第四話.魔力と乱入
マイの言葉通り道中に安くて軽い剣を購入し、マイ率いるFランク冒険者達は街の外にある平原へと出る。
そして現在、雲ひとつ無い青空の下でFランク冒険者達の前にはスライムと呼ばれるモンスターが姿を現していた。その数は五体。ちょうどいい数である。
「ちょうどいいわね。じゃあみんな、私が合図したら好きな様に攻撃してみなさい」
「えぇ!? い、いきなりこのゼリーと戦うんですか!?」
タローは驚愕の声を上げると、大袈裟だとマイが呆れた声で返した。
確かに驚いているのはタローだけであり、他の冒険者達はやる気満々である。
「このモンスターはゼリーじゃなくてスライムっていうのよ。基本的に人間には無害だから安心して」
「は……はい……」
タローはマイに買ってもらったシンプルな剣を腰から取り出し、構える。だがその剣はぷるぷると震えていた。
「皆準備できたわね。じゃあ──始め!!」
マイの合図と共に、冒険者達は一斉に襲い掛かる。
剣使いの男はスライムに向かって剣を振り下ろすが、スライムに触れた瞬間、まるでトランポリンのように跳ね返ってしまう。その後何度も攻撃するが、全て跳ね返されてしまっていた。
弓使いの男も同様である。矢を放っても弾き返され、ダメージが通る気配は無かった。
「えいっ! えいっ!!」
タローも慣れない剣を我武者羅に振るっているが、そもそもスライムに当たってすらいない。
そんな中でもスライムにダメージを与える事に成功したのは、女魔法使いと癒し手である。
「な、なんで俺達は……」
息を荒げ、額から汗を流す剣使いは信じられないと言った表情で呟く。
するとマイが、攻撃を辞めるようにと命じた。
「剣と弓で攻撃が通らないのは当たり前。スライムは物理攻撃を無効化する特性があるの。だから魔力と呼ばれる力を使って攻撃するのよ」
マイは腰に付けた鞘から剣を引き抜くと、スライムと向き合う。
魔力。
例えばここにいる女魔法使いは、初級の中でも初級の魔法『火の粉』を、魔力を使って使用した。癒し手は魔力を乗せた打撃と呼ばれる攻撃でスライムを攻撃した。
どれも魔力を使用した攻撃である。
そして魔力とは、単なる物理攻撃とはまた違った力が働く。これに関してはまだ解明されていないが、便利だからと現代まで使用されていたりする。
時には何もない場所から炎を生み出し、時には身体能力を強化したりする魔力。これには二種類あり、体内魔力と自然魔力に分類される。
そして、体内魔力とは自分の体で作り出す魔力の事。自然魔力はそのままで、主に木や草などが自然に放出する魔力の事だ。
この自然魔力は体内魔力よりも圧倒的に濃く強力な為、主に使われるのはこちらである。
マイはそこまで噛まずに説明すると、構える剣の刀身が淡く光りだした。
「百聞は一見にしかずってね。実際に見せるわよ」
マイはそう言うと、その剣を横薙に振るった。
その刀身はスライムの体に当たっても跳ね返される事なく、すぱっ、と音を立ててスライムは切断される。
おぉ、と冒険者達は驚嘆の声を上げると、何処か誇らしげにマイは剣を鞘にしまう。
「か、かっこいい……」
タローは思わずといった感じで呟く。
自分もあんな感じになれる時が来るのかと思うと、不思議と剣を握る力が強くなり、胸が高鳴った。
「自然魔力は体内魔力を使って集めるの。あなた達はまだ体内魔力が少ないからそんなに集められないと思うけど、練習すれば体内魔力も増えるから安心しなさい」
その言葉に皆頷くと、次にマイは体内魔力の扱い方の練習をしようと側にいたスライムをペチペチと叩いた。
「体内に存在する魔力は、何もしなければ単なる力として働くの。再生能力、身体能力、洞察力等、全てにおいて強化されるんだけど、逆に言えばその全てに魔力が使われてしまわ」
「は、はぁ……」
「分からなくてもいいわよ。要は、使わない所に魔力を送ったって仕方ないから、使う部分に魔力を集中させようってことだから」
例えば、とマイは拳を握ると、その拳が淡く光り出した。
「こんな感じね。これは腕に魔力を集中させたの」
マイは手をぷらぷらとさせると、イメージは腕に流れる血を意識する感じだと使い方を説明した。
冒険者達は早速挑戦しようと目を瞑る。タローも慌てて目を瞑って意識するが、全く感覚が分からない。
「──出来た!!」
「俺も!」
「私もよ!」
「う、ウチも……」
「えぇ!?」
信じられないとタローは目を開けると、確かに他の冒険者達の腕が淡く光っていた。
「女魔法使いと癒し手は日頃から使ってるものね。でも剣使いと弓使いのあなた二人がこんなにも早く出来るなんて、二人共才能があるわね」
マイの言葉に二人は照れる様に頭を触る。
