第四十四話.ティファとナズナ
まずは一言。投稿に遅れてしまい本当に申し訳ありません。
最近スランプ気味で、内容は決まっているのになかなか文章を書いても消してしまう事が多く、ずるずるとここまで伸ばしてしまいました。
それとこれから暫く忙しくなってしまうのもあって、書く時間はあるのですがこんな状態なので三日に一つは厳しいかも知れません。一週間に一つは投稿出来たらいいな、と私は思っていますが、それも怪しい所ではあります。
また詳しい話は決まり次第活動報告にて書かせて頂きますので、お待ち下さい……。
叫ぶ人々、壊れる住宅。そこらの地面には当たり前かのように血が飛び散っており、鉄臭い匂いが充満している。
爆発音などが聞こえる事はもう無くなったが、それでも五人の孤児を連れて逃げるティファは警戒を解くことはなかった。
(冒険者ギルドに行っても誰も居なかったし……これから何処に行けば……)
店長に言われた言葉通り冒険者ギルドに向かったティファであったが、その中はもぬけの殻。人の気配は感じられなかった。
その為街から出ようと歩いているのだが、建物が崩壊して道を塞いでいたり、火が道を遮っていたりと、上手く街から逃げ出せない状況にティファは立たされていた。
(うぅ……何で周りに誰も居ないんですかぁ……!)
自分一人なら何とか逃げ出せるだろう。だがこの孤児達を置いていくわけには行かないし、何よりもあの店長に任されたのだ。逃げるわけには行かない。
だが、能力も何も持っていないティファに出来ることは少ない。出来る事と言えば、精々子供たちを不安にさせないために話しかけることくらいだろうか。
そんな事を考えているティファのもとに、怪しい影が忍び寄る。それはちょうどティファの死角を狙っている為か、ティファは気付いた様子もなくこれからの事を呑気に考えていた。
「ガゥ──!!」
その隙を見逃さないと言わんばかりに瓦礫から飛び出してきたのは犬型の魔物。不幸中の幸いかそれほど強い魔物ではないが、それでもただの一般人であるティファにとっては脅威でしかない。
「あっ――」
気付いた時にはもう遅い。運動神経が良いわけでもないティファは足がもつれ、尻を強く地面に打ち付けてしまった。
だが魔物にとってそんなことは関係ない。魔物は飛び上がると、隙だらけのティファに伸し掛かろうとする。それに対しティファは、目を瞑ることしか出来なかった。
「店長――!!」
「キャゥンっ!?」
突然魔物が吹き飛ぶ。魔物は空中で体勢を直すと、地面に足を擦りながら止まった。そして邪魔をした『何者か』を視界に収める。
「まだ残っていたんだね。何とか間に合ってよかったよかった。危うく殺されるところだったよ」
男っぽい口調だが、紛れもなく女性の声。どこか適当さが見えるその声は、ティファの背後から聞こえてきた。
ティファはそちらへと目を向けると、その女性と目が合う。そして目を見開いた。
「黒髪の……受付嬢……?」
受付嬢がよく身に着けている使用人の様な服装、そして何よりも珍しい黒髪をした女性。
もしかしたらあの店長が言っていた人物なのではないか。
そう考えている内に、その女性がティファに近付き、手を差し伸べる。
どうやら腰が抜けて立ち上がれないのがバレていたらしい。ティファはその手を取ると、何とか立ち上がる。
「……その様子だとあたしを知ってるのかな? あ、もしかしてアイツと知り合い? さっき『店長』って言ってたもんね」
「あ……えぇと……」
まだ頭が混乱しているのか、上手く言葉が思い浮かばない。
その女性は魔物に背を向けながらティファの言葉を待つ。どうやらそれを魔物がチャンスだと見たのか、バレないように音を消して駆け出し、勢い良く飛び掛かった。
「──後ろ!」
それに気付いたティファは何とか声を絞り出すが、その女性が振り向く事は無かった。
……いや、振り向くまでも無かったのかもしれない。
それは魔物が女性に触れる瞬間であった。まるで逆再生でもしているかのように勢い良く跳ね返され、その魔物は為すすべもなく瓦礫に叩き付けられてしまったのだ。
ティファはポカンと口を開けて固まる。
