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運動音痴の現代剣聖  作者: 本間□□
1st magic 剣聖は走れない?
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新作投稿、よろしくお願いします。もしよろしければ感想、評価、ブクマを頂ければ、作者のモチベーションになりますよっ。


今回は毎日更新するつもりはありませんが、ほぼ毎日に近い更新にはするつもりです。


 春の夕日が空を染め、若干の肌寒さを感じながら煙草を吸う制服姿の青年。周囲にはニコチン臭さはなく、果実の甘い匂いがほのかに香る。


 高校生くらいの青年は放棄されたコンクリートと鉄骨が剥き出しの廃墟に一人、冷めた表情で誰かを待っていた。


「遅くなって悪い、軍の秘密主義者共が情報をなかなか寄こさなくてな」


 そこに一人の中年男性が現れて親し気に青年へ話しかけた。高級そうなスーツを着こなす姿はどこぞの商社のサラリーマンにも見えるが、悪ガキがそのまま大人になったかのような雰囲気もある。


「御剣の名前を出せばすんなりいくんじゃないですか?」

「関係ないんだよな、これがよ。どっちにしろ確認と探りで時間を取られるのがお国の組織って奴さ」


 情報のやり取りは面倒だ。異なる組織の場合は尚の事。


 はいそうですか――なんてスムーズな情報交換をしてもらえるはずがなく、面倒な手続きや上との確認、探ってくる事務員を倒す等の試練を乗り越えなくてはならない。


 青年はそんな中年の武勇伝(愚痴)なんてどうでもいいと、煙草を吸って拒絶の意思表示をする。


「お巡りの前で煙草とは良い度胸だな、仁」


 中年の男――東野将人は専門家でもないと覚えていない法律を持ち出して、青年を冷やかした。


「……将人さんは警察は警察でも公安のほうでしょう。それにこれはただのアロマ煙草ですよ、煙草が体に悪いなんて何百年前の話だと思ってます?」


 体に有害な煙草が廃れ去ったのは百年以上過去の事だ。


 煙草の若者離れ、その言葉が懐かしいどころかニコチンと共に化石になっている頃だろうか。今では煙草と言えば、アロマセラピーを目的にした香りを楽しむ電子タバコが当たり前の時代になっている。


