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始まりの冒険者  作者: くろすけ
~エミルの変化~
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第五十四話.店長と元魔王

また投稿期間が開いてしまいました。すみません。今回は一気に話がすっ飛びます。マイ編は一旦終わりで、次はエミルの過去編になると思います。


 そして時は戻り、現在の始まりの街は、生きのこった者達や冒険者によって魔法による修復作業が行われていた。少し見渡せばまだまだ崩壊した建築物などや飛び散った血液などが視界に入ってしまう。魔法を使ってこれなのだから、魔王軍の襲撃がいかに大規模であったかがひと目で判るだろう。

 だがそれでも襲撃の日に比べたら活気は取り戻しつつある。まだまだ住民達の恐怖は拭いきれていないが、活気が戻りかけているのはこんな状態に『慣れている』冒険者達のおかげか。


 そんな中、街を襲った惨劇など無かったかのように綺麗なとある飲食店の前で、フードを深く被った男と、はちきれんばかりの筋肉を持つ店長が向かい合い、ただならぬ空気を醸し出していた。

 店長の背後にはエミルとシズク、ティファの三人がいる。ちなみにナズナは街の修復作業の指揮をしている為呼び出しには答えず不在である。


「──久し振りだな英雄(、、)。何年ぶりだ? 何百年? お前は覚えてるか? あぁ待て答えなくていい覚えてないのは分かってる。お前はそんな奴だからな。これは俺流の『体調はどうですか?』って問い掛けなんだ分かるだろ?」


「──その無駄に喋る口は相変わらずだな魔王(、、)


「おぉその呼び方は辞めてくれ。本当に魔王になってもいいのか? ガオーってな! ハハッ────なんだこの空気は。冗談に決まってる」


 男はおどけてみせるが、しんと静まり返った空気が深く心に刺さったのか真剣な声色で呟くように吐き捨てた。

 一方の店長はと言うと、まだまだ警戒心を解いていない。この男と関わりがあるのは間違いなさそうだが、ならば何故警戒するのか。


 店長の背後から見物しているエミル、シズク、ティファの内エミルを除いた二人は疑問に思うが、空気が空気だ。聞き出そうにも聞けない状態である。


「てんちょー! この人誰ですかー!」


 ……いや、空気を読めない人物が居たか。

 店長は馬鹿馬鹿しくなったのか張っていた気を緩めて、諦めるようなそんな深いため息をティファに向けて付いた。

 フードの男は珍しそうに声に弾みを持たせる。


「何だ? いつの間にそんな可愛い嬢ちゃんと知り合ったんだ? お前にしては珍しいな色男め!」


「か、可愛いなんて……良い人ですね!」


「はっは! そうだろ? 良い子じゃないか!」


 冗談のようで冗談ではない会話を聞いていたエミル達は反応に困っていたが、ティファだけは違う。可愛いという一言だけで舞い上がり、男の正体などどうでもよくなっていた。

 男はこれが狙いだったのか鼻を鳴らし、店長に顔を向け直す。


「それで、貴方は何者ですの?」


 脱線した話を代わりにエミルが修正する。エミルのその声には店長と同等、もしくはそれ以上の警戒心が感じ取れ、目つきも名匠が打った刀のように鋭い。すると男は固まり、ため息をついて首を振る。


「俺の正体についてはそこの筋肉ムキムキ野郎にでも聞いてくれ。俺がここに来たのは自己紹介する為じゃないからな」


 唯一見える口元に嘲笑じみた笑みが浮かぶ。

 ただの人間でない事は分かる。固有能力によってエミルのみ魔力を見る事が出来るので、それだけは分かっていた。


 白。あの時タローが力を使ったあの時と同じ『白』という魔力量。


 この男が只者でないことは一目瞭然であり、警戒する理由はこれだけで十分過ぎる情報。

 だがこれ程までの魔力量だ。魔力による天候変化が起きてもおかしくない筈なのだが、天気に変わりはなく、太陽はいつものようにかんかんと街を照らし続けている。


「あぁそうだ言っておくが──俺が敵か味方なんて宇宙がどれだけ広いか考えるのと一緒だからやめておけ。それなら今日の晩御飯を何にするか考えた方が何倍も自分の為になる。ちなみに今日の俺の晩ごはんはパンだけの予定だ。生憎体質のせいで肉は食べられないからな。あ、今の分かったか? 生憎と肉を掛けたんだ洒落てるだろ? ん?」


