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始まりの冒険者  作者: くろすけ
始まりの冒険者〜世界最強のFランク〜
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第五話.竜とタロー


 (ドラゴン)

 滅多に姿を見せない魔物で、他の魔物とは並外れた魔力を持っているのが特徴だ。その魔力の高さ故に周囲の天候まで変えてしまう事があるのはマイも把握済みであった。


「何でこんな所に……S級の魔物よこれ……!!」


 マイはSランク。ただの竜であれば一人でも相手出来る実力を持っている。


 ただそれは、自分が一人だった場合である。


 流石のマイでも、この数のFランク冒険者を護りながら竜と戦うのは難しい話なのだ。


「ここって始まりの街なんじゃないの……!?」


 そんな疑問を持ちながらもマイは剣を抜き放つ。

 それを察知してか、遠く離れている竜が咆哮を放った。その咆哮はこちらまで届き、辺りの空気を震わせる。


「ひっ、あぁあぁ………」


 その咆哮にやられたのか、剣使いは腰を抜かして地面に座り込んでしまう。他の冒険者達も同じ様で、立っているのがやっとなのが見て取れた。


(これじゃ逃げるなんて話じゃないわね……)


 この異変にはもうギルドは気付いているだろう。


 だが応援が来るのにはまだ時間が掛かる。それまではマイ一人で何とか耐え忍ばなければならない。しかも冒険者達を守りながらである。


「──でっかいなぁ……。絵本で読む竜とはやっぱり違いますね」


「えっ──?」


 緊張感を感じられない声がした方にマイは首を動かすと、そこにはタローが当たり前のように立っていた。


「あなた……平気なの?」


「平気って……何がですか?」


 質問に質問で返すタローは首を傾げる。


「何って……竜の咆哮を食らってまともに立っていられてるじゃない」


「咆哮……? あぁ、もしかしてあの鳴き声の事ですか?」


 タローがそう言うと同時に、先程よりも力強い咆哮が空気を揺らす。それに耐えきれなくなった冒険者達は次々と気を失っていった。


 だがタローはのほほんと立っている。まるでそれが当たり前かのように。


(うそ……)


 マイは竜の咆哮を何度も間近で食らっているため慣れているが、Fランク冒険者であるタローが慣れている訳がない。


(もしかして……これが固有能力……?)


 タローの魔力は一〇キロの剣すらまともに扱えない程低い。そんな状態でこの咆哮を喰らえば間違いなく気絶する筈である。となれば、考えられるのは固有能力しかない。


 だが今はそんなことを呑気に考えられる程時間に余裕は無かった。あと少しもすれば竜は攻撃を仕掛けてくるからだ。


 マイは無駄な考えを振り払う為に首を振ると、タローの目を真剣に見つめた。


「まぁ都合が良いわ。何とかしてそこの冒険者(新米)達を私から遠ざけて──」


 マイの言葉が途切れる。

 というのも、果たしてタローに冒険者達を運べるのかどうか分からなかったからだ。

 一〇キロの剣も持てなかったタローが人間を運ぶ姿を、マイには想像することさえできなかった。


 マイは少し固まった後、視線をタローから外して竜のシルエットを視界に入れた。


「やっぱりあなただけは逃げなさい。この子達は私が責任を持って守り通すわ」


「そ、そんな!! 僕も戦いますよ!!」


「──Fランクのあなたに出来る訳ないじゃない!! 相手はSランク相当の敵なのよ!!」


 マイは叫ぶ。

 その気迫に押されたタローは一歩後ろに下がると、「そ、そうですよね」と静かに呟いた。


(後で謝れば……許してくれるかしら)


 マイはそんな事を考えながら淡く光る剣を勢いよく地面に突き刺す。すると剣に纒っていた光が霧散し、かと思うと光がまた強くなって剣に戻り、そこからマイの体へと吸い込まれていった。


(何としても護り通す……!!)


 竜は大きな翼を動かし、こちらへと向かって来ているのが分かる。あと数十秒もすればこちらに辿り着くことだろう。

 竜と戦うのは久し振りだが、倒し方を忘れたわけではない。上手く立ち回れば護りながらでも十分に倒せる可能性はあったのだ。


 だが、予想外の事が一つだけ起きてしまった。


「なっ……はやく逃げなさいよッ!?」


 マイは隣に並んできたタローを視界の端に捉えた瞬間に、驚愕の声を上げてそちらへと顔を向ける。


 それが油断となってしまった。


「しまっ──」


 気づいた時にはもう遅い。

 遠く離れていた筈の竜がまさに目の前で大きな翼を羽ばたかせ、雷を体に纏わせていた。


 これは攻撃の前兆だと察したマイは反射的に防御の体勢へと移ろうとするが、後ろの冒険者達の事を思い出し、動きが一瞬止まる。


 竜はその隙を見逃さないと言うかのように、その翼をより一層大きく羽ばたかせた。それにより嵐の如く突風が発生し、体に纏われていた雷が風と混ざり合い、問答無用でマイ達へと襲い掛かる。


(間に合わない──)


 マイは歯を強く噛む。


 諦めては行けない。こんな絶体絶命のピンチでも何度も乗り越え、漸くこのSランク冒険者まで上がってきたのではないか。


 ならばこのピンチも乗り越えられる──いや、乗り越えなければならない。


「はっ──あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 マイは剣を勢いよく突き刺す。

 するとマイの前方に巨大な青白い半透明な盾が出現し、地面を破壊しながら襲い掛かる死の風を寸前の所で防ぐ事に成功した。


 だがこれは即興で作り出した盾。耐久力などあるはずも無い。


(このままじゃ……壊れる……!!)


