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運動音痴の現代剣聖  作者: 本間□□
1st magic 剣聖は走れない?
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2

京都弁ヒロインですが、関西弁とごっちゃになってるかもしれません。その辺りは数百年の間に混ざったと思っていただければ。

 仁が少しやり過ぎた翌日。


 彼の携帯端末には将人から幾度とコールが掛かって来た。――が、すべて無視した。


 どうせ昨日の後始末に関する愚痴だ。仁は死体と一緒に、ヒラキとなった建物の後始末もシレっと任せた。その猛烈な抗議が通信履歴の数に現れている。


 段々うっとおしくなってきた仁は最新のメッセージを確認して、


『寝たい寝たい寝たい寝たい寝たいねたんttttt、、、、、、、、、、』


 そっと閉じて端末を元の場所に戻す。


 何も見なかった、そうきっと質の悪い悪戯だ、将人さんも仕方ない人だな。


 仁が良い顔で悪い事を考えていると、周囲のクラスメイトが「どうした?」と不思議そうに尋ねる。


 ここは仁の入学した魔法科学校の一室。


 さらに詳細を語るなら、東京の迷宮(ダンジョン)都市にある魔法師育成機関、国立東京魔法科高等学校だ。東京以外に魔法科学校があるのは、同じくダンジョンの存在が知られる京都と沖縄の二校となる。


 ダンジョンに関しては話すと長くなるので今は説明は省かせてもらおう。


 そんな数少ない魔法科高校の一年教室で、仁は三人のクラスメイト達と会話をしていた。


 入学して二日目の学校。東京校は主に関東から集まった生徒が多く、顔見知り同士で集まっているのも見かける。


「人種の博覧会みたいな学校だな」

「黒人系は一人もいないけど。……他の教室にはいるのかな?」


 入学式で知り合った、クラスメイトの二人は教室の窓から見える色とりどりな顔にしみじみと感想を述べる。


 日本の代々続く古い一族を除くと、日本の魔法師は海外――主にアメリカ人の血が流れている人間も多い。


 魔法史をまだ学んでいないクラスメイトは不思議そうな顔で人間観察を続けている。


「留学生でもない限りいないだろ。当時はアフリカ系アメリカ人の地位が低い。日本とステイツの魔法師育成交流が白人系に偏るのもは仕方ない時代だ――」


 第二次世界大戦後、軍事面で最強と評価されていたステイツだが、実際の所は魔法技術という面で見ると後進国もいい所。


 一方、ステイツの仮想敵国である旧ソ連は多くの魔法師を有していた。一五世紀頃に欧州で始まった魔女狩りから逃れるため、多くの魔術師達が旧ソ連の奥地でひっそりと隠れ里を作っていたからだ。

 

 これらの事情から、


 八百万の神や陰陽と称し魔法と上手く馴染んでいた日本、


 強大な経済基盤と軍事力を持ったステイツ、


 軍の魔法武装化を進める中露に頭を悩ましていた二国にとって、日米同盟は都合の良い物だった。


 そんな当時の世界情勢を仁が解説するも、クラスメイトは頭から白い煙を吹きながらエラーを起こすロボットになっている。


「えーっと……、な、なあ! なんで安部は東京の学校なんだ? 安部ってあの清明の安部だろ?」


 ロボットの一人、赤みがかった茶髪が特徴の男子生徒が話題を代えようと他のクラスメイトに話を振る。


 この茶髪の男子生徒は灰原蓮司(はいばられんじ)。さきほど説明した魔法師の国際交流で生まれた混血の血筋を引いており、日本人離れした体格をしている。


 頭より体を動かす方が好きそうな彼は決して地頭が悪いわけではなく、複雑怪奇な世界情勢を一度聞いただけで理解するのが難しいのだ。


「実家の都合……やね」


 と、答えたのは仁の講義を頷きながら聞いていた女の子。


 安部と呼ばれた女子生徒は仁の幼馴染で、彼が春奈と呼んだ少女であった。


 安部春奈は陶器のような透き通った白い肌に、混じりけの無い純粋な黒い髪を腰まで伸ばし、和風美人を体現したかのような美少女。男子生徒だけでなく女子生徒も思わず見惚れてしまうほどの、芸術品のような少女だ。


