第三十五話.イノシシと店員の困惑
すみません短いです。暫くはこの長さが続くと思うので、出来たら二日に一回でも投稿しようかなと最近ちょっと思ってます。
あと前回くらいに少し説明はしましたが、今は先のストーリの内容を文字に起こしています。ですのでこの日常系はその繋ぎ程度と思って頂けたらなと思います。暫く平和な街の様子をご覧くださいませ……。
▽
「あ、あのぉ……」
「あら、これだけじゃ足りなかったかしら?」
「い、いえ! そういう訳じゃないですケド……」
始まりの街。その中にあるとある料理店の近くで、店員であるティファは苦笑する。
肉の調達から帰ってきたマイ達の背後に見えるのは巨大なイノシシ。と言ってもただのイノシシではなく、魔物であることはその独特の見た目から理解できた。
だが問題なのはそれではない。
「流石に大きすぎますよこれはッ!! 五メートルくらいあるじゃないですかっ!!」
「……そうね」
マイは少し考えた素振りを見せてからそっけなく答えると、その様子にティファは肩を落とす。
「本当にありがたいんですけど……これじゃ店長に『余計な事をするなー!!』って怒られちゃいます……そしたらお店の営業をしなくなって私の仕事が無くなって──」
顔を青ざめながら頬に手を当てるティファだったが、ティファの後ろ──店の中からがたいのいい店長が不機嫌そうに顔を出した。
「何だ騒がしい……」
「うっ……店長……!!」
くしゃくしゃと手で髪を乱す店長。だが、マイ達の後ろに見える大きすぎるイノシシを視界に入れた瞬間に動きが止まった。
「……魔物のイノシシか。見た所狩ったばかりか。コイツは下ごしらえが大変だが、それさえやってしまえばどの肉よりも美味くなる食材だ。普通なら食えたもんじゃ無いから持って帰らない筈だが……知っていたのか?」
「うわ、店長が珍しく長く喋った」
ティファがそう呟いた瞬間に店長からげんこつが飛ぶ。ティファは頭を抑えながら涙目になるが、気にせずに店長はイノシシに近付き触り始めた。
「……流石Sランク冒険者だな。一撃で仕留めなければ魔力が肉を硬くするんだが、触った感じだとその様子もない」
「これは褒められているのかしら?」
「どう捉えてくれても構わない」
店長は無愛想に言うと、マイが居る方を横目で確認してからティファへと視線を移した。
「これを頼んだのはお前か」
「ビクッ……わ、私は……お腹が空いたので食材を調達して料理をしようと思って──」
「包丁すらまともに扱えないがお前が料理をするとは思えないが」
「うっ……だ、誰だってチャレンジしたくなる時くらいありますよきっと!!」
「それでお前がわざわざSランク冒険者に頼むとは到底お前ないが--―」
「もういいですぅー!! 私が頼みましたー!! 何ですか謝ればいいんですか!!」
完全に開き直るティファに対し、店長は近づいてから右手を上げる。その動作にティファはびくりと体を震わせ目を閉じるが、意外にもその右手は頭に優しく置くと店長は、
「たまには役に立つ。こんな状態のいい食材を見たのは久しぶりだ。店を閉める前くらいは……贅沢をしてもいいだろう」
相変わらず無愛想なままだが、その口調は少しだけ柔らかくなっていた。
「いくら払えばいい。払えるだけ払おう」
店長は頭から手を離すと、視線をマイへと移す。するとマイは手の平を縦に振って首を横に振った。
「ちょうどこのイノシシの討伐クエストが有ったからそのついでよ。だからお金は要らないわ」
「むっ……だが……」
「人の善意は受け取るものよ。遠慮なんてされたら私達が困るもの」
確かにこのイノシシは売ろうとしても売れない代物だ。ただの料理人では解体すら出来ず、更に下ごしらえをしなければ到底美味しいとは言えない。何といってもその大きさから扱える人間が限られてくる為、ここで渡すことが出来なければこのイノシシは捨てることしか出来ない。
店長は暫く心の中で葛藤したのち、頷いた。
「……なら甘えるとする。助かる」
「そう、よかったわ」
マイも満足そうに頷く。すると店長は親指で店を指差した。
「ぜひ中に入って待っていてくれ。すぐには出せないが、三〇分程待ってくれたらこのイノシシの解体と下ごしらえが終わる。ぜひ食べて行ってほしい」
「あら、そんなに早く終わるものなのかしら?」
「あ! 店長の解体スピードは見たら驚きますよ! まさに職人って感じがして凄く格好いいんです!!」
目を光らせながらのティファの言葉に、マイは薄く笑みを浮かべながら店長を見た。
「ふぅーん……なかなか気に入られてるじゃない。それに見ていて思ったけれど、まるで犬みたいね」
「否定はしない。いつもキャンキャンとうるさいからな」
「酷いですっ!!」
マイは苦笑する。
マイの言う犬は『人懐っこく忠実』という意味だったのだが、どうやら店長は別の捉え方をしたらしく、ティファが涙目になりながら店長に撤回するよう訴えかける。
すると何かに気付いた店長はティファの拘束を簡単に解くと、
「むっ……そいういえばあの男はどうした? 姿が見えないが」
「男……あぁ、タローの事かしら。タローは別の用事で今は居ないわよ。すぐに戻ってくるとは思うけれど……それがどうしたのかしら?」
マイは聞き返すと、店長は「いや」と首を振った、
「いつも美味そうに食べるから作っていて気分がいい。だから気になっただけだ」
店長はそれだけ言うと、解体道具を持ってくるためか店の中へと入っていく。ティファもそれに付いて行った。
残されたマイは、この場にいるエミルとシズクに視線を向ける。
「取り敢えずここでタローを待つとしましょう。今はあまりお腹が空いていないけれど、せっかく料理を作ってくれるのだし」
「そうですわね」
「う、ウチも大丈夫……です……」
二人の了承を得たマイは軽やかに頷くと、三人で店の中へと入っていくのであった。
今回のエミルとシズクの出番はほぼ無しです。ほんとは登場させたかったんですが完全に実力不足で書けませんでした。タイミングが難しい!!
それと、正直ここらの話がストーリーに関係するかって言われたらあまり関係しないとは思います。というか実力的に多分無理。ここで店長情報。店長の職業は解体師兼調理師です。結構気に入ってて、今も主人公にしたいという欲求が止まりません。
さて、そんな主人公の座を奪われかけているタローですが、対魔王軍編で確定しているのはそんなタローが鍵となる事です。これと言って個性が無いタロー。正直主人公なのにマイより存在が薄い気がします。ですがこの魔王編で、今まで秘密にされていたタローの正体、固有能力、そしてその過去が明らかになり、一気にタローが主人公らしく成長していくと思います。
ここが僕が一番書きたかった場所。タイトル回収まであと少し!! どのファンタジーよりも面白くなるようにじっくり考えないと!!




