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始まりの冒険者  作者: くろすけ
~エミルの変化~
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第五十五話.エミルと男

「……」


 エミルは暫しの間沈黙し、首を振って考えを振り払う仕草を見せるとシズクを置いて歩き出した。その方向は男が去っていった方向で、エミルが今から何をするのかは考えなくとも理解出来るだろう。

 もちろんシズクも付いていこうとするが、自分が居ても邪魔になるのではないか、という考えが頭を過り、すぐに踏み出そうとしていた足を止める。


(ウチは……この店の人について……)


 見た所さっきの二人はただの一般人ではない。エミルがフードの男を追い掛けるならば、自分は店長について行くのが自然の流れではないか。


 エミルの背中から感じるただならぬ怒りからそんな言い訳を自分に聞かせ、シズクは店内へと入っていった。


 自分の過去を知るもの。マイにはある程度境遇について伝えたことはあったが、そんなマイにすら自分の


 店長とのやり取りを終えた男は路地裏へと入っていく。距離を置いてそれを見ていたエミルはバレないよう気配を遮断しながらあとをついていった。


(こんな所でお姉さまをストーキン──じゃなくて尾行する為に習得した魔法が役に立つなんて変な話ですわ)


 男は気付いている様子も無く、付けられている事を知らぬまま右に左と曲がっていく。そして裏路地の行き止まりに入ると、男は立ち止まってため息を付いた。やれやれと首を振り、空を見上げる。


「──これは新しいデートかなにかか? 斬新で悪くないとは思うが、俺的には近くに来てくれた方がデートっぽくて好きだ」


「……バレていたんですの」


「あぁ、そりゃもうバリバリにな。俺に気付かれたくなかったら気配じゃなく『悪』を消す所から始めろ。ま、そんなもん消せたら人間じゃないから出来なくていいんだが……はっ、アンタなら出来そうだな」


 まあまそれは置いておこう。そう言って男は身を翻し、体を晒したエミルに歩み寄っていく。


「アンタの疑問は手に取るようによく分かる。『何故過去を知っているのか』『お前の正体は何だ』あぁそれと、『あの筋肉隆々野郎の正体について』もだな。合ってるか? 合ってるはずだ。だってそんな顔をしてる」


「……」


 エミルの返答を待つことなく目の前まで来た男は立ち止まり、フードから唯一見える口元を気味悪く歪ませる。 


「どれから聞きたい?」


「……ストーキングしていたのは謝りますの。あなたの正体も、あの店の店長の正体についても言及するつもりはありません」


 でもと、フードの奥に光る真紅の瞳を睨みつけたエミルは続ける。


「わたくしの過去をどこで知ったのか。それだけは今ここで答えてもらうんですわ。返答によっては──」


 不自然に大量の砂埃等が舞い、エミルの周りを守るように回り続ける。それを見た男は後ろに飛び退くと、エミルにも聞こえるようわざと大きな声でため息をついた。


 風の魔法。エミルが得意とする魔法の一つである。つまりこれは警告だ。何も話さなかった場合はすぐさま攻撃するという意思を男に見せたのだ。

 エミル自身も理解している。この男には勝てない。例え奥の手を(、、、、)使ったとしても、軽く捻りつぶされることは簡単に想像できた。


「魔力の扱いはなかなか上手いが……まだまだ三流の域だな」


 エイルの予想通り、男は動揺する素振りを見せることなく淡々と話す。


「俺はお前と戦う気はない。理由は単純。殺し(やり)合った所でアンタが負けるからだ。アンタなら理解してるだろ? 魔力が見える(、、、、、、)アンタなら」


(わたくしの能力がバレて……!?)