 かと言って話しかけ難い高嶺の花かと問われれば、京都の訛りが残った口調が東京では珍しい愛嬌となって親しみも感じられる。


 そんな美少女は困った表情もよく似合う。


「灰原? 変な事聞くから春奈ちゃんが困ってるじゃん」

「別におかしなことじゃないだろ! お前だって気になってたんだろ」

「そ……それはそうだけどさ、もう少し順序ってのがあるでしょ。こっ――の、バカタレ!」


 机に腰掛ける蓮司を、もう一人のクラスメイトである工藤立夏(りっか)が足りない身長で彼の頭を叩こうとジャンプしている。


 残念ながら物理法則に、子供サイズの立夏が遥か彼方にある蓮司の頭に手が届く道理はない。


「中学から好奇心で動いては、周りを凍り付かせて。少しは大人になったどう!」


 兎のようにぴょんぴょん跳ねる姿に蓮司はげらげら笑って立夏の頭を押さえつける。


「お前はそのすぐ暴力で解決しようとするのを直したらどうだ?」


 ぜーぜーと呼吸する立夏は乱れた金髪もそのままに、蓮司が涼しい顔で腰を置く机の脚を蹴りつける。


 最新の設備である授業用端末が備え付けられた机はしっかりと固定されており、立夏のつま先を痛めるだけなのだが。


「立夏さん、どないしたん? わざわざ机の方を蹴りはって」

「蓮司が異能で肉体を強化してるんだよ」

「それは――いけずな人や」


 仁の視線の先には、蓮司のつける腕輪型のWSDが起動中である事を示すランプが灯っている。


 WSD――魔法師用近代化デバイス(Wizard staff Device)。


 ユーザーやメカニックからはリングや触媒、あるいはデバイスと呼ばれている現代版魔法の杖だ。


 魔法師が表舞台に出たのは銃火器どころか戦車が登場したのと同時期。弓から銃火器へ急激な近代化に伴い魔術は骨董品になりつつあった。


 即応性の高い異能や後方支援系の魔術師ならいざ知らず、ただの魔術師では最前線に出た所で魔術を使う前にハチの巣にされるのが関の山である。


 それを解決したのが一九九〇年代、機械技術を併用したWSDの登場であった。これによって魔術の行使に必要な処理の大半を機械に任せることができるようになり、動かない的(キャスター)から戦場の脅威(ウィザード)と呼ばれる兵科として確固たる地位を築いた。


 WSDは魔術だけでなく異能にも使える。なにせどちらも魔法と呼ばれるモノ、その差は先天性か、学習によって会得するかの違いでしかない。


「この脳筋め! か弱い乙女の拳ぐらい異能なしで受け止めなさいよ!」


 なんとかダメージを与えられないか試行錯誤する立夏に、ボクサーのような鋼鉄の肉体を維持する蓮司は半ば舐めた態度で高みにいる。


 それも立夏の思い付きで一転する。


「――そういえばこっち方向は試したことなかったっけ」


 彼女はがっちりと握った拳を解いて蓮司の手の甲を「えいっ」と()()


「いってえっ。それは無しだろ暴力女!」


 思わず立夏を振りほどいて蓮司は距離を取る。そもそもの話、蓮司の異能は決して防御力を上げる魔法ではなく、身体能力を上げるモノだ。


 昔から注意書きには必ず書いてあるだろう? 


『用法・用量を守って正しく使いましょう』――と。


 蓮司は文字通り「痛い目」をみて、それを知る。


「ふふん、こういった攻撃のほうが効果的だったのね」


 長年鬱憤を晴らすかのように立夏はじりじりと蓮司の素肌を狙って迫る。


「春奈の話はいいのか」


 このまま見てると担任が来るまでじゃれ合ってそうな二人を仁が止めた。


 内心、蓮司の言う通り気になってはいたのか、立夏はピタリと動きを止めて仁を見る。


「聞いてもよかったん?」


 遠慮がちにではあるが、その目の好奇心は隠せていない。


「別に聞かれて困る理由やないよ。うちの家がダンジョンの管理してたんは知ってる?」

「知らなーい」


 無知を恥じることなく立夏は宣言する。暴力が振るわれないとわかった蓮司はゆっくりと戻ってきて頭を押さえ首を振る。


「普通の人間は知らないだろうな。それこそ歴史好きの人間か俺らみたいな繋がりのある家でもないと勉強しないだろ」

「あー、うん。そうやんな。昔の陰陽寮は今の魔法省みたいな存在やってん。なら当然、一部の人間しか知らんダンジョンの管理もしてはった。その担当が安部家ってだけ。今は魔法省の管轄に移ったけど、今も京都の陰陽師はダンジョンに関わっとるんよ」

