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始まりの冒険者  作者: くろすけ
魔王軍編 〜マイの変化〜
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第四十五話.あふれる復讐心、謎の男

ここから暫くマイの話です。あと新キャラ出てきます。重要です。めっ↑ちゃ↓重要です


 目の前で仲間(エミル)が殺され、街を襲ったのが魔王軍と知ってからどれほど経っただろうか。


 あれからマイは、休む事なく歩き続けていた。


 そのおかげか今はもうだいぶ離れた名前もない森林に入っているが、何日も飲まず食わずで、更には睡眠も取らずに歩き続けていた せいか、その体力は既に限界を迎えようとしていた。


(視界が……歪んで……)


 そんな状態でもマイは、復讐心だけを動力に足を動かす。


(絶対に……何が何でも殺す……ッ……!!)


 それは幼少期。魔王軍と名乗る者達に、村、家族、友人──マイはあの時に全て奪われたのだ。

 壊滅した家。魔物に見るも無残に食われる親。泣き叫びながら助けを求め、そして潰された友人。


 まさに絶望しかないあの場で、何故かマイだけが生き残ってしまった。


 一人取り残されたマイは、そこで強く決意したのだ。


 冒険者となり力を付け、必ず魔王軍を滅ぼすと。


 マイは下げていた頭を何とか持ち上げ、復讐に歪んだ瞳で何とか前を見据える。


 ──そんな時、霞む視界の中で一人の人物らしき者が視界に映された。


「何か恐ろしい気配を感じたと思って来てみれば、今にも死にかけな美人さんじゃないか。運がいいな」


 その人物は、声からして男だろうか。楽しそうに独特な話し方をしながらマイへと近付いていく。

 最初は暗いから顔が見えないのかと思っていたマイであったが、木漏れ日がその男に当たり、それがフードのせいだと気付く。


 マイは力の入らない腕に力を入れて剣を引き抜くと、何とか構えた。


 こんな場所に人なんて居るはずがない。そして顔を隠している。ならばこれは魔王軍に所属する者だ。


 マイは正常な判断も出来ないままその考えに辿り着き、相手を睨みつけた。


 するとそれを見た男は慌てて両手を前に出し、何度も首を横に振る。


「──あぁ待て待て落ち着け。運がいいってのは俺じゃなくてアンタの方だ。俺はいつも運が悪い。じゃないとこんなジメジメするくそったれな場所で生活なんてしない筈だ。な、そう思うだろ?」


「何を……言って……ッ……!!」


「あれ違ったか。てっきり俺の運が良いって捉えて怒ってるのかと思ったんだが」


 男はそう言って笑うだけで、特に戦闘態勢に入る等、これと言った反応が無い。戦う気が無いのか、それとも油断させるつもりなのか。


 それはわからないが、男は人差し指を額に当て、少し考えてからマイへと視線を向ける。


「あぁ、話を進める前に少し言い訳いいか? 前にもそんな奴がいたんだ。『俺の運が悪いって言いたいのかー』ってな。これは本当だ。俺は女には嘘をつかないって心に強く誓ってる。あぁ待て誓ってないかも────いや今から誓う。これで本当だ。な?」


「う……るさい……ッ……!!」


 痛む頭が上手く働かず、やがて考える事を止めたマイは剣を強く握ると、ゾンビの様に本能のまま謎の人物へと襲い掛かる。

 その男は咄嗟に横に飛んでマイの攻撃を避けるが、そこに更にマイは追い打ちを決めてくる。

 それを避けたい男だが、全力で地面にスライディングを決めたせいでまともに立ち上がる事も出来ず、尻を地面に付けたまま足と手を使って後ろに下がっていく。


「おいおい待て待て! そんな体で無茶はするもんじゃない!」


 男は何とかマイの制止を試みるが、言葉は届いていないのか剣の切っ先を下に向け、男に向かって全力で剣を突き刺してきた。


「危ないだろッ!?」


 男はそれを何とか横に転がって避けるとそのまま勢いで立ち上がり、マイに向かって手を伸ばして深呼吸をした。


「いいか一旦落ち着け。俺は敵じゃない。よく勘違いされるが、俺は性格がくそったれなだけで害はない完全な味方だ。あぁごめん完全は言いすぎた。まあそんな事今はどうでもいい」


 男はまるで小学生の子供に諭すかのように優しく話し掛けると、様子を伺っているのかマイの動きが止まる。


 それを確認した男は頷くと、慎重にその話を続けた。


「今のアンタの身体はアンタが思ってる以上にボロボロだ。見たところ睡眠不足に栄養失調、肉体の疲労も極限まで行ってる。正直何で今そこで立っていられるのかが不思議なくらいボロボロだ」


