クーデター後に処刑されたくない私は、城の隠し通路を攻略する
「こういう転生って、普通は乙女ゲームの悪役令嬢じゃないの?」
思わすそうつぶやいたのは記憶が戻った5歳の時だった。
私の今世での名前はサミジーナ・レメゲトン。このレメゲトン皇国の第一皇女だ。父は皇帝のクローセル・レメゲトン、母はその第一夫人のベリス。私は女児のため皇位継承権は無いが、第一子のためか皇帝である父にも、それなりに可愛がられて育ってきた。そして、今日、母が第一皇子となる男児を生んだ。名はサブノック・レメゲトン。
「全員、聞き覚えがある名前だ・・・」
そう。これらの名前は前世で読んだ小説に出てきたものだ。クーデターの末に処刑される『悪魔の皇帝一家』の!!
別に愛読していた小説という訳でもない。何となく読んでいた続き物の小説だ。話は勧善懲悪。隣国を次々と滅ぼす悪魔の皇国。滅ぼされた国の王子が皇帝一家に復讐するために城に潜入し、同じ志の仲間を集め、クーデターを起こして敵を取るというものだった。もちろん、皇帝一家は全員が処刑される。
「嘘でしょ・・・」
私は15歳で処刑される皇女サミジーナに生まれ変わってしまったのだった。
処刑される未来なんて真っ平ごめんだ。だからと言って、5歳の子供に何かがスグに出来るわけではない。
(女性は政治に口を出す文化じゃないし・・・「戦を止めて」なんていきなり言い出すのも変だし・・・)
そもそも、この国は隣国を吸収することによって栄えてきた国だ。今更、止められる訳が無い。
(どうすれば・・・)
とりあえず知識を付けようと図書室に籠るようになった。そして偶然、発見したのだ。城の隠し通路を!!
(図書室にあるってことは、他の部屋にもあるかも!)
そして、宝物庫や庭の片隅、そして自身の寝室にも隠し通路の入り口を見つけた。
「きっと、これが生き残るための道だわ!!」
それからは夜中に隠し通路の攻略に挑んだ。地図を作りたいところだったが、誰かに見られたら厄介だと思い、頭に叩き込んだ。そして、城の裏の森に通ずる出口を見つけたのは10歳の時だった。
「この5年で、隠し通路は完璧に攻略したわ」
クーデターが起きても逃げられる自信が出来た。いつでも来い!!って感じだ。
12歳の時、私に護衛騎士が付けられた。それが小説の主人公であるミシェル・・・本当の名をミカエル・アンジールという。
主人公だけあって美形だ。まぁ、私が美しいもの以外は近寄るな~って言う我が儘皇女を演じているから選ばれたのかもしれないけど。
(今ここで、彼が亡国の王子だと告発してしまえば・・・)
クーデターは起こらない。でも、皇帝は戦をし続けるだろう。不幸な国が増えて行くだけ・・・。だから、言い出せない。
「皇女様、どうかなさいましたか?」
「いいえ・・・」
私は憎まれる我が儘皇女を演じ続けるだけよ。そして、クーデターが起こったら逃げる。庶民に紛れて生きていくの。
そして、私は15歳になった。運命の日が来る。
遠くから鬨の声が聞こえた。私は自室にいた。窓から庭を見下ろすと、武装した人間が城へと押し寄せて来ていた。私は隠し通路の傍に立った。
部屋の扉が乱暴に開かれる。そこにはミシェルと数人の男が立っていた。
「サミジーナ皇女、皇帝の間まで一緒に来ていただく」
「・・・いいえ。私は行きませんわ」
そして隠し扉から通路へ飛び込んだ。森の出口まで走り、用意しておいた庶民の服に着替える。
「お父様、お母様、サブノック・・・さようなら」
私は森を抜けるために歩み始めた。
彼女がただの我が儘な皇女ではないと気付いたのはいつからだろうか。
「貴方が護衛騎士ね。まあ、良いわ」
美しいもの以外は近寄らせないという噂の皇女。ドレスや宝石を好み、贅の限りを尽くしているという。民を苦しめる『悪魔の皇帝一家』の一員。
(だが・・・)
彼女は自分から何かを欲しがることは無かった。ドレスを与えるのは皇后、宝石を与えるのは皇帝。与えられた瞬間、一瞬だけ揺らぐ瞳。時折、切なそうに窓の外を見つめる。
「ミシェル、お前は城下に出るのかしら?」
「はい」
時々、城の外の様子を聞きたがる。特に、民の様子を・・・。
(この方は、本当は国を憂いているのではないか・・・)
そんな考えが頭を過ぎる。その度に、殺された父や母を思い出して自分を奮い立たせた。しかし、3年を共に過ごし、皇女に情が湧いてしまった。
「クーデターの暁には、ミカエルが王になれ」
仲間たちから言われる言葉。王になる。国を取り戻すという目的。そのためには彼女を・・・。
「・・・皇女は殺さずに、俺が妻に迎える」
「なに!?正気か」
「ああ。レメゲトン皇国の血筋のものと結婚すれば、クーデター後の反乱も抑えられるだろう」
そうだ。皇女を妻に迎えれば万事解決する。そして、本心を聞いてみたい。貴女は、国を憂いていたのかと・・・。
そしてクーデター当日。
「・・・いいえ。私は行きませんわ」
皇女は壁の裏へと消えて行った。
「な!?隠し通路か?」
「開かないぞ」
「おい、出口は何処へ繋がっている!?」
「皇帝を問いただすんだ!!」
結局、皇帝は隠し通路の存在を知らなかった。皇女が何処へ消えたのか誰にも分からない。
「探せ。皇女を見つけるんだ」
表向きは、反乱の旗頭になりえる皇女の捕縛。
「サミジーナ・・・」
こんなにも貴女を手に入れたいと思っている。絶対に逃がさない。