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 さて、どうしたものか。必中の策だと思っていた。様子を見る。エレメントエンジェルはこちらの所作を見逃さないようにジッと見ている。


 能力。特に身体能力はエレメントエンジェルに勝ってるだろう。しかし、俺には経験が足りない。

 困ったな。正義の味方が全員こんなレベルだと溜まったものではない。


「チッ」


 自然と舌打ちをしてしまった。まぁ、こんな風に逡巡して見たかった。なにせ、今でも信じられないことに物語みたいな世界に足を踏み込む事ができたのだ。

多少、浸ってもいいではないか。実を言えば、たかだかレーザーを曲げられただけでそんな強さがわかる程の眼力もくそも持ち合わせていない。


「いいぞ。エレメントエンジェル。心が震える」


「それは……どうも」


 決めた。今決めた。性欲なんぞに夢現を抜かしていないで俺は……。


――この正義の味方を打ち破る。


「ッ!? 」


 気合を入れる。彼女はそれを察知したのか、表情が強張る。


「我は宵闇より出し、悪の権化。闇の化身。正義を砕き、蹂躙する。闇の皇帝だ」


 近づく。勿論、雷が放たれるがそれを尽く回避する。危険な間合いと理解したのかエレメントエンジェルは炎の剣を作り出した。そして、すぐさまそれを振り下ろす。


 現れた瞬間にここら一帯の気温が上がったか。凄い熱量だ。迫りくる炎の剣。


(使え)


 瞬間、魂を揺さぶるような重い声が聴こえてきた。

途端に黒の力場が剣を遮った。


(幼稚な思考。未熟な武。このような弱き者に苦戦するようでは笑止千万。しばし、観ているがいい)


 さっきの声がより鮮明になる。と同時に自分の身体が他人のような、自らを第三者の目で見ているようなそんな感覚に囚われた。


「貴方……一体? 」


 取り合わず、拳を振るう。それだけで突風が起こった。エレメントエンジェルの苦悶する声が聞こえる。


「このような娘。手籠にしたければ手籠にすれば良い。何を躊躇っている。それが、悪というものだ」


 違う! 俺にそんな倫理観はない!


「作られた倫理観。誰が造った? 誰が創った? 誰が得している? 悪とは正義の対になるもの。正義とは時と共に移り変わる物。つまり」


「メイルシュトローム!!! 」


 体勢を立て直したエレメントエンジェルの背後に膨大な質量の水の壁が現れる。掲げた腕を振ると、それが敵意を持って襲いかかる。


「つまり、どちらも虚無である」


 黒の力場が水を霧散させる。


「今のでも駄目なの……? 」


「娘。我が糧となれ。ッ!? 」


(貴様! 誰の許可を得て俺を使っているか! これは俺の物語! 俺の覇道! 皇帝風情が調子にのるなよ! )


「ヒーローは俺が倒すんだ!!!! 」


(成る程、余が喚ばれたのもほんの少しだけ理解出来た)


