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運動音痴の現代剣聖  作者: 本間□□
1st magic 剣聖は走れない?
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 放課後、体を動かすのをメインとした訓練用施設に仁と明久、他10名程の監視兼見学者の姿があった。


 明久の頼みは自分と戦って欲しいというモノ。実際に戦って確かめれば納得できる――、という彼の脳筋的結論は生徒会と風紀委員の面々には簡単に予想できた。


 そんな訳で御守会長から御剣の新入生を協力者として勧誘すると聞いてすぐ、いつでも訓練施設を使う準備を済ませていたのだ。


「御剣、WSDは訓練用だが問題はないか」


 拳銃型のWSDを投げ渡そうとする明久に、仁はストップをかけて直接受け取りに行く。投げ渡されても運動音痴の代償異能を持つ仁にはキャッチできず、歩いて取りに行くのは転ぶ懸念があるのだ。


「落しても壊れにくいですけど、わざわざ危ない事をしないでください」


 ……本当にこれで戦えるのか。明久は不安そうな目で仁を見ると自分の訓練用WSDを手に取る。


「私物のリングと接続するのは?」

「構わない。ただ魔法の管理権限は訓練用AIに移してくれ」


 仁は何度と射撃訓練したことのある拳銃型WSDの感覚を確かめる。


 銃型のWSDは遠距離攻撃に有効な機能に特化している。実銃のような見た目をしているが、


 ――銃口には穴の代わりに演算装置とOSを、


 ――マガジンには弾丸の代わりに使用魔術を切り替える為の交換可能な記憶領域を、


 ――スコープには距離を入力するためのアシスト機能を、


 見た目は銀色で無機質な拳銃は数百年と研磨しつづけた機能美を体現する。


「スコープのアシスト機能はどうだ」

「感覚を思い出すのに少し時間が欲しいですね」


 明久は、久しぶりに触れるスコープ照準機能を無人の壁で試している仁に話しかける。


 腕輪型の簡易照準の立体映像とは違う、詳細なデータを脳内の魔術領域で整理する。仁と春奈の持つ高性能WSDが補佐していた作業の大部分を、自力で処理するのは若干の勘を取り戻す時間がいる。


「触った事があったか。さすが御三家だな、オレがキッズ用の防犯仕様リングを卒業したのがこの学校に入学が決まった頃だぞ」


 キッズ用のリングとはGPSや警察への自動通報などの防犯機能が充実しているが、一部機能が制限されたWSDを指す。制限された機能は主に魔術の発動で、保護者はマナに干渉する能力――魔力を鍛える為にWSDを持たせる。


「力を持つ家の代償ですよ。子供が犯罪に巻き込まれやすいのは」

「最低限自衛する力が子供でも必要か……」


 如何に自分の居た世界が平和だったか、明久はその片鱗を見せつけられた。魔術を使えるWSDを子供に与えるのは違法ではない――が、倫理的に持たせない。


 しかしそれでは力ある一族の子供は危険に晒されるだけだ。逃げるための手段を子供に持たせる必要を明久も否定できない。


「癖がなくて使いやすいですね」


 腕輪型と拳銃型のWSDをケーブルで繋ぎ、仁は必要なセッティングを行う。


 明久の方はすでに適切な設定を構築してあるので貸出のWSDに繋げばすぐに使える状態になる。なので今は仁の準備が終わるのをストレッチしつつ待っている。


「……訓練用なんだから当然だ。キロ単位の超遠距離用もそうだが、百メートル以上も離れると慣れるのに手古摺るぞ」


 二人はこれから手合わせする。


 にも関わらず、真摯なアドバイスをするのは面倒見の良い明久らしい。


 すでに明久の中で結論は出ているが共闘するなら力を知ることにも意味はある。そう彼の中で手合わせの意味合いは変わりつつあった。


「家繋がなりで、俺も小銃型は触った事がありますよ。確かにアレはカスタマイズしないとズレますね」


 軍(秋山)の研究所で扱った事があるのは500メートル程度が射程の小銃型。それも腕輪型WSDの補佐がある状態でだ。


「はは、オレ達も苦戦してるからな。簡単に使われたら立つ瀬がないぜ。どこのWSDを触ったんだ?」

「ステイツのM&E社製のアサルトタイプです」


 Mage & Engineer――ステイツでいくつもの名銃を産み出した銃器メーカーのWSD部門から独立した、ステイツ最大のWSDメーカーである。日本が提供した技術をベースにしたM&SのWSDは民間のハンターからも信用が高い。


