おまけ.男とマジック
すみません。今回の話は読んでも読まなくても大丈夫な話になっています。本当はこんなつもりじゃ無かったんですがね……気付いたら何故かこれを書いてました。いやー恐ろしい。深夜テンションは恐ろしいですね。
書き直したいんですが今日は一日無理そうなのでこのまま投稿します。
「はい、取り敢えずこれ代金よ。今日も美味しかったわ。そう店長に伝えておいて」
「え、ちょ、流石に受け取れないですよ!!」
「いいから受け取りなさい」
マイはそう言ってほぼ強制的に金をティファへと渡すと、止められないうちにタロー達を連れて店から出る。そして溜息を付くと、まだ物足りなさそうにしているタローを視界に入れた。
(なんだか調子が崩されるのはタローに似ているからかしら……)
マイは首を振ってその考えを振り払うと、次にシズクへと視線を移した。
「さて、イノシシ狩りの前に冒険者ギルドに報告しに行くわよ。……貴方の仲間の事を報告しないとね」
「――っ」
マイの言葉に頷こうとしたシズクだったが、突然目を大きく開き、口を抑えた。
脳裏にフラッシュバックする仲間だった者の最後。 無惨にも踏みつぶされたあの光景が鮮明に思い出され、シズクを容赦なく襲ったのだ。
「深呼吸をしなさい。死んだのは貴方のせいではないわ」
そうマイが言葉を掛けると、シズクは言う通り深呼吸をする。そして幾分か落ち着いたのか口から手を離した。
「……ごめんなさい。もう少し早く向かうべきだったわ」
マイは表情を少し暗くしながら呟くように言葉を吐いた。
いくら最低な人間と言えど、元は訓練した生徒だ。マイも思うところがあったのだろう。それに、そのせいでシズクに深いトラウマを植え付けたのだ。
あの時、タローに言われた通り急いで駆けつけていればこんなことにはならなかった。そんな思いが怒りへと変わり、マイの心に渦巻く。
だが、そんな空気などお構いなしにタローがマイの腕を掴んでこちらを向くように促した。
「マイさんマイさん! 見てくださいよアレ!! 魔法を見せてくれるらしいですよ!!」
マイはそちらへと目を向けると、そこには演説のために用意された舞台に黒のチェスターコートを着た男が立ち、大量の人を集めて何やら芸を見せている様であった。
人混みでよく見えないが、男が何かするたびに観客から拍手が送られている。
「魔法でお金集めだなんてよくやるわね」
魔法を使えない人からしたら確かに凄いのかもしれないが、魔法を使える人間からしたらつまらない芸だ。
無視してギルドへと向かおうとしたマイだったが、タローがまた腕を引っ張る。
「見ましょうよ!! 魔法ですよ魔法!!」
「……らしいけど、どうする?」
マイは呆れたように笑いながらシズクとエミルへと問いかけると、シズクは控えめに頷き、エミルはドリル状になっている髪をいじりながら興味無さそうに「いいですわ」と返した。
「やったぁ!!」
タローは子供の様にはしゃぎながら人混みの中へと入っていく。
「あ、ちょっと――もう……子供ね」
そんな事を呟くマイだが、その表情は柔らかい笑みを浮かべていた。
「まぁ気分転換ぐらいにはなるかしら」
マイ達はなるべく見やすい位置を取ろうと人混みの中に入り、何とか見える位置まで移動する。
すると丁度始めるところだったのか、男がカードのようなものをコートの内ポケットから取り出した。
「今からお見せするのは種も仕掛けもない魔法だ! 神の奇跡を見せましょう!!」
「魔法な時点で種も仕掛けもあるじゃない……」
マイはそう苦笑しているが、意外にも興味が無さそうだったエミルが食いつくようにその男の事を見ていた。
「珍しいわね。もしかして惚れた?」
「違いますの!!」
ニヤニヤとしながらからかうマイに、慌てて否定するエミル。
「……ちょっと気になることがあるんですわ」
エミルはそれだけを言うと、また男を視界に入れ直した。マイは肩を竦め、諦めたのかそちらへと目を向ける。
「そうだな……じゃあそこのキミにしようか。こっちへおいで」
そう言って男が指したのは、マイ達とは違った場所で目を輝かせながら見ていたタローであった。
タローもこれには驚きを隠せず、自分を指差して男に再確認をしていた。
「そうそうキミ」
男は手を縦に振ってタローを呼ぶと、おどおどとしながらタローは舞台へと上がる。
「じゃあこのトランプから……あぁそうか……なんて言えばいい? カードの方がいいか? とにかく、俺がこのカード達を適当に混ぜるから、好きな時にストップって言ってくれ」
男はそう言うと、何十枚とあるカードを器用に混ぜ始める。タローはその混ぜる行為にまた興奮したのか、目を輝かせながらずっとその姿を見ていた。
