第三話.職業と武器
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「みんな集まったわね。一人を除いて初めまして。私は今回あなた達の担当をするマイよ」
場所は噴水広場と呼ばれる場所。真ん中に大きな噴水があるのが特徴の広場である。
そこに集まっているのはFランク冒険者五名と、Sランク冒険者のマイ一人だ。
「早速だけど、それぞれ武器は持っているのかしら」
マイは確認する様に横に一列で並ぶFランク冒険者達を順番に見ていく。と、早速一番最初に見られた男で止まった。
「ふんふん……そうね。その剣買ったばかりでしょう。手入れがされていないわ。今回は別にいいけれど、後でちゃんと手入れしておきなさい」
「は、はい!」
「じゃあ次ね」
次の人物は、弓を背中に背負う弓使いであった。するとマイは、もしかして、とその男に問いかける。
「弓だけで戦うつもりなのかしら?」
「そ、そうです!」
「なら敵に近付かれたらどう対処するつもり? 弓は確かに強いけれど、近付かれたら何も出来ないわよ」
「そ……それは……」
「ほら、これ上げる。私のお古だけど、まだまだ使えるわ」
マイは腰に付けた短剣を取り出すと、弓使いへと渡す。弓使いは慌てふためきながらも受け取ると、大きな声で感謝の言葉を告げた。
大きな声だったため少し顔を歪めながらもマイはその感謝を受けると、次の人物へと移る。
「あなたは魔法使いね」
「はい! そうです!!」
「そのローブ似合ってるじゃない。杖も問題ないわ」
元気よく返事を返す女魔法使いにマイは頷くと、大丈夫だと言って次に移る。
「あら、あなたも魔法使い?」
「あ……えっと……ウチは……」
さっきまで普通だったのだが、突然もじもじとし初める女性。魔法使いの象徴であるローブを着ていないが、その手にはメイスが握られていた。
するとマイは気付いたのか、少し驚いた様に眉毛を上げた。
「もしかして癒し手?」
「あ……そう……です……」
「何をそんなに恥ずかしがってるのよ。確かに癒し手を望む人は少ないけれど、パーティに一人は居なくちゃならない存在なんだから、もっとしっかりとしなさい」
「はい……」
自信のない返事に少し不安を覚えながらも、マイは次へと進む。
「これで最後ね。さっきはどうも」
「よ、よよよよ宜しくお願いします!!」
その姿は平凡な村人そのもの。腰に剣などは付けておらず、ただの村人だと言われても納得してしまうその男──タローは緊張しているのか額から汗を流していた。
「何今更緊張してるのよ。もっとリラックスしなさい」
「ひ、ひゃい!!」
全く緊張が解けていないタローの姿に、マイは思わずため息を付いてしまった。
お互いの正体が分かったあのとき、一緒に目的地まで迷いに迷ってここに辿り着いたのだが、その間会話は殆どしていない。話し掛けても緊張していたのか聞こえている様子は無かったのだ。
何がそんなに緊張するのかと呆れるマイは、そこで何かに気づいた。
「……武器が見当たらないのだけれど?」
「武器? 武器ってなんですか?」
「えっ?」
「え?」
二人は顔を見合わせると、本当に分かっていないのかタローが首を傾げた。
「はぁ……持っていないのね。まぁいいわ。あの時出会ったのも何かの縁だし、特別に私の剣を貸してあげる」
マイは腰に付けていた鞘に入った剣を取り外し、片手でタローに渡す。
「ん……? うわっ!?」
よく分からないまま受け取ったタローであったが、あまりの重さに地面に落としそうになる。
何とか落とすまいと踏ん張っているタローだが、戦闘時にこの剣を扱えるとは到底思えなかった。
「おかしいわね……軽めに作った剣なんだけれど……」
「軽くって……これ軽く一〇キロはありますよ……!?」
「十分軽いじゃない」
「軽くないですよぉ!!」
タローはそろそろ限界なのか、段々と顔が赤くなっていく。
マイは不思議そうに首を傾げると、タローから剣を回収して腰に取り付けた。
「はぁ……はぁ……これがSランク冒険者の……力……」
「この程度でおおげさよ?」
「僕にとっては十分凄いんですよ!!」
タローは叫ぶと、じんじんと痛みが走る腕に目を向けた。
村にいた頃、タローは畑を耕す時にクワなどを使っていた。だがその重さも精々一キロ、二キロ程だ。栽培している野菜も回収するときは台車などを使って運んでいた為、タローにとって十キロなど未知の領域である。
「重かった……」
「まぁいいわ。一キロ程度の剣をこちらで用意するから、取り敢えず外に出ましょうか」
マイは言うと、先頭を立って歩き出す。が、タローを除いて慌ててFランク冒険者達が止めに入った。
「外に出るなら逆方向です!」
その言葉にマイは動きを止めると、暫く考え、ハハハと乾いた笑みを漏らした。
「……いえ、分かってたわよ。試したのよ。これはあなた達が間違いに気付くかっていう試練なのよ」
この時冒険者達は絶対に嘘だと感じとっていたが、みなそれを口に出すことは無かった。
その理由はSランク冒険者で目上だったから言い辛かったと言うのもあるだろうが、一番の理由はマイの立場を思っての事である。
「さ、流石Sランク冒険者……! もう訓練は始まってるんですね!!」
……ただ一人、タローという馬鹿は除いてであるが。
だがそのおかげでマイは上手く騙せたと勘違いしたのか、「当たり前なのよ」となぜか鼻を高くした。
「じゃあ向かうわよ。その道中に剣でも買っていきましょ」