「おお、まじか。訓練用は日本製だからな、一度は海外のWSDを試したいんだよ」

「リング型と違って銃型は最低でも数十万しますからね」


 銃器とは浪漫である。いつの時代も武器に魅力を感じるのは男子の特徴だ。その例に漏れず銃器型WSDの話で二人は盛り上がっていく。




 それを監督役である宗一達が離れた場所から見ていた。


「あいつら楽しそうに談笑してるな」

「明久は元々、面倒見のいい男だ。こうなるのも予想通り……なんだが、何のための手合わせだとは言わせてもらいたい」


 宗一と正芳が呆れているのを春奈が宥める。彼らも別に怒ってるわけでもないのですぐに眉間のシワを解く。


 二人も他の生徒と同じく、御三家の看板を背負う仁がどのように戦うのか気になるのだ。


「あら、ええやないですか。仁君がどう戦うのか、ある程度知っておいてもらった方がうちらも動き易いですよ。――でもEUのWSDも面白いのになあ」

「春奈さんもWSDに興味があるのかしら?」


 春奈のWSDの好みに反応したのは生徒会の女子生徒。語部(かたりべ)詩織(しおり)は春奈達の一年先輩で魔法科学を選択している生徒会の会計であった。


 あまり運動が得意そうではない体つきで、大型のWSDを使うには体が振り回されそうな程小柄である。


「春奈さんもFS社などが作る幻想(レリック)型WSDのファンなんですか!」

「語部先輩もああいうデザインが好みで?」


 春奈も本来なら腕輪型のWSDではなく、幻想型と言われる――伝統的な見た目のWSDが欲しいと希望した。


 その趣味全開な希望は二人のWSDを用意した技術者が「なら一日これを持って生活してみろ」と渡されたモップで折れることになった。


「はい! やっぱり魔法使いは杖や魔導書も良いと思うのです。見た目も硬くないですし」

「語部、デバイスを見た目と趣味で選ぶな! 幻想型と銃器型はそもそも使用用途が違うだろ」


 詩織の第一志望は魔法大学の魔法工学であり、戦闘とは無縁ではある。


 だからと言ってそんな子供染みた理由で魔術師がデバイスを選ぶなと、宗一が雷を落とすのもわかる。


「あら、冬乃ちゃん。目が泳いではるけど、知らんかったん?」

「――ちゃん付けで呼ぶな、バカ狐。土御門は古い人間の主張が五月蠅いのです」


 それだけで似た境遇の春奈は冬乃の言いたいことが分かった。WSDの力が世界で初めて認識された時も全ての陰陽師が受け入れたわけではない。


 頑なな保守派の人間はどんな組織にも一定数いるものだ。


 それは安部家や土御門なども同じで、むしろ当時の当主が有能だったがために何とかいち早く導入できた。


 その結果が魔法大戦(中華内乱)で衰退する一族と生き残る一族の差となった。


 そんな名家の御令嬢は老人共の口癖を同時に真似る


「「『日本の陰陽師なら日本製の道具を使え』」」


 二人はくすくすと笑い合う。そこに仁が居たら昔と同じだと感じる光景だろう。


「安部家にもいるのですね」

「そっちもやん。そういうのに限って日本製のWSDと海外製のWSDの見分けが付かんのよ。腕輪型か銃器型なら全部日本で、幻想型が海外なんて……現役時代でも有り得ないと思わん?」


 似たような魔術師の家系とはいえ、御剣や他の魔術師と陰陽師は毛色が違う。春奈と冬乃が抱えてきた伝統という邪魔物への愚痴は次々飛び出してくる。


 唐突に始まった春奈達の陰陽師一族への愚痴大会は先輩からの声で止まった。


「新入生――楽しくおしゃべりしてるところ悪いが、そろそろ準備ができたみたいだぞ」

「すんません、堂島先輩」

「ごめんなさい」


 我に帰って周囲を確認すると、先輩達が春奈と冬乃を見てにやにやしている。


 人の不幸は蜜の味……ではないが、エリート一族である二人の年頃の女の子らしい話は一方的な親しみを感じていたのであった。


「さあ、試合を始めましょうか。二人はどんな戦い方を見せてくれるかしら」


 わくわくとした笑顔は太陽のように輝く、その顔で時雨はそろそろ準備ができたか仁達へ確認した

拳銃型WSDをリング型と接続してるのは、リング型に収納されてる魔術を使用するためです。


あと二話ほどかな? でメインである吸血鬼の章にはいります。



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