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運動音痴の現代剣聖  作者: 本間□□
2nd magic 人工吸血鬼は恋をする
24/35

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更新が遅れて申し訳ありません。

単純にモチベーションが低下が理由です。今後も金土日は更新しない場合があるかもです。


あと水曜日に短編を公開します。タイトルは考え中

「御調咲夜、ただいま戻りましたー!」


 御調本家の書斎に元気良く駆け込んだのは春奈――ではなく、春奈と全く同じ見た目をした別人だ。


「あら、お帰りなさい。お使いご苦労様」


 書斎で椅子に座る女性は開いた本を閉じ、姿を変えたままの咲夜から報告書を受け取る。


 その中には仁から見た張李の人物像と、仁が起きる前に話したティスとカーミラについて書かれていた。


「はい、おばあちゃ――御当主に任された伝令を果たしてきました。それと仁兄やんを騙す試練もちゃんと達成してきました」


 咲夜が御当主と訂正した祖母はとてもそんな年齢には見えなかった。


 肌に潤いがあり、シワやシミも特に見当たらない。艶のある黒髪は咲夜と並んでも姉妹か母と間違われるだろう。


「残念ながら後者は失敗のようですよ」

「ほえ? でも仁兄やんは何にも――」


 騙せた――そう思い込んでいた咲夜は締まりのない表情を祖母に晒す。


 感情をそのまま顔に出す中学生の孫が当主である御調美紀は心配だ。子供とは言え訓練を受けているにも関わらず、何故ここまで大っぴらなのか。


 異能の影響で若さを保ったまま長く生きてきた御調当主も、どう教育すればいいのか頭を悩ましている。


「お礼の電話にしっかりと『お使いの咲夜はきちんとその役目を果たしました』と聞いたわ」

「なんでー! いつバレたの!?」


 ぽんっと擬音がしそうな白煙をまき散らし、幻術で出来た春奈の姿が解かれる。


 そのあとに現れたのはショートカットの子供。男の子にも、女の子にも見える中性的な容姿をしている咲夜本来の姿であった。


 中学生である咲夜は第二次性徴も迎えておらず声や、仕草でその性別を見極めるのが困難。それは男女どちらでも化けられるように、あえてそう育てられたからである。


「最初からだそうです。『人に化けるなら異能だけに頼らず、話術や仕草もしっかり磨け』とも言ってましたよ?」

「うぐぐ、どうやって磨けばいいのさあ」


 咲夜の他者に化ける異能『変幻自在の化け狸』。戦闘が苦手で、代償が自己同一性アイデンティティの不安定化と癖の強い特異異能となっている。


 しかし極めれば姿だけでなく――記憶や技術、果てには異能も劣化はするがコピーをできる。『剣聖』にも決して劣らない強さを持つ力だ。


「私の異能は『化ける』ではなく、『潜り込む』ですからね……。敢ていうなら、完璧を求めるのは止めなさい」


 御調において異能は一系統ではない。多様な異能者(妖怪)の血が複雑に混じってる為、御調でさえどのような異能が発現するかわからない。


 なので孫が化け狸なのに対して、祖母はまったく別の異能を持つ。


「どういうこと?」

「誰かを騙すとき、人は自分を安心させるために必要以上の情報を出そうとするわ。でも情報を出すということは同時に、リスクもある。よほどの自信でもない限り曖昧に濁しなさい」


 咲夜は仁を完璧に騙そうとして、彼のプライベートな情報で信用を得ようとした。


 だから最初の「今日は遅かったね」の一言がすでに疑われる原因だった。


 前日に異能を使った事を知っている春奈が、たとえいつも決まった時間に起床する仁が遅くとも不思議に思うはずがない。


「ボクに人を欺くのは難しいと思う……よ?」

「それでは困るわ。あなたには次の当主に推したいと思うくらいには期待してるのだから」


 潜在能力が最も高いと御調当主が考えているのが咲夜である。本来なら誰でも演じられる異能はすなわち、咲夜自身のスペックが高いことを示している。


 けれども本人の潜在能力がいくら高くとも、性格が全く当主に向いていないという問題が立ちふさがる。


 美紀は咲夜の次期当主を諦めて、別の候補を選ぶべきか迷っていた。


「――婆様、そいつに御調の長は無理ですよ」


 そう言って扉を雑に開け、顔を見せたのは赤髪の優男。不良のような容姿をしており、仕草の一つ一つから粗暴さが感じ取れる。


「ノックくらいなさい、守典(もりふみ)

「いいじゃないですか。それと御調のシュテン、って名乗ってるんですがね」

「朱点童子のつもりですか。百鬼(なきり)から反感を持たれますよ?」

「俺はただの魔術師なもんで、……それぐらいの箔が必要なんですよ」


 赤髪の男、御調守典は異能を持っていない。御三家は異能を持っていることが当たり前――なんて風潮は無く、一族の比率で言えば普通の魔術師の方が多いのだが……。当主や幹部クラスになると異能者も多くなる。


