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表記ブレを一か所直しました。 戦闘魔術→魔法戦術学
他にも修正忘れがあるかもしれません。
それと評価を頂きました! ありがとうございます。(やったー!
「ねえ、仁くん。あの子達も次から連れてこようや、強制で」
トレーに乗ったランチセットを持つ春奈はそう言った。
仁達がいるのは食堂だ。
右に春奈、左に冬乃、どちらも一年生の中で美人と噂され始めてる女子生徒。傍から見れば両手に花な状態は男子生徒から嫉妬の視線が突き刺さってもおかしくない。
――しかし、誰一人として仁を羨むことはない。
それどころか一緒に食堂へ来たクラスメイトである蓮司達も、今は遠く離れた席で絶対に関わらないぞという固い意思で目を逸らすのだ。
「やめとけ。誰も俺らと食堂に来なくなるぞ」
「えー、いくじなしやな」
蓮司、秋穂が申し訳なさそうにしている中。立夏だけが春奈の言葉を聞いてしまい、滝のような汗を流している。
それを面白そうに見ている春奈を冬乃が足で蹴りつける。
「一般人はこんなに名家の人間が集まってるのを見たら委縮するモノです。もう少し常識で物事を考えてはどうですか? バカ狐」
「主と敵対しますか? 土御門の――」
冬乃の蹴りは式神によって防がれた。朱雀達なら危険の無いお遊びの蹴りを防ぐ事はしないが、今日の式神は生真面目が服を着ている少女であった。
春奈達と同じ魔法科学校の制服を着た青い髪の少女は青龍。赤白コンビとは真逆の、落ち着いた態度と切れ目が気品のある美人である。彼女が制服を着ているのは学校公認であることを示す為だ。
小学校の高学年か中学生くらいの――省エネモードな青龍が着ている子供サイズの制服は高校生向けにデザインされているのだが、彼女の持つ委員長気質な空気と良く馴染む。
ただ見た目が幼いため、頑張って大人ぶる子供にも見えて微笑ましくもあった。
「はいはい、青龍も怒らんの。ちょっとした遊びやから」
「ごめんなさいね、三人とも。春奈ちゃんが式神を作り終わったぐらいに、生徒会室で紹介するつもりだったのに……。まさかこんなことになっちゃって」
申し訳なさそうに謝るのは時雨であり、その横には宗一と正芳もいる。
「俺達が食堂で一緒に飯を食うなんて二年の後半から無かったよな」
「わざわざここで話さなくとも、生徒会室のほうが落ち着いて話ができるからな」
午前の授業が終わり、食堂には食べ盛り達がぞくぞくと集まってくる。そんな本来は賑やかなはずの一角に集まってしまった生徒会と風紀委員――さらにそこへ混ざる新入生。
宗一達が言う通り、食堂の長机に七人と一体が向かい合っている姿は違和感しかないらしい。一般生徒達が気になってチラチラ覗くのを苦笑するだけで、三人は特に気にしていない。
「さて、こいつは二年の明久だ。二階堂が言ってたように食堂で顔合わせするつもりはなかったが……。昼休みに出くわす可能性を忘れていた」
強面な優等生である正芳が紹介したのは自身と正反対な風貌の自分の後輩であった。七人目である同席者は先輩が紹介したからか、渋々とといった風に話し始める。
「――二年、風紀委員の斉木明久。選択は魔法戦術学」
なぜ不機嫌な顔をしてるのかは彼の自己紹介を聞けばわかる。入学したばかりの新入生が、特別扱いされるのが気に入らないとはっきり言っているのだ。
魔法科高校では一年は基本的な事から学ぶ。二年からは軍人やハンターなどの戦闘を専門とする魔法戦術学、技術者である魔法科学のどちらかを選択する。
その選択すらしてない一年を関わらせるのに、明久は余り良い印象を持ってないだろう。
「まあ、こういう奴でな。見た目はこれだが別に授業態度や礼儀は悪くない、意外と優等生ってのが学校の評判だ」
「意外とって……、堂島先輩、オレを褒めてるのか、貶してるのか。どっちなんですか」
「褒めて欲しいならもう少し大人になるんだな」
明久は「どこが大人じゃないんですか」と聞き返し、「自覚がないのかしら?」と時雨が即座に返して言葉を詰まらせた。
「春奈ちゃん、悪いんだけど結界を頼める?」
「どの程度でしょうか」
「うーん、あんまり大げさにしなくていいかな」
「それじゃあカーテンと防音で。青龍、お願い」