 取り戻した。恐らくいまのがダークジュエルの人格。そして、ダークカイザーの力そのもの。本気ではなかったのだろう。こんな簡単に戻れるとは思わなかった。

 強い力には代償が伴う。いいじゃないか。くすぐられる。


「良かったな。エレメントエンジェル。俺なら殺しはしない」


「よく分かりませんが、エレメントエンジェルは悪に決して屈しません! 」


 そして、理解できる。ダークカイザーの能力を。規格外てやつだ。


「屈しなくていい。勝手に勝つとする」


 エレメントエンジェルの腕を掴む。


「ヒーローゴッコは他所でやってくれ」


 そう言って、エレメントエンジェルを投げ飛ばした。悲鳴を上げながら飛んでいく。このままいけば家屋にぶつかるが正義の味方だ。それなりの防御力もあるだろう。

 少し、勿体ない事をしたかな。胸でも揉んだけば良かったと思いつつも、その場から離れることにした。


 わかった事がある。ダークカイザーは強すぎる。手に余るレベルである。

 わからない事がある。何故自分にこれほどの力が。物事には大抵理由がある。何かしらの理由があるということはなるべくしてなったのだろう。


――殺気。


 感覚を頼りに身体を捻る。目と鼻の先に刃が通り過ぎた。


「かよわき乙女をいたぶる狼藉者」


 途端に舞う花弁。


「ジャスティス•ブシドー推参」


「ダークカイザー。新手か」


 これは良い。エレメントエンジェルとは比べ物にならない圧力を感じる白の兜、具足姿のヒーロー。


「相手の力量を理解してもなお、痛ぶるお前のその所業。まさに悪の者。悪の者と知ればこのブシドー。見逃す訳にはいかぬ。因果応報が世の理よ」


 半身に抜刀の構え。武士の面により表情がよめない。


「違うな。ジャスティス•ブシドー。俺が勝つのが世の理! 行くぞ! 」


「抜かせ。一の太刀、飛燕」



 速い! 斬撃が甲冑に撃ち込まれる。衝撃が強い。抜刀からの軌道を変えた袈裟斬り。見事に一太刀浴びせられてしまった。が、こちらの防具も伊達ではない。甲冑を少し凹ませる程度だ。しかし、地に下されてしまった。


「二の太刀、乱花」


 高所から重力エネルギーを使った垂直の突き。刹那のタイミングでなんとかかわす。かわりに被弾した地面の土がパラパラと舞い上がり、花弁に変わった。恐らく、出会い頭の一撃か。


「三の太刀、木枯し」


 此方が立ち上がる前に素早い踏込みからの身体を捻って回転する。風が吹き荒れ視界を塞ぐ。そして、遠心力を伴った太刀が放たれる。



 なんとか、転がりながらも黒の力場でそれを弾く。仰け反りをねらう。が、なんとジャスティス•ブシドーは刀だけを弾かせて対の手でまた柄を握り既に次の攻撃態勢に移っていた。なんとか立ち上がる。



「四の太刀、月見酒」


 刀身から光が発せられたかと思うと脚を斬りつけられ、頭を打ち付けられた。

 ぐわんぐわんと脳が揺れる。


「ふん。よく耐える。順番を違えなければ仕留める事ができたものを。この者の反射、防御。本物か」


「強い。強いよ。お前は。きっと、有名なヒーローなんだろう」


「些事なことである。臆したかダークカイザー」


「いや、逆だ。嬉しいぞブシドー。心が震える! 貴様のような者を打ち倒してこそ本望! 」


 嬉しい。本当だ。ブシドーのような強者と対峙できて。なんだ、やはり俺は闘いが好きでその上で正義をぶちのめしたいんだ。道理で。道理でエレメントエンジェルにはどうしても熱くなれなかった訳だ!


 黒の力場を背に発生させることでジェットのような加速でジャスティス•ブシドーに肉薄する。


「シャドウフィスト! 」


「ぬっ!? 」

 

 加速した勢いもそのままに黒い霧を纏わせた拳を突き出す。残念ながらそれは命中とはいかず、刀身に防がれてしまった。衝撃で周囲の木が薙ぎ倒された。

 うまく吸収したのか2、3歩、蹈鞴を踏むに留まっていた。


「躍り狂え。インペリアルレイヴ」


 その隙は見逃さない。脚を払い、脚が浮いた状態で拳で突く。力の作用によって飛んで行く前に体を入れ替えてのエルボー。次に腰貯めからの突き上げで空に上げられる。


 ブシドーの鎧がひしゃげる。そして、お面の下は驚愕の表情にでもなっていたことだろう。

 黒の光を掌に収束させたダークカイザーがその到達地点に先回りしていたからだ。


「終わりだ。しばし、金の夢に浸るがいい。エル•ドラド」


 黒の光が放たれ、ブシドーに当たるや否や視界が金色に埋め尽くされた。光が晴れると変身の解けたジャスティス•ブシドーがうつ伏せに倒れていた。


「顔の確認など無粋な事はしない。ジャスティス•ブシドー。お前は強かった。しかし、この覇道を止めるには至らなかった」


 倒れたブシドーにそう言って、ダークカイザーはその場を去った。とても良い夜だ。月が綺麗に輝いている。


 


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