 この話を聞いたマイは少し目を細める。


 この男が敵じゃないかは定かではないが、ボロボロなのは間違いなく事実であった。今もマイは少しでも気を抜けば倒れてしまう程で、心身共に弱りきっている状態。


 だがそれでもマイは進まなければならない。全ては復讐の為。休む暇など無い。


 だからこそマイは男を睨みつけたのだ。


「な……によ……あなたに関係無いでしょ……!」


「あぁ確かに関係ない。でも残念ながら困ってる人間は助けるってのが俺の信条なんだ。それは変えられない。だれに何を言われようが、これだけは絶対に曲げられないんだ」


 男は肩を竦めると、「あぁー……そうだな……」と良い例えを探し、マイの瞳を暫く眺める。そして見つけたと言わんばかりに口角を上げると、頭を縦に振った。


「今のアンタが抱いてる復讐心と同じ様なもんだ。違うか?」


「──ッ」


 マイは驚きのあまり目を見開き、そのまま固まってしまった。

 当然ながらこの男とは初めて会う。そしてこれまでの事を説明した訳でもない。


 なのに一体なぜこの男は見抜けたのか。


 そんな答えの出ない事を考えていると、男は何かを察したのか手を少しだけ広げて首を傾けた。


「別に心を読んでる訳じゃない。アンタの顔に書いてあったんだ。『私は復讐します』ってな」


「ふざけないで……ッ……!!」


 マイが再び剣を構えると、男は身体を一瞬強張らせ、反射的にまた手を伸ばした。


「──まぁ冗談は置いておいてだ。俺は人の観察が趣味なんだ。特別な事情があって表には出られないから街じゃ人を陰で観察する事くらいしかやる事が無い。正直言って暇。でもそのおかげで鍛えられたもんがある」


 男はそこまで早口で話すと、マイの方も段々と落ち着いてきたのか剣を下げ、男を睨み付けた。

 

 早く答えだけを言えという威圧を感じた男は肩を竦めると、「まぁつまりだ」と結論に入る。


「……俺はアンタみたいな眼をした奴を腐るほど見てきた。帰ってきたのはほんの数人。他の奴らは死体すら見つからずに地面の栄養にでもなってる。アンタもそうなりたいのか? 俺はそれを言いたかった」


 男は地面の土を手で掴んでから開き、地面に落としていく。そんな遠回りに『生きて帰ってくることは出来ない』と告げる男に、マイは考える事なく更に鋭く男を睨みつけた。


「あんたに……私の何が分かるのよ……!! 私は強いのよ……強くなったのよ……私をそこらの奴らと一緒に──」


「一緒なんだよ。そういう所もな」


 今度は男が鋭く返す番であった。

 その言葉は今までのへらへらとした話し方とは違う、鋭く重い口調。それはマイの言葉を止めるのには充分過ぎた。


「自分の力を過信し、考える事もせずに復讐に行き殺される。今のアンタはその一歩手前の状態だ。アンタが過去に何をされたのかは知らない。だがこんな俺でもアンタの復讐は死にに行くための口実に過ぎないって事は分かる」


「ちがっ──」


 マイは否定しようとするが、男がマイに近付き、その顎を持ち上げられたことによってまた止められてしまう。


「なら試すか? こんな弱っちい俺にも攻撃を当てられないそんな状態で? 無理だな」


 フードの奥から覗く深紅の瞳がマイの身体を縛り上げていき、マイは身動きが取れなくなっていく。

 もちろん男は何もしていない。疲弊しきったマイの頭が幻覚として見せてしまっているのだろう。


「今のアンタじゃそこらの雑魚にも勝てずに殺される。ここまで来れたのは本当に運が良いってことを自覚しろ。分かったらさっさと寝てくれ。その間に飯くらいは用意してやる」


 男はそれだけ話すとマイから離れ、森の奥へとその姿を消していく。

 暫く身動きが取れなかったマイだったが、やがて木にもたれ掛かると、そのままずるずると地面に座る。


 男の言葉を信じたわけではない。恐怖から男に従っているわけでもない。

 ただマイ自身も、自分が既に限界を迎えている事は理解していたのだ。


 今の自分ではここから逃げる事すら出来ない。だから少しだけ。少し目を閉じて休むだけだ。男が帰ってくる前に起きて逃げればいい。


 そんな気持ちで目を閉じるマイであったが、数秒もしない内に静かに寝息を立て始める。


 するとそこにフードを深く被った男が帰ってきた。その手には何処から持ってきたのか大きめの布。それをマイの元まで行くと、優しく掛ける。


「はぁ……とんだ世話を焼かせな女──いや、これに関しては放置してた俺のせいでもあるか」


 男は最後に愚痴に似た言葉を零すと、またその姿を森の奥へと消すのであった、





この男の台詞を考えるが結構むずくてちょっと後悔してます。

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