「それと春奈ちゃんが東京に来た理由は?」


 京都の陰陽師事情と春奈の上京に接点がないのを立夏は改めて疑問に思う。京都を本拠地とする陰陽師達、それも安部という名家のお嬢様が東京に一人来る理由がないのだ。


「仕事が減ったから」

「せ、世知辛いのじゃー」


 春奈が道中を飛ばした答えに立夏の思考が一瞬止まり、すぐに何が言いたいのか気付いた。


「飽和状態とまではいかんけど、魔法師も増えてきて陰陽師ばっかり京都に集まってもしょうがないから東京校を選んだんよ」

「そっちは表向きで、本当は京都以外なら陰陽術系統に縛られないからだけどな」


 仁の追加情報に今まで「へー」と相槌を打ってた蓮司も疑問を感じる。


「ん? 陰陽術以外を学びたいのか」


 魔法師にとって一族が継承してきた魔術や異能は最も重要な財産だ。それこそ清明など有名な魔術師を輩出したほどの名家なら、小さい頃から陰陽術のイロハを叩き込まれているはず。春奈自身陰陽師であると明言していたのだから尚の事。


「どうせなら色んな魔術に挑戦してみんと勿体ないやん? こっちにはしょーもない一族もいーひんし」

「春奈、本性が出てる」

「あらあら。かんにんえ――って、本性なんて言わんとって!」


 おほほ――なんて。上品な笑みで誤魔化すけれど、漏れ出た本音で春奈の見た目から想像できない一面を覗いてしまった蓮司達。歴史ある魔術師一族も色々苦労があるんだな、なんて同情的な目を向けるのであった。


「フォローしておくと、春奈の式神術関連の適正が高すぎるのが原因だ。天才の影響力は大きい、良くも悪くもな」

「一族の期待が重いと……。春奈ちゃんの式神ってそんなにすごいんだあ」


 有能な人間によくありそうなプレッシャーに、立夏が「そっかそっか、春奈ちゃんも大変なんだ」と苦労を労いながら分かった風な顔で頷く。


「四神を同時に4体契約してるのは歴代で安部清明と春奈だけって話だ」

「青龍とか白虎とかってあれだろ。俺でも知ってる有名な式神じゃねえか」


(プライベートの青龍以外はただの悪ガキだがな)


 心の中で仁はそう呟く。


 飯だ、ゲームだ、眠たいだ。


 なんと好き勝手な人生――式神生を謳歌する連中が春奈の式神なのだ。


「うちみたいな異能頼りな陰陽術より、しっかり頑張ってる子達を応援してあげた方がええんよ」


 春奈は実家に居た頃に感じていた一族の批判を口にする。


 異能とは本能に近い。


 鳥がすぐに飛び方を覚えるように、生まれた時から持っている力を自らの功績として誇る趣味は春奈にはない。

 

 それに体系化された魔術と違って、異能の経験値を蓄積した所で次代に引き継げることは少ない。未来の事を見据えた春奈の言い分と、近く起こりそうな戦争に対する危機感を持つ一族。仁はどちらの考えも正しいとわかるからこそ、口を閉ざしている。


「大体、うちの魔術って――」


 一度垂れ流しになった文句は止まらない。仁達がそれを苦笑いで聞いていると、閉じられた教室の扉を開け放ち、まっすぐにこちらへ向かってくる規則正しい足音がした。


「あらあら。式神使い様はいいですね、余裕があって」

「……冬乃(ふゆの)ちゃん」

「土御門です! ちゃん付けで呼ばないでください」


 土御門冬乃。彼女は廊下でずっと会話に入るタイミングを見計らっていた。


あと後半2000文字ほど分割しましたので、後ほど投稿します。


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