 エミルは動揺を隠す為に唇を強く噛んで表情を噛み殺す。

 あくまでも冷静に対処しなければならない。この男の言う通り、感情に身を任せて攻撃をしてしまえばこの男はエミルを殺すことだろう。


 わかっている。この男には勝てない。さっきの異次元なやり取りを見ていれば誰もが辿り着く結果(こたえ)


 でも、それでも知らなければならないのだ。己の過去をどこで知ったのかを。あの漆黒とも呼べる過去をなぜ知っているのかを。


 すると男は急に鼻で笑い、かと思うとエミルの魔法なんて関係ないと言わんばかりに歩み寄ってくる。


「話は少し変わるが、固有能力を持ちながらも魔法──魔力を扱えるってのは本当に凄いことなんだ。誇っていい」


 男の言葉にエミルはゆっくりと首を振り、


「今更誇るつもりもありませんわ。わたくしの固有能力(、、、、)。戦闘においても日常においても、あまり役に立たない能力でしたから魔法を練習しただけですの」


「それが凄いって言ってるんだ俺は。そもそも、魔力を可視化するなんて固有能力だろうが何だろうが人間には到底不可能なことなんだからな」


「不可能……?」


「あぁ、それは例えば、どれだけ大きな器を用意しようと、マグマを流せば大きさ関係なく溶けてしまうように。それは例えば、硝子で出来た器に鉄球を落とせば簡単に割れてしまうように。人間が持つ器ってのは『自然的な魔力』に耐えられるよう出来ていない」


 男はフードを手で抑え、エミルの目の前へと立ち止まった。その際にエミルが展開していた風の魔法は男を切り刻まんと襲い掛かるが、身体に触れるや否やただの風へとなり下がり、男のローブを大きなびかせた。

 わかっていた。予想は出来ていた。だからこそエミルはこう続けた。


「……まるで、わたくしが人間ではないみたいに話しますのね」


 挑発気味に、しかし何処か苛立ちを感じさせるように問いかけるエミル。対して男はその挑発に乗るように鼻を鳴らして反応して見せた。


「そんなことないさ。例え話みたいなもんだと思って聞き流してくれ」


「……わたくしはあなたが好きになれないですわ。信用できませんの」


「信用? そんなもん勝手にされて困るのは俺だ。好きになってほしいとは思うが、俺みたいなやつは信用すると痛い目を見るからやめておけ」


 男はエミルに軽くデコピンをすると、フードの中から少し覗く口元が緩まるのが見えた。かと思うと男は身を翻し、手をぶらぶらと揺らしながら来た道を引き返していく。


「あぁ、そうだ」


 そういって男は立ち止まり、首だけを動かしてエミルに顔を向けた。


「アンタの過去を知っているのはあんたと会ったことがあるからだ。アンタは覚えていないだろうが――まぁ、そういうことだ」


 男は今度こそ歩き出していった――かと思うとまた立ち止まる。次は首すら動かすことなく、ただ独り言のようにぽつりと言葉を零した。


「俺は女との約束は守るタイプだ。だからこれだけは言っておく」


 『目を背けるな。前を向いて受け入れろ』


 それだけ残して男の姿は霧の如く消えていき、残ったのはエミルと、その場に残る静寂のみとなった。


(私とあの男が会ったことある……?)


 なんの意図が有っていったかは分からない。もしかしたらすべて嘘っぱちで、適当に放った言葉かもしれない。

 だが、エミルには拭っても拭いきれない違和感を感じていた。それはまるで服に付いたシミのようで、洗っても洗っても男の言葉が落ちきらないのだ。

 何か大切なことを忘れているような気がしているのだが、それが何なのかはわからない。


 思考が同じ場所をぐるぐる回り、考えれば考えるほど答えから遠ざかっていくような錯覚も覚える。


「――エミル?」


 それは突然の出来事であった。聞き覚えのある声がエミルの耳から脳へと伝わり、あまりの驚きに反射的に振り向いてしまう。

 

「お姉……さま……?」

また遅れてしまい申し訳ありません。だいぶ早足となっていますので急展開になると思いますが、よろしくお願いします。

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