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運動音痴の現代剣聖  作者: 本間□□
2nd magic 人工吸血鬼は恋をする
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1

 あれから数週間後、仁は明久と手合わせした訓練施設とは別の施設で拳銃を構えていた。軍の射撃場のような室内には、ターゲットである的と機械が訓練に励む生徒の手伝いをしている。


 この数週間の間、工作員による何らかの事件が起こる事も無かった。そのおかげか魔法科学校の生徒達は例年と変わらない学校生活を送っていた。


「Ready」


 別のレーンには立夏や蓮司達も居る中。仁は機械の音声に従って午前の実習をこなす。


「3,2,1――go」


 機械音声の合図と共に仁は訓練用の魔術がセットしてある拳銃型WSDを操作する。


 WSDに引き金はない。WSDは拳銃の形をした魔術師の杖、魔術の行使は術者の意思によって行われる。


(ターゲット――座標指定頭部、胸部のマルチロック。……座標を取得、WSDの魔術式へマナと共に入力完了)


 仁の魔術は発動した、――けれど命中したはずの人型で薄っぺらい的には二か所の赤い点が明滅するのみだ。。


 それは当たり前の事で、訓練用の魔術は命中精度、発動までのタイムを計るためのモノでしかない。


 一年生どころか入りたての雛に銃を撃たせる、危険なことはまださせられない。


 25メートル先の的に向けられた拳銃型WSDからは熱も振動も生じることはない。音もない魔術を射撃ゲームのように動く的に向けて何度も放つ。


 全ての的を撃ち切ると「ピピー」と終わりを知らせるブザーがスピーカーから鳴った。それを聞いた仁は訓練用のWSDを元の場所に戻し、自分の成績を確認するためモニターのある方へ歩き出す。


 訓練用のマガジンが入った銃把(グリップ)の底は訓練用の装置とケーブルで繋がっている。その装置に取り付けられたモニターには、命中箇所とタイムなどの成績が表示されている。


「平均命中誤差コンマ5以内、合計タイム30秒18――か」


 小さく安堵の息を吐いた仁は自分の成績に満足気だ。


 明久の手合わせをした日の夜から、仁は自宅にある地下工房の試射室に篭った。


 久しぶりに触った拳銃型WSDに自分の腕が落ちていると密かに焦っていた彼は、勘を取り戻す為にしばらく練習した成果である。


「うちの勝ちい! 命中誤差コンマ2、タイム25秒97!」


 そんな仁の横からモニターを覗き込み勝利宣言をしたのは春奈であった。


 射撃訓練は二人にとって慣れた訓練。教員が苦戦している他のクラスメイト達にかかりっきりな間、二人はクラスメイトに軽く助言しつつ的当の訓練(遊び)に興じていた。


「なぜか建物の中にいる――あの鳥はなんだ?」


 仁が何十人も生徒の居る建物で寛いでいる不自然な鳥を指さす。どこにでもいそうな目立たない色合いの鳥であるが、どうみても上から監視するように的を見ている。


「ひゅーるるー」


 証拠隠滅を図る春奈は下手な口真似で口笛を鳴らし、鳥の姿をした式神は建物の隙間に姿を隠す。そして、何事もなかったかのように「えへへ」と笑顔で誤魔化す。


「勝つためなら手段を選ばんのか」

「嫌やわ、式神なんて使ってナイヨ?」


 WSDのスコープを使わずに式神から照準を付けることは別に違反ではない。今回の授業はそこまで指定されていないので、陰陽師流でも構わないのだが。


 なぜか小賢しいと感じるのは春奈だからか。



「オレ達と次元が違う勝負ですねー」


 後続と交代した蓮司達が仁と春奈の訓練を見学に来ていた。


 ようやく何回かに一度、的に当てられる程度の腕前で、仁達のようにタイムや精度がどうこうと言えるレベルではない。


「仕方ないよ、向こうは魔法の名家だもの。自分達で訓練ができる伝手くらいは持ってても……ね」

「かと言って、代わりたいか聞かれても全力でお断りだ」


 レーンの鉄柵に手を乗せて、蓮司と立夏はだらけて話す。


 一般家庭――両親共に魔法師ではあるが――で育った彼らは自分達の家も十分に裕福である事を知っている。


 魔法師という限られた職種は基本的に高給であるのが当たり前。また、殉職する魔法師もいるが残された家族への支援は手厚い。なので貧困な魔法師というのはよほどの事がない限り有り得ない。