 ありったけの魔力を注ぎ込み、なんとか壊れない様にしているが、体内魔力は無限ではない。


 死の風は今も辺りの地面を破壊しながらも吹き続き、盾を壊さんとしている。


 魔力量では圧倒的に竜のほうが上。このままこの状況が続けばマイの魔力が尽き、他の冒険者共々死ぬ事となるだろう。


(どうすれば……)


 マイは必死に歯を食いしばりながら思考する。


「──マイさん」


 そんな時に、落ち着いた声がマイの耳に届いてきた。


 何故か鮮明に聞こえたその声の後、盾が音もなく突如消え去ってしまった。しまったとマイは目を瞑るが、違和感を感じてマイはゆっくりと目を開けた。


「……あれ?」


 死の風は襲ってこなかった。──いや、マイが展開していた盾と同様に消え去ったのだろう。


「何が……」


 マイは思わずそう呟くと、隣から並ならぬ気配を感じ、そちらへと目を向ける。


 そこには先ほどと同様タローが立っていた。姿も服装も、さっきと同じ。何も変わっていない。


 だが明らかに何かが違っていた。


「逃げる事なんてやっぱり出来ません」


 タローは空を制している竜を視界に入れながらそう呟く。

 その呟きに──その表情に、マイは驚きを隠せなかった。


(何で……笑ってるのよ……早く逃げなさいよ……)


 薄くだが、確かに笑みを浮かべていた。

 最初は恐怖でおかしくなったのかと思ったが、特に身体が強張っているとは思えない。


 タローは一歩、力強く踏み出す。


「確かに僕はFランク冒険者です。弱くて、惨めで、マイさんみたいに強い人間なんかじゃ無いと思います」


 でも、とタローは付け加える。


「弱いままでいる為に、肝心な時に逃げる為に冒険者になったんじゃないんです」


 タローの言葉が終わると同時に竜はまた雷を纏う。さっきと同じ技を放ってくるのだろう。


 マイは襲い掛かる疲労感を無視し、死を覚悟で破壊される事のない盾を作り出そうとした。


 が、何故か発動しない。


「もう……さっきから何なのよ……」


 マイは弱々しく呟く。もう剣を持ち上げる事すら出来ない。震える手から剣は離れ、地面に倒れてしまった。


 原因はたったの一つ。魔力が無いのだ。

 何もしなければ魔力は単なる力として働く。いまマイが立っていられると言うことはマイ自身の魔力はまだ切れていないという事だが、マイにはもう立つことしか出来なくなっていた。


 マイは諦めたのか空を見上げ──そこでようやく気付く。


「あ……れ……? 晴れてる……?」 


 雨は降っていない。雲は日光を僅かに通す程に薄くなり、辺りは少し明るくなっていた。


 さっきまで竜の影響で雨が降っていたはず。それは自分の濡れた髪や鎧を見たら分かることだ。


「どうなってるのよこれ……」


 少し先の竜がいる場所にはまだ分厚い雲が掛かっており、雷が鳴り響き、雨が振り続けていた。


 普通ならばあり得ない現象。何らかの影響を受けている事は明らかであった。


 タローはもう一歩踏み出す。すると竜の鋭く紅い眼光がタローを捉えたのがマイには分かった。


 竜は威嚇するかのように咆哮すると、先程よりも勢いのある圧縮した風を発生させ、そこに雷を纏わせてタローへと放ってきた。


 明らかにただの人一人に対して放つ技ではない。当たればそれこそ肉片すら残らない程の攻撃だ。


 だがそれに対しタローは、まるでそれがあたりまえかのように平然とその腕を軽く右へと振るうだけであった。


 たったそれだけで圧縮された死の嵐は嘘かのように消え去り、タローはまた薄く笑みを浮かべる。


 その刹那、タローを中心に凄まじい衝撃波が発生した。それによりマイや気絶した冒険者達は遠くへと吹き飛ばされてしまい、地面をゴロゴロと転がってしまう。


 マイは痛む体を無理矢理起こすと、すぐにタローへと視線を向けた。


「えっ……」


 もうこれで何度めか、マイはまた思わず言葉にならない音を漏らしてしまう。


 曇っていた筈の空は完全に晴れ、タローの濡れた髪は明るい太陽光によって照らされていたのだ。


 その太陽の暖かな温もりはマイの冷えた体を包み込み、優しく温める。


「あなた……一体何者なのよ……」


 遠のいていく意識の中、マイは呟いた。

 それに対しタローは笑って返すだけで、特に答えはしなかった。



誤字脱字誤用報告ありがとうございましたぁ……。ほんっとに助かりました。書いてる時には気付かないもんなんですね……。自分も出来る限り見直して入るんですが……うーん……。


とにかくありがとうございましたぁ!

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