俺と後輩と幼馴染
皆様、私の作品にアクセスいただき、ありがとうございます。
本作品は、男女の性について、所々に言及したり、ちょっと刺激が強い表現を用いている箇所があります。
つきましては、性的表現が苦手な方や、刺激が強いシーンを不快に思われる方は、申し訳ありませんが、ブラウザバックをしていただければ幸いです。
以上のことを踏まえまして、それでも読んでいただける方につきましては、どうぞ、私の作品をお楽しみください。
俺の名前は東雲 海人。一山いくらの、どこにでもいる高校二年生だ。と、言いたいところなんだけど、どうやら他人から見たらそうじゃないらしい。
いや、俺自身は一般的男子に過ぎないはずなんだけど、問題は俺の幼馴染にあるんだな、これが。まぁ、その辺は追々解ることだから今は語らないけど、それよりも、今は俺の身に起こったことについて聞いて欲しい。
季節は春、場所は聖泉高校。五月に入って新入生が学校になれてくる頃に、俺の身にかつてない大事件が起きる。いや、一身上の都合で事件には慣れっこなんだけど、今回は今までとは毛色が違うみたいだった。
「東雲先輩っ! いきなりで申し訳ないんですけどっ! わ、わたしと、つ、付き合って下さいっ!」
部活動に勤しむ学生で賑わう放課後のグラウンド。突然友達づてで学校で一番大きな桜の木の下に呼び出されたかと思ったら、そこで待っていた可愛い女の子からいきなりの告白を受ける。
いや、その理屈はおかしい。まずは目の前でプルプルしながら目を閉じて頭を下げている女の子に、詳しい話を聞かなければ何とも言えない。
「ち、ちょっと待ってっ! それ以前に、君、誰だっけ!? っていうか、付き合ってって……」
泡を食っている俺に対して、その後輩は顔をガバッと上げ、指をいじりながらモジモジしながら答える。
「ご存知ないのも無理はないです。わたしが一方的に先輩のことを好きなだけですから。あ、申し遅れましたっ! わたし、来栖 桃花って言いますっ!」
「は、はぁ。初めまして、で、いいのかな? 俺は東雲 海人です、よろしく」
なんだかよく状況がわからないまま、俺は律儀に返事を返す。そして、俺はなんとか現状を進展させようと言葉を絞り出す。
「えっと、ごめんね、来栖さん。正直、よく状況が解んないけどさ、何でまた俺なんかにこんな、ねぇ」
自分で言うのも何だけど、俺にこんな可愛い女の子に告白されるような要素はない。性格は面倒臭がりで根性なし、容姿もいたって普通、背だって百七十センチ程度のいわゆる、『平均的男子』だ。
しかも、来栖さんはというと、本当に可愛らしい容姿をしている。栗色のショートボブの髪の毛、染み一つ無いつるつるの肌、そしてまるで仔犬のようなつぶらでまんまるな瞳。声はまるで鈴のようなアニメ声で、背は俺のふた回りほど低く、動物に例えるなら『ポメラニアン』って感じだ。
正直、とても俺と釣り合うとは思えない。そんなことを考えていると、目の前のクッソ可愛い後輩は困惑する俺に対して更に言葉を紡ぐ。
「あのっ! 先輩、覚えてませんか? 今年の体育祭で、わたしと委員会で一緒になったの」
体育祭? 委員会? あぁ、そういえばそんなこともあった気もするな。新入生を馴染ませるための早めの体育祭、俺は運悪く委員に選出されたんだっけ。
「体育祭の前日、わたしが風で倒れた校門のモニュメントに潰されそうになったのを体をはって助けてくれましたよね? あの時なんです、先輩のことを好きになったの。何て言うか、この人だなって、思ったんです」
ええ、なんだそりゃ。確かにそんなこともあった気がするけど、今どき、そんなことで惚れるかね。どうやら来栖さんは俺を白馬の王子様かなんかと勘違いしているらしい。
でも、これはチャンスだ。いや、こんな可愛らしい彼女ができるということもそうだけど、もしかしたら俺が置かれているいかんともしがたい現状を打破できるかもしれない。
「やっぱりダメですか? 先輩っ。そうですよね、いきなり呼び出して告白なんて、非常識っていうか……」
来栖さんは俺の反応を不安げな表情でチラチラとうかがっている。俺はそんな来栖さんにしどろもどろに答える。
「いや、ダメっていうかさ、ちょっと考えさせてくれるかな? いきなりの、その、告白、だったもんだから、ねぇ」
