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終了のチャイムがなる。これから少しすればお楽しみの時間だ。今朝の親友ポジションのモブは部活に勤しむ様子。
――さて、今日は何をしてやろうか。
と、そういえばと思い直す。悪が好きだ。それは確かに好きだ。かといって悪事がそんな好きなわけではない。ドヤ顔で正義が悪をやっつけるのが気に入らないのが大きい。
つまり、悪事は補助的なものだ。ヒーローを呼ぶ為の手段と言ってもいい。では、ヒーローにやられそうな悪を助けるというのもアリな訳である。
(理屈くさいな)
と、思い直す。夕暮れ時。とりあえず家に帰って腹ごしらえでもするか。と帰宅する。
夕暮れの下り坂。町が見渡せるこの帰路は嫌いじゃない。こんなとき、小説のイケメン鈍感主人公なんかは、美少女後輩なんかに、
『せーんぱい、一緒に帰りましょう! 』
なんて言われながらも、なんで俺なんかにーとかそんな感じになるんだろうな。
ぶん殴りたい。妬みである。いつもの帰り道。いつもの風景。だけれども、これからは違う。
自分は何をして何を成すのだろうな。
❇︎
さぁ、時間だ。ドアを開けて鍵をかける。変身前でも身体能力があがっている。屋根から屋根へと飛び移る。つい、楽しくなってしまってやってしまった。これが目的ではないのだ。
「変身! ダークカイザー!! 」
休み時間中に一生懸命考えた変身のポーズ。心が熱くなっていくのを感じる。ダークジュエルが明滅する。
「ハァァァァ! 」
闇の光が皇を包み、光が晴れると金で縁取られた黒の全身甲冑に身を包んだ悪のヒーローが現れた。
少し意匠が変わっているような気がする。
「滾る! 滾るぞ! ハハハハハ!!! 」
腕を振るう。振った空間がそれが風の刃と化し、空を走る。
高速移動であの『学校』を目指す。ターゲットは今宵もエレメントエンジェル。
そして、手始めに狙うはあのマンションのあの部屋だ。
「カイザーピッキング」
器用にビームを用いてガラス窓を開ける。徐に電話を手にする。
「もしもし? 」
「もしもし? オチンチン! 」
「え? 」
――ガチャリ!
今宵の悪事は悪戯電話! このご時世に家電を使うのだ!
かれこれ百件ほど繰り返した後、家主であろう人の気配がしたので脱出する。
「フハハハ! 我こそ最強の悪である」
「見つけたわ」
「来たか」
例の如く、背後からエレメントエンジェルが現れた。些かげんなりしているようにみえる。
「相変わらずエロい。誘っているのか? 」
「気持ち悪い。そして、そのこっすい悪事はどうにかならないの? 張り合いが……」
溜め息まじりにエレメントエンジェルが述べる。
「正義の癖に大きい悪事を所望とは正義の風上にもおけないなぁ? 」
「いいわ。直ぐにやっつけてあげる! 」
迸る雷!
「予定調和てものがあるだろう! 肉体派魔法少女は触手や一般市民にでもやられてるがいいさ! 」
かわすカイザー!
「貴方は言ってはならない事を言ったわ! 」
次々と雷がカイザーを襲う。
「フハハハ! 知識はあるようだな! 」
「もう許さないっ! 」
回避。回避。回避しながらも徐々に接近する。程よく近接したところでダークカイザーが構えた。
「カイザー……」
「その手は食わないわ! 」
同時に距離を取るエレメントエンジェル。
「ナックル! 」
「ふんっ! 」
「レーザー! 」
「えぇ!? 」
突き出した拳からレーザビームが放たれる! 勿論威力は程々にしてある。ある意味紳士だからである!
「ッッッ!? ミストバリア! 」
当たるかと思った寸前、エレメントエンジェルは霧の盾を作り出し光を屈折させた。豊富な戦闘経験があるとそのときダークカイザーは理解した。
前回は初見のセクハラで勝ちを拾ったものでこの敵は強い。
ダークカイザーは若干驕っていた気持ちを引き締めて再び構えた。