第三十三話.シズクと恋バナ
タイトル通りです。
「──そう。報告しておくね。ありがとう」
タロー達を連れて冒険者ギルドを訪れていたマイは、シズクを連れていた冒険者が死亡したことを受付嬢ナズナに報告していた。
報告を受けたナズナは暗い表情を作っていたが、その中にはシズクが無事だったという安堵も含まれているのか複雑な表情となっていた。
「暗い話はここまで。いきなりで悪いのだけれどイノシシを狩りたいのよ。良い場所はあるかしら? 魔物でもいいらしいのだけれど」
「……なんでイノシシ?」
当たり前だが、いきなりの事で首を傾げるナズナ。マイはこれまでの事を説明すると、納得したナズナは頷き、ここで待つように言って奥へと姿を消した。そして街周辺の地図をもって帰ってくると、その地図を受付で広げる。
「えっと……この付近で巨大な魔物のイノシシが暴れているって報告がついさっき来たばっかりだね。あとでクエストにしようと思ってたけど、すぐに行ってくれるなら今作るよ」
ナズナは街から少し西に離れた場所を指差すと、そう言って口角を上げた。
「あら、そうなの? ならそれを狩りに行こうかしら」
「オッケー。なら作ってくるからちょっとだけ待ってて」
そう言ってナズナは受付を離れ、また奥へと消えていく。
その姿を見送ったマイはタロー達の元へと戻って合流した。
「今からイノシシを狩りに行くのだけれど……」
「付いて行きたいです!!」
「わたくしも付いて行くのですわ!!」
「……らしいけれど、シズクはどうするのかしら」
マイは呆れたように笑いながら、視線をシズクへと移す。
「えっ、う、ウチは……」
突然話を振られたこともあり、シズクは身体を震わせ、おどおどとした様子で口籠ってしまった。
「別に、無理して付いてくる必要はないわよ? あんな事が有ったばかりだし……」
「あ、いや! そういう訳じゃない……です……けど……」
「けど?」
再び口籠ってしまうシズク。
だが暫くすると落ち着いてきたのか、深く深呼吸をしてから見上げる形でマイと視線を合わせた。
「その……ウチみたいな奴が付いて行っても……いいんかな……って……思って……」
「全然いいわよ? 仲間なんだから付いてくるのは何もおかしくないと思うけれど」
当たり前だと言わんばかりにマイが答えると同時にマイはナズナに呼ばれ、受付へと向かっていく。
シズクは胸に手を当てると、十字架を掌で包み込んだ。
「仲間……」
その言葉の響きを確かめる様に目を瞑り、少しだけ口角を上げながらその言葉を繰り返し呟いた。
だが、仲間と聞けば再びあの光景がフラッシュバックしてくる。忘れられないその出来事にシズクは顔を歪めると、意外にもエミルがその背中を優しく擦った。
「忘れろとまでは言いませんの。でも、いつまでもそれを引きずっていては格好悪いのですわ。」
それは、シズクに向けてと言うよりは自分に向けて言い聞かせている言葉の様に思えた。
「これはわたくしも最近分かってきた事ですの。なるべく昔の考えは捨てる様にしていますわ。少なくともブタローに対しては──」
エミルは慌てて言葉を切ると、目だけを動かしてボケっとしているタローを一瞥してから、鼻で笑った。
それを見たシズクは少しマシになったのか、控えめに笑う。
「…………ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をすると、エミルは照れ隠しなのかドリル状になっている髪をいじりながら「別にいいですの」と無愛想に返した。
「その……ずっと気になっていたんですけど……聞いても……いいですか……?」
「……? 何ですの?」
シズクはおどおどとはまた違った──表現するならばもじもじだろうか――態度で、申し訳なさそうにエミルを視界から外した。
「お二人は……その……お付き合いとか……されていたり……するんですか?」
「なっ――――」
一瞬雷に打たれたような反応をしたエミルはそこから固まる。まるでそこだけ時間が止まっているのかと思うほど動くことはなかった。
そんな精巧な石像と化してしまったエミルに、シズクはどうしたらいいのか分からずに、おろおろと顔を忙しく動かす。
するとそこにマイが帰ってきた。マイはエミルを視界に入れると苦笑する。
「あら……また固まってるの? 最近よく見るようになってきたわね」
「す、すすすすすすみません……!! ウチが変な事を聞いたから……」
苦笑するマイに対し、シズクはペコペコと頭を下げる。
「一体何を聞いたのかしら。エミルが固まるくらいだから、もしかしてタロー関連?」
「そ、そうです……」
シズクは申し訳なさそうに目を伏せると、さっき自分が放った言葉をマイに伝えた。するとマイは思わずプフっと吹き出してしまう
「あぁー、確かにエミルの脳が処理しきれなくなるには十分かしら」
そう笑ってから、マイはボケっと立っていたタローを呼び、隣に並ばせた。
「えっと……何ですか?」
タローは不思議そうにマイを見つめると、マイは次は悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「タローはエミルの事好きかしら?」
「ぴうっ!!」
ド直球でタローに聞くマイ。その、タロー、好き、という言葉に反応したのか、エミルからは良く分からない声が出てきた。
すると、意外にもあまり焦る様子を見せず、タローはエミルを見つめてから困惑気味に首を傾げた。
「エミルさんは良い人だと思うんですけど……好き……なのかな……んー・……まだ出会ったばかりなんであまりわからないです。すいません」
ハハハ、と頬を掻きながら困惑気味にタローは笑って誤魔化す。
「らしいわよ?」
マイはシズクへと顔を向けると、珍しく顔を赤くして少し息を荒げていたシズクはなるほどと頷いた。
「そ、そうなんですね……ま、マイさんは……! マイさんはどうなん……!?」
「えっ、私は別に聞かなくてもいいわよ。エミルと一緒よきっと」
マイは照れ臭そうに言うが、内心は気になっているのかそわそわタローを見ていた。
するとタローはエミルの時とは違って、次は当たり前だと言わんばかりに首を傾げてからこう放った
「好きですよ?」
この言葉によって、固まるものが一人から二人へと増える。
一方のシズクはというと、頬に手を当て、キャーキャーと珍しくテンションが上がっていた。
「いいなぁ──アタシも混ざりたい。一度でもいいから純粋君に好きって言われたいなぁ」
その様子を受付から羨ましそうに見ていたナズナは溜息を付き、頬づえを辞めて仕事を再開するのであった。
前回出演したスカムさんにはご退場いただき、本編に戻ります。と言ってもこの復活料理店編では日常系を目指しているので、そんなに戦闘シーンは無いと思います。その為とりあえずシズクの説明とかは省くことにしました。
魔王軍が本格的に出てくるときかなぁ。多分その時が一番戦闘シーンが多くなると思います。戦闘シーンもりもりの予定なので。その話で意外なあの人が実はアレで色々あってアレしてしまうかもしれませんね。
ではまた次回!!