さすがにこのまま話すと風紀委員の醜態と情報の漏洩が不味いかな、と思った時雨が春奈に防諜結界を頼む。
頼まれた春奈は背後に立つ青龍にお願いして結界を張ってもらう。頼まれた青龍は表情は変えず、嬉しそうな雰囲気だけ醸し出して結界を作った。
「主よ、これでいいでしょうか」
「先輩?」
「ええ、十分よ。ありがとう、青龍ちゃん」
青龍の作った青いカーテンは中の人間の影だけを見せ、会話が聞き取れないように隔離する。見た目にも優雅な防諜結界を一同が感心しつつ、彼らも食事を始めた。
「どういたしまして。感謝は主にお願いします」
「真面目な子ね」
「朱雀と白虎にも少しは見習って欲しいわ。はい、これはご褒美ね」
家は別だが、青龍は外で食事を滅多にしない。人の目がつくところでは、青龍は頑なに従者であろうとする。そのため、こうして褒美という形でないと食事も受け取らないのだ。
そんな式神であるが、春奈からプリンを受け取る一瞬だけ嬉しそうに口が歪むのだから意外と人間臭い。
「ありがとうございます。あのバカ二人が大人な振舞いをしても、違和感しか感じないと思いますが」
「それはそれで見世物になるやん」
青龍はいそいそと制服の袖にプリンを隠す。
きっと自分達が午後の授業を受けてる間、グランドの木陰でじっくり味わうつもりに違いない。
青龍『本来』の姿を知ってる春奈と仁はそのギャップに吹き出すのを耐えながら、先輩の方に意識を戻す。
「斉木はどうすれば納得するんだ?」
不満そうな後輩を説得するのは当然、風紀委員長であり先輩でもある正芳だ。彼も先週まで反対気味な立場であった。けれど宗一から魔法科学校の周辺で起こっている事件を聞いて、その意見を翻した。
「安部については特に不満はありませんよ。隣の式神を見れば、その技量はわかります。けど――御剣の方は……」
明久は春奈の人型をした高位式神を見て、自分でも勝てるかわからない相手だと理解している。だが仁は強さを示す指標がない。それどころか『運動音痴』は普段の所作にも影響を与え、明久彼の目には隙だらけに見える。
「仁君に何か問題でも?」
「春奈、笑顔に圧を持たせるな。シワになるぞ」
「もー、うっさいやい」
それが真っ当な事とはいえ、家族とも言える仁が舐められて春奈も機嫌が悪くならない程大人でもない。
美人の威圧がこもった笑みに明久も若干引き気味だ。
「『御剣』だから、では納得できないということか」
「……家の名前でルールを破るのは間違いだと、オレは思っています」
「確かに、お前が言う事も間違ってない」
デリケートな代償異能は出さず規則を理由にする辺り、明久が評判通りの優等生で気の回る男なのだ。
彼が仁の協力に否定的なのは戦闘経験が無いと思っているから。
不良っぽい見た目から分かりにくい優しさなのだ。それを知る時雨は顔を逸らして笑いを隠す。
「――では!」
自分の考えに同意したのを聞いて明久は一瞬熱くなるが、宗一の圧を持った声がその熱を奪う。
「斉木、ルールを誰もかれも守ってくれると思うなよ。理不尽な暴力とは人の道理から外れているモノだ」
御三家や陰陽一族のような国と深い繋がりのある人間とは違い、明久達――普通の生徒に今回の北中華の暗躍は詳しく知らされていない。
ただ奴らの工作員によるテロや誘拐があるかもしれないと、可能性の提示だけだ。宗一が正芳に多少詳しく教えたのは親友であり、自分が学校を離れざるえない状況になった時の保険としてだ。
「そのためなら規則なんて無視しても構わないと?」
まるで子供の理想論だ――、冷静になった明久も自分の滑稽さに気付いたのか少し顔を赤くする。
「自分が正道で戦うからと相手も卑劣な手を使わないと思うな。斉木、もっと広い視野を持て、常識に囚われるな」
「――と理不尽な異能持ちが申しています」
「知るか、文句は昔の人間に言ってやれ」
最後の最後で時雨がお茶目っ気に話を締める。若干手遅れな感が否めないが、冷めきってしまう前にお昼を食べましょうという彼女なりな気遣いであった。
「御剣、一つ頼んでもいいか」
「なんでしょう」
明久は自分を納得させるために仁へ頼み事をする。
以前から明久を知る正芳達は「やはりこうなったか」と予定調和とも言える結果に、諸々の準備をしておいて良かったと頷き合った。




