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始まりの冒険者  作者: くろすけ
始まりの冒険者〜世界最強のFランク〜
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第三十一話.シズク

第三十一話.シズク


「――う、ウチはシズクって……言います……」


 街へと戻ってきたマイ達は、話し合うついでに昼ご飯を食べようとこの前寄った──逃げ込んだに近いが──ことのある料理店へと訪れていた。

 そこで僧侶であるシズクが、座りながら控えめにペコリと頭でお辞儀をした。


「シズクね。まぁそんなに緊張しなくていいわよ。ほら、ご飯も食べてちょうだい。私の奢りだし気にしないで食べていいわよ」


「お姉さま……それは気にしない人なんていないと思うのですわ」


「えっ?」


 マイは隣でズルズルとミートソーススパゲティを口の中に詰め込んでいくタローを視界に入れる。

 タローはその視線に気づいたのか、フォークを動かす手を止めてマイ達へと視線を向けた。


「……えっと……食べますか?」


「はぁ……前言撤回しますの……」


 呆れた様子でおでこを抑え、首を振るエミルに、マイは「ね?」と笑って返した。


「それで、あの時の事だけれど……あの力は一体何なのかしら? 魔法でもないようだけれど……」


「あ、あれは……」


 シズクはやはり緊張しているのか、机の下で指遊びをしながら目を伏せる。


「あ、別に話したくないなら無理に話さなくていいわよ。私の隣にいるタローも固有能力について話したがらないし。まぁ一人は知ってるみたいだけれど?」


「し、知りませんの!!」


 慌てて否定するエミルに対し、マイは冗談だと笑う。

 するとシズクは首を横に振った。


「その……話せます……けど……」


「けど?」


「ウチ……話すのが苦手で……その……何から話せばいいのか……思い浮かばない……です……」


 頬杖をしながら聞いていたマイは手の力が抜けたのか、ガクっ、と頭をテーブルにぶつけそうになり、その後姿勢を整えてから苦笑した。


「一度深呼吸して落ち着いた方がいいかもしれないわね」


 マイの言葉にシズクは灰色の髪を揺らして頷くと、深く深呼吸をし──激しくむせこんだ。

 流石に予想外だったマイは未使用のおしぼりを慌てて渡すと、暫くシズクはそのおしぼりを口に当てながら咳き込む。


「す、すみません……ひゃあ!?」


 ようやく落ち着き、おしぼりをテーブルに置こうとした時にグラスに当たって倒れ、中に入っていた水がテーブルへと流れていく。


「何だか……」


「んー、落ち着いた子だと思っていたのだけれど……」


 顔を真っ赤にしながらおろおろとするシズクを眺めながら、エミルとマイは顔を合わせた。


「何だが忙しい子ね」


「そうですわね」


 テーブルに撒かれた水を拭き終えたシズクはチョコンと席に座ると、恥ずかしさからか耳を赤くしながら顔を伏せる。


「お、お騒がせ……しました……」


「あ、いや、まぁ私たちは良いのだけれど、大丈夫だったかしら?」


「ウチは……大丈夫……です……すみません……」


「いやいや、謝らなくていいわよ。それで、話してくれるかしら。貴方……シズクのあの力について」


 苦笑しながらのマイの言葉にシズクは控えめに頷くと、ようやく力について話し始めた。


「あれはお母さんの力……です」


「お母さんの力? 貴方のお母さんは何をしている人ですの?」


「えっと……魔女です……」


「へぇ、魔女ね。確かに魔女っぽい力──魔女!?」


 エミルとマイは驚愕のあまり大きな声で叫んでしまう。

 ほかに客は入っていない為客の迷惑にはならなかったが、何だなんだと女性店員が厨房から顔だけを覗かせて様子を見ていた。


「魔女って何ですか?」


 スパゲティを食べ終えたタローは、マイから貰ったクリームパスタを口に詰め込みながら首を傾げた。

 マイは説明しようタローの顔を見ると、呆れたように笑った。そしてこっそりとこちらを覗いていた店員を呼んで新しいおしぼりを貰い、タローの口に付いたクリームを拭き取る。

 

「魔女はもう昔にいなくなった種族の事よ。魔力の扱いに長けていて、その戦闘力はもちろん、治癒能力も凄かったとか聞いた事があるわ」


「すごいですね……でもなんで居なくなっちゃったんですか?」


「魔女狩りですわ。その力ゆえに権力も高く、国すらも恐れたと本には書かれていましたわ。魔女に国を支配されることを恐れた人たちが魔女を悪人扱いし、徹底的に排除したんですの。でもこれはおとぎ話になるくらい前の話ですわ」