俺からの答えに、来栖さんは慌てた様子で手をパタパタと振りながら返事をする。一生懸命なその姿からは、可愛いらしさを感じると共に、何だか申し訳なさを感じてしまった。
「そ、そうですよねっ! 解りましたっ! わたし、お返事を待ってますから! それでは、今日は来てくれてありがとうございました!」
桃花ちゃんは大袈裟にお辞儀をしてパタパタと校舎へと戻っていく。動きの割には進みがゆっくりなその姿は、本当に野原を駆ける一匹の仔犬のようだった。
さ~て、どうしたもんかね。ま、一番の障害はこれから帰る家で待ち構えているわけだけどさ。俺はこれからのことをモヤモヤと考えながら、そのまま家路へとついた。
…………
なんやかんや考えながら歩き続け、俺は自宅へと帰ってきた。さて、このドアの向こうには俺の自慢であり、悩みの種である彼女が待ち構えている。俺は鍵を開けて、ドアノブに手を掛け、ドアをゆっくりと開けた。さぁ、来るぞ。もう見慣れてしまった光景が、目の前に。
「ただいま~」
そこには、やっぱりいつもの光景が広がっていた。頭に白いバンダナを巻き、制服の上からシックな茶色のエプロンを来て、おたまを右手に持った女性が仁王立ちをしている。俺は思わずげんなりしてしまう。
「帰ってきたかあ! 海人っ! 時間通り、結構結構! さあっ! 夕食の準備は出来てるぞ! 情けない顔をしていないでさっさと手を洗って着替えてこいっ! 料理が冷めてしまうぞ!」
そう、このでかい声で豪快な笑みを浮かべているのが俺の幼馴染の『六条 沙羅』だ。
俺と彼女は学年は同じだけど、彼女の誕生日が九月で、俺の誕生日が二月だから、同い年ながら、俺は彼女のことを『沙羅姉』と呼んでいる。彼女は聖泉高校で二年生ながら生徒会長を務めている。性格は竹を割ったような豪快な性格で、生徒からの信頼も厚く、男女問わず毎日のように告白され、それを切って捨てている。
学力はぶっちぎりのトップ、特に文系の科目はいつも満点。部活でも剣道部の主将を務めていて、噂では、竹刀で紙をスッパリ斬ることが出来るとか。まさに、絵に描いたような完璧超人だ。
容姿も抜かりない。漆黒のロングヘアーに彫りの深いキリッとした顔立ち、目はやや切れ目の鳶色の瞳、声は聞くだけで背筋が伸びるような、ハッキリとした低めの艷声。背丈は俺と同程度だけど、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだモデルもかくやのスタイルだ。
そんな沙羅姉は、毎日飽きもせず、甲斐甲斐しく俺の家で手料理を振る舞ってくれている。両親が海外に赴任するときに、俺の家の鍵を沙羅姉にも渡してしまってからずっとこの調子だ。
幼馴染とはいえ、俺とは全く釣り合わない、まさに月とすっぽん、そんな感情が、年を重ねるごとに増大していっている。それでも、ここまで俺の世話をしてくれている沙羅姉には、頭が上がらないんだよなあ。
更に困ったことに、俺と沙羅姉が幼馴染だということは学校全域に知れ渡っている。そりゃそうだ、隙あらばでかい声と共に沙羅姉から俺に寄ってくるんだから。そんな事情もあって、男女問わず沙羅姉宛のラブレターを預かることは日常茶飯事だ。
嗚呼! 俺はこんな生活から一刻も早く解放されたいっ! いっっっっつも俺は沙羅姉と並べて比較されるんだ、こんな屈辱もないもんだっ!
でも、もしかしたら、沙羅姉が俺に可愛い彼女が出来たと知ったら、いい加減俺の世話をやくのを止めてくれるかもしれない。俺はもう子供じゃないんだから、いい加減この生活からオサラバしたいのだっ!
そんな確証もない淡い期待を抱いて、俺は今に至る。俺だって男だ、そろそろ彼女の一人くらいいてもいいだろう。問題は、沙羅姉が俺に彼女が出来たと知ったらどう思うかだ。こればかりは言ってみないと解らない、完全に未知数だ。
そんなこともあって、俺は来栖さんからの告白を保留した訳だ。我ながら根性がないな。とにかく、今日の夕食が終わったら沙羅姉に話してみよう。後は野となれ山となれだ。
「ああ、解ったよ、沙羅姉」
「今日の献立は海人が好きな酢豚だ! それじゃあ、盛り付けて待っているからな!」
俺はエネルギッシュで爽やかな笑みを浮かべながら、キッチンへと戻っていく沙羅姉を見送ってから部屋に戻り、部屋着に着替えて、沙羅姉が待ち構えているキッチンへと向かった。