 ペラペラと意味不明な言葉を並べる男にエミルは顔をしかめる。自己紹介をするつもりはないなんて言いながら無駄な事を話すのだからそれも仕方ないだろう。


「……洒落てないか。じゃあ本題に入ろう」

 

 警戒されている事は分かっている。だからこそ、男は自分なりに場を和ませようとしていたのだろうか。エミル達の微妙な反応に肩を落としながらも話を戻した。


「魔王軍だとか名乗る連中が動き回ってるのは見ての通り分かる筈だ。ここの街も(、、、、、)被害を受けてこのザマ。なのに、死亡者数は明らかに釣り合ってない。確実にアイツの能力を分かっての行動だ」


 あきれた口調で話す男。それに対し反応したのは店長ではなく、エミルであった。


「ま、待つんですの! ここも、と言うことは他の街も被害を受けているんですの!?」


「当たり前だ。もう聞いてると思うが、アイツの能力は『恐怖』そのもの。この街一つ破壊した程度じゃフォボスにとっては一ミリ程度の誤差に過ぎない。力を最大限に引き出すなら全国のあらゆる生物に『恐怖』を生み出してもらう必要があるからな」


 暴走しないよう制御してるみたいだしこれでも少ないほうだ、と男は続けた。


「……そうですの」


 エミルは天を見上げ、深呼吸をし、様々な感情を抑えながら口を噤んだ。ここで自らの感情を口にしたとしても何も変わらない。だからこそ、エミルはこれ以上は喋らなかった。

 男はニヤリと怪しく広角を上げる。

 

「──エミル・ディ・アルティニエ。魔法都市とも呼ばれる街の領主、アルティニエ家の三女。固有能力によって魔法、魔術がうまく扱えず家は愚か街全体からも迫害されたってのに、くそったれな故郷がそんなにも気になるか?」


「なっ──!」


 言葉を失うとはまさにこの事だろう。男の言葉によってエミルが抑えていた感情も、言葉も、全て消え去ってしまい、代わりに男の言葉が、過去の記憶が雪崩のように脳を揺らした。

 この男の正体などどうでもいい。今はとにかく、何故この男がそれ(、、)を知っているのかを知る必要がある。

 エミルはこれまでに無い形相で男を睨むと、男はまぁまぁと馬をなだめるかのように手を動かす。


「そう睨むな。お前の秘密はこれしか知らない」


「そういう問題ではないですわ」


 まさに一触即発の空気。少しでも変な動きをしようものならすぐさま攻撃が飛んできそうな、そんな緊迫した状態へと変わる。

 だが。


「――早く話を進めろ。お前と違って俺は暇じゃないんでな」


 緊張した空気は店長のその一言で破られた。エミルは沈黙し、男はやれやれと首を振る。


「せっかちは嫌われるぞ?」


「もう慣れている」


 さっきまでこの場を包んでいた空気は消え去り、重圧に耐えかねていたシズクやティファはほっと胸を撫でおろす。

 男はテンションを変えないまま口を開いた。


「アンタに協力して欲しいからここに来た」


 その言葉に店長は顔をしかめる。


「……言ってみろ」


「なに、たった一つ、『アイツに手を出すな』って、それだけを言いに来たんだ」


 単純明快。あまりにも簡単すぎるそんな頼みであったが、店長は首を振って断った。


「無理な願いだな。暴走したら俺が殺す。それに変わりはない」


 即答する店長に対し男は鼻を鳴らし、


「相変わらず頭の堅い野郎だ。俺だってこんな面倒な事すぐに投げ出したいしお前が断りたくなる理由も分かる。でもこれは魔王と勇者のちっぽけ(、、、、)な話で済ましていいことじゃないんだ。女が泣く姿を見たいか?」


