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仁がヨハンと戦っている頃、他の侵入ルートからも別動隊が動いていた。
元々は狙撃による暗殺を狙っていたヨハン達であったが、それは常に一緒にいる少女の姿をした化け物達と吸血姫のせいで断念せざる得ない状況だった。
安全策が使えないならば、張李から受け取った北中華の新兵器、MWを陽動にした多方面作戦しかない。
四つに分けられた部隊はそれぞれ仁、久木、青葉が待ち構えるルートを進むが、最後の部隊は御剣でも軍でもない想定外の人物が相手することになった。
「『頭が高い』」
傲慢にも聞こえる起動呪文を発したのは仁より少し年上の青年。魔法科高校の生徒会長、御守宗一であった。
彼の前にも仁と同じく、十字教会の兵隊と二体のMWが居た。本来なら魔術師相手であろうと蹂躙しうる力を、発揮することなくMWと他の兵士共々、宗一に首を垂れている。
「ぐっ、――この力は魔術じゃないな」
そう問うのは別動隊を率いるヨハンの腹心、マリウス。
彼の体は突然、極太の鎖を体中に巻きつけられたように重くなった。それは彼一人だけではない、周りにいる部隊の兵隊も同様だ。
「当然だ、日本の御三家も知らんか?」
「領域支配……かっ、なぜ御剣の家に他勢力の人間がいる!」
領域支配と呼ばれる御守の異能。それは制御下にいれた空間の情報と値を変動させる能力である。
今宗一がやっているのは支配領域に存在する重力の値を書き換え、マリウス達を地面に膝を着かせていた。
「帝様の下に集ったのが我ら御三家だぞ? その帝様が良しとされたのなら、それが他家のためだろうと、真祖のクローンのためだろうと関係ない。貴様らのように意思の統一もできない烏合の衆とは違うのだ」
「くっ、我々の前に立ちふさがるのが狂信者か」
教会の私兵である自分が政治的な理由で戦い、他国の中枢に近い異能者が信仰を以て戦う。一部マリウスの勘違いもあるのだが、彼にとっては皮肉以外の何物でもない。
「――さすがにそれだけじゃないさ」
マリウスには聞こえない、小さな声で宗一の独り言を呟く。
ここにいる一番の理由は先輩である自分が後輩達の協力を求めて、自分が手を貸さないのは不義理だからだ。宗一は足並みが揃わないヨハン達を皮肉るためだけにそう言ったに過ぎない。
「『自爆しろ』――03」
「ちっ、後始末をするのは誰だと思ってる」
自爆という不穏な命令に宗一の中に僅かな迷いが生じる。さすがに民家を巻き込むほどの規模は無いと頭で理解していても、もしもを考えると冷や汗が流れるのも仕方ない。
宗一が支配領域の設定を変えるよりも早く、MWは自殺の命令を忠実に実行した。
魔法兵器の自爆は火薬によるモノではない――魔術的な爆発が綺麗に整った道路に穴をあける。耳をつんざく――とまではいかないが、耳障りな破裂音を立てて衝撃波が辺りを揺らした。
「――これで仕切り直しだ」
「支配領域を強引に剥がしたか。良い判断をする」
人間に掛かる重力はそう大きいものではなかった。少なくともマリウスなら強引に体を動かせる範囲の負荷でしかない。
しかし金属の塊であるMWはそうもいかない。二百キロ近い人型兵器は宗一の異能によって、その重量は倍以上に膨れ上がり想定負荷を越えて機能不全を起こしていた。
そんな兵器から不気味な金属像と化していたMWを一機犠牲にして戦況を立て直せるなら安いモノだ。マリウスの的確な判断が、一時的とはいえ劣勢を立て直す。
「特異異能とはいえ魔法の一種。爆風と無差別なマナを撒き散らせば、支配領域の維持はできまい。――各員散開! 敵はMWを優先して捉えようとするはずだ、異能の効果範囲に注意して攻撃せよ」
マリウスは地面に落した拳銃を手に取って立ち上がり、すぐさま指示を出す。