「いや、その大昔の世情をなんで高校生が知ってんだ」

「春奈達の趣味に付き合わされて、ですよ」


 青年――御剣仁(みつるぎじん)のなんとも子供らしくない態度が気に入らず、将人はムスッと不機嫌そうに自分も煙草を取り出して言う。


「ニコチン煙草は二百年も昔ではないさ」


 後輩のほうがまだ可愛げがある。そう言いたげな眼で見る将人を一蹴して、仁は呼び出した本題に入ろうとするのであった。


「雑談で潰すほど、俺も時間を持て余してるわけじゃないのですが?」

「そりゃ偶然だな。こっちもクソ忙しくて休む暇がないんだ」

「アレですか」


 将人は煙草をくわえて、欧米人のようなオーバーリアクションで自身の不幸を嘆く。仁はそんないつもの剽軽(ひょうきん)を無視して、背後に転がる人形を指さす。


「たしか昨日が魔法科学校の入学日だったよな。お前、なんかに憑かれてるんじゃないか」

「御三家が面倒事に巻き込まれない、起こさないとでも?」


 ――否、それは人形ではない。さきほどまで動いていた人間だったモノだ。


 四組の人間だった上下が胴体で綺麗に別れている。もし切断面からグロテスクな臓器が見えてなければ、人形と言われても納得してしまうほどの非現実的な亡骸である。


 非現実――それは死体が転がってることでも、鋭く斬られた断面のことでもない。


 公安であり、国の裏側で多くの荒事を経験する将人ならわかる。この死体が元から()()()()()死体であることが。


 まるで後から死体を切ったかのような現場(げんじょう)を見た将人は顔に張り付いた軽薄さを変えず、冗談を言って余裕をかましている。


「これはまた手加減無しでやらかしたのか?」

「ほう」


 何気ない将人の言葉で仁の周囲が氷点下まで凍り付く。この程度の言葉の裏を読めないようでは国家の魔法師をやっていけないのだ。


「――下手な探りは入れないで欲しいのだが」


 仁の声音が警告と殺気で底まで落ちた。もたれ掛かっていたコンクリート壁から背中を離し、壁に立てかけていた杖を手に取る。


 同年代の子供が聞けば恐怖で固まるであろう威圧を、将人は涼し気に受け流す。


 御剣仁の上限を知りたい。それは将人自身の好奇心なのか、警察からの指示なのかは仁は知らない。ただ分かってるのは、それを望んだ人間が無能だという事だ。


「だから俺は下手に探りを入れるべきじゃないって、忠告したんだがね」

「警察上層部の指示か?」


 形だけの臨戦態勢を維持したままさらに問う仁に、将人は首を横に振る。


「いや、政治屋だな」


 聞こえてくる嘆息の音はどちらの物だろうか、二人は揃って頭を抱える。仁は慣れた手付きで、左腕に嵌った装飾のないシンプルな腕輪に触れて緊張状態を解く。


 警察を動かすとなるとそれなりの権力を持ってしまった人間だとはわかる。――ただそれは表だけに限っての権力だとは件の政治家(バカ)は理解してなかったらしい。


「……そいつは早々に退場させる事を勧めます」

「問題ないさ、そいつは次の選挙で消えてもらう事が決まってる」

「魔法省がすでに動いてるわけですか」


 一九〇〇年代、とある事件を切っ掛けに魔法の存在が公になった。


 科学的に体系化された魔法は魔術と呼ばれ、脳に魔術領域と呼ばれる器官を持つ者なら誰でも魔術師になれることも判明した。それに対応するため作られたのが魔法省である。


 その魔法省が仁を守る為に動いている。


 国家が一個人の為に動くのをおかしく感じるかもしれないが、魔法省が設立された理由が大きく関わる。それが等級魔法師の管理である。


 魔法を使う人間には二種類存在する。魔術器官だけを持つ只の魔術師と、先天性魔法――異能(スキル)を持つ異能者(スキルホルダー)だ。この二つを合わせて魔法師とも呼ぶ。


 その中で一定以上の力を持つ魔法師は三段階に評価され等級魔法師と呼ばれた。


「世界の裏側を担当する組織が甘いわけがない。歴史と人生経験との違いが分からない奴はすぐに排除するのが国のためだ。禁忌等級(クラスファースト)を駒にできると勘違いしてるバカは特にな」


