現実の姨捨山
六年前、
父が死亡した後、
私の姉は、
母に、
一度も、
会っていない。
五年前から、
母は、
何度も骨折して、
家には、
一度も、
帰っていない。
有料老人ホームと病院を、
行き来している。
今年だけでも、
母は、
三回緊急入院したが、
それでも。
私の姉は、
一度も、
病院に、
お見舞いに来た事が無いし、
有料老人ホームの場所すら知らない。
何故?
こんな薄情な娘に成ったのか?
私の父は、
共済年金だったため、
姉に、
お金を送り続ける事が出来た。
姉の夫が、
私に語った話に。
次女(つまり、私にとっては姪)の成人式の直前に、
突然、
姉が、
着物を買って来たそうだ。
成人式用の次女の着物と、
姉自身の着物を。
「夫の汗水、帯に成る」
というコマーシャルをネタに、
話していたけど。
その時は、
父が、
次女の成人式用に、
送った金額を知っていたから。
リアクションに困って。
でも。
姉の夫も、
実家から、
送金され続けていた事を、
知っていたようだ。
そうでなければ、
娘三人を、
育て上げるなんて、
無理だったから。
自力オンリーで、
子育てが出来る
と、
信じているほどの
世間知らずは、
現実には、
存在しない。
姉は、
郵便局しか無い
田舎に住んでいたので、
父は、
送金用の郵便貯金を、
持っていた。
父が動けなくなったら、
私が、
代わりにお金を送るように、
言われていた。
「お姉さんは、
何故?
全然、来ないの?」
と、
妻に、
よく聞かれるので、
「俺が、
金を送らないからだよ」
と答える。
「あそこから来るのに、
旅費や御土産代とか、
いろいろ考えると、
十万円くらい送らないと、
動けないんだよ」
ちなみに、
私の結婚式の披露宴に、
来てもらうために、
旅費や御祝儀代を、
事前に、
父が渡していた。
それを知っていたので、
姉の夫から御祝儀を受け取った時、
どんな顔をして良いのか?
迷ってしまった。
速攻で、
御祝儀袋を、
父に返した。
送金の話に戻すと、
実際に、
私が姉に送金したのは、
一回キリである。
金額は、
二十万円。
その金を送ってみたが、
姉は、
来なかった。
理由は、
簡単。
孫の所へ行ったのだ。
そう。
姉は、
母の病院に見舞いに来る
金と時間が有ったら、
それを、
娘達の子育ての支援に、
使いたいのだ。
その時は、
長女に、
二人子供がいて、
次女が妊娠中だったようだ。
今は、
姉に、
何人の孫がいるのか?
全く判らない。
長女の結婚式の時は、
父が、
まだ生きていたので、
私達夫婦が出席したが。
その後の事は、
知らない。
その結婚式も、
相手方の出席者は、
二十人くらい居たが、
こちら側は、
私達夫婦だけ。
姉の夫にも、
兄弟はいるが、
経済的な理由で、
連絡さえも、しなかったようだ。
それが、
私にも、
再現されたらしい。
その結婚式でも、
御祝儀を総計で二十八万円渡し、
旅費とか含めると、
四十万円くらい使っているので。
「仕方ない」
と言えば、
その通りなんだけど。
では、
母は、
姉が全く来ない事に関して、
どう思っているのか?
というと。
当然
だと、
思っているらしい。
それどころか、
有料老人ホームに姉が電話して来た時、
「電話は、するな!」
と、
言ったそうだ。
では、
父は?
と言うと。
父は、
生前に、
姉夫婦に、
私が全部負担するから、
「何も、しなくて良い」
と、
言ったらしい。
もちろん、
私に無断で、
勝手に決めたのだけど。
本当、
困るよね。
私の両親は、
子育ての苦労は、
体験したから、
良く解っていたのだろうけど。
老人介護の方は、
ほとんど、
した事が、
なかった。
母が、
今年だけでも、
三回緊急入院したのだから、
それだけでも、
入院時と退院時の計六日、
平日の昼間を、
自由に、
空けれる人間じゃないと、
介護は、
やれない。
その他に、
入院計画の同意とか、
手術とか、
病状の説明とか、
事あるごとに、
突然電話がかかって来て、
病院に、
行かなければならない。
もちろん、
これらは、
全て、
平日の昼間である。
たぶん、
これだけで、
大多数の人は、
詰むんじゃないかな?
今、
老後の資金が、
話題になっているけど、
あれは、
完全に、
『目くらまし』
なんだよね。
お金と違って、
時間を工面する方法は、
無いのだから。