 書斎の空気が悪くなる、それを肌で感じる咲夜は緊張して裏返ったまま声を張る。


「報告が済みましたので、ボクは失礼します!」


 すぐにでもその場を立ち去りたい、その一心で力加減を誤って大きな音を鳴らしながら扉を閉じる。


 外から咲夜の「ごめんなさい!」と謝罪のあとに、ドタバタと廊下を走り去る音が響く。


「いつまでもガキのままだ……」


 守典は去った咲夜を厳しい目つきで、ぽつりと口から出てしまう。


「まだ十歳と少しよ?」

「それでも御調としての自覚が無さ過ぎます」


 美紀からすればどっちもどっち――六十年以上を生きる彼女からしたら大学生である守典も子供だ。彼が仕事ではなかったらこう揶揄っていたに違いない。


「はいはい、ここには報告で来たのでしょ?」

「ええ、――狸塚(まみづか)が張李一味と接触しましたよ」


 狸塚は咲夜の発現した異能の大元、化け狸の血筋である。彼らはその幻術を駆使し、公安や軍に多くの協力をしている。


 今回も変装して情報を探り出していた。


「へえ……。それで裏切り者は?」

「今のとこ分かっている家は二つです。これから裏付けと他の繋がりを調査させます」

「わかりました。処罰に関しては御守と話し合いの場を」

「――魔法省にはそのように伝達しておきます。御剣にはいかがなさいますか?」

「報告だけで問題ないわ。身内の対処はこちらの領分ですもの――っと」


 守典と話をしてる間、美紀が目を通していた咲夜の資料を床に落としてしまった。先ほどまで軽く仮眠を取っていたのだが疲れは化粧だけでは隠しきれない。


「御当主も少し休まれた方が良いのでは」

「あら、守典が当主代行をしてくれるのかしら」

「後継者争いを今すぐ起こすつもりですか。当主不在でも我々は動けます」


 落とした紙の資料を拾い守典は当主の体を労わる。現状で当主の交代は混乱を招き、敵に隙を見せることになる。


 今は候補者で後継者争いをしている余裕はなかった。


「ありがとう。少し前ならそれも良かったのだけど……。吸血鬼騒動が起こった今、休む暇はないわ」


 守典は留守の間に報告のあったトラブルを思い出し奥歯を噛む。国内で吸血鬼絡みの事件は最低でも百年ほど記録になく、外から飛び込んできた面倒事に苛立ちが募る。


「御剣の長男が吸血鬼絡みのトラブルで、真祖から直接解決を指名された――でしたか」

「クローン吸血鬼が作られたそうですよ」

「――クローンって。吸血姫が東京に滞在すると聞いてましたが……、そこまで大事でしたか。東京が火の海になるのは御免ですよ?」


 真祖が暴れるとなると出てくるのは――帝だ。


 日本最強の神通力と欧州最凶の吸血鬼。その戦いの余波だけで東京が灰燼と化すのは避けられない。


「ふふ、そんな無意味に大暴れする方ではないわ。そういえば御剣の子が捕まえたテロリストの尋問はどうなったのかしら」

「すでに報告が上がってるのでは? あれから何日か経っていたと思いますが……」


 吸血鬼の話で血の狩人に関する事後報告を聞いていなかったことを思い出した美紀。彼女は未処理で溜まった報告書のデータから捜索している。


「えーっと――まあ。他の報告書と山になってたわ」

「お手伝いしたほうがよろしいですか」

「……後でお願いしてもいい?」


 さすがにこのままではまずいと思った美紀は守典の手を借りることにした。決して美紀がこういった仕事が苦手だったり、サボっていたわけではない。御調当主でも処理しきれない程に報告が集まってきてしまうのだ。


「襲撃者であるテロリスト側の情報が手に入るのは良いですが、クローンの方はどこの組織がどうやって作ったんでしょうかね」


 守典は情報を鵜呑みにしてるが、美紀の中にはテロリストに対する疑惑が残る。彼らが本当にテロリストなのか――だ。


 いずれ真祖と同格になるかもしれない少女のクローン。力を持つ前に殺すか、保護(洗脳)して自勢力の戦力とするか。世界の思惑は一人の少女を巡って大きく絡み合っているように美紀は感じた。


「そうね――、そもそも彼らは誰から吸血姫の遺伝子を入手したのかしら」


 もう一人のランクEXには『創造を司る』とだけ知られる正体不明の異能者がいる。吸血鬼が普段暮らしているのはその異能者が作った空間である夜の国だ。


 夜の国はこの世界との物理的な繋がりが限定され、その性質上外部からの侵入は困難。そうなると女王から遺伝子を入手する手段は限られている。


 それこそ内部から持ち出されでもしないと――。


「吸血鬼勢力にも裏切り者がいるとお思いで?」

「それならまだいいわ、内部で粛清を行われるだけだから。でも――流出が故意に行われたモノだったら?」


 吸血女王の国での求心力は強大であり、幹部である吸血姫からの忠誠に一片の陰りはない。そんな組織でここまで重大な裏切り者が出るのか、美紀はそこに違和感を拭えなかった。


「……一体何のために」

「それが分かれば苦労はしないわ。今はあなたも頭の片隅に覚えておきなさい。きっと今回の一件だけで吸血鬼との関係は終わらないでしょうから」


 美紀には土御門に頼るまでもなく、そんな未来が見える。その中心にいるのは御剣の次期剣聖であることも。

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