表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの冒険者  作者: くろすけ
魔王軍編
45/69

第四十三話.シズクと店長


 やがてマイの姿が無くなり、少しの間静寂が訪れる。

 するとそこに、何か異変を感じ取ったのか急いで走る人影が映った。


「な、何が……」


 その人影――シズクは立ち止まると、辺りを見渡した。


 まさに血の海。首と体が離れた死体がそこらに転がる光景は刺激が強すぎたのか、口元抑え、込み上げる吐き気を堪えた。

 そしてたまたま目線を向けた先――首のない死体の山の頂点に、見慣れた人物が移り込む。


「そんな……!! エミルさん……!?」


 シズクは勇気を振り絞り、何とかそちらへと歩を進める。

 エミルのその顔は、腹部から大量に血が流れだしたせいか白い。四肢も脱力しきっており、更に見た所息もしていないようであった。

 この状態は、例えSランクの僧侶であってももう助けられないと判断するレベルだろう。ここから傷を治し、意識を取り戻すとなると、まさに神の奇跡でなければ出来ない事だ。


(まだ……)


 それでも。

 シズクはエミルに近付くと、胸に垂らした十字架を握り、静かに目を瞑る。


(お母さん……ウチに力を……!!)


 目を開き、仰向けになったエミルの腹部に手を当てると、その手が淡く光り出す。

 その光は徐々に強くなっていき、やがてそれはエミルの体全体を包むほどに大きくなった。


「ここの魔力を全部……ごめん……!!」


 その言葉に呼応するかのように、まるで意思を持っているかのように光が変形し始め、十字架を作り出す。するとその十字架を中心に白く発光する文字がエミルの体全体に浮き上がってきた。


「第一蘇生魔法――【全ては一つの為に(リヴァイバル)】」


 光がエミルの体の中に吸い込まれていく。そして完全にエミルの体内へと消え、地面にゆっくりうと降ろされた時、エミルは足りない酸素を取り込むために大きく息を吸い、荒い呼吸を続けた。

 だが意識は戻っていないのか目を開けることはない。


 シズクはホッと一息吐く。


 蘇生魔法。蘇生、と言っても完全に死亡した人間は蘇らせることが出来ないが、心臓にあまりダメージが無く、停止してから一〇分以内ならば生き返らせることが出来る可能性がある魔法。

 あくまでも可能性。失敗することが殆どだが、今使用した蘇生魔法は辺りの魔力が濃い程成功確率が高くなる魔法だ。

 そして全ての生物は死亡すると魔力が離れ、空気を漂う。この場所には大量の死体が存在しており、その分大量の魔力が空気を漂っていた。

 まさに蘇生魔法を使用するには絶好の場所だ。それが成功へと導いたカギとも言えるだろう。


 だが問題はこの後だ。確かに死亡する事だけは避けることが出来たが、どんな障害が残るかが分からない。もしかしたら話すことが出来なくなってしまったり、最悪目を覚まさないことだってある。


「……休憩」

 

 そんな事を考えていても仕方がないと、シズクは頭を振って考えることを止める。

 取り敢えず休憩をしようといい場所を探す――その時だった

 