「何が言いたい」


 店長の眉間に皺がより、瞳に僅かな怒りが灯る。それに対し男は溜息を付くと、その怒りを呑み込む程の圧力でこう放った。


「俺は魔王として発言しているんじゃない。一個人、エリカとしてお前(、、)に聞いてるんだ。タ──」


 店長はコンマ一秒にも満たないスピードで男に接近し、顔を掴んだかと思えば、地面へと叩き付けた。その衝撃で地面は割れ、遅れて衝撃波がエミル達を襲う。


「おいおい、周りの被害を考えて行動しろって何回言ったらわかるんだ? 俺が居なかったらここに居る奴ら全員あの世行きだ」


 男の声がしたかと思えば、店長の店の屋根から飛び降りて男が現れる。あまりにも現実離れしたさきのやり取りにエミル達はポカンと口を開けたまま固まっているだけだった。


 何が起きたのかさっぱり分からなかった。気が付けば地面は抉れていて、気が付けば男の姿が消えていた。そして気が付けば、男が屋根から飛び降りてきたのだ。


「てんちょー強いんですね!」


 何も分かっていなさそうに目を輝かせる能天気の化身ティファの言葉に、エミルは苦虫をかみ潰したような表情を作る。


(強いなんてレベルじゃないんですの……!)


 エミルには見えていた。いや、実際に店長の動きを捉えられたわけではないが、店長が如何に別次元の動きを見せたのかはその保有する魔力量で察する事が出来たのだ。


「……何なんですの……これ……」


 白。だがそれだけではない。店長の身体だけでなく、その周りの空間に溢れるかのごとく白く塗り潰されているのだ。それは段々と空間を侵食するかのように広がっていき、魔力量が上がっていく。


「ぐっ──」


 処理が追いつかなくなったのか激しい頭痛に襲われ、反射的に目を閉じた。


 初めての事だった。さっきまで殆ど魔力を感じ取れなかった店長が、一瞬にして魔力量がここまで跳ね上がったのだ。


 雨が降る。


 目を開けるまでもない。魔力による天候変化が発生したのだとエミルは悟る。


「雨は嫌いだ」


 低い声で呟き、男が指を鳴らすと、強くなり始めていた雨が突然切り取られたかの様に消え去った。


 エミルは恐る恐る目を開けて見ると、さっきまでの異常な魔力はまるで確認できなかった。


(何なんですの……!? あの男といいこの店長といい……人間じゃないんですの……!!)


 男はフードを深く被り直すと、背中を向けたまま動かない店長に向かってゆっくりと歩を進めていく。


「こんなやり方は好きじゃない。でも、こうでもしないとお前が考え方を変えないってんなら話は別だ」


 すぐ目の前まで近付いた男は足を止める。


「さっきみたいに殺りあってもいいが──手加減は期待するなよ? 良くも悪くも俺とお前は『敵』だからな」


 店長の首が跳ね飛ばされる。次に両腕、両脚、と飛ばされ、店長であったもの達が力なく地面に転がった。頭が転がり、虚無を見つめる瞳と目が合ってしまう。


 そういった(、、、、、)幻覚を見せられた店長を除く三人は目に涙を溜め、吐き気が込み上げてくるのを必死に堪えていた。だが、こんな事に一切の経験も耐性もないティファが耐えられる訳もない。


「……分かった」


 嘔吐しかけたティファだったが、それよりも早く淡い光が身体を包み込んだ事によりこみ上げる不快感は無くなった。やがて気を失うティファだが、体を支えて倒れるのを防いだ店長は優しく抱き上げると、店の入口へと歩き始める。


「また明日ここに来い。……コイツは巻き込むな」


「巻き込む? ならなんで手放さないんだ? あぁそうか分かったぞ──そいつはアンタの娘だな?」


「違う。お前には関係ない」


「なら記憶を消してやってもいい。あんたに関する記憶を全部パァーン、吹っ飛ばせる。俺ならな」


 その言葉に店長は一瞬だけ立ち止まり、また無言で歩き出す。男がこれを肯定とは捉えず否定と捉えたのは、長年の付き合いからだろうか。

 呆れた様子で鼻を鳴らし、男は吐き捨てるようにこう続けた。


「言ってみただけだ」


 男は肩を竦めておどけると、のんびりとした足取りでその場を去っていく。その後ろ姿は、態度とは裏腹な哀愁が漂っているように思えた。

店長と魔王さんは知り合いです。もうなんとなくわかると思いますけども、店長はあれです。超有名なあれです。はい、それです。

そういえば店長の名前出てない……と思っている方もいると思いますが、明確にこれだ、というのは今後一切出す予定はありません。この作品では。見事な倒置法ですね。

それはこの作品が終わってからわかると思います。


それでは、話が駆け足過ぎて音速を超えると思いますが、よろしくお願いいたします。

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