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始まりの冒険者  作者: くろすけ
始まりの冒険者
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第三十九話.動き出す影

第??話

  ▽


 どこにあるのかも分からない人里離れた森の中。一人の男が不気味に笑っていた。


「ようやく……ですかねぇ……えぇ、えぇ、ようやくですとも」


 男は側に置いていた仮面を手に取り、それで顔を隠した。

 するとそこに、赤黒い鎧を身に纏った人物が近付く。


「気色が悪いぞ。言葉を発する暇があるならさっさと準備を終わらせろ」


「準備? そんなものはとっくに終わっていますねぇ。えぇ、えぇ、終わっていますとも。それよりも貴方の方は大丈夫なんですかねぇ。世界の救済において戦闘は避けられない。いま魔王軍に残っているのは僕と貴方だけ(、、、、、、)なんです。いくら人間が弱く脆い存在だとしても、数では負けている。多勢に無勢と言う言葉を知らいないんですかねぇ」


「多勢に無勢? 雑魚がいくら集まった所で所詮雑魚なのには変わりない。それに、コイツ(、、、)がいれば違うのだろう?」


 鎧の人物は顔を後ろへと向ける。

 そこにはごく平凡な、村人の様な人物が静かに上を見上げながら立っていた。その表情からは生気が感じられない。


「そうですねぇ……今の状態では無理ですねぇ。えぇ、えぇ、勝つなんて不可能だ。今の状態は人間としての姿。戦闘力はほぼ皆無ですねぇ……」


「皆無……だと……? 話が違うぞ」


 突然突風が吹き、木が揺れる。

 切り取られたかの様な動きで男に接近した鎧の人物は、いつの間にか握っていた大剣を男へと振るっていた。遅れて辺りの木が切断され、無残にも地面に倒れていく。

 だが鎧の人物は舌打ちをした。目の前の男にその攻撃を片手で防がれていたのだ。


「この感じだと準備は終わっているようですねぇ。えぇ、えぇ、これなら魔王の復活は早そうだ」


 仮面を付けた男は笑いを含んだ声でそう言うと、ただただ立ち尽くす男へと目を向けた。


「では早速始めましょうか。魔王を……『始まりの化物』を復活させ、世界を救済する。まずは手始めに近くの街でも壊しましょうかねぇ」


「……ふん、詳しい説明は無しか。これだから貴様が嫌いなんだ」


「お互い様ですねぇ。僕も貴方が嫌いです。ですが、貴方の目的は世界平和。そして僕が世界の救済。僕達の目的は偶然にも同じだ。そしてその目的を達成するにはこの最恐の『化物』が必要。協力するしかないんですよ」


「……それは分かっている。目的を達成するまで貴様を殺せないのには腹が立つが、世界を平和に出来るのなら多少は我慢しよう。殺すのはその後でもいい」


「おぉ怖いですねぇ。ですがそのくらいが丁度いい」


 さっきまで陽気に喋っていた仮面の男だったが、その最後の言葉に笑いはなく、明確な殺意が込められた声で呟く。


「さぁ、(みにく)い人類を滅ぼす時間だ。準備はいいですか魔王──」


 魔王、と呼ばれた人間は仮面の男の方を睨むようにして見ると、仮面の男は分かったといわんばかりに首を振った。


「──いえ、今は『タロー』と言った方が良さそうですねぇ」



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