第三十八話.店長と孤児たち
大幅に遅れてしまいすみません……ある程度プロットを作り終わり、休憩していました。ここからまた3日ずつ投稿していくので宜しくお願い致します!! 今回は今日と明日で合計2個投稿します! 片方はめっちゃ短いです!!
第三十八話.
そんな他愛もない話をしているといつの間にか時間が経っていたようで、店長が血だらけになりながら店内へと入ってくる。
店長は血で濡れた刃物を持ち上げて眺めながら、
「解体が終わった」
と、特に気にしている様子もなく皆に報告をした。
マイやエミルは見慣れているからか動じることは無かったが、シズクやティファは顔を引き攣らせる。
「て、店長……取り敢えずお風呂に……」
「問題ない」
「問題ありまくりですよぉー!!」
ティファは店長に駆け寄ると、その獣臭さからか少し顔を歪める。
「ていうか店長……もしかして店の目の前で解体したんじゃ……」
恐る恐る疑問をぶつけるティファに店長は、平然とした顔で入り口へと目を向けた。
「当たり前だ。解体する場所が無いからな」
「えぇっ!?」
ティファは急いで外へと出るが、そこに広がる光景に目を見開く他無かった。
ティファは無言で店内へと戻る。そして店長の側によると、ビシッ! と外を指さした。
「何なんですかあれはッ!!」
指を差した先。そこにあるのは、血の海と変貌した通路であった。
「片付けは後でやる」
ぶっきらぼうに店長は言うが、それに怖気づく事なくティファは店長の腰付近をポコポコと叩く。
「そういう問題じゃないですぅー!! これじゃあ私達のお店が何かヤバイことでもしてると思われちゃうじゃないですか!! それにただただ迷惑です!!」
「勝手に思っていればいい。ここは人通りが殆ど無い。解体してる時も一人しか見なかった」
「一人でも居るなら駄目じゃないですか!!」
「……俺の知った事じゃない」
「ただでさえ全く人が来ないのにこれじゃ本当に誰も寄り付かなくなっちゃいますよ!?」
「それなら店を畳むまでだ」
「それも駄目ですぅー!!」
まるで駄々をこねる子供の様なティファに呆れたのか、店長は何も言わなくなり、されるがままされる。
そんな様子を頬杖をつきながら見ていたマイは、少しだけ笑った。
「だいぶ仲がいいのね」
「……コイツが勝手に絡んでくるだけだ」
そろそろ鬱陶しく感じてきたのか、店長はティファを無理矢理引き離すとまた店の外へと出ていってしまった。
「……貴方もあなたで大変そうね」
「そんな事ないですよ! 店長は分かりやすい人ですから!」
謎に胸を張るティファ。その光景が微笑ましく感じたのか、マイはまた笑ってみせた。
するとティファは鼻を鳴らし、自慢げに仁王立ちする。
「今のも照れ隠しで出て行っふぁんふぇふよ──って何するんですかぁ!!」
「余計な事を言うからだ」
トレーに肉を載せて運ぶ店長は、余っている右手で頬を引っ張るのをやめると厨房へと消えていく。
ティファは赤くなった頬を撫でると、ため息を付いた。
「店長は素直じゃないだけなんですよ……」
痛む頬を撫でながらそんな事を呟くティファに対し、マイは柔らかい笑み浮かべながら、
「本当に店長の事が好きなのね貴方は」
「あたりまえです! わたしの命の恩人ですからね!!」
ティファは元気よく返すと、厨房の方から店長の声が響いてくる。どうやらティファを呼んでいるらしく、ティファは一度お辞儀をしてから厨房へと消えていった。
「……それにしても、タロー遅いわね」
マイは店の入り口を眺めながら、少し心配そうな表情で呟く。
「んー……初めてあった時も迷子になってたし……迷子になっているのかしら……」
まるで子供の帰りを待つ保護者の様に、マイは落ち着かない様子を見せる。
そんなマイの様子を眺めていたエミルだったが、何かを感じ取ったのか、マイと同様入り口へと目を向けた。
何か大勢の魔力を感知したのだ。一つ一つは小さなものだが、それが沢山──沢山と言っても六人程だが──店の前で止まっている。
この店に入るかどうか迷っているのか、ひそひそとした話し声が少しだけ聞こえてきていた。
(この感じ……)
エミルは前の出来事を思い返す。
それはタローを尾行した日。まだタローを信用していなかった時のことだ。尾行して辿り着いた先にいたのは、沢山の孤児達。この魔力の集まりはその時の状況に似ている。
するとエミルの予想通り、ドアを押して入ってきたのは、少し汚れた髪に似合わず綺麗な服をした子供達であった。
「た、タローおにーちゃんにいわれてきました!」
