第三十四話.タローと妙な様子
少し短いです。話の展開少し早くしすぎました。すみません。ちょっと焦ってます。
タローが思わぬ爆弾を投下してから少し経ち、街から西に出た街道をタロー達は歩いていた。
「いや、まぁそうよね。タローが恋愛的な感情で好きって言うはずが無いもの。そうよ分かっていたわよ。なのに何で私はこんなに落ち込んでいるのかしら。いやでもあれは勘違いしちゃうわよ普通。そうよ別に意識していた訳じゃないのよあれはタローが──」
歩きながらマイはぶつぶつと一人呟く。
なぜマイがこんな事になってしまっているのか。それはタローが告白したあとに関係する。
あの告白のあと、タローは悪気なく『凄く尊敬してます!』と付け足した。
それをマイがどういう捉え方をしたのかは分からないが、マイの今の現状に至るわけだ。
ついでにエミルはというと、動くようになったはいいが未だにタローの事について考えているのか喋る事は無かった。
(……Sランク冒険者……やんな……?)
シズクはこの奇妙な状態に、ついそんな事を考えてしまう。
「あ、あの……」
「──いやもしかしたらタローは照れ隠しで訂正したのかもしれないわね。でもタローは正直だし嘘はつかないわよね……尊敬されるのは嬉しいけれど何よこの気持ちは……」
「あの!!」
「そもそも何で私はこんな事を考えているのかしら。そりゃ私もタローの事は好きだけれど恋愛的にと言われたらもちろん違うわよね。あら、なら私にとってタローはなに? 弟? 親友? 仲間? 分からないわね……」
「聞こえてない…………」
何度シズクが呼び掛けてもマイには届かず、ブツブツとひたすら延々と独り言を零すマイ。その顔は至って真剣だが、もっと他に考える事があるのでは無いかとシズクは思ってしまう。
「ハハハ……これって僕のせいだよね……」
この元凶とも言える存在──タローが、シズクの声に反応してか近くに寄ってきた。
「僕の気持ちを伝えただけなんだけど……」
タローは頭を掻きながら苦笑すると、マイ達を視界に入れる。
「……?」
その表情を見て、シズクは思わず首を傾げてしまった。
というのも、そのタローの横顔が何処か寂しそうに見えたのだ。
(気のせい……かな……)
気が付くといつもの様にへらへらと笑っていた。
さっきのはただの見間違いかとシズクは深く考えることなく、合わせてシズクも少し笑みを浮かべる。するとタローから話しかけてきた。
「えっと……シズクちゃんだっけ……?」
「は、はい……!」
少し緊張気味に答えると、タローは申し訳なさそうに笑う。
「シズクちゃんが首にかけてるその十字架、ちょっと良く見せてくれないかな」
「えっ、あ、いいですよ……」
タローがなぜこのネックレスを見たいのかは良く分からなかったが、言われるがままシズクは止まり、十字架をタローに見やすいようにと胸から少し離してタローに近付けた。
タローは暫く十字架を眺めると、もういいよと言ってから歩き始める。シズクはその隣に並ぶと、心配そうにタローの顔をチラチラと見た。
「あの……どうかしましたか……?」
「いや、ちょっと気になったことがあっただけだよ。いきなりごめんね」
タローはそう言うと、歩きながらシズクと目を合わせた。
「……? この十字架……について……何か知っているんですか……?」
シズクではなく、何処か遠くを見ているかのようなそんな視線に疑問を感じたのか、シズクはそう聞いてみる。
だが、この質問にタローが答えることは無かった。その代わりか寂しさを含んだ笑みでタローは誤魔化すと、すぐに別の話題に切り替える。
「シズクちゃんのお母さんって、やっぱりシズクちゃんに似てたの?」
「え、えぇと……ウチのお母さんは……ウチと真逆の性格してました……。お母さんは顔は似てるけど性格はお父さん譲りって……言ってた気がする……。お父さんは人見知りだって……よくそれでからかってた……と思います……」
「ははは……楽しそうなお母さんだね。でも、お父さんについてはやっぱり思い出せないんだ」
こくりとシズクは頷く。
それを確認したタローは一度空を見上げると、そういえばともう一度シズクを視界に入れなおした。
「ご飯を食べてた時魔女狩りってエミルさんが言ってたけど、何で魔女達は殺されちゃったの? 悪いことはしてないんじゃ……」
悪気なくタローが質問すると、シズクは静かに首を横に振った。
「魔女が悪者扱いされてたことは覚えてるけど……何で殺されたのかは分からん……覚えてるのは……家に帰ったら家が燃えてた事くらいです……」
「そっか……」
暫く沈黙が続き、二人の間に気まずい空気が流れる。……と言っても、タローはあまり気にしている様に見えないが。
すると、何か思い出したのかシズクが「あっ」と声を漏らした。
タローは目を向けると、「どうしたの?」と声を掛ける。するとシズクは一度頷いた。
「ちょっとですけど……思い出しました……。火事の時……お父さんがその家の中にお母さんを助けに行って……大やけどしてました……。大分酷かった気がするから……長くは生きてないと思う……だからあまり覚えてないんかも……」
「……」
シズクもこんなことは思い出したくなかったのだろう。その表情は暗い。そしてタローもタローで黙り込んでしまう。
「――やっぱりそうだよね」
暫くすると、タローはぼそりと呟く。それに思わずシズクは顔を上げ、タローを視界に入れた。
「その十字架、手放しちゃ駄目だよ。本当は来て欲しくないけど……また役に立つときが来るから。だから、もしその時が来たら協力して止めて欲しいな」
「えっ――?」
シズクが何かを言う前にタローはマイ達の元へと駆け寄り、さっきの真剣な表情とは打って変わって楽しそうにマイやエミルと話し始める。
一人取り残されたシズクは首に下げられた十字架を両手ですくい上げるようにして持ち上げた。
「やっぱり何か……知ってる……?」
次にシズクはマイ達と話すタローを視界に入れる。タローは笑っているように見えるが、何故かシズクにはその背中が寂しく見えた。
すると、魔物の鳴き声の様なものが何処からか聞こえてくる。恐らく討伐目標であるイノシシだろう。
シズクは急いでマイ達と合流すると、そのタイミングを見計らったかの様にイノシシが木の間を縫うようにして突進してきていた。