魔力は誰にだって扱える。それこそ子供でも、少し説明しただけで皆魔力を操作する事ができる。
つまりこれは二人を伸ばすためのお世辞なのだが、二人はそれに気付く事は無い。
するとマイがタローへと視線を向けた。
タローの腕は光っていない。タローの表情からも使えないのだとマイは察すると、安心しなさいとタローの肩を叩いた。
「たまに体内魔力を扱えない人がいるのよ」
「安心できないですよぉ!!」
「話は最後まで聞きなさい。その人達に必ずと言っていいほど共通しているのが、『固有能力』を所持していること。何か心当たりはあるかしら?」
マイの問い掛けに、最初は慌てふためいていたタローはアゴに手を添えて考え始める。
固有能力とは、生まれ持った才能の様なものだ。大抵は強力な能力だが、中にはデコピンが強くなるなどの使えない能力もある。
そして、その固有能力を持った人間の中には、何かしらの問題があり魔力を扱えなかったりする事もあるのだ。
マイはそれだと考えたようだが、だがタローには心当たりが無いのか首を傾げる。
「……特に無いですね」
「本当に? 本当に何もないの? デコピンが並の人より強いとか」
「んー……無いなぁ──あ! でも僕、素手でスライムを倒せますよ!」
「素手で? スライムを? 魔力無しにスライムを倒すなんて固有能力聞いた事が無いのだけれど……」
マイがブツブツと呟き始める。すると剣使いの冒険者がしびれを切らしたのか、「あーもう!!」と大きな声で叫んだ。
「マイさん! 早く練習しましょうよ! あのよく分からない奴なんてほっときましょう!!」
「れ……レンくん……それは言い過ぎ……」
「私もそう思う。まず魔力すら扱えない人が冒険者になること自体おかしいよ。諦めたらどう?」
「エリカちゃんまで……」
おどおどとした癒し手は何とか止めようとするが、その効果も虚しく、レンと呼ばれる剣使いとエリカと呼ばれた女魔法使いから邪魔だという目が向けられた。
流石にこれはマズイとマイは止めようとするが、その腕をタローが掴み、首を振られる。
「自分の魔力すら扱えない僕が邪魔なのは事実です」
「なに言ってるのよ。こんな事言われて悔しくないのかしら?」
マイの言葉にタローは、「まさか!」と意外にも笑って返した。
「悔しくなんて無いですよ! これが僕の力ですから、堂々とするしかないんです!」
ふんす! と胸を張るタロー。
一体何処に胸を張る要素があったのか分からなかったマイは呆れた様に肩をかしげるが、その表情は笑っている。
「強いわね。私は好きよ?」
「えぇ!? でも僕には好きな人がいるので……」
「なっ!? 違うわよ!! 人として好きって意味よ!!」
マイは顔を赤くしながら早口で訂正すると、他の冒険者達の視線が鋭くなっている事にマイは気付く。
「ん、んん!! じゃ、じゃあ訓練の続きを始めましょう──あら、雨?」
訓練を始めようとしたその瞬間に、突然雨が降ってくる。最初は弱々しいものであったが、数秒もしない内に豪雨となってしまった。
「おかしいわね……雲なんて無かった筈だけれど……」
今は雲が空を覆っている。
だがマイの覚えでは、街を出てきたときは雲一つない青空だった。
「はぁ……でもこれじゃあ訓練は中止ね」
「う、うそだろ!!」
「まだ自然魔力の正しい扱い方を教えてもらってない!!」
マイの言葉に、剣使いと魔法使いが詰め寄る。
その目にはしっかりと怒りが含められていた。だがそれはマイに向けてではなく、タローに向けてだろう。ちらちらとタローへと目が行っているのが分かる。
だがタロー本人にその思いは届かない。
いや、それ以前にタローは視線を上に上げたままで、剣使いらの視線に気づいて居なかった。
「──マイさん」
タローは視線をマイへと移す。
「な、何かしら」
雨に濡れているせいだろうか。先程とは違う何処か落ち着いたタローに、マイは違和感を感じながらも言葉を返す。
タローはゆっくりとした動作で空を指差す。
それに釣られてマイや他の冒険者達もその視線の先にあるものを見ようとするが、そこには何もない。
だがマイだけは分かった。分かってしまった。
よく目を凝らさなければ見えないが、薄っすらとシルエットが見える。距離的にはそう遠くは感じなかった。
「まさか……天候が突然変わったのって──」
何故気付かなかったのか、とマイは大きく目を見開いた。
「早くここから逃げて!! 早くっ!!」
叫ぶように放たれるマイの言葉に、冒険者たちはもちろん困惑する。
一体どうすればいいのか。何故逃げるのか。そんな疑問が足を止めた。
経験不足、というのもあるのかも知れない。あたふたとするだけで逃げない冒険者達に、苛つきを覚えながらマイはもう一度叫ぶ。
「──竜よッ!!」