶ってのもなかなかいいもんだな。ほら、オレってば、いつもは緑茶はだからさっ!」
「ちょっとっ! 葵っ! いくらなんでもリラックスしすぎだってっ! すみません、会長っ! 葵に悪気は全くないんです!」
葵がクッキーを貪る姿と、私がそれをたしなめる様子を見て、生徒会長はさっきよりも大きな声で笑った。
「ハッハッハッ! いいんだよ、鍋島! むしろ、それくらいで接してくれた方が私も嬉しいっ! 佐伯、お前とはなんだか馬が合いそうだっ!」
「へへっ! オレも六条先輩のこと、もっとお堅い人だと思ってたけど、話してみたらメッチャ話しやすくて驚いたぜっ! これからもよろしくなっ!」
葵と生徒会長は、顔を合わせてニカッと笑い合っている。確かに、昨日の放課後に生徒会長から桃花と一緒に登校してることについて聞かれたときはビックリしたけど、生徒会長がこんなに気さくな人だとは思わなかった。
だって、普段廊下を歩いてるときの生徒会長は、とても厳しそうな印象だったから。それでも、聖泉高校のみんなから圧倒的な指示を受けているんだから、本当に凄いよ、生徒会長は。
「さて、今日は二人を朝のお礼でこの生徒会室に招待したわけだが、実は、本当はそれだけじゃないんだ」
そう言って、生徒会長はさっきまでのフランクな表情から、少し真面目な表情になる。そして、生徒会長は紅茶に口をつけてから、私達に向けて話し始めた。
「今日、二人を読んだのは他でもない、来栖と海人の件なのだ。いや、こんなことで二人の貴重な時間を使わせるのは非常に心苦しくはあるのだが、どうか、許して欲しい」
生徒会長は、そう言って私達に軽く頭を下げる。いきなりの生徒会長の行動に、私は面食らってしまう。
「えっ!? 急になにをされてるんですかっ! 生徒会長っ! 取り敢えず、頭を上げてくださいっ! 今日は部活も休みをもらってきましたし、私達、全然気にしてませんからっ! ねっ、葵っ!」
「ああ、オレも兄貴にはちゃっと言ってきたから大丈夫だぜっ! 兄貴、六条先輩のファンだから、二つ返事で許可してくれたよ!」
私達からの返事を受けて、生徒会長は頭を上げた。でも、その表情はちょっと堅いままだった。
「そうか。しかし、それでは私の気が収まらない。改めて、藤堂先輩と佐伯には私のほうからも話しておくから、二人は安心して私の話を聞いて欲しい」
それにしても、桃花と東雲先輩の件っていったら、もちろん二人が付き合い始めたことなんだろうけど、わざわざ私達を呼び出してまで話したいことって、なんなんだろう。
「生徒会長、それでは、今日、私達を呼んだ本当の理由について、話していただけませんか?」
「そうそう、わざわざこんな回りくどいことをしてまで、オレ達に話したいことってなんなんだ? 教えてくれよっ! 六条先輩っ!」
「ああ、もちろんだとも。しかし、これから話すことは、出来れば内密にして欲しいんだが、大丈夫か?」
私達からの質問に、生徒会長は更に真剣な顔になった。生徒会長から放たれるオーラに、私も葵も姿勢をビシッと正した。
「はい、内容にもよりますが、生徒会長がそうおっしゃるのであれば」
「ま、取り敢えず話を聞かんことにはなんとも言えねぇな。ま、聞かせてくれよっ! 六条先輩っ!」
私達からの返事に、生徒会長は少し表情を緩めて、一度大きく頷いてから、私達に向けて話し始めた。
「そうだな。それでは、まず、二人に知っておいて欲しいことから話すとしようか。初めに言っておくが、このことについてはさっきも言ったように出来れば内密にして欲しいが、他人に話すか話さないかは、二人の判断に委ねる。それでは話そう。実はな……」
次に生徒会長から放たれた言葉は、少なくとも、私にはかなり衝撃的な話だった。
「私はな、昨日から、私と海人は同居を始めたんだ。これは私から言い出したことだから、海人にはなんの非もないことを付け加えておこう。さて、この話を聞いて、二人はどう思う?」
そんな、東雲先輩と生徒会長が同居っ!? いきなりの急展開に、私はまたも面食らってしまう。でも、葵はいたって落ち着いているようで、葵は生徒会長からの問いにサラッと答えた。
「うん? それがどうかしたのか? 東雲先輩と六条先輩って、幼馴染なんだろ? それなら、二人はこれまでもお互いの家を行き来したことなんて、いくらでもあるわけだよな? じゃあ、これまでとそこまで変わらねぇじゃねぇか」
「バ、バカッ! そんなわけないじゃんっ! 生徒会長っ! 東雲先輩と同居してるってことは、東雲先輩の家族と、生徒会長が一緒に生活してるってことですよねっ!?」
私からの質問に、生徒会長はちょっと言いにくそうな顔をして、頬を人差し指で掻きながら答えた。
「いや、その、海人のご両親は海外に赴任していて、海人は独り暮らしなのだ。つまり、海人と私、二人だけで生活してるということだな……」
生徒会長、なにを言ってるんだろう。そんな、東雲先輩に桃花がいるのに、彼女がいるのに、それを生徒会長は知っているはずなのに! そんなのって! そんなのってっ!
「じ、冗談ですよね? 生徒会長」
「いや、これは真実だ。紛うことなき、な」
そう言ったあと、生徒会長はただ黙っている。私は頭に血が昇って、思わずテーブルを両手で叩いた。陶器がカチャリと揺れる音がして、テーブルの上の紅茶が少しこぼれる。
「そんなっ! そんなことあって良いわけないっ! 不潔ですっ! 生徒会長がそんな人だったなんて、私、見損ないましたっ!」
「おいっ! 椿っ! 落ち着けっ! 落ち着けってっ!」
怒りをむき出しにした私を、葵が肩を叩きながらなだめる。でも、そんなんじゃ私のこの気持ちは収まらないっ!
「生徒会長っ! 朝は私達にあんな協力をさせておいて、裏では東雲先輩と仲睦まじく暮らしているなんてっ! 馬鹿にするなっ! 桃花のこともっ! 私達のこともっ!」
私からの怒りの叫びに、生徒会長はただ軽く頷いている。そして、私はしばらく口汚く生徒会長をなじった。ありったけの言葉で罵倒した。そして、私が叫び疲れたタイミングで生徒会長は口を開いた。
「そうだな。鍋島が今言ったことは、全て正しい。ぐうの音もでない、全くもってな。だが、私の言い分も聞いて欲しい。そうでなければ、ここに二人を呼んだ意味がない」
そうだ、冷静に考えたら、こんなことを私達に話す意味がない。ただ黙っていれば良いだけの話だ。それでも、私達にこんな話をしたってことは、なにか訳があるんだ。
「それじゃあっ……! 聞かせてくださいっ……! 私達に今の話をした理由についてっ……!」
私は涙声で生徒会長に言った。葵は、ただ黙ってアゴに右手を当てながら生徒会長の方を見ている。その顔からは、葵がなにを考えているかが解らなかった。
「ああ、聞かせるとも。いや、この話は、二人にしか出来ないから、聞いて欲しいんだ」
そう言って、生徒会長は少しこぼれて、冷えてしまった紅茶に口をつけた。私と葵は、ただ黙って、生徒会長がその口から私達にこんな話をした理由が語られるのを待った。





