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「もしもし……大丈夫ですか?」
怪人が吹っ飛んだ先に行ってみると人が倒れていた。スーツに身を包んだ男である。
何者だろう?と思うほど察しは悪くない。
ワカシリンの変身が解けた状態なんだろう。
「キミは……?」
男の意識が戻る。
「見てました」
「そうか」
淡白な問答。しばらく、沈黙が続く。そしてそれを破ったのは
「僕は悪が好きです」
皇だった。
「なんで何時も正義が勝つのか。そんな事を思っています」
「珍しいね。君は怪人になりたいのかい?」
「――!」
なりたいか、なりたくないかと言われたら、なりたい。正義を振りかざして問答無用に悪を裁く奴等を懲らしめたい。
醒めた自分の心に火がともるのが分かる。
「私は敗北した。私には才能がなかったんだ」
そう言って男は胸元のポケットから黒い宝石を取り出した。
「ダークジュエル。誰が作ったのかはたまた自然物なのかわからない。所有者の想いや欲望を力に変えて変身させてくれる宝石だ。私にはもう必要ない。折れてしまったからね」
ダークジュエル。差し出されたそれを皇は躊躇なく受け取った。
「さぁ、念じるんだ。君のしたい事、闇の想いを!」
したい事。悪い事。現状一番したいこと……。
悪が好きだ。
でも、悪といっても多岐に渡る。
悪い事。
――今思い浮かぶもの……。
ふと、先程の魔法少女の姿が思い浮かぶ。開いた胸元。目がさめるような美貌。あの太もも。
そうか。いま僕は。いま僕は!!
「無性にあの魔法少女に色々したいんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「いまいち関係ねぇええええええ!!!!」
若い性欲!
童貞故の迸るリビドー!!
悪が好きといっときながら何がしたいか直前まで思いつかなかったブレブレの信念!!
そして、しょうもない叫びに思わず突っ込む怪人ワカシリン!
兎に角、ダークジュエルがその想いに応えて発光した!
「な、なんて禍々しい光だ!」
皇を光が包む。
そして、全身に力が満ちていく。
光が晴れた。
「おぉ」
漆黒の全身甲冑に裏地が紅いマント。
『ダークカイザー』
ダークジュエルよりその名を告げられる。
「何故、私の時は魚だったのに。兎に角、凄まじい力だ!行くんだ!ダークカイザー!君の想いを!存分にぶつけてくるがいい!!」
目指すはあの魔法少女。ダークカイザーは男に礼をして飛び立つのであった。