「蘇生魔法か。珍しいな」


 背後から声が聞こえてくる。

 一瞬シズクは体を強張らせたが、聞いた事のある声だったのですぐに緩まる。

 シズクふ振り返ると、そこにはがたいのいい白髪の店長が立っていた。その手には血で濡れた剣が握られている。


「……酷い有様だ」


 特に動揺した様子もなく辺りを見渡していた店長だったが、突然シズクの方へと顔を向けると、剣を振るった。

 その斬撃は魔法の様に飛んでいき、シズクの真横を通り過ぎていく。それと同時に、シズクの首筋に何か生暖かい液体のようなものが付着した。

 シズクはそれを触って確認してみると、指が赤く染まるのが分かった。後ろを確認すると、そこには真っ二つになったゴブリンの死体が転がっている。


「気を付けろ。さきの騒ぎで街に魔物が入ってきている。あらかた俺が片付けたが油断はするな」


 店長はそう言うと、つまらなさそうに剣を鞘へと収めた。


「あ、ありがとうございます……」


「礼はいい。それよりもこの原因が何処に向かったか分かるか」


「原因?」


 シズクは首を傾げる。するとその様子を見た店長はエミルの元へと歩きながら首を横に振った。


「見ていないならいい。ひとまず店に戻るぞ。お前も付いてこい」


 店長は言うと、エミルを担ぎ上げて歩き出す。

 シズクは何が何だか分からなかったが、ここに残っても何も無いので、店長の後ろに付いて行った。


「……あ、あの!」


「……何だ」


 気不味い空気が流れる中、シズクが何とか勇気を振り絞って話しかけると、店長は歩くスピードを緩めず、顔を前に向けたまま聞き返した。


「何で……知ってた……んですか……?」


「……蘇生魔法のことか」


 店長はぶっきらぼうに聞き返すと、見えないながらもシズクは頷いて、「そう」とだけ答えた。

 すると店長は、


「……俺も世話になった事があるからな。もう遥か昔の事だが」


 昔を懐かしむ様な、悔やむ様な、そんなよく分からない声で返してみせた。

 だがシズクは納得が行かないのか、でも、と続けて質問を投げる。


「……蘇生魔法は……魔女しか……使えんし……」


「それは違うな。蘇生魔法は元々、魔力の扱いに長けていた魔族と呼ばれる種族にしか使えなかった魔法だ。魔女は魔族と人間のハーフ。その中でも女は魔族の血を多く引く。だから使える」


 ぺらぺらと珍しく流暢に喋る店長だが、今の話は果たして本当なのか。シズクは見た目とは反対に八〇年は生きている。それでも『魔族』なんて聞いたことがないのだから、シズクが産まれるもっと前の話という事になる。


 そこで生まれる当然の疑問。


 この話が本当ならば、この店長という人物は一体何者なのか。この話し方だと、まるで魔女から蘇生を受けたのではなく、その魔族という存在から蘇生を受けたことになる。


 シズクは、聞けば聞くほど深まる謎に首を傾げる他無かった。するとその気配を察したのか、店長は立ち止まり、振り返る。


「……もう何百年も昔の話だ。魔族はもう居ない」


 それだけ言うと店長は体を反転させ、再び歩き出す。


「……それ……って……」


 暫く固まっていたシズクだったが、気付けば店長が遠く離れており、慌ててシズクは駆け寄った。


 そしてその後ろ姿を見てシズクはふと思う。


(……寂しそう)


 今の店長の大きな背中は、さっきよりも何処か小さく見えたのだった。


「お前は……死にたいと感じた時はあるか」


 特に会話も無く歩いていた時、突然店長がシズクに問い掛ける。


「と、特には……無いと……思います……」


 シズクは少し考えてから答えると、店長は短く「そうか」とだけ答え、立ち止まった。


「着いたぞ」


 シズクはその店へと目を向けると、目を見開く。

 辺りの建物は全て崩壊しているにも関わらず、この店だけは特にこれと言った損傷は見当たらない。

 シズクがまるでここだけ別空間にでも存在しているかの様な光景に驚いていると、店長は早く入るように顔だけを動かして促す。


「……コイツが起きたら今の状況について話すとしよう。それまでは俺の料理でも食べて待っていてくれ」


「で、でもまだ目を覚ますかどうか分からんし……」


「自分に自信を持て魔女の娘。あと数分もすれば起きる。この様子だと後遺症も精々軽い記憶障害程度だろう。それもすぐに治る」


 店長はぶっきらぼうに、だが安心させるかの様な口調で話すと、シズクより先に店の中へと入っていった。

すみません……三日前投稿する気でいたんですが、完全に投稿するのを忘れていました。ですので今回はほんの少しだけ長くなっています。このくらいの長さが一番見やすいでしょうか。


蘇生魔法は除細動器の魔法版みたいな感じて捉えて頂ければ問題ないです。それよりも性能は低いですが。

にしてもシズク、なかなかのチート性能。これが魔女。ここで補足しておくと、シズクがEランクなのは体内に存在する魔力が少ないからです。少量の魔力で大量の自然魔力を操るので、こんなに凄いことができるわけですね。 


店長の正体……謎のままですね。ここで忘れてならないのは、タローの影響からか強くなってきている筈の魔物。店長は街に攻め込んできた魔物を一人で相手し、勝つ程の実力の持ち主だと言うことです。


それではまた!









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