 そんな彼らも自分の身の丈に合った環境をわかっていた。


「命を危険に晒してまで欲しいって思う馬鹿はいねえよ」

「同感」


 テロリストがダンジョン都市で潜伏してる可能性があるとだけ聞かされた蓮司達は、それに戦力として手を貸す可能性がある仁達に同情的だ。


 蓮司の隣で頷く立夏と秋穂も、ようやく中学生から高校生へと上がった自覚を持ち始めたばかりなのだ。


 仁と春奈みたいに自分が戦うかもしれないとわかって、平常心で学校生活を送れるとは思えない。


「ちょっと二人とも――」


 蓮司と立夏の無神経にも取れる意見を秋穂が慌てて止める。


 けれど仁達がそんなことを気にする人間ではない。むしろ、それぐらい気安い方が友人としては有難いと思っていた。


「――お前ら……随分好き勝手言ってんな」

「うちらの助言は必要ないんかな」


 怒ってるように見える笑顔だが、ただの見せかけだけ。その証拠に護衛の式神、忠犬青龍は凛々しい顔でじっと施設内の入り口に立っている。


 さすがに施設の中に居ると訓練の邪魔になるということで、彼女は邪魔にならない場所で待機である。


「ええー、私達にもなんかアドバイス頂戴?」

「数をこなせ――以上」

「おいおい、適当だな」


 仁の単純明快だが、的を得た真理でもある助言。結局のところ、何度も練習して動作をスムーズに行えるようになるのが地道ながら最短の近道でもある。


 それがわかっているから蓮司も半笑いだ。。


「それにしても拳銃型WSDもカッコいいよな」


 蓮司は仁と入れ替わりに、空いたレーンに入りWSDを手に取る。さっき初めて手に取った拳銃型WSDには東京校ここの校章である桜が刻まれていた。


「またか……、さっきも他の連中と一緒に騒いで怒られてただろ」

「そう言うなよ。仁もわかるだろ? 拳銃――ってか兵器の魅力がよ」


 仁も武器の持つ魅力を否定しない。


 彼も自分専用の武器型WSDが欲しいと思ったことはある。普段護身用に使う仕込み杖は何の魔法的仕掛けの無い武器。


 あれはあれで気に入っている部分もある、――だがしかし。男子たるもの専用装備というモノに対する憧れを捨てたつもりもない。


「ならさっさと魔法師として認められるんだな。そうすれば国が専用装備を作る支援の一つや二つしてくれるさ」


 一瞬だけ手首の腕輪に視線を落として、仁は蓮司が聞きたそうな話をする。


「あん? それって本当だったのか」


 立夏と秋穂の方は春奈が見るようで、別のレーンに向かうのを仁は視線の端で確認した。


「当たり前だろ。戦力になる魔法師を確保するため、どこの国もそれくらいの優遇はやってる」


 実際には専用装備ではなく、カスタマイズの方が近い。


 一から設計して作るのは仁のように国有数レベルの魔法師だけの話であり、大抵は国の予算で装備を優遇してもらうほうが一般的かつ現実的だ。


 しかし、わざわざ蓮司のやる気に水を差す現実の話をする必要はないだろう。


「仁も――専用装備が?」

「――さあな。どっちだと思う」


 仁は意味有り気な表情をしている。

 

 蓮司はそんな仁の顔を見て悩んでいるが左右の腕に身に着けたWSDには見向きもしない。形状的な話で腕輪型に求められるのは使いやすいという事、特定の分野に特化させる戦闘専用のWSDは適した武器の形をしてるのが一般的だからだ。


 戦闘用といえば、例えば聖剣と呼ばれる物や対艦用の超大型WSDなんて物もある。


「そのために量産品を使いこなせる技量を目指せ、話はそれからだ」

「りょーかい。オレの異能なら拳銃より近い間合い(インファイト)で戦うべきか?」


 手に持つWSDに軽くマナを流して反応を探った蓮司は、予め教員が設定した初心者向けの訓練を始める。


 仁と春奈も一度は同じ内容でやっていたのだが、それは成績として最低限残す必要のあるノルマだからだ。その後にプライベートでやる射撃訓練と近い設定で遊んでいた。


「優先すべきは近接戦闘……が王道か。異能を一番活かせる間合いはそこだろ、中距離は魔術をばら撒きながら接近すればいい」

「メインが接近戦なのはいいとして、射撃戦で何もできないのは問題だよな」


 雑談を中断し、WSDを両手で構えて的を狙う蓮司。何度か当て感を確かめて、今度は片手で照準を定める。


 近距離戦闘をメインにするならば、両手で構えて悠長に狙いを定める時間はない。実銃のような火薬の反動はないのだから片手で素早く狙ったほうが近接では有利だと考えたのだ。


 そしてそれは正しく。仁も距離が離れているか、精密な座標が必要な時のみ、両手で構えて手ブレを抑えるようにしている。


「あ――ったら――ねえ!」


 一射……二射……三射……。仁のように特殊な付加もせずシンプルな魔弾を想定した魔術を撃ち続ける。一発ずつしっかり狙って蓮司は撃つのだが、どうにも自分が思っている以上にズレる


「なら連射の練習もしたらどうだ?」

「魔術の連続行使か? ハッピートリガーってのは立夏の方が似合うよな、……普段の行いを知ってると」

「俺は何も言わないでおこう。――物量で押し込むか、質で攻めるかは自分で考えろ」


 同じ事を繰り返すのは飽きるだろうと、仁は練習を少し変えることを提案する。


「色々試してみるのも大事か。よっし、設定は頼むわ」


 それに蓮司が乗ったのはちまちま狙うより、連射の方が楽しそうという彼の性格もある。試しにと仁に的の設定を頼んで、精密射撃ではなくループアシストによる連射機能で試射してみることにした


「よし、スタートを押したぞ」

「あいよ、頭を真っ赤にしてやんよ」


 自分に活を入れて蓮司はWSDを持つ半身を前に出して銃を構える。


(連射なら途中で誤差修正ができるが、常にマナを供給し続けながら狙いを定めないといけない。難しいの質が違うんだよな、――文字通りばら撒くくらいが丁度いいっていつ気付くか)


 思考こそ魔法師にとって最大の武器――、そう教えられて育った仁は自身の経験を元に友人へ助言している。


 軽い気持ちで仁からの助言を貰いながら訓練をしていた蓮司は、後になって自分が御剣流の教育を受けていたことに気付くことになる。


「――んん? マナ供給しながらどうやって狙えばいいんだ!?」

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