表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天風の剣  作者: 吉岡果音
第七章 襲撃
PR
82/198

第82話 吊り橋での再会

 切り立った崖と崖を、簡素な吊り橋が繋いでいる。


「ここが近道なのか? フェリックス」


 フェリックスはキアランの質問に答えるように、たてがみを揺らしながら一声いななく。それから、狭い吊り橋を臆することなく渡り始めた。今にも降り出しそうな曇天の空の下、フェリックスの蹄の音がテンポよく響く。


「そうみたいですね。道としては少し心もとないですが」


 キアランと共にフェリックスの背に乗っている、アマリアがうなずく。


「この馬、大したもんだねえ」


 花紺青(はなこんじょう)は両手を頭の後ろで組みつつ、あえて吊り橋の手すりの細い綱の上、器用にバランスを取って歩いていた。


花紺青(はなこんじょう)。お前、空は飛べるか?」


 キアランは、楽しそうに綱渡りをしている花紺青(はなこんじょう)に尋ねる。


「魔の者にも、飛ぶ能力、空にいられる能力のあるやつと、そうでないやつがいる。僕は飛べないよ」


「じゃあ、橋の上を歩け。いくら魔の者だって、危ないだろう」


「己を鍛えてるんだよ。これも立派な力を高める鍛錬のひとつさ」


 綱の上をくるりと一回転し、満面の笑顔の花紺青(はなこんじょう)。口元には、小さな牙がいたずらっぽく覗いている。どう見ても、遊んでいるとしか思えない。


「キアランも、やってみたら」


 鍛錬、と聞いてキアランは真剣な顔になる。


「……やってみるか」


 キアランは、花紺青(はなこんじょう)の言葉を真に受け、フェリックスの背から降りようとしていた。


「無駄なことは、やめてください!」


 すかさずアマリアがたしなめた。

 はるか下には、ごうごうと音を立て、大きな川が流れていた。

 頬に当たる風が冷たい。

 吊り橋の半ばを過ぎた、そのときだった。

 キアランは、かすかな耳鳴りを感じた。

 

 これは……?


 キアランは神経を研ぎ澄ませた。背筋に、氷を押しあてたような感覚が走る。


「まずい……!」


 キアランは、フェリックスの手綱を強く握りしめた。

 キアランの全身が、迫りくる危険を察知していた。


「走れ! フェリックス!」


 ただならぬ様子のキアランに続き、花紺青(はなこんじょう)の表情も厳しいものとなる。


「アマリアおねーさん! 防御の魔法を……!」


 キアラン、花紺青(はなこんじょう)に遅れて、アマリアもようやく事態を察する。


「これは、四天王……!」


 シトリンの魔法の杖を手にして以来、アマリアの感覚もより鋭いものとなっていた。


「川を渡る風よ、悪しき力から我らを守り給え……!」


 アマリアの呪文と共に、魔法の杖が金色の光を放つ。

 フェリックスは勢いよく駆け出していた。吊り橋が激しく揺れる。


 ドッ……!


「うわっ……!」


 稲妻のような光が吊り橋の、キアランたちが今までいた部分を直撃した。

 木の板と綱が砕け散る。支えを失ったキアランとアマリアは、フェリックスごと宙に投げ出される――。


「アマリアさん! 僕の力で木の板と綱を動かす! 魔法でフェリックスを上昇させて!」


 切れた吊り橋の綱の端に掴まった花紺青(はなこんじょう)が叫ぶ。

 花紺青(はなこんじょう)の青い目が強い光を放つと、落下していく木の板と綱が、独自の動きを見せ始めた。そして、木の板と綱は元通りの姿のように繋がり合う。それからその板と綱は重力に反して持ち上がり、あっという間に宙に浮かぶ橋となった。

 川面が、キアランたちの眼前に迫る――。


「吹き渡る風、天空へと我らを運び給え……!」


 アマリアが呪文を発すると、風がうねり、まるで白い龍のようにキアランたちの元へ飛んできた。龍のような風はキアランたちをすくいあげ、フェリックスごと押し上げ始めた。


「僕も手伝うっ!」


 花紺青(はなこんじょう)が叫ぶ。

 浮かんだ状態の吊り橋に、フェリックスの脚があと少しで届く――。


「えいっ!」


 花紺青(はなこんじょう)の力の後押しで、キアランとアマリアを乗せたフェリックスの筋肉は躍動し、無事吊り橋に着地していた。


「おや……。ただ逃げ回るだけだったのに、いつの間にそんな芸当ができるように……?」


 宙に浮かぶ吊り橋の向こう、崖の上にその四天王は立っていた。


「オニキス……!」


 黒髪と金の瞳の四天王、オニキスだった。

 オニキスは少し首を傾げ、笑みを浮かべていた。


「……新しい力や、新しい味方をつけたようだな」


 オニキスは腕組みをし、値踏みするようにキアランたちを眺めた。


 シルガーは!? シルガーはどこに……!