 将人は「そもそも御三家敵に回してどうすんだ」と小さくぼやく。


 御三家とは最上位の異能を継承する一族であるが、その知名度は裏側での話だ。その手の話に詳しくなければ知る事もなく、今回のような勘違いバカは度々出てくる。


 よくある「バカが出た」と魔法師に笑われる恒例行事なのだが、面倒をかけられる等級魔法師にとってはいい迷惑だ。


「俺は決闘等級(クラスサード)ですよ」


 片や戦略兵器に匹敵するといわれ、片や小規模戦闘までを制すると評価される魔法師。軍事的、外交的にどれほど重さに違いがあるか議論するまでもない。


「――魔法省だけじゃねえ、軍と内閣府もそう思わせておきたいのだろうな」


 将人は最後に漏らす。これ以上探りを入れるつもりはない、だが何かあれば公安も手を貸すと。


 噂に聞こえてくる中華大陸の不穏な情勢。


 アメリカ合衆国(ステイツ)の軍属魔術師の大陸派遣。


 過去の大戦で残された不発弾が今にも起爆しようとしている緊張下にある世界で、ある理由によって禁忌等級ではないかと疑われる仁は各勢力に注目されていた。


 それぞれの思惑と自分の置かれた立ち位置を面倒に感じる仁は、憂鬱な面持ちで将人に返す。


「なら情報交換といきましょうか、将人さん」






 AI制御されたバイクで走り去っていく仁を見送って、将人は携帯端末を取り出す。


「あーもしもし、俺だ。死体の処理を頼みたいんだが、人を出してくれないか」

「はい?」


 通話に出た将人の後輩は、勝手にいなくなって面倒事の土産(残業)をプレゼントする先輩に不機嫌な声を出す。将人には「何言ってんだ?」という副音声も聞こえる。


 ここ最近、準敵対国である北中華連邦の工作員の動きが活発になっていた。将人の部署もその魔術師を含む工作員の排除に多忙を極めているところだ。


「スパイの処分ですか」

「俺がヤったわけじゃないがな。御三家の関係者が大陸の人間に襲撃されたってだけだ」

「日本の戦力を削ぐため、……あるいは優秀な魔術師の遺伝子の強奪?」


 前者ならターゲットは大人か将来有望な若者か、後者なら女子供が狙われる可能性が高い。後輩は前者の方がまだましだなと思いつつ、誘拐の可能性も提示する。


「どうだかな、他にも人体実験するつもりで――、なんて可能性もあるからな」

「全くあの国は……。このご時世に倫理なき人体実験なんて何を考えているのですか?」


 将人は後輩の愚痴に何も答えない。代わりに、非人道的な行いの噂に憤慨する後輩と表面上淡々としていた仁を比べて小さく笑う。


「――そういうわけで諸々の手配は頼むわ。いつも通りスパイの死体処理ってことで」

「わかりました」


 通話を切った将人は端末を上着のポケットに突っ込み、元魔法研究所であった廃墟の壁を見つめる。


「これが決闘等級の異能ね、最低でも対集団の殲滅等級(クラスセカンド)はあるだろ。上の反応からして、もしかしたら……」


 経年劣化の影響で破棄されたとはいえ、その堅牢さは通常の建築物とは比べ物にならないはずだった。


 そんな元研究所の壁に在ったのは一筆に描かれた直線――真横に両断された跡だ。その傷痕はその壁一面だけではない、建物そのものを断ち切っていた。それでも廃墟が崩壊しないのはあまりにも剣筋が鋭すぎたからか。


「御剣家の最上位異能『剣聖』。これでも全力には程遠いか」


 おそらく精神系魔法を警戒して濁したのだろう、仁は将人の「手加減無し」という言葉を否定も肯定もしなかった。あの青年の性格を考えれば手加減しなかったはずがない、ならば手加減してこれだと。


 将人はそう考え、禁忌等級が禁忌と呼ばれる理由を理解する。そんな彼の脳裏には仁がビルを輪切りにする姿が浮かぶ。


「あいつの評価が『死に異能(デッドリースキル)』の落ちこぼれ? 話の出処は軍か魔法省のどっちのことやら」


 強力な能力の多い特異異能(ユニークスキル)には代償異能(デメリットスキル)が付随する。仁の能力は剣士系の特異異能――その代償が戦闘の支障となる『運動音痴(フィジカルエラー)』。


 これが大昔の第二次世界大戦期前ならたしかに死にスキルとなっていたかもしれない。けれど現在は二十四世紀、強化外骨格(パワードスーツ)を着た軍人が戦う時代なのだ。ヒトの運動さえ機械のアシストがある未来で、人間の運動能力がどれほど必要になるか。


「ステイツが恐れた『必殺の異能(デッドリースキル)』が二世代続けて発現したのは、戦争が近いのかね」


 御三家の滅茶苦茶な戦闘記録が残る第二次世界大戦末期。


 その中でも沖縄でステイツの軍を単騎で薙ぎ払った怪物が、現代にも引き継がれていることを将人は恐怖するべきか心強く思うべきか壁の傷痕をなぞりながら考える。


 そんな彼の頭上には一匹のカラスが「カア」と鳴いていた。

ヒロインは、京言葉腹黒系女子。無垢系吸血鬼幼女変身付きが確定してます。それ以外は次の章を描くつもりになったら増えていくとおもいますよっと。

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