若手のみで選抜されたとはいえ、彼らも魔法戦のために訓練を受けた兵士。その指示を聞いた部下達は即時に宗一を包囲するため動き出した。
「御守の異能は即応性が無い、再び陣を構築させるな!」
指揮は続けたまま、マリウスは弾丸を装填しなおした拳銃で発砲する。それは何の特別なギミックもない魔術を推進力にしただけの鉛弾である。
「用心深いな、だが……たった一つの支配領域を崩しただけで攻略できると思うなよ?」
着弾音がしたのは発砲したはずのマリウスからだった。撃たれた宗一は表情一つ変えず、マリウスを挑発する。
「殲滅等級に届く天才……、突破は難しいか」
マリウスの服の上、魔術式シールドが銃弾のぶつかった衝撃で半透明のカーテンを波打たせる。
銃弾を防いだのは宗一の周囲に展開された支配領域である。
それは進入した飛翔物のベクトル情報を強制的に変更するモノだ。マリウスはそれの有無を確認するために攻撃力の低い銃弾を偵察代わりに撃ったのであった。
「御守が守るルートを本気で抜けられると考えていたのか?」
マリウスの言葉に宗一は怒気を滲みませる。
彼は自身が未熟であると知っている。しかし、それは同格である他の等級魔法師に対してだ。新型兵器を持ち出しているとはいえ、魔術師如きに突破を考えられるのは『御守』の宗一にとって侮辱でしかない。
「不落の要塞こそ――御守の異能と知れ!」
宗一は無手のまま腕輪型のWSDを突き出す。
拳銃型WSDの照準アシストを使うまでもない。なぜならこの空間は一度自らの領域として支配していた。ならばデバイスの補助がなくとも狙いを定めることはできるからだ。
「攻撃が来るぞっ。反射を維持したまま攻撃はできんはずだ、タイミングを合わせて反撃しろ」
散開して配置についた兵士たちも拳銃型WSDから魔法陣を展開させ、それと宗一の魔術を防ぐためシールドの出力を上げる。
それを見ている宗一は構わず、色とりどりな魔法陣が空中に浮びあがり――魔弾を放つ。
「速いっ――、いや違う、反射が残ってるぞ――撃つな!」
宗一の撃った魔弾は発射直後、目に見えて加速する。
支配領域は解除されていない。マリウスは異常な速度で撃ちだされる魔弾に、宗一の領域が反射ではなく一方向に対するベクトル操作だと、自身の勘違いを悟った。
最速で発したマリウスの中止命令は遅かった。宗一の攻撃と同時に反撃するよう命じていたのだ、彼の攻撃を見てから命令を出しても間に合うはずがないのだ。
「ぐはっ」
「うっ」
部下達は宗一の魔弾、あるいは自分で放った魔術の反射を食らって呻いている。幸いシールドを貫通することはなかったものの、マリウス自身もまた頭を庇って被弾した左腕はしばらく使い物にならないだろう。
起死回生の一手も思いつかないマリウスの通信機に入ってくる別部隊の状況も芳しくない。隊長は御剣の異能者に劣勢を強いられ、残り二部隊も待ち構えていた魔法師を相手に突破できる気配はない。
作戦は失敗か。なんとか無駄な突撃を止められたMWの使い道を考えながら、マリウスはどうするべきか考える。
「御守会長、少しお話が……」
突如、春奈の式神が戦闘中にも関わらず宗一に話しかける。当然ながら、それが緊急の報告であるのは宗一も理解し敵から視線を外さず話を聞く。
「――ん? どうした、安部。そちらで何かあったか?」
マリウスも戦闘が行われても平然としている鳥が、その連絡用の人形だと気付いた。機械的な通信端末ではなく、魔術的な連絡手段として人形魔法を使うことは度々あることだ。
「――二番隊、聞こえるか」
「隊長……すみません。こちらはほぼ壊滅、戦闘継続は難しいです」
遅れてマリウスにも通信が来る。隊長から命令が来たのかと思い部隊の状態を簡潔に伝えるが、ヨハンから伝えられた言葉に耳を疑う。
「ターゲットがこちらに現れた」
奥に隠されていたと思っていた真祖のクローンが戦場に出てきたのであった。