すると、男は流石に予想外だったのか苦笑した。
「……まだ見たい?」
「えっ? あ、すいません!! ストップ!!」
男は手を止めると、一番上にあるカードをめくり、タローへと手渡す。
「そこに数字と模様があるだろ? それを客に見せてくれる?」
タローは言われるがままそのカードを観客全員に見える様に見せた。そのカードには、左上に『A』、そして真ん中に大きく『♡』の模様が描かれていた。
「あぁいや、俺には見せなくていいよ。よくそこに描かれていた数字と模様を覚えていてくれ」
観客に見せ終わったあと男にも見せようとしたタローだったが、男がタローの手を抑え、そう言った。
そしてカードを回収し、見ることなくカードを戻し、また混ぜ合わせる。
「普通にやっていても楽しくないから、少し派手に行こうか」
男は混ぜていたカード達をいきなり空中に投げ、カードをばら撒いた。
少しの間ぱらぱらとカードの雨が降るが、何も起こらない。男も予想外と言わんばかりに固まってその光景を見ていた。
「……あぁなるほど。本当はハートのエースだけを空中に浮かせようと思ったんだが……間違えて消しちゃったみたいだ」
男はそう言うなり観客の方を向き、誰かを探しているのか見渡した。
そして、やっと見つけたと舞台から降り、人混みを掻き分けて何故かマイの手を引っ張った。
マイは良く分からないまま舞台へと上がると、Sランク冒険者だと観客たちが少しざわつき始める。
男はマイの体を暫く眺めてから頷くと、マイが腰に携えた剣の鞘を指差した。
「あぁ、やっぱりそうだ。ちょっとその剣の……えっと……日本語でなんて言うんだ……? 入れ物でいいのか? それを貸して貰えるかな?」
「嫌よ。なんで貸さないといけないのかしら」
まさに即答だった。
男は苦笑すると、いやいやと首を振る。
「渡してくれないと進まないんだが……」
「そういって私の鞘を盗むつもりじゃないのかしら? そういう目をしてるわよ」
「……流石に観客の前で盗んだりはしないよ」
断固として鞘を渡さないマイに諦めたのか、男は溜息を付く。
「なら仕方ないか。こうやって出すとするよ」
男が腕を大きく動かすと、その鞘から一つのカードがまるで意思があるかのように飛び出してくる。
男はそれをキャッチすると、観客たちへとそのカードを見せた。
「ハートのエース。選んだのはこれで合ってますか?」
男が見せたそのカードには、さっきタローが持っていたカードと同じ数字に模様が描かれていた。
一瞬の静寂の後、観客たちから凄まじい程の歓声と拍手が巻き起こった。
タローもまるで初めて魔法を見たかのように目を輝かせて拍手をしているが、マイはそれを見て複雑な感情になってしまう。
(よくただの魔法でここまで熱くなれるわね……言ってくれたら魔法なんていくらでも見せるのに……)
マイは舞台から降りると、エミル達と合流する。
「さぁ行くわよ。タローも満足したみたいだし、報告を終わらせて狩りに──エミル?」
さっさとこの場を離れようとしていたマイだったが、不思議そうに男を見つめていたエミルを見てマイは首を傾げる。
するとエミルは顔だけをマイに向けると、真っ直ぐな瞳でマイを見つめた。
「お姉さま、さっきの『魔法』の仕掛け、どうなっているか分かりましたの?」
「仕掛けも何も……魔法だからまぁ出来るんじゃないかしら。魔法に慣れてない私でも多分出来るわよあれくらい」
マイは手をひらひらと動かすと、エミルは首を横に振る。
「違うのですわ。あれは魔法じゃないですの」
「魔法じゃない? でも実際にカードが私の鞘に瞬間移動してたじゃない。それに取り出すときも浮いていたし、あれが魔法じゃないなら一体何なのかしら」
「いえ、絶対に魔法じゃないですの」
エミルはお辞儀をする男をもう一度視界に入れると、やはりと頷く。
「彼から魔力が感じられない──つまり、魔法はもちろん固有能力も魔力が無いから使えないのですわ」
「……えっ?」
エミルの言葉で呆気にとられたマイは、男を視界に入れる。するとその視線に気付いた男はそちらを向き、また深くお辞儀をした。
「以上。スカムが送る種も仕掛けもないマジックショーでした」
はい。
今回の話は現在僕がストーリーを練っている三十話(数だけで言ったら三十二話くらい)完結型の話『異世界マジック!!』の宣伝でした。いや……大変申し訳ないです。気付いたらこれを書いていたんです。多分引きずられていたんだと思うんですがそれにしてももっと他に方法あっただろ! って感じですよね。
なるべく早く次回の話を書き上げて投稿したいと思います……。
明日も無理だから明後日くらいですかね……すみません……。