「何が……起きて……?」
「あぁと……今は気にしなくていいよ」
女性は頬を掻きながら苦笑すると、それよりもと話を変える。
「その子供たちを安全な所に避難させないとね。今はこんな状態だから魔物も入り放題だし、取り敢えず安全な場所まで送るよ。付いてきて」
女性はそう言って歩き出す。
ティファはそれに付いていくと、子供達も恐る恐るながらも後ろについて行った。
「あ、あの! 助けて下さりありがとうございました……!!」
「あぁいいよいいよ礼なんて。あー……えっと……名前はなんて言うのかな?」
「あっ……ティファって言います!」
「ティファちゃん、ね。あたしはナズナ、この街で受付嬢をしてるよ。これからも宜しくね」
「は……はい……!!」
何故か男の様にゲラゲラと大きく笑うナズナ。
そのテンションについて行けないティファはどう反応したらいいか分からず、ただ首をこくこくと動かすのみであった。
「それで、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな」
「──あ、はい! どうぞ!」
少し緊張しているのか、それともさっきの恐怖が抜けていないのか、少し反応が遅れてしまうティファだったが、ナズナは特に気にする事なく話を続ける。
「じゅ………タロー君って知ってる?」
「じゅん?」 ティファは訂正される前の言葉に首を傾げるが、すぐによく来てくれる客だと告げる。
それを受けたナズナは次に、店長の事が好きかと問い掛けた。もちろんだとティファは頷く。
なら話は早いとナズナは立ち止まった。
「単刀直入に言うよ」
ナズナは振り返ると、さっきとは真逆な、真剣な表情でティファを見つめた。
「二人の事はもう忘れたほうが良い」
「えっ──?」
ナズナのその言葉に、ティファは己の耳を疑った。だが何度脳内で再生させても『忘れろ』と同じ言葉を繰り返す。
「な、何でですか!? 店長どっかに行っちゃうんですかっ!?」
「……まぁその表現も正しいかな。あたしの事もなるべく早く忘れる様にね。これは店長が望んでいる事なんだよ。店長はもう、君とは居られない」
嘘だ、とティファは呟く。
だが確かに不可解な点はあった。
あの店長が人の命よりも店を優先するのだろうか。更には子供の命まで掛かっているのに、それを全てティファに任せるだけで自分は街に残る。
なぜ気付かなかったのか。
これはまるで、店長が自分を遠ざけている様ではないか。
「う……そだ……」
ティファの頬に涙が伝う。
胸を抑え、膝を地面に付け、静かに嗚咽を漏らす。
もう会うことができない。そう考えてしまうと、自然と涙が溢れてきてしまったのだ。
ナズナは暗い表情のまま暫くその様子を眺めると、ティファと視線を合わせる為に身を屈めた。
「──って言っても、そう簡単に出来ないよね。そう言うあたしも『出来なかった』者の一人だから気持ちは痛い程分かるよ」
ナズナは優しく笑みを浮かべると、手を差し伸べた。
「ここから先は自己責任。もしかしたら君は、死ぬよりも酷い結末を迎えるかもしれない。もしかしたら君は、店長の前に立ち塞がらないと行けなくなるかもしれない。それでも君は──本当に付いてくる?」
「…………」
ティファの覚悟を試すかの様なその質問は、ティファにとっては一番簡単なものだったのかも知れない。
ティファは力強く頷くと、涙を拭うよりも先にナズナの手を掴んだ。するとナズナは突然ティファを抱き寄せる。
何事かと顔を赤くするティファだが、ナズナは指で涙を拭うとすぐに解放した。
「じゃ、あたしの初恋の話でもしながら歩こうか。その子供達を安全な場所に預けたらすぐに店に向かうよ」
「はゃ、ひゃい!」
二人は子供を連れて、崩壊した街をしっかりと地面を踏み付け、歩んでいく。
これからは、それぞれが己という敵と戦う。
ある者は己の怒りと戦い、ある者は己の弱さと戦い、またある者は己の過去と戦う。
ただ、最終的な目的はただ一つ。
──タローを救い出すこと。
これは、弱い者達が集まり、一人の逃げ続ける『タロー』を救うだけの──ただそれだけの物語だ。




