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始まりの冒険者  作者: くろすけ
魔王軍編
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第四十二話.魔王軍と復讐

話の展開早すぎて自分でも驚いています。

エミルは来たけどシズクは……? また次回!

第四十二話.魔王軍と復讐


 マイは目を大きく見開く。

 目の前で起きた現象について頭が理解するのには、少しの時間が必要であった。


「──ねぇ……さま……」


 マイの目の前で、エミルが力無く地に伏せる。その地面はエミルの血で染まり、徐々にその範囲が広まっていく。


「え……みる……? エミル……エミル!!」


 マイは地面に膝を付け、力が抜けたエミルの体を持ち上げるが、反応は返って来ない。いつもならば抱き着きて離れない筈なのに、いくら呼び掛けてもエミルが動く事はなかった。


「……なるほど。これは驚いた。まさか己の身を呈して守るとは」


 鎧の男は特に気にした様子も無く、ただ淡々と述べる。

 その事実にマイは腸が煮えくり返る様な、そんな憤怒の感情が心の底から湧き上がってくる。

 マイは剣の柄の握る力を強くすると、これまでにない形相で鎧の男を睨みつけた。


「アンタだけは何があっても殺すわよ」


「……くだらん。その復讐心が醜いとなぜ気付かない。貴様はあの気色の悪い男と同類か」


「誰のせいで……こうなっていると思っているのかしら」


「貴様の力不足、それ故に失ってしまう。ただそれだけだ」


 鎧の男がそう答えた瞬間、この男の隣を斬撃が掠める。だがやはり気にした様子もなく、男は戦う気がもう無いのか剣を鞘へと完全に収めた。


「──いつまで遊んでいる気ですかねぇ。えぇ、えぇ、こんなに人間を殺してしまうなんて」


 上から声が聞こえたかと思うと、鎧の男の背後から、まるで元から居たかのように派手な衣装をした男──アーケインが現れる。

 

 鎧の男は露骨に殺気を漏らしながら、身体をアーケインへと向けた。


「……不要な人間を消したに過ぎない」


「なるほどなるほど……そこに倒れているお嬢さんもその一人だと」


「……ふん」


 鎧の男は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、アーケインの後ろとへと下がる。

 それを確認したアーケインは胸に垂らした十字架のネックレスを揺らすと、倒れて動かないエミルを静かに眺めた。


「何者よ……アンタたちは……!!」


「何者、ですか。最近よく聞かれて嬉しいですねぇ。えぇ、えぇ、本当に、殺したくなる程嬉しい。それでは自己紹介でも致しましょうか」


 アーケインはシルクハットを外すとそれを胸までもっていき、深く腰を折り曲げる。


「僕の名前はフレンズィ・アーケイン――えぇ、魔王軍に所属しています」


 『魔王軍』


 その言葉を聞いた瞬間にマイは目を見開く。


「魔王……軍……!?」


「おや、その様子だと知っているようですねぇ。えぇ、えぇ、珍しい。そこのお嬢さんから何か聞かされましたかねぇ」


 アーケインはねっとりとした口調で話すが、マイはそれが耳に入っていないのか動く気配がない。

 ただ魔王軍と何度も呟き、その度に瞳は憤怒や復讐心等の感情で埋め尽くされていく。


「私の……村を……お母さんを……お父さんを……友達を……!!」


「おや、おやおやおや。いいですねぇその顔。とても素晴らしい表情(かお)だ。その殺気も心地がいいものです」


 アーケインは鼻で笑う。それに対しマイは立ち上がると、今まで以上に強く剣を地面に突き刺した。


「アンタたちは……絶対に生きて返さないわよ」


「おぉ、怖いですねぇ。ですが本当にいいんですかねぇ。僕たちと戦っても、貴方では相手にもならない。そうですねぇ、僕たちを倒したいなら『勇者』でも連れてきていただかないと。まぁおとぎ話の中の話ですが」


「私一人で十分よ」


 マイの中心から衝撃波が走り、辺りの瓦礫や死体を全て吹き飛ばす。そこにはエミルも含まれているのだが、マイはそこまで考えていないのか気にしている様子はなかった。


「……見ているだけで吐き気がする。やはりこいつは俺が消す」


 鎧の男は鞘に手を掛けてマイに斬りかかろうと、アーケインが肩を抑え、それを制止する。


「落ち着いてくださいアベル。殺すのはまだ少し先ですねぇ。いきなりそんな刺激を与えてしまうと暴走しかねない。それこそ世界の滅亡だ。僕たちが望むのは滅亡ではない、救済だ。そうでしょう?」


「……ふん」


 アベルと呼ばれた鎧の男は鼻を鳴らすと、背中を向けて歩き出す。アーケインは首を振ると、マイにもう一度お辞儀をしてからその後ろに付いていった。


 逃してはいけない。マイはそんな強い使命感(いかり)によって魔力を溜め、剣を引き抜き、衝撃波に近い斬撃をアーケイン達に放つ。


「──あぁそうそう。一つ言い忘れていました。えぇ、えぇ、大切な事を一つ」


 アーケインは身体ごと振り向くと、


「貴方の敵は僕達ではない。『タロー』という化物だと言う事を忘れずに。では行きましょうか。ここから一番近い街でも襲うとしましょう」


 その瞬間にアーケインたちの姿が煙の様に消え去った。行き場のなくなったその斬撃は、既に半壊した家を両断し、虚しく消え去る。


 マイは剣を乱暴に地面に叩きつけ、涙を流しながら膝から崩れ落ちた。


 まるで相手にならなかった。

 ……いや、相手にすらされなかった。


 静寂が場を支配する。マイの周囲には、首のない死体の山。衝撃波によって吹き飛んだものが壁に当たり、それが重なったのだろう。その一番上には、白くなったエミルが力なく伏している。


(……許さない)


 マイは剣を握り、立ち上がると、怒り、そして復讐心に歪みきった眼で前を見据える。


(絶対に……許さない……)


 マイは剣を鞘に収めることなく、ガラガラと地面に引きずりながら歩く。


「絶対に……殺す……ッ……!!」


 マイは歩く。怒りと復讐に塗り潰されたその瞳には、アーケイン、そしてアベルの姿しか映っていなかった。

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