『』
ゆっくりと。本当にゆっくりとですが、サイカイして書いているので暫くお待ちください。本当に申し訳ないです。並行して色々と書いているのでそれまた挙げられたらなと思います。
『く、くんじゃねぇっ!』
人は皆、オレを恐れた。
『気持ちわりぃんだよ! 早く死ねよッ!!』
人は皆、ワタシを攻撃した。
だからボクは逃げた。逃げて逃げて逃げて、逃げて逃げて逃げて逃げ逃げて逃げて逃げてニゲテニゲテニゲテニゲテ──殺した。
それは事故だった。倒してしまった木がたまたま人間に当たってしまっただけだった。
『ば、化物ぉぉ!』
たったそれだけのことで、僕は更に恐れられた。
しかし気が付いた。気が付いてしまった。
「なぜ逃げているのだろう」
ボクは、ワタシは、オレは、ワシは、どうして逃げてばかりいたのだろう。
耳を塞いでも響いてくる、人間の断末魔。脳を揺らす恐怖は増える一方だったが、人間を殺す毎に一つ、また一つと収まっていく。
俺には力があったから。
僕にはそれをするだけの能力があったから。
だから僕は人を殺し続けた。泣きながら命乞いをする者も、敵対して攻撃してくる者も、全て殺して力に変えた。
恐怖から逃げる為に、儂は殺し続けた。
ある日、私は仲間と再開した。僕と同じ感情が具現化した化物だ。皆それぞれ苦労してきたはずだった。だからこそアタシは提案した。
──人間が消えれば、この不愉快な声も消える筈だと。
しかし儂に付いてくるものは誰一人として居なかった。
「そんな事して何になる? 人間が作った飯がそんなに不満か? 飯の恨みは怖いなんていうが殺すほどじゃない。俺は好きだぞ? 特に牛乳とかな。あぁこれは牛か……まぁとにかくご飯はうまい」
──仲間の一人がそう言って、他の者もそれに賛同した。
「アタシも反対だな。出来れば人と共存したい。だってアタシたちは、彼らによって生み出された存在だし」
僕は一人になった。だから逃げた。怖かった。俺の考えは正しいと思っていたから。それを否定された事がただただ怖かった。
人間を殺す事は悪なのか? アタシ達を殺そうとしてきているのに? そう、人間の言葉にも正当防衛なんて言葉があるじゃないか。
分からなくなった。でも、そうしてる内にも人間たちは僕を殺そうとしてくる。
『どうして逃げるの?』
ある日、とある女性と出逢った。日が当たるとキラキラ光る髪をした、綺麗な人間。その人を見て僕は驚きを隠せなかった。
『怖くなんて無いわよ。だってあなた、凄く悲しそうな顔をしているもの』
その女性は、僕を怖がらなかった。恐れていなかった。それどころかその女性は、僕を見て笑ってみせた。
初めて人の笑みを見た。それはとてもきれいで、頭の中で響く断末魔がその瞬間だけは聞こえてこなかった。
それから僕は人を殺すのを止めた。そしてその女性が住む村でひっそりと暮らした。
その女性は僕に色々なことを教えてくれた。人間の遊び、この周辺にある薬草の使い方、他には武器の扱い方なんかも少しだけ教えてくれた。その頃には完全に人間の姿を模倣できるようになっていた。
そして、その女性が結婚し、子供を産み、その子供が大人になり、また子供を作る。
何回別れが来て、何回再開しただろう。僕はそれまでずっと、近所の『人』として関わってきた。決して大きくない村で、しかし大きな幸福感を抱きながら。
でも、何があっても忘れられない出会いがつい最近起きた。
僕の名前を教えても、その娘だけは僕を別の新しい名前で呼ぶ。どうやらおとぎ話に出てくる主人公の名前みたいだが、僕はあまりしっくり来なかった。
でもそれの真似をするとその娘が喜ぶ。僕はその顔が見たくて、よくおとぎ話の主人公を演じた。
『じぶんのことをオレって言わない!! ボクだよっ!』
『そんなこわいしゃべり方じゃないの!! もっとへらへらしてる感じ!!』
『そんなに顔こわくない!! もっとやさしくして!!』
その娘に無理難題を押し付けられたけど、それでも僕は楽しかった。その頃には新しい名前にも慣れた。家族の一員になった気がした。
──あぁ、幸せとはこう言う事なのか。
『でね! ここでばぁーん! ってなって……って……聞いてるのタロウ?』
そう、僕はタローだ。それ以外の名前はもう捨てた。だからもうあの頃には……あの名前にはもう──
──あぁ、結局僕は、また逃げるのか。