「へぇ……」


 タローは話を聞いても良くわかなかったのか首を傾げたままだったが、シズクはこくこくと頷いた。


「うちのお母さんも……それで……」


「……そう。悪い事聞いちゃったわね……」


「い、いえ……! そんなことは……」


 暫く沈黙が続く。

 すると、何か引っかかったのかエミルが顔を上げてシズクの姿を見つめた。


「ってことは……いま貴方の年齢は幾つですの……?」


「ウチですか……? ウチは……今年で八〇歳……になります……」


「「八〇!?」」


 エミルとマイは再び叫んでしまう。その声に反応してまたチラリと店員の顔が厨房から覗くが、すぐにその後ろ襟を手で掴まれ、厨房に戻されてしまった。

 タローは気にしていないのか動揺せずにフォークを口にくわえているが、二人はまだ口をあんぐりと開けたまま固まっていた。


「その……敬語で話した方がいいかしら……」


「うぇっ!? そんな事ない! と思います……」


 またしばらく沈黙が。


「あのー……」


 その沈黙は、フォークを口にくわえて物寂しそうにしていたタローが破る事になった。


「何かしら……?」


「とても言いにくいんですけど……」


 タローは申し訳なさそうに頬を掻くと、お皿をマイに見せる。


「これ、おかわりしてもいいですか?」


 タローのお腹から、ぐぅー、という音が鳴る。

 それを見たマイはなんだか馬鹿バカしくなったのか、少し笑いながら「いいわよ」と許可した。するとタローが店員を呼び、お皿を見せて同じものを注文しようとする。


「話を戻しましょうか。今は年齢とか考えないことにするわ」


「は、はい……」


 店員と話しているタローを笑みを浮かべながら眺めた後、マイは視線をシズクに戻した。

 

「何でシズクはお母さんの力を使えたのかしら」


「そ、それが良く分かってなくて……多分……この十字架のおかげだと……思うんですけど……」


 シズクは胸に下げた十字架を手に取ると、マイ達に見せる。


「……見た感じ普通の十字架ね。エミルは何かわかるかしら?」


 エミルは首を横に振る。


「魔力も何も感じませんわ。ただのネックレスですの」


「んー……本当にそれが原因かしら?」


「これは……お母さんから貰ったモノ……だから……これくらいしか……心当たりが……」


 シズクは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 すると、その十字架を眺めていたエミルがあることに気付く。


「……綺麗ですわね。何百年も経っているとは思えませんわ。最近まで何処かで保存していたんですの?」


「い、いえ……これだけはお風呂に入るときも外さないです……」


「……やっぱりおかしいですわね。魔力も何もないのに、こんな傷一つない状態なのは不可解ですわ」


 エミルの言う通り、確かに十字架には傷一つなかった。まさに新品の状態。さっき買ってきましたと言われても疑わない程に綺麗な状態が保たれていた。


「そんな事を考えていても仕方ないわよ」


 ずっと考え続けるエミルに、マイはそう鼻で笑う。


「シズク、貴方のお父さんは何をしていたのかしら?」


「お父さん……?」


 シズクは考えたこともなかったと言わんばかりに天井を見上げると、やがて首を傾げた。


「誰……だっけ……?」


「え? もしかしてお父さんは早くに亡くなってしまったのかしら……?」


「あ、いや……お父さんはお母さんが死んじゃった後も……ウチと暮らしてた……気がします……」


 思い出そうとしても思い出せないそのもどかしさからか、シズクは目を閉じながら「んー……」と唸る。

 そんなシズクの様子に、マイは首を傾げる他なかった。


(実の父の事を思い出せないなんて事あるのかしら……)


 本当かどうかは分からないが、シズクの年齢は八〇歳。それだけ生きていれば忘れることも多いだろうが、母を覚えているのに父は覚えていない。

 更にシズクは、父とは母が亡くなった後にも生活していた気がすると言っている。そんな状態で母を覚えていて父を忘れるなんてことはあるのだろうか。


「なんだか……むぐ……僕に似ふぇまふねー。僕も思い出せそうで思い出せないんでふよ。エミルふぁんとも会っふぁような気がふるんふぇふけど……んぐ……どうしても思い出せなくて……」


 運ばれてきたパスタを大量に詰め込んでいたタローは飲み込むと、申し訳なさそうに笑う。そのタローの言葉にエミルがピクリと反応したが、特に何も言うことはなかった。


「食べながら喋ったら行儀が悪いわよ」


「ハハハ……すいません……」


 タローは謝ると、よろしいとマイは笑って返す。


「さて、こんな話ばかりじゃお腹が空くだけだわ。ご飯を食べるわよ」


 そう言ってマイはテーブルへと目を向けると、そこには空になったお皿だけが残されていた。マイはタローに渡したためないのは分かるが、シズクの物も、エミルの物も、空になったお皿だけが残されている。

 シズクもエミルも食べていた様子はない。


 ならば残る可能性は一つ。


 マイがタローと目を合わせると、タローはあからさまにマイを視線から外した。


「はぁ……まずは頼む所からね。ほんと、その胃袋は異次元にでも繋がっているのかしら」


 呆れながらも笑うマイは、また厨房から盗み見していた店員を呼んで料理の注文をするのであった。

 



最近気付きましたが、音楽を聞きながらじゃないと何も文章すらも思い浮かばない事に気付きました。

最初はピアノ系のものを聞いていたんですが、最近は『歌ってみた』を聞いてます。


音楽は基本ヘッドフォンで聞いているんですが(イヤホンが無い)、その音量がデカすぎて耳が悪くなりました。友達の声が聞き取れず、お前はじじぃかと笑いながら言われてから音量に注意しています。


でも聞いてるときは気付かないものなんですね。ちょっとトイレ〜とヘッドフォンをはずしたらバリバリ音漏れてしてました。僕の耳はもう壊れているのかもしれません。


まぁそんなどうでもいい話は置いておいて、次回から少しだけ日常になります。一応一段落着いたって事なんで彼らも休ませないとですね。

コメディで行こう! そこにちょっと恋も入れちゃったり! はい、書き慣れてないので練習したいだけです、すみません。


次回もよろしくお願いします!


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