 キアランは、シルガーの気配を探す。オニキスと一緒に消えたシルガー。しかし、シルガーの気配は、感じ取れなかった。

 キアランはフェリックスから飛び降り、天風の剣を抜く。


「オニキス! 貴様、シルガーをどうした……!」


 ふう、とけだるそうにオニキスはため息をつく。


「さあ。死んだんじゃないか」


「貴様……!」


 オニキスはそのとき、キアランではなく花紺青(はなこんじょう)を見ていた。


「……小僧。どこかで見たことがあるな」


「オニキスッ! ゴールデンベリル様の仇っ!」


 花紺青(はなこんじょう)の全身から、怒りがほとばしる。


「そうか。ゴールデンベリルの、従者か。生き残りがいたとはな」


 キアランと花紺青(はなこんじょう)は、同時に駆け出していた。憎き四天王、オニキス目がけ――。

 天風の剣が、風を切る。花紺青(はなこんじょう)が、走る。疾風のごとく。

 

「む……!」


 天風の剣の剣先が到達する寸前、花紺青(はなこんじょう)の鋭い爪が届く寸前、オニキスの姿が、消えた。


「空だ!」


 花紺青(はなこんじょう)の叫び声で、キアランは上を見上げる。

 オニキスは、空にいた。

 

 あ……!


 オニキスが、右手を高く上げていた。


 あれが振り下ろされたとき、さっきの稲妻のようなものが……!


 オニキスの口には、冷ややかな笑みが浮かぶ。


 まずい……!


 キアランは息をのむ。

 風が止まる。世界の音が、消えてしまったような気がした。

 閃光。辺りは強い光に包まれた。

 光の後、轟音。そして衝撃波――。


「うっ……!」


 かすかなうめき声が上がる。

 しかしそれは、キアランでも花紺青(はなこんじょう)でも、アマリアのものでもなかった。


「やれやれ。誰が死んだって……?」


 それは、そこに居合わせた者たちとは違う声だった。

 キアランはその声を耳にし、目を見張る。


 あれは……!


 今まで、探していた気配がそこにあった。ずっと、待ち望んでいたものだった。聞きたいと思っていた、声だった。

 キアランの顔に、喜びが広がっていく。

 キアランの視線の先にいるのは、空に立つ、長い銀の髪の――。

 

「シルガー!」


 先程の衝撃は、シルガーがオニキスに与えたものだった。


「生きて……、いたのか……!」


 オニキスは、シルガーを睨みつける。


「まあな」


「まったく、しぶといやつ……!」


 吐き捨てるようにオニキスは呟く。


「ふふ。もっともあのとき、キアランが炎の剣を投げてくれなかったら、危ないところだったが」


 キアランはシルガーがなにを言っているのか、ピンと来ないでいた。


 私が投げた、炎の剣が……?


 シルガーは、驚きの表情を浮かべつつ自分を見上げるキアランに、視線を落とす。


「助かったよ。キアラン」


 シルガーは、微笑みを浮かべ礼を述べた。


「あのとき、あの炎の剣のおかげで一瞬の隙ができた。それで、その隙に乗じてオニキスを遠くへ弾き飛ばすことができた。新しく空間を創り、そこに放り込んでから適当に飛ばしたのだ。もっとも、やつの反撃もあって、私も相当吹き飛ばされてしまったのだがな」


「それであのあと、気配が消えていたのか……!」


 シルガーの姿を改めて見て、キアランはある大きな違いに気付く。


「シルガー! お前、右足……!」


 シルガーの右足が、膝あたりから異様な形をしていた。人の脚の形状とは違い、まるで四つ足の動物のように反対側に曲がってから突き出ている。そしてさらには――、足の先に大きな蹄がついていた。


「なくなったから、つけた。(みどり)と蒼井の真似をしてみたのだ」

 

「な、なんだって……!」


 キアランは、絶句した。

 シルガーは、こともなげに笑う。


「さらに、男前になっただろう……?」


 前髪をかき上げ、胸を張って満足そうに目を細める。本人は気に入っているらしい。

 フェリックスだけが、うなずいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