「お、おおおおねがいしますっ!!」
男の子と女の子が同時に頭を下げる。その後ろから残りの子供が現れ、釣られるように皆頭を下げた。
「……まぁ、予想はしていたんですわ」
タローが言う人手、というのは孤児達の事だった。
マイは目をぱちくりとさせると、これはどういう事かと言わんばかりにエミルの顔を見た。
すると、さっきの声を聞きつけたのか、厨房から店長とティファが出てくる。そして孤児たちの頭を下げる姿を見て店長は、
「……なんだこれは」
「わぁーかわいいー!! 何ですかこのかわいい生き物は!!」
「お前は少し黙ってろ」
孤児たちに駆け寄ろうとした所で後ろ襟を掴まれ、後ろに引き戻されてしまうティファ。露骨に上目遣いをするが、次はチョップを食らってしまう。
「ひっ──」
その見た目によってか、または行為によってか、その二つどちらもなのか……それは分からないが、店長を見た孤児たちは間違いなく恐怖に支配された事だろう。
その空気を察したのか店長は髪をくしゃくしゃと乱すと、ムスッとした顔のまま厨房へと戻っていく。
「……怒らせちゃったかしら」
「えっ? あぁいえ! そういう訳じゃないですよ! 店長がこの程度で怒るわけないじゃないですか!」
ディファが言い終わると同時に店長が帰ってくる。だが明らかにさっきとは様子が変わっていた。
当たり前だ。可愛い鬼のお面を付けて顔を隠しているのだから。そしてその手にはなん種類かのおやつらしきもの。
「実は店長、大の子供好きなんですよ」
呆れた様にティファ笑う。
店長の周りにはもう孤児たちが群がっており、さっきとは打って変わって人気者となっていた。
するとその光景を見ていたマイは首を傾げる。
「でもこの前、子供が働くのは反対するって言ってなかったかしら? この様子だと簡単に頷いてくれそうだけれど……」
「あぁそれは……店長は子供が好きだからこそ、やっぱり目の届かない場所でのトラブルとか怖いらしくて……」
「……まぁ確かにそうね」
「あと単純に、顔や声や言葉遣いで子供が怖がるのも理由の一つですね。嫌われるのは結構しんどいらしいですよ」
「あぁ、さっきから喋っていないのはそういう事なのね……。意外とガラスのハートなのかしら……」
見た目に反して意外と可愛い所があると苦笑しながら眺めるマイ。するとそこに、一人の少年が店長から離れ、マイの近くへと寄ってきた。
「あの! あの!!」
「ん? どうしたのかしら」
マイは椅子から立ち上がると、屈んで視線を合わせる。
その少年はポケットをごそごそと探ると、何かを取り出してマイヘと手を伸ばした。
「タローおにーちゃんが渡してって!!」
「タローが?」
少年は手を開く。
その手のひらには、髪飾りの様な装飾品。相当昔のものなのか古びてはいるが、何とか花の形をしているのだけは分かった。
「何かしらこれは……タローから?」
「うんっ! 返しといてって!!」
「こんなもの渡した事なんて無いのだけれど……」
マイはタローと会った過去から思い起こすが、やはり渡した記憶なんて無い。
ならばと子供時代の頃の記憶を掘り起こすが、やはり自分がこんな髪飾りをしていた記憶なんて無い。
「んー……多分私じゃないわよ。他の二人じゃないかしら」
「違うよ! おねーちゃんの!」
「あぁ……」
ここで受け取らなければこの少年はずっと付き纏ってくる。それを察したマイは取り敢えず受け取ると、用を終えた少年はまた店長の元へと戻っていった。
「本人に直接渡せばいいのに……」
タローにしては珍しいとマイが考えていると、店長がこちらへと歩いてくる。その肩や胴、脚などには孤児たちが張り付いているが、特に気にしている様子は無かった。
「あぁもうてんちょー!! 子供達まで血だらけになってるじゃないですか!! ほら早くお風呂に入ってください!!」
「いや、だがこれから下処理を……」
「それよりもお風呂です!! 衛生的にも絵面的にもアウトですー!!」
「……了解した」
ティファの言葉に頷く店長。いつもは頑固そうな店長だが、子供達の前ではやはり甘くなるのか意外とすんなりと了解した。
「子供の力って凄いわね……」
子供に張り付かれながら厨房とはまた別の扉へと消えていく店長を眺めながら、マイはため息を付く。
「ははは……じゃあ私は表の片付けをしてきますね」
「あら、手伝うわよ。待っていても暇なだけだし」
「え、ホントですか!? 助かります!!」
マイは受け取った髪飾りをポケットにしまうと、ティファの後ろについて行った。




